グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第91話:何だかんだ言ってエゴイスト
前書き
頑張ってま~す。
感想くださいね。
(芸術高等学校)
ディレットーレSIDE
ウルフ閣下も帰られ私は一人、例の事案の人員選定に勤しむ。
当初は音楽専攻者の中で一番成績優秀な者を選べば良いと考えていたが、選定に当たり考慮すべき条件を閣下より言い付かり、正直困惑している。
ウルフ閣下曰く、『絶対条件として音楽専攻者。他人が唄う鼻歌等を聞いて、それを譜面に起こせる奴ね! 次に重要なのは性格。温和な人間にしてね。組む相手が頗る我が儘だからさ(笑)』との事。
最初の条件は問題無い。音楽専攻者だから、能力差はあっても皆が譜面を書き起こすことの出来る者達だ。だがしかし……基本的に芸術家肌な人種ばかりだから、自己の才能への自尊心も強く扱いにくい者が多い。閣下の恋人もかなりの性格らしいから、2番目の条件は実に厳しいと言わざるを得ない。
そして問題なのが、もう一つ言われた条件だ。
『出来ればさぁ……組ませる相手は女の子にしてよ。一応さぁ……俺の彼女と組ませるワケじゃん。男だとさぁ……心配になっちゃうんだよね、可愛いから……俺の彼女』
ウルフ閣下に始めてお目にかかった時、彼は未だ子供だった。
それでも類い希なる才能で国王陛下の秘書官を務めていたのだ。
そんな彼が数年で国家のナンバー2たる宰相に出世し、私に頼み事をしてくる……
閣下は“出来れば”と仰ったが、そんな国家の実力者の頼み事を違える訳にはいかない。
例え“普段は剛胆な感じで振る舞ってるのに、本当は意外とナイーブなんだな”と思っても、ご希望に添える人選をしなければならない!
あぁ……何と面倒臭い依頼だろうか。
“音楽的能力があり、我が儘女の我が儘に堪えられる性格の持ち主で、その我が儘女と変な噂が立たない女子生徒”を私は可及的速やかに選定せねばならない。
今回の試みは、もしかしたら失敗に終わるかもしれない……
何故なら閣下の彼女は自分が才能豊富だと勘違いしてるイタイ女らしいからだ。
だとすると人選は本当に重要になる。
成功すれば良い……
そうすれば閣下の彼女にとっても、私が選んだ者にとっても未来を彩る良い経験になる。
だが……失敗すれば、それは大きなる汚点として2人の人生に残るだろう。
閣下の彼女は良い……
失敗しても宰相婦人として人生を謳歌し続ければ問題無いのだから。
問題なのは私が選んだ者の方だ。
大きな汚点を残すことになっては、今後の人生が悲惨なものになるだろう。
だが私の人選で失敗するのも避けねばならない。
閣下に言われた条件に満たない者は絶対に選ぶ訳にいかないのだ。
……となると、思い浮かぶ候補者が私には1人しか思い浮かばなくなる。
はぁ……出来ればあの娘は選びたくない。
だが他の者だと失敗の可能性が大きくなる。
「…………………………」
私しか居ない学長室に重い沈黙が溢れかえる。
「はぁ……彼女しか……居ないか」
そして私の声だけが更なる重さで響き渡った。
私は徐に立ち上がり学長室から出て目当ての生徒の下へと足を進める。
この時間なら、まだ教室でピアノの練習をしてるはずの彼女の下へ……
ピエッサ・パルティシオン……
ウルフ閣下の希望条件を全て満たし、今回の試みを成功させ得る少女。
そして……私の姪っ子でもある生徒の下へ。
ディレットーレSIDE END
(グランバニア城・宰相兼国務大臣執務室)
ウルフSIDE
芸術高等学校の学長にマリ-の相方選びを依頼した翌日、俺の執務室に学長からの推薦状を手にした女子生徒が1人現れた。
彼女の名はピエッサ・パルティシオン……
俺の記憶に間違いなければ、彼女はディレットーレ・コンポジート学長の姪御さんだ。
良いのかね、こんなアホな計画に自らの親族を宛がって?
