転生・太陽の子
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変身・仮面ライダーBlackRX!
トルネオの屋敷。
そこではトルネオの指示で、失態を犯した部下の命を奪うイヴの姿があった。
「おにごっこ…わたしが…おに…」
「そう、お前が鬼だ。鬼は人間を狩らねばならん。分かるな?」
怯える部下の前で、イヴは静かにそう呟く。トルネオは食事を摂りながら、命乞いをする部下の言葉に耳も貸さず「やれ!」と命令する。
そんな場所に、一人の掃除屋が様子を見に来ていた。彼の名はトレイン=ハートネット。
(トルネオと…ガキ?)
トルネオの命令でイヴの右腕が巨大な刃物へ変化する。そしてその腕をゆっくりと振り上げた。
(やべぇ、あのままじゃ…)
トレインはとっさに持っていた銃に手を伸ばす。しかしその瞬間、トレインの横を勢いよく抜けて行った影があった。
「やめろ!」
その影、もとい南光太郎はそう叫んだ。イヴの手が止まり、全員が光太郎に注目する。
トルネオの部下たちはすぐさま銃口を光太郎に向けた。
「何者だ、貴様!?」
「オレは掃除屋、南光太郎! その子を助けにきた!」
光太郎は更に叫ぶ。
「その子の手は人殺しをする手ではない! こんな幼い少女に人殺しを強要するなど、絶対に許せん!」
「おにい…さん…」
感情のなかったイヴであったが、光太郎と出逢い、徐々にそれが芽生えてきた。イヴは驚いたように目を見開く。
しかしトルネオの方はバカな掃除屋が死地に飛び込んできた程度の認識しかしていなかった。見たところ、武器も何も持っていない。本当に掃除屋なのかも怪しい光太郎に、トルネオは笑う。
「大方、わしの報酬に目がくらんだハイエナといったところか。構わん、イヴ、殺れ」
「…!」
イヴは初めて抱いた感情に戸惑う。
いつも通り、狩ればいいのに。
わたしは鬼なのに。
この人を、狩りたくない・・・、と。
その感情が彼女のトランス能力に歯止めをかける。思ったように刃を作り出すことができなかった。その様子を見て、トルネオは苛立ちを覚える。
「ちっ、生体兵器の分際で主の指示にも応えられんか。お前たち、とりあえず逃げれないように両足を撃ち抜け」
「はっ!」
トルネオの指示を受けた部下たちがイヴの前に躍り出て、光太郎に向けて一斉に発砲した。
「だ…だめ…!」
イヴが小さな声で制止するが、銃弾は止まらない。
しかし、銃弾が光太郎に当たることはなかった。無数の銃弾は、別の銃弾によって弾き落とされていたのだ。そのような神業的な芸当を見せた掃除屋はため息をつきながら物影から出てきた。
「はぁ、今日は様子見だけのはずだったんだけどなぁ」
「仲間がいたか」
物陰から出てきた顔の知らない男に、トルネオはそう一人ごちる。しかし状況は何も変わっていない。たかが掃除屋二人に対し、こちらは銃を持った部下が30人以上いるのだ。
「キミは?」
「お前と同じ掃除屋だよ。無茶なことするよな。オレが助けなかったら今頃蜂の巣だぜ?」
トレインは光太郎の隣に立つ。
ここまできたら様子見では済まないだろうし、トレインの目的であるトルネオ拿捕は今を逃すと後々面倒なことになりそうだ。相棒のスヴェンには悪いが、先走らせてもらおう。
「すまない、感謝する」
「ガキの方は頼んだぜ。残りの悪党は任せな」
トレインはそう言うが早いか、飛び出していた。部下たちは慌てて発砲するも、トレインはその銃弾を全て見切り、紙一重でかわしている。そして懐にもぐりこみ、愛銃を振りかぶる。
黒爪ブラッククロウ
硬度の優れた愛銃を叩きつけ、部下たちは吹き飛ぶ。
一度に数人がやられた現状に、トルネオに嫌な予感がよぎる。食事を中断し、数人の部下とイヴを連れ、その場を離れようとしたが、いつの間にか接近していた光太郎に阻まれた。
「トルネオ、貴様は絶対に逃がさん!」
「ちっ、イヴ! 貴様には多額の開発資金を使っているのだ。ここで役に立たないでどうする! 奴を殺さんか、この役立たずが!」
