ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第65話 女子連続失踪事件
その次の日の部活での事。
いきなり事件は起きた。
「みんな事件やで!《女子連続失踪事件》や!」
ギン先輩が黒板に書き、説明した。
陽気だった部室内は瞬く間に驚きと緊張に包まれる。
「「失踪事件って……」」
「こわいです~……」
ゆかりはちょっと表情を暗くしながら、呟き、モカとつくねは驚いていた。
くるむも無言だったが、額に汗を浮かべながら資料に目を配っていた。
「まあ、人間界にだってこの手の事件はあるし、そもそもこの学園なら普通にありそう……って思うのはオレだけかな?」
カイトは比較的落ち着きつつ、ギン先輩にそう言ってみていた。
「あほう! カイト! 配った資料を見てみい ひと月で7人やで? 確かに言う様に学園では行方不明は珍しくないけど、そのペースが異常やろ?」
「7人か。……確かに多い。多過ぎだな。大体クラスの5分の1の数だ」
尋常じゃない、と言う事は直ぐに理解出来た。安直な判断をすべきではない、と言う事も。
そして、この事件の要点は 女子限定と言う部分もあった。変質者、と言えば話は速いかもしれないが、如何せんここは妖怪の世界。女子の方が剛の者が多かったりもする。誰とは言わないが……。
「よし!理解したところで話し進めるで! 行方不明者に関する素早い情報収集頼むでみんな、 事件の真実を新聞部の手で暴くんやっ!」
教卓をたたきながらギン先輩は高らかに宣言、士気を高めた。
「っ……(……ギン先輩ってマジな顔になれるんだ)」
つくねが生唾を飲み込みながら、そう小さく呟いてると、隣にいたカイトも小声で返答。
「(つくね……。正直オレは裏があるような気がするぞ? 部活は何度もあったけど、こんなにやる気を見せたのといえば……)」
「(あ、そう言えば……うん)」
「「((女性がらみ!))」」
つまりはそう言う事なのだ。
案の定 ギン先輩はと言うと期待に応える様にニヤニヤと笑っていて。
「その写真…… 見ての通り消えたコはみんなかなりのべっぴんや。 もしも、何者かに拉致されとるんやったら何とか救ってやりたい! ええとこ見して仲良うなるチャンスやしな!!!」
下心満載と言う訳だ。
「あのさー? ギン先輩? そう言うことは、思ってても声に出さない方がいいんじゃない?」
さっきまでの全部台無しだ。でも ギン先輩は変わらない。これがスタンダードだから。
「わいは正直な己がモットーやねん!」
そう 清々しい程に高らかに宣言したから。
「「・・・・・・・・」」
カイトとつくねは 呆れつつ苦笑いをしていた。
少しは 和やかになったと言える空間だが、他の部員はずっと神妙な顔をしていた。
やはり、失踪していたのが全て女の子だから、と言う理由もあるだろう。自分の番がくるかもしれないのだから。
「ゆかりちゃん」
この中でも一番表情を暗くしているゆかりの所へとカイトは行った。
「あっ カイトさん・・・」
やっぱり 気分が優れないからなのだろう。カイトが傍に来たらいつも笑顔で飛びついてくる彼女なのだが、その様な元気は見られなかった。
……過剰にこられてもカイトは困る一方だが。
「大丈夫だ。前にも言ったけど ここにいる皆は、仲間なんだからさ、不安もあると思うけど。皆を頼ってくれ。……な?」
頭を撫でながら ゆかりに話した。
ゆかりは驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になった。
「あ……、ありがとうです。 カイトさん・・・ そうですよね! みんな仲間なんですから! 怖い事なんて、ないですよねっ」
少し目を潤わせた。やっぱり心底怖かったのだろう。
穏やかに見てたカイト。……つまり彼は油断していたのだ。
だから、その次の瞬間。
「やっぱりカイトさん好きですーーー! 改めて感じたですーーー♪ 大好きですーーーっっ!!」
ドスーーーン! と衝撃音が響く程の勢いでカイトの鳩尾に飛び込んだ。
「ぐはっっ!?」
ゆかりとの身長差のせいか、鳩尾にもろハグと言う頭突きをもらってしまった為、悶絶しかけるカイト。そして それが引き金でもあった。
「コラーーーっ!! わたしのカイトになんてことすんの!!!」
くるむが乱入してきた。なぜか判らないけど つくねを連れて。
恐らくは『2人とも 自分のだ!』と主張をずっとしていたからだろう。
「ぐえええっ!! ちょっ!! ちょっと待ってって! みんなオレの上に乗らないで!!! てか暴れるなって!!」
ゆかりのヘッド・バッドで仰向けで倒れていたところ、ゆかり+くるむ+つくねが乗っかってきた。これは重い。当然だ。
「カイトさんはわたしのですーーー!」
「つくねとカイトは渡さないわよ!!!」
「ううーーー 今貧血気味なのに………… かんべんして……」
ワイワイしていると、更にはモカまでやってきた。
更にいやーんな展開だと言えるし、世の男どもにとっては天国かもしれないだろう。美人経ちに埋もれてる現状は。(つくねもいるけど)
でも、カイトにとったら災難でしかない。
「コラァ!! 何で! オレ抜きやねーーーんっっ!!!」
ギン先輩が叫んでいたのは気のせいだろう。
