転生・太陽の子
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転生! 太陽の子!
「はい、こんにちは」
ボクの目の前に立つお爺さんが、淡々と説明を始める。お爺さんは神様であると自己紹介すると、ボクを転生させるという。
「ボク…死んじゃったんですか? 何も覚えていないのですが…」
「記憶がないのは、次の世界に影響がないようにする配慮じゃ。それで、お主に転生してもらう世界はア・ニメマンガーというワシの創り上げた世界での、そこの住人になってもらいたい。かといって何か使命を与えるわけでもない。好きに生きりゃええよ」
続いて神様は手帳を開く。
「お主は生前善行をかなり積んでおるのぉ。それならお主には特典をつけておこう。何か次の世界で身につけておきたいもの、欲しいものなどはあるかの?」
いきなり聞かれても悩んでしまう。善行を積んだから特典と言われても、生前の記憶が無いのだから他人の賞を渡されるような居心地悪さがある。それを伝えると「どんだけ善人なんじゃ」と神様は苦笑する。
「本当は生前の事を話すのはマナー違反なのじゃが、お主の死因は人を助けようとしたものによる。しかし力が足らなかった為、お主は人生に幕を降ろすことになってしまったのじゃ。その様子だとまた同じことを繰り返しそうじゃし、強い人間への転生を適当に見繕っておくよ」
「えっと…ありがとうございます?」
そしてボクの意識はそこで途切れた。
再び意識を取り戻すと、そこは公園のベンチの上だった。ボクは確か…神様から転生させてもらったはず。てっきり赤ん坊から始まると思っていたのだが、自分の体を見るに、成人男性のようだ。生前の自分が何歳なのかも覚えていないが、今は自分の名前を知ることの方が先決だ。
体をあちこち探り、財布を見つけた。所持金はとても心許ない。というより、見覚えのない紙幣や硬貨が入っている。ここは日本じゃないのかな。免許証は…あ、あったあった。
って、ヘリコプターの免許もあるのか。一般常識の知識は覚えていたが、普通は持っていない免許だ。いや、そんなことより今は名前を確認しないと。
『南光太郎』
それがこの世界での自分の名前だった。
光太郎として生き、一週間が経った。
名前からして日本人なのだが、なぜ外国にいるのか、ビザは大丈夫なのかという疑問はあったが、酒場で聞いたところ、どうやら自分は掃除屋というものらしいことが分かった。掃除屋といっても清掃員のことではなく、犯罪者を捕らえることを目的とした職業であり、犯罪者をゴミに喩えれば掃除屋というネームも的を射ている。この掃除屋免許スイパーライセンスがあればビザの心配はいらないようだ。
神様から転生させてもらう時に言われていた特典だが、この体は確かに強いものだった。動体視力や身体能力も、並の犯罪者程度であれば余裕をもって捕らえることができていた。
食い逃げ常連の犯罪者程度であったが、捕らえたことによる報酬を受け取った光太郎は日常の足として利用しているバイク、スズキRGV250Γに身を預け、寝床として厄介になっているいつもの公園に到着した。
掃除屋としての報酬はもらっているが、正直光太郎はそこまでお金に執着がなかった。生来の性格もあるのだろうが、食べていけるだけの分と、バイクの維持費があればいい。その為に余った報酬はそこらに寄付しているのだ。
公園ではいくつかの家族連れが楽しそうにしている光景が見られた。そんな光景を見て、今の自分に家族はいるのかが気になった。中身は全く違う人間なのだが、いつまでも連絡をとらないといらぬ心配をかけてしまいそうだ。そちらもそのうち調べていくとしよう。
そんなことを考えていると、不意に視界に入ってきた女の子がいた。10歳くらいの子だろうか。周りの家族連れの楽しそうな雰囲気とは異なり、一人ぼっちで立ち尽くしている。
光太郎は思わずその女の子に声をかけた。
「キミ、一人かい? お父さんとお母さんは一緒じゃないのかい?」
「…おとうさんと…おかあさんって…なに…?」
光太郎と視線を合わせる女の子は無表情でそう聞いてきた。どの世界でも親を失った子供は存在する。この子もそういった子なのかと光太郎は涙で目を潤ませた。
「お父さんとお母さんがいなくても、幸せを掴むことはできる! 不幸な境遇に負けるんじゃないぞ!」
「……?」
励まし力付けようとする光太郎だが、女の子は理解できない様子で暗い瞳を向け続けている。
女の子は近くを走り抜けていった子どもに視線を移した。子どもは親から渡されたお金で、屋台でアイスクリームを購入していた。子どもは美味しそうにアイスを舐めている。
女の子はそれから目を離さない。
「キミもアイスが食べたいのかい?」
「…あいす?」
「まさか、アイスも食べたことがない…? くっ、待っててくれ!」
アイスクリームの存在も知らないという女の子に、光太郎は急いでアイスクリームを2つ購入し、片方を女の子に手渡した。
「食べてみなよ。美味しいぞ!」
光太郎が食べている様子を見て、女の子はゆっくりとアイスを舐める。そしてすこしだけ目を見開いた。
「つめたい…おいしい…」
「それは良かった! 立ったまま食べるのもなんだし、そこのベンチに座って食べようか」
そう促される女の子は抵抗する素振りもなく、素直に従う。
「美味しいだろう? 世界にはもっと美味しいものがたくさんあるんだ! キミもいつかいろんな場所にいって、もっと美味しいものを食べに行くといいよ!」
光太郎は熱弁する。それを聞いている女の子は寂しげな表情を浮かべたのを、光太郎は見逃さなかった。
「…わたしは…できない…わたしにできるのは……おにごっこのおにだけだから…」
「それってどういうー」
どういう意味かと尋ねようとしたところ、スーツを着込んだ男が数人走ってこちらにやってきた。
「イヴ、 見つかって良かった! さぁ、トルネオ様がお待ちだ。すぐに戻るぞ!」
「あ…」
知り合いと思われる男たちに手を引かれたイヴと呼ばれた女の子は、思わずアイスから手を離してしまった。アイスは地面に落ち、クリームが飛び散る。それを見たイヴはより一層悲しそうな表情を浮かべ、高級そうな車に乗せられたのだった。
トルネオ。
光太郎にも聞き覚えのある名前だ。5000万イェンの賞金首で武器密輸の組織のボスがトルネオ・ルドマンという名前だったはずだ。
トルネオとイヴがどのような関係かは知らないが、両親もおらず、アイスクリームも知らないような女の子の境遇に犯罪者が関わっているとなると、次第に背景が見えてくる。大方、両親に手をかけたのもトルネオで、残されたイヴを奴隷のように扱っているのだろう。
「おのれ…トルネオ…許さん…!!」
光太郎は拳を握りしめ、バイクに跨って先ほどの男たちの車を追いかける。
光太郎の、トルネオがイヴをあのような表情にさせているという直感は当たっていた。光太郎はイヴを救うことができるのか!?
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