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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第20話 先生と師匠

H12年1月初旬 side-Asumi

 彼の名前は岸本空。私より四つ年上の大学生。そして信じられないことに未来の世界から来た異邦人。信じられないような話だけど証拠があるとしたら私が遊んだ囲碁のゲームだけ――。

 嘘か本当か私が遊んだ囲碁のゲームは未来の世界のコンピュータで動いていて、その実力は未来のトップ棋士が敵わないほどの強さ。

 私が対局した囲碁のゲームは和-Ai-という名前での工知能で、しかも囲碁のゲームが入った不思議なノートパソコンは、普通の人間にはキャンパスノートにしか見えないらしい。

 あまりにも荒唐無稽な話だけど、目の前にある和-Ai-という囲碁のゲームソフトの圧倒的な強さが、嘘のような話に真実味を持たせる。

 そして私はお願いした。また和-Ai-と対局させて欲しいと。和-Ai-の碁に憧れしまった私の熱意をストレートに伝えた。彼は私の願いを快諾してくれて互いに連絡先を交換した。

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 その翌日から頻繁に彼のアパートを訪れるようになった。もちろん和-Ai-と置き碁での指導対局が中心だったが、彼から未来(とは言っても少し違う世界らしい)の話も聞いた。

 和-Ai-のモデルになった桐嶋和という女性棋士の話は、プロを目指す院生の私にとって大きな刺激になった。

 私も彼女と同じようなことを思ったことはある。
 どうして女は男の人に勝てないんだろうって――

 どこかで半分くらい諦めかけていた自分がいた。
 今は男女混合の一般枠でプロ試験を受けているけど、駄目だったら女流特別採用枠を使えば良いと甘えた考えが何処かにあった。

 でも彼が語る未来の女流棋士「桐嶋和」は違っていた。一般枠でプロになり女流棋士として数々の記録を打ち立て、そして七大タイトルを本気で取ろうと誰よりも努力していた。

 私からすれば十分過ぎると思えるような成績を残した後でも満足せず、今まで培った自らの棋風を破壊するほどの死に物狂いの努力をして――
 彼がこの世界に来る直前には天元位の獲得に手をかけた女流棋士。

 カッコいい……。

 いくら憧れの女性チェス選手のポリシーを真似たと言っても、世間の批判を承知で独占した女流三冠を返上するなんて普通はできない。

 彼女は私と似たような不甲斐なさや悔しい思いを抱えて、私が今感じてる以上の理不尽な現実に押し潰されそうになりながら挫けず必死に戦って来たんだ。すごいよ。

 私も自分なりの精一杯努力をしてたつもりだった。それでも男の人との差は縮まる所か広がっていくばかりで焦りと諦めがあった。

 彼がやってきた未来の囲碁界には桐嶋さんの他にも、桐嶋さんの同期で何度も重要な棋戦で争ったライバルの女性や桐嶋さんより年下の最年少記録を塗り替えた10代の女性棋士がいて、国内ではその三人が覇を競っていて女流は三強時代と呼ばれているらしい。何だか羨ましいな。

 嬉しかった。素敵な話を聞いて私も彼女たちのように強くなれる気がした。
 彼女が証明しようとしたように私が女だってことは自分の可能性を決めつける足枷になんてならない!

 彼が言うには彼女だって何度も心が折れそうになったり、現実を受け入れようと弱音を吐いたことだって一度や二度じゃなかったらしい。

 それでも諦めることがなかった彼女の強さに憧れ、私は彼の語る出会ったことのない未来の女流棋士のファンになった。

 そして彼の話を聞いて私は心に決めた。

 私の師匠は桐嶋和。この世界にある和-Ai-から学んで……
 私は必ずプロになる。そして私も七大タイトルを本気で目指す。

 もう私は迷わない。憧れの棋士のようになる。そう心に決めた。 
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