失敗したら良い晒し者になるだけでなく、将来に影響が出ると思うのだが……
「あ、あの叔父から……あ、いえ、学長から推薦を受けましてウルフ宰相閣下のお知り合いの方に協力させて戴く事になりましたピエッサ・パルティシオンです」
「やぁ良く来たね。歓迎するよ」
今年三年生になった彼女は単身で城に入り、しかも国家のナンバー2の執務室へと通されて些か緊張気味の様子。
だが彼女からは悪くない為人を感じる。美少女だからかな?
「早速当人に会わせたかったんだけど……まだ帰ってきてないんだよね。だからさ、相棒になる相手のことを多少教えておくよ。応接室まで一緒に良いかな?」
「は、はい! よ、宜しくお願いします!!」
う~ん……随分と緊張してらっしゃるなぁ。
出来れば女性と密室で二人きりになりたくないなぁ。
また変な噂が広まっちゃうよ。
「ユニさん、申し訳ないけど同席をお願いしても良いかな?」
「……閣下が彼女を押し倒しそうになるのを防ぐ為にですか?」
嫌な言い方をする女だな。
「広い意味では間違っては無いが『他者への無用な誤解を未然に防ぐ』と言う意味が妥当だ」
「はぁ……節操が無いと色々大変ですね閣下。解りました……私も忙しい身ですが、閣下の輝かしい評判を守る為に協力致します」
凄~い。
あの事件以来、ユニさんの敵意がハンパな~い!
見た目は何時もと同じ様に振る舞ってるけど、言葉の端々にトゲがビッシリ♡
「ありがとう。上司の俺よりかは忙しくないはずのユニさん。凄く助かるよ」
「色々陰謀を企んでるから忙しくなるのではないですか? 陛下を困らせるのを止めれば、もう少し忙しさも軽減されますよ(ニッコリ)」
あ~ん(涙)
優しい笑顔で嫌味全開!
ウルフSIDE END
(グランバニア城・宰相兼国務大臣用応接室)
ピエッサSIDE
うぅ~……緊張するよぉ……
ただでさえ宰相閣下に会うなんて緊張するのに、何だか閣下と部下の女性が仲悪そうでギスギスした雰囲気……
何なの? 何で叔父様は私を選んだの!?
宰相閣下の執務室に隣接する応接室へ来ると、座り心地の良さそうなソファーがあり、閣下が先に座ると対面する方に座るようにジェスチャーで進められる。
言われるがまま座ると、一緒に来た女性が一旦部屋から出てお茶の準備をしている。
その間は応接室の扉は開きっぱなしで、執務室の方々からも私達の事が見えるようになってる。
勿論その間は閣下も何も喋らず、無言で私が持参した推薦状を読んでいる。
こっちを見続けられるよりマシだけど、何だか粗探しされてるようで良い気分では無い。
部下の女性がお茶を持って戻ってくると、扉が閉められ完全な密室が完成した。
そしてその密室には私を含めて3人しか居ない。
内2人は仲が悪そう……
か、帰りたいよぉ~。
「悪いね緊張してるのに、こんな所に閉じ込めちゃって」
「い、いえ……とんでもございません」
解ってるのなら大勢の前でが良かったですぅ。
「実はさ……こちらのユニさんも、先刻の部屋に居た連中も、今回の事を知らないんだよ。下手に噂だけが先行するのも嫌だったし、細かい内容は秘密のまま事態を進めたいと思ってね」
「はぁ……そうなんですか……」
何とも間抜けな受け答えだが、他に何と言えば良いのか解らない。
「まぁそんな訳でさ、芸高校(芸術高等学校)の理事長からの推薦状を持ってきた若い女の子と、二人っきりで応接室に籠もるのは何かと問題があるんだよ」
「……た、確かに変な噂を立てられかねませんね」
「そう。でもユニさんと一緒なら大丈夫。俺が彼女と二人きりになってもエロいことしてると勘ぐる奴は居ない。なんせ俺、この女に男として見られてないからね!」
「そ、それは……その……何というか……」
如何してこの人は応答に困る事ばかり言うのでしょうか?
