| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

銀河英雄伝説〜門閥貴族・・・だが貧乏!

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第16話 皇太子妃に成りそうだ!

第16話 皇太子妃に成りそうだ!

帝国暦482年7月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ  クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵

陛下の新たなる寵姫アインツベルン侯爵夫人の入内が終わりホッと一息じゃ。陛下の女好きにも参ったモノだ。しかし本当であればエーリッヒの娘を後宮に入れるはずであったのに旨く行かないモノだ。

それに引き替え、皇太子殿下の潔癖な態度も困ったモノだ、幾ら奥方と御子をお亡くしに成ったとはいえ、皇位継承者が寵姫も置かず、世継ぎも作らずに未だ再婚すらしないで御1人の身だ、このままでは次次代の皇位継承者が居らずに、帝国の内乱を誘発するではないか。

只でさえ、グリューネワルト伯爵夫人の乱行が酷い状態では、帝室の求心力さえ失われかねない。更にブラウンシュヴァイク公、リッテンハイム侯の争い。更に言えば、オトフリート4世陛下の388人の子孫の准皇族の方々も居られる。万が一に成れば相続争いが起こる事は必定なのだ。

その様な混乱の最中に叛徒共に攻められでもしたら目もあてられん、此処は甘いお考えの皇太子殿下に是が非でも新たな皇太子妃殿下或いは寵姫を得ていただけねばならない。前皇太子妃殿下の様に後ろ盾の全く無い貧乏子爵家出身では困りますぞ。

皇太子殿下は恋愛結婚だと言い張るが、皇族としての責務を果たして頂かないと、帝国全体に災いが来るのですから。何処かに本人実家共に野心が無く家柄の良い令嬢は居ないであろうか、筆頭はマリーンドルフ伯のヒルデガルト嬢じゃが、後はカストロプ公のエリザベート嬢か、いかんな親が悪すぎる。

んー何処かに居ないであろうか?
「侯爵様」
「どうしたワイツ?」

「皇太子殿下がお呼びでございます」
「なに、殿下が?」
「火急の御用との事」

何であろう、殿下の事だ、この度の陛下の寵姫についてのご不興であろうな、致し方ないがご説明するよりほかないの。
「判った直ぐ向かおう」


帝国暦482年7月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 

早く来い国務尚書!
皇太子が、少々苛つきながら待っていると、リヒテンラーデ侯が息を切らして部屋にやって来た。
あの様子だと慌てて来たようだし、嫌みを言うのは止めておこうと思うので有った。

「殿下、火急の御用とはいかなる事でございますか?」
皇太子は、私のこの思いを遂げるため、ついでに国務尚書の心配を減らすために相談をするかと思い。
「国務尚書、忙しい所呼び出してすまん」

「臣の責務にございますれば」
「それでな、私は妃を迎え入れようと思った」
その言葉を聞いたリヒテンラーデ侯は喜びと共に少々の不安を顔に覗かせた、所謂また前皇太子妃殿下のように寒門の出なのかと。

「それは大変おめでたき事にございます」
「そこで、国務尚書に頼みが有ってな」
「いかなる事でございましょうか?」

「その令嬢は男爵家の出身でな」
その言葉を聞いたリヒテンラーデ侯は又かと言う感覚に腹の中であきれ果てていた。
「殿下、男爵家の令嬢では皇妃には成れませんぞ」

「其処なのだが、国務尚書の養女として貰えないだろうか?」
皇太子は頼み込むような顔でリヒテンラーデ侯を見る。
「殿下のお頼みとはいえ、身分の差が大きすぎます、上流貴族の方々の賛同も得られませんぞ」

「皆が常日頃から私に后をと申しておるではないか!それなのに私の自由も聞いてはくれないのか?」
「殿下、一平民の結婚ではございません、銀河帝国の次代を背負う御方の后を選ぶのですぞ、我が儘を言っている状態ではございません。前后様で我が儘をお通しに成ったのですから、又我が儘をとは、ご自分の立場をお考えください」

リヒテンラーデ侯は、一歩も引かずに諫言を行い説得をする。
その姿に皇太子もタジタジで有るが、引かずに頼み込む。
「国務尚書、その令嬢は心の強い令嬢なのだ、昨年の宴であのフレーゲル男爵を一撃で退散させた程の令嬢だ。あの姿こそ、我が后に相応しいと感じたのだ、しかも調べさせたが、素晴らしい才媛だぞ」

はて、幾多もある男爵家にその様な才媛が居たであろうかとリヒテンラーデ侯は考えて、2人程該当しそうな令嬢が頭に浮かぶのであった。一人はヴェストパーレ男爵令嬢、もう一人はラミディア嬢。まさかと思いながら殿下に聞いて見る事にした。

「殿下、その令嬢のお名前は何と仰るのですか?」
すると皇太子殿下は嬉しそうに名前をしゃべり出した。
「うむ、ファーレンハイト男爵家令嬢ラミディア殿だ」

リヒテンラーデ侯は思わず天を仰ぎたくなった。選りに選って寵姫計画のターゲットが陛下ではなく殿下に見初められたのだから、しかもブラウンシュヴァイク公爵の妹だ!この事が決まれば、リッテンハイム侯辺りが文句を言ってくるのではないか?

