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銀河英雄伝説〜門閥貴族・・・だが貧乏!

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第17話 知らぬはラミディアばかりなり

第17話 知らぬはラミディアばかりなり

帝国暦482年8月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間控え室 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム

ラミディアを皇太子妃にとリヒテンラーデに頼んだ結果、本日父上に拝謁する事に成ったが、拝謁室控えの間には何故かブラウンシュヴァイクまでが先に待っていた。私は余りこの男が好きには成れないのだが、一応アマーリエの夫だから嫌な顔をせずに話はするが、選りに選ってこの日に会うとな。

この男の事だ、ラミディアのことを聞けば、エレーヌの時のように又ぞろ、“寒門出身者は皇太子妃として相応しくない”と言われるであろうな。その後はブラウンシュヴァイク一門から皇太子妃を迎えろと言うに違いない。

本来であれば何処かへ行って欲しいのだが、義兄弟とあれば嫌とは言えんがこのタイミングで一緒とは、誰かが漏らしたので有ろうか。リヒテンラーデは喋るまいから、何処ぞの宮廷雀のお喋りであろうか。願わくば、ラミディアに害無きようにしたいものだ。

「皇太子殿下にはご機嫌麗しく」
先ほどまでご機嫌麗しかったが、卿と会ってご機嫌麗しからずになった。しかし挨拶ぐらいはしないといけないのが公人としての辛い所よ。

「うむ、ブラウンシュヴァイク公も息災なようだな」
「御意」

まあ父上との謁見は私が入室すれば此奴とは顔を合わせずに済むからな。後は父上と共に謁見の間に居るリヒテンラーデとの共闘だ。昨夜から確りと父上を説得する理論武装をしてきたからな、その為には父上の女遊びの激しさも目を瞑る気持ちもあるぞ!

さて時間か、侍従が私を呼びに来た。さあ父上覚悟して頂きますぞ。


帝国暦482年8月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間控え室 オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク

父上とリヒテンラーデ侯に示唆され、皇太子殿下とラミディアの交際についてブラウンシュヴァイク公爵家として全面的にバックアップするよう密かに根回しを続けてきたが、いよいよ今日、殿下が陛下にお許しを得るために謁見なさる。

我が家でもアマーリエが殿下が独身であるのを心配し色々と縁のある令嬢を見繕い始めていたが、余りそれが外に判ると、又ぞろ皇帝陛下の寵姫騒ぎのように有象無象の輩が良からぬ事を企むやも知れんから、父上と共にアマーリエにはそれとなく止めるように頼んで何とか納得して貰ったが。

最初はアマーリエは『弟の幸せのために姉の(わたくし)が動かないでどうすれば良いのですか!』とヒステリックにやり込められそうになって、仕方なく殿下に意中の方がいらっしゃるらしいが、今は未だ陛下にもご報告していないため、表には出せないと納得させたが、ハッキリ言って胃が痛かった。

殿下も私の事をリッテンハイムと同じ穴の狢と考えて居るようで、一緒に居ても胡散臭く見られているが、愚かな甥のフレーゲル達が我が家の権勢を当てにして馬鹿な事をする度に我が家に泥を塗る事に気がつかぬから頭が痛い。

あれも不憫な者で早くに我が妹の夫である父親を失い、男児の居なかった私は、厳しく躾けようとした妹の目を盗んで甘やかしてしまったからな。しかし、最近の言動は目に余るものが出てきている、少しは是正させねばならんだろう、何れはブラウンシュヴァイク公爵家を背負う可能性すらあるのだから。

殿下から胡散臭く見られているのも、フレーゲル達がエリザベートを皇位継承者に擬しているのも原因だからな、全く頭が痛い。皇太子殿下とラミディアに男児が出来れば、あの者達も大人しくなるであろうし、ブラウンシュヴァイク一門も皇太子殿下を全面的にバックアップするのであるから、結果的にブラウンシュヴァイク公爵家の地位の安定に繋がり、銀河帝国の安定に繋がるのあるから、本日の謁見是非に成功させねば成らん。

殿下が先に呼ばれたな、リヒテンラーデ侯との話し合いで、暫くしたら私が入室する事に成っているのだからな。さてそろそろ私の出番か、事実を知った殿下がどう思うで有ろうか。ラミディアを忌諱するであろうか、それだけが心配だが今更悩んでも始まらんな。


