グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第98話:夜分の呼び出しは厄介事の定番
前書き
まさかの短期間更新。
(グランバニア城・リビングルーム)
ビアンカSIDE
現在28戦28勝中。
リュカがリューラとのチェスでの対戦成績だ。
30分ほど前から29戦目が開催されてる。
1日1戦しかリュカは対戦を受け入れない。
リューラも毎日は対戦を挑まない。
それでも29戦も挑み続ける事は、それなりに根気の要る事だ。
だからこそリュカも絶対に手加減はしない。いや手加減はしてるのだろうけど、実力差がありすぎてそれでも勝ってしまうのだ。リュカは以前、よくオジロンと対戦してた。
オジロンはかなりのチェス名手らしく、リュカの勝率も6割ぐらいだと記憶してる。
軍に入る事を目指したリューラは、少しでも戦術などの知識を得ようと、簡易的な戦術ゲームのチェスをするようになった。その相手に彼女が知る中で強者なリュカを選んだ。
だからこそリュカもワザと負けてやる事はせず、多少でも実力が身に付くように相手をしている。
だが……突然現れたティミーによって、そんなほのぼのとした時間が終了した。
困った表情で「父さん……ウルフ君がキャバクラで飲み潰れたらしい。僕のMHにレクルトが連絡してきた」と伝えに来たのだ。
もう私なんかは何が何だか理解不能だったが、少しだけ顔を顰めたリュカは……
「お前のとこに来た連絡だろ? 僕は関係ないと思うけどなぁ……そっちで如何にかしといてくんない?」
と言って、手元の駒を動かしてリューラの駒を奪い取る。
奪われた駒はビショップ。取られた方は「あっ!」と小さく呟き考え悩む。
「解ってるでしょう……何で彼が酔い潰れてるのか。今日の昼間に、リュリュと一緒に外出した件でですよ。彼女も凄く不機嫌で、仕事を残してサンタローズに帰っちゃったんですからね」
あの娘が仕事をサボるなんて珍しいわね。
「でも僕に直接連絡が来たんじゃない。その辺に留意して、今回の事案を取り扱いたまえ」
確かに……リュカもMHを持ってるのだし、ティミーよりも先に連絡を入れるべきだと思う。
「この国の宰相が国王と共に出かけて、その日の夜にヤケ酒で酔い潰れたんです。レクルトとしても当事者の国王には連絡しづらいでしょう。でも助けが居る事態……それで僕に連絡してきたんです。解ってるでしょう!」
なるほどね。確かにリュカに連絡しづらいわ……
おっと、悩んでたリューラが徐にクイーンを動かし、リュカのナイトを奪い取った!
だがリュカは、直ぐさまポーンを動かし、リューラのルークを取る。
「そこまで解ってるんだから、僕が行っちゃったら迷惑だろう事も解れ」
う~ん、確かに国王をキャバクラに呼び付けるなんて、普通の人には気が引ける事よね。
ティミーも王子だから、本来は連絡なんてしたくなかったのだろうけど、他に選択肢が無く未だ連絡しやすい人物を選んだのだろう。
「レクルトは現状だけを如何にかしたくて僕に連絡したんです。彼の希望通り、僕だけが出向いたって、現状打破だけで抜本的解決には貢献出来ない。今回の件の当事者であり、かつ最高権力者の陛下が行く必要が有ると思いますけどね!」
今日の出来事はリュカから聞いたが、私にはウルフ君の酔い潰れる理由は解らない。
確かにティミーが行けば、その店も客も落ち着かせる事が出来るだろうけど、リュカにだって同じ事しか出来ないとは考えないのだろうか?
「……お前は、ウルフが思い悩んでる原因が僕に有ると言うんだな?」
何でそうなるの? ウルフ君がリュカの理想に外れた行いをした所為で、未来の人々を苦しめるかもしれなくなったんじゃん。私には自業自得に見えるけどね!