しかし、リッテンハイム侯はグリューネワルト伯爵夫人の後見人だ。それならば寵姫として送るより、遙かに権限の大きい皇太子妃の方が良いのでは無いかと。リヒテンラーデ侯の灰色の脳細胞は年にもかかわらず、冷静に計算を行い続けて結論を出し得た、此は好機だと。

皇太子殿下の后が、ブラウンシュヴァイク公爵家から出れば、皇太子殿下の後見人はブラウンシュヴァイク公爵となる、此ならば皇太子殿下の後ろ盾が強力になり、ブラウンシュヴァイク公も娘のエリザベート殿を皇位に就けようとする野心すら無くすであろうと。

「皇太子殿下、ファーレンハイト令嬢のことならば臣も知っております、中々に優れた人物と評判です」
皇太子はそれを聞いて我が事のように笑顔で頷く。
「であろう、ラミディア嬢であれば、帝室の為にもなると思うのだ」

リヒテンラーデ侯が乗ってきたと思い、皇太子はラミディアの良い点を宣伝する。
「惑星開発であれほどの効果を上げる事や、商社の開発など目に冴える事ばかりをしているのだから」
「確かに才媛はマリーンドルフ伯のヒルデガルト嬢など多くの方がいらっしゃいますが、ラミディア嬢の様に実戦向きの方はいらっしゃいません」

「であろう、是非国務尚書に協力して貰いたいのだ」
リヒテンラーデ侯は、考える振りをして時間をおいてから。
「殿下、此処は暫しお待ちを、臣が陛下にそれとなくお伝えし許可を受けられるように致します」

その言葉を聞いて皇太子は明るい顔でリヒテンラーデ侯に礼を述べた。
「国務尚書、感謝する」
「お任せ下さい」

リヒテンラーデ侯は此は計画を変更して皇帝陛下の寵姫から皇太子妃殿下へと成るかも知れない、ラミディアにブラウンシュヴァイク公がどの様に話をするのかが気になっていた。

そして、此で銀河帝国の内乱の目が一つでも消えればと心から思うので有った。


帝国暦482年7月2日

■ブラウンシュヴァイク公爵邸

ブラウンシュヴァイク公爵の元にリヒテンラーデ侯が密かに訪ねて来た。
「此は此は、国務尚書殿、今回は何の用でしょうか?」
「ブラウンシュヴァイク公もお元気な事で、父上はご在宅かな」

オットーは失敗寸前の寵姫の話しだと察した。
「父は今参ります故、暫しお待ちを」
暫くすると前ブラウンシュヴァイク公爵エーリッヒが現れた。

「クラウス、どうかしたか?」
「どうもこうも無い、陛下が興味を示さん故、寵姫の計画は中止だな」
「しかし、それでは甚だ不味い」

ブラウンシュヴァイク親子とも困った顔をしている。
「いや、転機が来たのだ」
「転機?」

「うむ、転機だ。オットー殿、昨年の宴でラミディア嬢にフレーゲル男爵が絡んだ事があったそうだな」
「年末の宴でそう聞いているが」
「その時、何と皇太子殿下がその姿を見ていたそうだ」

その話にブラウンシュヴァイク親子は、それが原因で寵姫の話が潰れたのかという顔をする。
「嫌違うのだ、その姿を見た皇太子殿下が、ラミディア嬢を是非皇太子妃にと昨日、儂に相談してきてたのだ」
「なんと、それでは、陛下の興味を引かずに、殿下の興味を引いた訳か」

「そうなるな。陛下は只単に金髪が好きなようだから、エリザベート・フォン・ハルテンブルグを寵姫にしたのであろう」
「してどうするのだ?」

「儂の見る限り、殿下は本気だな。儂に養父になってくれと頼んできたぐらいだ」
「なるほど、そうなると全面的にブラウンシュヴァイク公爵家でバックアップしラミディアを皇太子妃にする事にいたそう」
「そうだな、それが良いかも知れん」

「オットーよ、ブラウンシュヴァイク公爵家の全力を持って皇太子殿下とラミディアの身辺を守るのだ」
「判りました。父上」
「クラウス、卿も頼むぞ」
「判って居るわ」



帝国暦482年8月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ  フリードリヒ4世

エリザベートが婚約者を兄たちの保身のために失い悲観しているとグリンメルスハウゼンより聞いた時、儂はエリザベートを不憫と思い、後宮へと招く事にした。それ以前はアンゲリーカの悪行で国務尚書とブラウンシュヴァイクが、新たな寵姫を送り込もうとしておったが、あの娘は思案、行動力などを考えるに儂の後宮へ入るなど勿体なさ過ぎる娘でな。

エリザベートのような娘は後宮に入っても良いが、ラミディアは実力を発揮できる場所こそ相応しかろうと思い、宴でも素っ気なくしたのだ。しかし最近、ルードヴィヒがあの娘を気に入ったらしく、国務尚書に相談を持ちかけてきた。

あの娘は、ファーレンハイト男爵の子とされておるが、実際は前ブラウンシュヴァイク公の第三子だと、グリンメルスハウゼンが調べて来おった。儂の寵姫では、出来る事が無くなってしまうが、ルードヴィヒならば、あの娘の才能を充分に使えるはずで、儂としても許す気になった。

エリザベートを後宮に迎えたのは、アンゲリーカが良からぬ企みをしておるの事への牽制でもあるのでな、あの者がルードヴィヒに何かする前に、新寵姫で行動を出来辛くする計画なのだ。無論エリザベートやルードヴィヒやラミディアに危害を加えられないように、グリンメルスハウゼンに命じておるがな。

此からは、ルードヴィヒと共に歩んでくれるかも知れない、あの娘に期待したい物だ。ルードヴィヒは知らんが、孫ごと皇太子妃を暗殺されておるから、確りと守らせねばならん、ブラウンシュヴァイクもその旨は承知しておろう。

さて国務尚書とブラウンシュヴァイクがルードヴィヒと共に拝謁するとの事だ、そろそろぼんくら皇帝に相応しい態度に改めねばならん、ワインを掻っ込んで酔った振りも大変だが、此も儂の帝国の行く末を悲観した上の演技だから今更改める訳にも行くまい。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