帝国暦482年8月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間 クラウス・フォン・リヒテンラーデ

いよいよ陛下と殿下の謁見じゃな、陛下にはお知らせはしているから、齟齬は無かろうが問題はラミディア嬢がファーレンハイト男爵家令嬢ではなく実はブラウンシュヴァイク公爵家令嬢であると言う事だ。陛下は御納得しておられるが、今ひとつブラウンシュヴァイク公に胡散臭さを感じている殿下はその事を聞いたら、ラミディア嬢の皇太子妃を諦めるやもしれんが、そうなれば又有象無象の者達が蠢くであろう。

しかし、殿下の仰ったように儂の養女として痛くもない腹を探られるのも御免じゃし、返ってラミディア嬢の皇太子妃への道を有象無象の輩に邪魔されるじゃろう、全く難儀な事と言えるの、しかし此処が正念場じゃ気を引き締めて旨く行くように頑張るしか有るまい。


帝国暦482年8月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間

「ルードヴィヒ、よう来た」
「皇帝陛下にはご機嫌麗しく」
「そちも元気そうで何よりじゃ。今日は何用じゃ?」

皇帝の言葉に些か緊張した顔の皇太子が意を決した様に答え始める。その姿を見ているのは事情を知っているリヒテンラーデ侯と事情を知らないクラーゼン元帥であった。リヒテンラーデ侯は子細を知る以上殿下の緊張もよく判るのであるが、何も知らないクラーゼン元帥は殿下の緊張感をさほど感じても居ないようであった。

「実は、私はこの度、新たな后を迎えたいと思いました」
「ほう、そちの眼鏡に叶う令嬢が見つかったか、してそれは何処の娘じゃ?」
知っているにもかかわらず、興味のあるように皇太子に質問する陛下は相当な狸である。

「はい、ファーレンハイト男爵家令嬢ラミディアと申します」
「ふむ。男爵家では皇太子妃として相応しき身分とは言えぬのでは無いか?」
「その様な事はございません。陛下もラミディアの為人をご覧になれば御憂慮もお消えになるでしょう」

此処で皇帝に拒否されたら困るため皇太子も必死でラミディアの良い点をアピールする。
「ふむ。確かに以前の宴で会った事があるが、聡明そうな娘であったな」
「でございましょう、それで国務尚書に頼んで養女にし、リヒテンラーデ侯爵家令嬢として入内させたく存じます」

「国務尚書、その様にしたとして他の者達が騒ぎ出すのではないか?」
リヒテンラーデ侯は皇帝の言葉にそろそろブラウンシュヴァイク公を呼ぶ時期と判ったようでその様な返答を行う。

「陛下、ファーレンハイト男爵家についてブラウンシュヴァイク公が言上したき事があるそうに御座います」
「そうか、ではブラウンシュヴァイクを呼ぶがよい」
「御意」

その言葉に皇太子は些か嫌そうな顔をしたが、陛下の面前で拒否するわけにも行かないために何も言う事がなかった。

暫し待つとブラウンシュヴァイク公が謁見の間へ案内されてきた。
「皇帝陛下にはご機嫌麗しく」
「うむ、公はファーレンハイト男爵家について何か話があるそうじゃが?」

ファーレンハイト男爵家の赤貧さをアピールしラミディアの皇太子妃への道を潰すつもりかとの皇太子の考えとは全く違う話しであった。

「はい、身内の恥をさらすわけでは御座いませんが、我が父エーリッヒには以前メイドに手を出し子が出来た事が御座います」
「なんと、あのエーリッヒがのー、真面目だと思うたが、あの者も男であったか」
自分が思っていた話しと違い、そんな話しをしている皇帝とブラウンシュヴァイク公を呆気に取られながら皇太子は見ている。

「そのメイドはファーレンハイト男爵家の令嬢で御座いましたが、妊娠後実家へと宿下がりの後娘を出産後に身罷りました。その為に我が家で育てるにも不憫で男爵夫妻が育てる事と成りました。この度その娘を我が家にひきとる事と相成りました」

その言葉に皇太子の表情が変わった。
「ふむ、ファーレンハイト男爵家令嬢と言えば、3名おるはずじゃが、してだれ何じゃ?」
「はっ、次女のラミディアと申します」

「公爵、それは本当であろうか?ラミディア嬢がブラウンシュヴァイク公爵家の娘というのは?」
驚いた皇太子が陛下の御前であるにも係わらず、ブラウンシュヴァイク公に詰め寄る。

