グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第92話:モブらはみんな生きている 五
前書き
♪モブらはみんな生きている 生きているけど目立たない♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど知られない♬
♪手のひらを太陽に掲げてるポーズは 主役級が良く似合うのさー♬
♪男だ~って 女だ~って 町の人だって~♬
♪みんな みんな 目立ちたいんだ 知られたいんだー♬
(グランバニア城下・喫茶店アマン・デ・リュムール)
ジョンSIDE
「ようジョン、久しぶり。悪いな無理なことを言って……」
「全くだライオネル……俺の職場は城じゃないんだぞ。軍港に勤めてるんだぞ。多少だが城勤めの兵士にコネがあったから良かったが、あまり当てにするんじゃない!」
俺は久しぶりに再会した友人、ライオネルに文句を言いながらコーヒーを口に運んだ。
俺とライオネルは以前に軍で一緒だった仲……
だがライオネルは給料の良い民間警備会社に転職し、会う機会も激減していた。
「そう言うなよ。息子に“マリー&ピエッサ”のチケットを強請られちゃまってよぉ……」
「はぁ……今、凄い人気だよな。このマリー&ピエッサってコンビ。何が良いんだ?」
俺は城勤務の友人から買ったチケットをライオネルに渡しながら、常々疑問だったことを口にする。
「ちょっとジョン。アンタ聞いたこと無いの、あの二人の歌を!?」
俺の手からライオネルより先にチケットを奪って、もう一人の友人ジョスが呆れた口調で見下ろしてきた。
「何だジョス……もう来てたのか。悪いな、流行り物には疎いんだよ」
「おい、俺のチケットだぞ!」
「別に私もジョンにチケットを頼んどいたんだから、“俺の”とか関係ないでしょ。もう一組貰いなさいよ」
彼女は手に入れたチケットを懐に仕舞うと、ライオネルの隣に座ってケラケラ笑っている。因みに、このジョスも以前は軍に居たのだが、現在は民間で働いている。
「ほらライオネル……ちゃんともう一組チケットはあるよ」
「まったく……俺に渡そうとしてた物を、掻っ攫うことないだろ」
今度はライオネルも慌てて俺の手からチケットを奪い去り、素早く懐へと仕舞い込んだ。
「にしても、よく4人分ものチケットを確保できたわね?」
「ハロルドに頼んだんだ」
「軍務省の? あの官僚野郎にか?」
「そうだよ、悪いか?」
「悪かねーけど、何でアイツはチケットを簡単に手に入れられるんだ?」
「簡単かどうかは知らん……頼んだら手に入れてくれたんだ」
「何かコネがあるのか?」
「まぁ良いじゃないライオネル。手に入ったんだからさ……でもジョンは自分の分を頼まなかったの?」
「興味ないんだよ、小娘の歌になんて」
良い大人が躍起になって手に入れようとしてる意味が解らない。
「あのなぁ……聞いたことあるのか、マリー&ピエッサの歌を?」
「無いよ!」
あのコンビは城内にあるカフェに特設ステージを設けて、歌と演奏を披露する事が多い。城勤めじゃ無い俺には縁遠い事だ。
「俺もな初めは気にもしてなかったが、息子と一緒にマリー&ピエッサのステージを見て、目から鱗が落ちてきたね! 音楽の斬新さもさることながら、唄ってる歌詞が滅茶苦茶良い!! 兎も角、一度聞いてみろ」
「そうよね。私も息子に頼まれて初めて聞いたけど、今までに無いタイプの音楽だったわ。ジョンでも気に入ると思うわよ。特に『愛は勝つ』って歌は最高よ」
「随分とクサいタイトルだな……」
「確かにタイトルだけ聞くとクサいが、曲と一緒に歌詞を聞くと感動するぞ。なぁジョス」
俺がタイトルのクサさに野次を入れると、ライオネルがシミジミと感動を押し売りしてきた、ジョスに同意を求めつつ。
「確かに……私は『DIAMONDS』が好きよ。息子が言うには、以前からこの曲を口遊んでいたみたいだし」