「ううむ…… 酷い目にあった。幾らオレでもあんなに飛びかかられたら無理だぞ……。」
「は……ははは。 そうだね」
それは部活帰り出の事。
何とか解放?されたつくねとカイトはとりあえず寮に向かっていた。
そんな帰宅途中の事だった。
『あっ! 先生お待たせしましたーー!』
声が聞えてきたのは。
「この声って・・・ちょっとカイト来て!」
先に気付いたのはつくねだった。
「ん? どうした?」
言われるがまま、声がするほうに行ってみると。
「やあ……、本当に来てくれたんだね。ありがとう」
誰なのかは直ぐに判った。
「確か……美術の」
「石神先生だね。それにモカさんもいる……」
2人は木の陰に隠れて見ていた。
普通に話しかけても良かったが、邪魔するのも悪いと思ったのだろう。
「うれしいよ モカさん! 私は君のように美しい存在を見ると芸術として手許に置いときたくなるんだ」
ここで紹介するとこの教師は 美術教師 石神 瞳。
その容姿はボーイッシュな感じがするので、言ってみれば 男子よりは女子の方に人気がかなりある教師だった。
「君の美しさは既に最高のアートだねぇ!」
モカの事を芸術と呼び褒めていた。
「先生っ これから一週間よろしくお願いします!」
モカは頭を下げていた。
「ん? なるほど。モカが言ってたのは 美術のモデルになるって事だったのか。まあ納得かな。モカが選ばれるのは」
モカの容姿を考えれば、最高のモデルだと言えるだろう。学園1の美人と名高いから。
つくねはと言うと、更に落ち込んでいた。
「ってつくね? どうしたんだよ」
つくねが落ち込むのは正直な所 珍しくも無いが、ちょっと今のタイミングがよく判らなかった。
「オレの誕生日……… 6日後……なのにー!」
独り言にしては大きな声だ。
でも、カイトは 声が出ていた為なんで落ち込んだかはよく判った。
「はぁ……、つくね? オレはモカが覚えているかとか、何考えてるかとか わかんないけど、クヨクヨするくらいなら、モカに直接聞いた方が いっその事いいと思うぞ?」
カイトは正直な所 こうも思ってた。
「(ずっと落ち込んでるのは流石に鬱陶しいし……)」
「ってカイト! 今 鬱陶しい!! って言わなかった???」
「・・・・・・・・・・・いやいや、言ってない言ってない」
つくねは まるで裏モカの様に カイトの思考を呼んだ様だ。
「って、今の間は何!!? もう! ……でもまあ いいよ。ありがと カイト!オレ、モカさんに直接聞いて見る。確かにずっとうじうじしてても始まらないしね……」
そう言うと笑顔になれるくらいには回復出来た様だった。それだけでも今は十分だ。
「ん…… ガンバレよ! とりあえずは元気があることが一番だ。こんな学園でやっていくにもな。 明日からガンバレ! な? つくね」
つくねの腹部に軽く拳を当てる。
「うん! ああ・・・そうだ。・・・・・・・カイト」
つくねは今度は真剣な表情をしていた。
「ん? 何だ?」
何か聞きたい事があるんだろう、と言う事は判る。そして 最初に訊こうとしてきた事がこれなのだと言う事も、容易に想像出来た。
「カイト……は、その……、モカさんのこと、……どう想っているの?」
つくねは、真剣だが それでいてちょっと複雑そうな表情もしていた。
それを訊いて、カイト自身もつくねに倣って一切ふざける事なく答えた。
「……この学園で出会った。かけがえの無いもの、かな。 それは モカだけじゃない。つくねやくるむ、ゆかり、この新聞部。 早い話、この学園で出会った友達全て。そう言っても大袈裟じゃない。……オレにとっては全部、全部かけがえの無い存在だよ」
カイトの表情はかなり深かった。
つくねも ただ、単純に 自分の様に友達が出来て嬉しいとかそんな次元じゃない事はすぐに理解できた。深い悲しみも その表情から読み取る事が出来た。
だからこそ、つくねはこれ以上は 何も聞けなかった。
訊かない代わりに、カイトに礼を。
「そっか…… ありがとうカイト。それにさ。 オレにとってもカイトは大切な友達だからね。きっとみんなも」
つくねは初めは恋愛感情について、カイトにはっきり聞こうとしていたが、そんな気持ちはもうなかった。
「………………」
この時のカイトは、生前(転生前)の僅かな記憶を思い出していた。
失意の中命が失われた時の事。もう殆ど薄れていると言うのに、思い出してしまったのだ。
あの時には本当に未練は無かった。だが死ぬ勇気だけが無かったんだと思う。
そして、向こうの世界で出来なかった事が こちらでは出来ている。
もう二度と大切なものを失ってはならない。
カイトは、 御剣陽一には、深い闇が心の中に内包していた。暗く深い闇。夜よりも深い闇が。
大切な人を失うその時に その闇が表面化してくるだろう。
その闇こそが、カイトにとって 一番怖いものだった。
「嫌な事・・・思い出しそうになった・・・な」
カイトは少し苦笑をしながら呟いた。
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもないさ! ……………ありがとな、つくね」
そう言い2人は寮のほうへと向かったのだった。
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