「事実に御座います。恐れ多くもラミディアの事を殿下が后にお求めなのも判っておりますが、リヒテンラーデ侯爵家養女では五月蠅い貴族に何かと危害を加えられるやも知れません。しかし我が家の娘と知れば手を出すような馬鹿はよほどの者しか出ない事でありましょう」

「皇太子妃がブラウンシュヴァイク公爵家令嬢であれば、他の貴族も納得したしましょう。殿下のお気持ちは家柄で変わるので御座いますか?」

皇太子は、ブラウンシュヴァイク公の言葉にリヒテンラーデ侯がフォローをするに至ってリヒテンラーデ侯と先代ブラウンシュヴァイク公が親しい事を思い出した、全て知られた上での今日であったかと、しかしブラウンシュヴァイクは自らの娘の栄達を望んで居たのではないのかと。

しかしよくよく思い出してみれば、ブラウンシュヴァイクの取り巻きが騒いでいるだけではなかったかと。それに例えブラウンシュヴァイクの娘であろうと、ラミディアの聡明さは得難い事だと考えて居た。

「いや、そうは言わない。私が一目見て惚れたのは、ラミディア嬢の聡明さ剛胆さだ、例え何処の家の生まれであろうとも私の心は変わらない」
皇太子のその言葉に皇帝は頷き、リヒテンラーデ侯とブラウンシュヴァイク公は目配りで安堵を示していた。

「皇太子の言や良し、ルードヴィヒの后にラミディアを迎える事を予は許可しようぞ、ルードヴィヒ、予はそちの見識を嬉しく思うぞ」
「陛下」

「陛下、殿下。ブラウンシュヴァイク公爵家は皇室の藩塀として誠心誠意お仕え致します」
「頼むぞ、オットーよ」
「御意」

皇帝の言葉は皇太子とブラウンシュヴァイク公を家族として名前で呼んで協力を確認するが如くであった。

この日、ゴールデンバウム王朝第36代皇帝フリードリヒ4世嫡男ルードヴィヒ皇太子の妃にラミディア・フォン・ブラウンシュヴァイクが入内する事が決まったが、その発表は今暫く後の事と成るのである、此はラミディアに本当の事を教える時間と、グリューネワルト伯爵夫人対策などを行うための時間が必要だったからである。



帝国暦482年8月1日

■オーディン ファーレンハイト男爵邸

取りあえず雨漏りとガラスを直し普通の屋敷になったファーレンハイト男爵邸では、ラミディアが皇帝と皇太子達が自分を皇太子妃にする話しをしていると夢にも思わずに、ブラウンシュバイク公の口利きで販路を開いたレアメタル輸出による利益で惑星農地開発の資材購入の見積もりを見ながらラインハルト達と喧々諤々していた。

「やっはり、フェザーン産だと質が良いんだけどねー、しがらみで帝国産も一部は買わないと駄目だし」
「そうなると、率的に3対2ぐらいで行くしかないのかな」
「んー、キルヒアイス、それだと資金的に無駄が多いよ」

「ラインハルトは言うけどさ、貴族社会は結構付き合いが大事なんだよね」
「それは判るけど、くだらないよなー」
「ラインハルト、何れ社会に出れば、否応なしに社会の荒波に揉まれるんだからさ」

「キルヒアイスは、人付き合いが上手いもんな。俺なんか下手だから喧嘩になっちゃうよ」
「アハハハ。そうだよね、ラインハルトは睨んじゃうのが欠点だよー」
「そうかな、気を付けるとしよう」

「しかし、フェザーン産だけでやると、万が一の時に困るんだよね」
「それは?」
「例えば、フェザーンがダンピングして帝国の同種の資材生産を出来なくさせた後で、いきなり値上げとか、供給を搾るとかされたら、目も充てられないね」

「なるほど、商売だからそれもあり得るわけですね」
「汚い手だが、理にはかなっているな」
「そうなのよ、だからこそ、供給元は分散しておくのが良いわけだよ」

「そうなると、此方でも商社を作った方が良くないかい?」
「じゃあ、ラインハルトとジークがやってみる?ミューゼル商会なんか良さそうだよ」
「未だ未だ、我々じゃ未熟だよ、未だ勉強する事が必要だし」

「それなら、大学行って経営学を学ぶのも良いかもしれないよ」
「なるほど、確かに有効的ですね」
「商科か、面白いかも知れないな」

この様な話しをしながら楽しそうに3人は未来へのビジョンを語るのであった。
 
 

 
後書き
フレーゲルの両親の話が矛盾して居ましたので変更しました。 
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