「そこまでは言ってませんけど、僕にとって可愛い義弟なんですよ、彼は。一緒に悩みを軽くしてあげても良いんじゃないですか?」
チェス盤から目を離さない父親に、頼りになる兄貴は食い下がる。あっ、リューラが犠牲を顧みずクイーンでビショップを攻撃した。
「はぁ……じゃぁ少しだけ待ってろ。今はリューラの相手をしてるんだから」
そう言ってリュカは、自軍のクイーンで相手のクイーンを取り「チェックメイト」と美しい声で言い放つ。あぁ……耳元で囁かれたい。
「ああ! また負けた……」
「悪いなリューラ。お兄ちゃんが用事があるって言うから……」
リュカ的には、もう少しリューラの相手をしてたかったのだろう。素人目に見ても、ティミーが話しかけてきてからリュカの攻撃スピードが上がった事が解る。
「ゴメンねリューラ」
「ううん、いいのよティミー。貴方がお父さんに頼らないと何も出来ない事は知ってるから」
辛辣ねぇ……私の息子なんだから、私の前では少しくらい気を遣いなさいよ。
「……まぁ、そういう事ですね。奥様も愛人様方も、今夜は相手出来ませんので、その辺をご了承下さい。……じゃぁ行きましょうか、父さん」
文句らしい文句を言わせる事無く、ティミーはリュカを立ち上がらせる。
「やれやれ……お前の義弟は面倒臭いなぁ」
「ホントやれやれですよ。貴方の義息は面倒臭いですね」
二人とも心底面倒臭そうに出口へと歩いて行く……
自分の夫と息子なのだが、この二人が並んで歩くと絶景である。
こんなイケメンが2人もキャバクラに登場したら、さぞかし店内は盛り上がるだろう。
私も一緒に行っちゃおうかな?
ソッと立ち上がろうとしたら、リュカが振り返り私を見て小さく首を横に振った。
“来るな”って事だろう……
う゛~……残念だわ。
ビアンカSIDEEND
(グランバニア城下町・オモルフィ:バル)
エウカリスSIDE
二進も三進も困り果てて、レクルト君が平宰相の道具を使って王子様に連絡を入れてから30分……
助け船としてティミー殿下が店に来てくれた……パパを伴って!
ちょっと待ってよ。陛下には言い辛いからワンクッションとって殿下に連絡したのに、何で言っちゃうのよ?
レクルト君も顔を強張らせてるじゃない。王子様だけが来れば良かったのよ!
あれか? 王子様一人じゃ何も出来ないから、パパに助けを求めたのか!?
使えねー! この王子、凄ー使えねー!!
「悪いね陛下も呼んじゃって。現在の立場的には、ウルフ君は僕より上位者だから、更なる上位者を呼ばないとならないんだよ」
「い、いえ……その通りですね殿下。ただ夜のお寛ぎ中に連絡してしまった事が申し訳なくて……」
王子様なのに、平宰相の方が上司なの?
そんな感想をキョトンと思い浮かべてると、エリザベートが私にコッソリ耳打ちしてきた。
「殿下は未来の王様だけど、今は外務大臣として政務に就いてるの。だから国家のナンバー2の宰相閣下の方が上なのよ」
なるほどね。
流石はこの店のナンバー1キャバ嬢。
ちゃんと政治の事についても勉強してるみたいだ。
私としては城にも働きに行ってるが、普段の言動を見ちゃってるから、ナンバー1が王様って事以外、正直解りにくくなっちゃてるわ。
だって周囲の兵士やメイド等も、殿下には恭しくしても宰相にはタメ口だったりしてるんだもん。
「さてと……取り敢えず水割りを薄めで貰おうか」
「あ、じゃぁ僕は前に来た時に飲んだ、ピンクの美味しかったヤツを……」
ちょ、ちょっと……潰れた宰相を迎えに来ただけじゃないの? 飲んでいくの!?
「おいティミー……あの酒は目出度い事があった時に飲む酒だ。今日は真逆だろ……ウルフが酔い潰れるほど凶事が巻き起こった日なんだぞ。お前も水割りで我慢しろ」
「はぁ……お酒って飲むのに色んな理由が有るんですか。普段飲まないので知らなかったです。そういう事でしたら、父さんのと同じ物で良いですよ」
本当に飲んでいくの!?
何で? だって宰相閣下は酔い潰れてるのよ! これ以上スキャンダル的な事が巻き起こる前に、酔っ払いを回収して帰るのが得策じゃないんですか?
「あの……殿下は……今日何があったのか……」
「うん。この店に来る途次聞いた。リュリュが不機嫌な訳だ」
あの話を聞いて“不機嫌”で済むんですか?