「以前から? 何だ、息子さんはマリー&ピエッサとは知り合いなのか?」
子供が知り合いだったら、俺を経由しないでもチケットは手に入るだろうに……
「違うわよ。ボーカルのマリーって娘は、まだ13.4歳なの。息子と同じ学校に通ってて、あれだけの美人だから目立つ存在なのよ」
‘あれだけ’と言われても、俺は見た事ないから判らない。
「俺が聞いた話では、マリーちゃんの才能を見出した芸術高等学校の理事長が自分の姪っ子と組ませて、歌姫ユニットとしてデビューさせたらしいぞ。披露してる歌は全てマリーちゃんの方が作ってるらしいし」
「はぁ~……天才って事ね」
音楽を含めた芸術に対しての有識者たる芸術高等学校の理事長が見初めて、更に自らの縁者を宛がうって事は、本当にその娘は天才なのかもしれないな。
少し興味が湧いてきたな。
「おいライオネル。そんなにその二人を勧めるのなら、お前のチケットを寄こせよ。俺がお前の息子とコンサートに行くから……」
「ふざけるなよ! 俺だって観に行きたいんだ。彼女らの歌を楽しみたいんだよ!」
「簡単に入手できないみたいで、ハロルドに『これっきりだぞ』って言われたんだよ」
「残念だったな、今更興味持ったって遅いんだよ」
何だよ……散々勧めといて。
「ちょっとジョン……アンタ、財務省に勤めてるゾーイと付き合ってたんでしょ。彼女に頼んでみなさいよ」
「もう別れて随分経つんだぞ。頼める訳ないだろう」
今更そんな事を頼めるか!
「あの女とは気が合ってたじゃねーか。何で別れたんだ? これを機会にヨリを戻せば良いじゃねーか」
「俺も彼女も仕事が面白くて別れたんだ。ヨリを戻す訳ないだろ」
「円満別れだったら恋人同士から友人関係になっただけ……チケットを頼むのには問題無いんじゃねーのか?」
そんなくだらないことでアイツに借りを作れるか!
「ムリよライオネル。その人はゾーイに借りを作りたくないの。そうよねジョン?」
「何だサマンサ……何時から居たんだ?」
突然現れたサマンサ……まったく、何時から居たんだよ?
この女も古い友人だ。
彼女は軍ではなく、城のメイドとして働いてる。
そんな流れで何時の間にか友人になった女だ。
因みに今現在もメイドとして働いてる古株メイドだ。
「ウキウキした足取りのジョスを見かけたから、声をかけずに後を付けたの♡ そしたらこんな所で懐かしい顔触れが集まってるじゃない。こっそり陰から見守ったってワケ」
「こっそり見守るって何だ? ただの覗きじゃねーかよ」
「あ~らライオネル。覗かれたくなかったら、こんな公衆の面前に集まらない方が良いわよ」
「別に悪いことしてるワケじゃないんだから、公衆の面前に居ても問題無いだろ! お前こそ最近、公衆の面前で恋人とイチャ付いてるって聞いたぞ!? 如何しちまったんだ?」
「こそこそ恋愛することに飽きたのよ。恋する自由は私にだってある訳だし……」
「新しい恋人かしら? それとも依然と変わらずサミーンと付き合ってるの?」
流石はジョスだ……聞きにくい事をズカズカ聞きまくる。
「今も昔も私はサミーンとラブラブなの♡ 悪い、女の私が女兵士のサミーンと付き合っちゃ?」
「悪いとは言ってないだろ。思ってたら今更じゃなく、昔に言い触らして同性愛者として晒し者にしてたっての!」
そうなのだ……彼女は同性愛者で、付き合ってる相手はサミーンという女兵士なのだ。
以前なら同性愛者という趣向は、そうで無い者達から忌諱される存在だった為、俺達も二人の関係を知って、周囲には知られないように心掛けてきた。
だが何故だか最近は、同性愛者に対して寛容な雰囲気が広まっていき、サマンサ達も大ぴらに恋愛を謳歌することが出来ている。
なぜそうなったのかは解らないが……
「皆には感謝してるわ、私達の関係を秘密にしてきてくれて。でもね、新しい上級メイドのジョディーが、自分も同性愛者である事をカミングアウトして、可愛い新人メイドを恋人にしちゃったのよ。それ観てたら隠してるのが馬鹿らしく感じちゃって、私もサミーンと人前でイチャ付く事にしたの。そうしたら私等以外にも居たらしく、結構同性愛カップルが出現。吃驚よね……城で働く三割弱は同性愛者だったなんて!」