トルネオの叱咤で体をビクつかせるイヴ。
イヴは自分の感情を押し殺し、刃に変えた右腕を光太郎の体に突き刺した。
「そう、それでいいのだ!」
邪魔な掃除屋を排除したイヴに、トルネオはご満悦だ。
しかしイヴの表情はそれとは逆に辛さを滲ませ、涙を流している。
「・・・これは・・・なに・・・?」
そんなイヴに、光太郎は腹に穴が開いた状態でそっと抱きしめる。
「くっ・・・これは悲しみの涙だ。キミは兵器なんかじゃない、れっきとした人間だ。こんな場所に、トルネオなんて男の場所にキミはいてはいけない! オレがキミを自由にしてやる。約束だ!」
「じゆう・・・じゆうがなんなのかわからないけど・・・もうひとをきずつけなくても・・・いいの?」
「そうだ!」
「それなら・・・わたし・・・じゆうがいい・・・」
イヴに感情が生まれた。自我をもつ兵器など、トルネオにしてみれば失敗作だ。イヴを光太郎に近づけてはいけない。そう直感し、部下にすぐにも引き離すように指示を出す。
駆け寄る部下たちに、光太郎はイヴを抱きとめたまま右手を突き出し、彼らを止める。すでにイヴの腕に刃はない。光太郎を抱き返すように、両手を光太郎の背中に回している。
「貴様らに、この子は渡さん!」
「くっ、下手に撃つとイヴに当たる。みんな、奴の頭を狙え!」
部下たちは一斉に光太郎の頭部に発砲する。
そのときふしぎな事が起こった。
光太郎の体が光り輝き、辺りをまばゆく照らす。
20人以上の部下を返り討ちにしていたトレインも、思わず目を細める。
「な、なんだ?」
そしてトレインは見た。
そこに立っていた男の姿は、見たこともない特殊スーツのような物に身を包んでいた。
光太郎は変身していた。
昆虫、それもバッタのような顔の仮面をつけ、イヴにつけられた傷も完全に治癒されていた。
「き、貴様、何者だ!?」
目の前で姿を変えた光太郎に、トルネオが腰を抜かして問い叫ぶ。
光太郎は脳裏に蘇る記憶の名を叫んだ。
「オレは太陽の子、仮面ライダーBlack、アール、エックス!」
RXはイヴを抱きしめたまま、軽くジャンプする。あくまでも軽くであったが、楽に屋敷の屋根に着地したRXはイヴをそっと降ろす。
「すぐにキミを自由にしてあげる。だから少しの間だけ、ここで待っているんだ」
「・・・うん」
約束を交わし、再びトルネオの眼前に降り立つRX。
部下が発砲するも、RXの体に傷ひとつつけることはできない。その姿は昆虫に酷似しているが、トルネオにとっては死神にも等しい存在になり変わっていた。
思わず失禁してしまっているトルネオは、RXに背を向けて駆け出し、隠していたロケットランチャーを取り出してRXに向ける。
「ふ、ふはははは! いくら貴様が頑丈なスーツに身を包んでいても、これには耐えられまい!」
勝ち誇るトルネオだが、RXに怯える素振りはない。それどころか少しずつ近づいている。
「やってみるがいい。オレは悪の力には屈しない! 正義に燃える心がある限り!」
「くっ・・・うあああああ!」
打ち出される巨大な弾丸。そして周囲に広がる熱と轟音。
その光景にイヴは思わず身を乗り出す。
「おにい・・・さん・・・」
心配そうな表情を浮かべるイヴ。しかしすぐにその表情は明るいものとなった。
「おにいさん・・・!」
一陣の風が煙を吹き飛ばす。床などは衝撃で吹き飛んでしまっているが、中心に立っていたRXには何のダメージもなく、歩みを続けていた。
そしてトルネオの眼前で拳を握り締め、横たわるトルネオの真横の床を叩きつけた。拳を叩きつけた、ただそれだけであるのに、周囲の床はひび割れ、衝撃波が辺りを襲う。
その衝撃波を間近に受けたトルネオは、外傷はないものの気を失っていた。
しばしの静寂の後、イヴは屋根を駆け、RXに向かって飛び降りた。
RXの腕の中に収まるイヴの表情は、年相応の笑顔が宿って見えた。
そんなRXの姿を見て、トレインは「かっけー」と目を輝かせていた。
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