「殿下はショックを受けてないですけど……」
「まぁ付き合いが長いからね、父さんとは。小さい頃から世界中を旅してきて、怖い面も見てきたし」
それはそうでしょうけど……
「ですがウルフ君も何度か陛下と旅をしてましたよね? 何でこんなに落ち込んでるんですかね?」
「確かにリュリュと違って、陛下の惨忍性は知ってるだろうけど、今回彼が落ち込んでるのは、自らの陰謀で巻き起こしてしまう暗い未来についてだと思うよ」
王子様は本人の目の前でも構わず『惨忍』と評する。
信頼関係が固いのか、このボンボンが疎いのか判らないが、陛下が寂しそうな顔をしても気付く様子はない。
「しかしウルフ君がこんなにも落ち込むなんて……その新兵器は、そんなにも恐ろしい武器なのですか?」
「お前には明日にでも見せてやるけど、新兵器が恐ろしくてウルフが落ち込んでるんじゃない」
「……では何が原因ですか?」
「今回の武器は僕が知ってる恐ろしい兵器へ発展する、足掛かりの一部に過ぎないって事だ。ウルフには現状の兵器ですら、想像の遥か上空を行く物だった……なのに、更なる発展を遂げれば、もっと恐ろしい武器が誕生する可能性がある。その事に気付き、取り返しのつかないことをしたと落ち込んでるんだよ」
「僕は新兵器を見てませんけど、そんなに恐ろしいんですか? そして更なる発展なんてするんですか?」
現在の武器の事は宰相閣下から聞いただけだけど、私もこれ以上発展することがあるとは想像できない。陛下の思い過ごしではないのだろうか?
「発展しなきゃ良いとは思うけど、実際に僕は知っちゃってるからね……もっと凶悪な兵器の事を」
何で陛下はそんな恐ろしい物の事に詳しいのだろうか?
聞いても教えてくれないだろうなぁ……
「父さんが言うのなら間違いないのでしょう……ですが良いのですか? そんな危ない情報を、こんな酔っ払いが大勢居る場所で話しちゃって?」
……そう言えばそうよね。宰相閣下も、こんな場所で吐露しちゃダメだって気付かなかったのかしらねぇ?
「良いんじゃない……話を聞いてた連中の、顔も身元も分ってるんだし、もし他所で今回の話題が出てたら、馬鹿みたいに喋ったのはこの連中だってすぐに判明する」
「まぁ判明はしますけど、喋った内容は拡散しますよ」
「そうだね……この連中が喋っちゃったら拡散するね」
「……………」
陛下は今回の事が他所に広まっても問題無いと思ってるの?
「へ、陛下……わ、我々は今日の事を他言しません。絶対に!」
陛下と殿下が目を合わせずに、ただジッと無言でいる事に何か気付いた店長が、凄く緊張した声で他で言う事を否定した。何を慌ててろのかしら?
「父さん……彼等が他所で言い触らしたからって、処刑しようなんて思ってませんよね?」
しょ、処刑!?
ちょ……冗談じゃなわいわよ! この平宰相が勝手に愚痴っただけじゃない!
「そこまでは思ってないよ。情報的な面で言えば、何れは知られる事になる情報だし、武力強化の情報は知れ渡ってこそ他国への牽制になるからね……」
び、びっくりしたぁ……殺されるのかと思ったわ。
「でもさぁ……国家の重鎮が利用する高級キャバクラなのに、そこで話した内容が拡散するんじゃ拙いよね。国家の重鎮が酒に酔って、何らかの機密事項を話すのを期待してるとしか思えないよね。もしかしたらワザと酒に酔わせて聞き出してるんじゃないかと疑っちゃうよねぇ?」
「……そ、そうですね。この店は軍務大臣秘書官が常用してるみたいですからねぇ」
「そうなんだよ、色んな人が利用してるんだよね。……もしかして、他国のスパイ活動の拠点なんじゃないのかなぁ?」
はぁ!? この店がスパイ活動の拠点!
「へ、陛下……当店は決してスパイ活動など行ってはおりません」
「う~ん、それは信じてるけどもぉ……今回の内容が、あまりにも早く世の中に知れ渡ったら……ねぇ」
知れ渡ったら……何?
「父さん……いえ、陛下。その時は彼等を如何するつもりですか?」
「処刑はしないけどぉ……スパイを放置しちゃうわけにもぉ……」
こ、怖い……はっきりと言わないところが凄く怖い。
「陛下! 何度も申し上げますが、我々はスパイではありません。本日の事も、皆様がお帰りになられ次第、記憶から抹消いたします! 勿論、文字にして記録を残すような事も致しません。どうか信じてくださいませ!」
「うん、信じてるよ。信じてるけども……ね。凄い速さで知れ渡っちゃったら……ね!」
私は怖くなり、慌ててレクルト君を見た。
すると彼は私から視線を外す。
処刑はしないと陛下は言った。
だが処刑以外の事はするのかもしれない。
私たちの事をスパイと認定するから……
エウカリスSIDEEND
後書き
まだ仕事は休職状態なので、
ゲームしながらでもリュカ伝を書く気力が萎えなかった。
ページ上へ戻る