「なるほど……王家の側で働く上級メイドが同性愛者だったことをカミングアウトしても、陛下等が何も言わないから周囲の者達も批判しにくくなったのね。それで貴女達も気兼ねすることなく恋愛することが出来るようになった」
「まぁそういう事かしらね。でもよくよく考えると、以前から王家の方々は同性愛者について何も言って無かったのだから、我々が勝手に気にしすぎてた様な気もするのよね」
確かに陛下などは無類の女好きではあるが、同性愛については何も言って無い。
「それでジョン。貴方もマリー&ピエッサのコンサートを観に行きたいのかしら?」
「何だサマンサ……お前がチケットを手配してくれるのか?」
俺はコイツにも借りを作りたくないから頼む気はないが、何を企んでいるのかは気になる。
「え? 何で私がアンタの為に、そんな面倒な事を引き受けなきゃならないの?」
「だよな……唯の興味本位だよな!」
そんな事だろうとは思った。
「がはははは、残念だったなジョン。コンサートを観たかったら自分で何とかするんだな」
「俺は別に構わないが、その台詞はそのままライオネルに返す。今後は俺を頼りにするなよ!」
「ちょっとジョン! 私は関係ないからね。ライオネルだけが言ってることなんだから、私が頼んだ時は手配してよね」
「無茶言うなジョス。ハロルドだって『今回だけ』と言ってたんだ。もうムリだよ」
「何よもう……頼りないわねぇ!」
無茶言うなっての。
「しかし何でマリー&ピエッサは、城内のカフェでしかコンサートを行わないんだ?」
「あらライオネル。貴方ファンのクセに知らないの?」
如何やらサマンサは何か知ってる様子だ。
「お前は何か知ってるのかよ!?」
「如何やらあの娘達、まだデビューしたてで資金が無いみたいなのよね。歌を披露したくても、会場を確保する為の資金が無く、顔見知りの城内カフェのマスターが無料で貸し出してるから、あそこでばっかり開催してるみたいよ」
「城内カフェのマスターと顔見知りなのか?」
「そうなのよジョン。あのマリーって娘は、両親が遠くに住んでるらしくて、城でメイドしてる知り合いに託されてるらしいの。その関係で彼女も城住まいで、城内カフェのマスターと顔見知りみたいよ」
「はぁ~……苦労してるんだな」
「その様だけど、あまり苦労してる感は見せない娘よ」
俺の素直な感想に、あっけらかんと答えるサマンサ……本当か?
「城住まいって事で、結構お偉方とも会うんだけど……あの娘って物怖じしない娘で、ウルフ宰相閣下とかにタメ口で『金持ってるんだから、私等に資金援助しなさいよ!』って言ってるのを、よく見かけるわ」
「宰相閣下にか!? 凄ー娘だな」
「うん。多分そんな感じで城内にあるピアノを使用して、好き勝手に練習してるみたいだし」
「え!? 城内のピアノって言えば、ビアンカ様が陛下のピアノ演奏を聴きたくて、珍しく我が儘言って購入した代物だろ? 当時は俺も兵士をしてたから、あの大きなグランドピアノを城内に設置する苦労を体験したんだ」
「……ライオネルの言ってることが事実だとすると、練習は王家のプライベートエリアで行ってるって事か!?」
「そのようよジョン。あの娘の図々しさは神憑ってるわよね!」
神憑ってるどころじゃ無いだろうに……
ヤバいぞ……流石の俺も興味が出てきた。
如何するか……ゾーイに頭を下げてみるかな。
ジョンSIDE END
後書き
謎のお腹激痛(外的痛み)に耐え抜き、更新頑張った!
「感動した!」って方は感想宜しく。
「馬鹿か貴様は?」って方も感想宜しく。
「今回の登場人物の名前の元ネタ知ってるぅ~」って方、仲良くしましょう。
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