「閣下……その様なことはありませんよ。私だって閣下のことを男として見ております。クズでヘタレな最低男として(笑)」
「いや……男なら何でも良い訳じゃないんだけど」
ヤバイ……この二人、本当に仲が悪いわ。何があったの……二人の間に?
「さて……そろそろ本題に入るけど、君にはある人物の手助けをお願いしたいんだ」
「は、はい。理事長から大まかな説明は受けております」
何でも宰相閣下の知人女性の為に、私の音楽スキルを役立てたい……との事。
「そうか……じゃぁ簡単に説明すると、これから君が会う女の名はマリー。性格は超我が儘。音楽の才能は皆無。歌唱力は中の中。容姿だけはピカイチ。そんな女の頭の中にある音源を、鼻歌やハミングなどで聞き出して誰にでも歌って奏でられる状態にして欲しい」
音楽の才能が皆無なのに、何で頭の中に音源があると言い切れるの?
そんな才能が無い人のでは、世に出せる状態にしても無駄な気がするけど……
でも仕様がないか……宰相閣下や叔父様がやれと言うのだし。
「君は凄いなぁ……」
「な、何がでしょうか!?」
何が? 私何も言って無いわよね!?
「きっと君は俺の説明を聞いて『才能無い奴の手伝いをさせられる。無駄なことをさせられる』と思ったはずなのに、それを1ミクロンも表情に出さない」
む、無表情でいたことを褒められたって事!?
「わ、私……そんな事は「良いんだよ。考えて当然なんだから。その事について批判もしなければ、罰するつもりも毛頭無い。むしろ頼もしく思ってる。君ならマリーの我が儘を目の当たりにしても、表情変えること無く対応してくれることだろう」
褒められてるの? でも、それって……何か……複雑。
「そんな君にだから、学長にも伝えてなかった事柄を教える」
「は? 叔父様にも言って無いことですか!?」
何だろう……聞いちゃダメな気がしてきたわ。
「これから君が会うマリーって女……実は国王陛下と王妃陛下の娘さんなんだ」
「む、娘!? そ、それって……お姫様って事ですか??!!」
とんでもない事実をぶっ込まれ、思わず叫びながら立ち上がってしまった。
「まぁ座りたまえ。血族的には姫君だけど、問題が多くて王位継承権を剥奪されてるから、お姫様とは言えないよ。両親が国王と王妃なだけで、いたって普通の町娘だ」
「いや普通では無いと思うんですけど……」
「そうだね。誰もがそう思うよね。だからさぁ……この件は絶対に秘密にしておかなきゃならないんだよ。マリーには王位継承権が無いから、誘拐とかされても国益に影響は出ない。でも犯罪者に狙われれば両親は心配する。だから重要機密事項として対応して欲しいんだ……まぁベラベラ喋んなって事」
「そ、それは心得ておりますけど……私に姫様のお相手なんて出来るとは思えません」
「あぁその点は心配無用。会ってみれば解るけど、とても姫君って存在じゃ無いから。1時間もすればブン殴りたくなってくるほど我が儘を言うだけの、平凡女だから。実際、殴って良いから。君よりも年下だし、我が儘が止まらなかったら殴っちゃってOKだから」
殴って良いと言われても殴れる訳無いし……
相手が王族じゃ無くたって暴力は苦手だし……
つーか、静かに話を聞いてる部下の女性も同調するように頷いてる。
って言うか本当に何なの?
私、とんでもないハズレくじを引いちゃったって事?
ピエッサSIDE END
後書き
一回目の手術前、最後の更新。
失敗の可能性は殆ど皆無だけど、万が一失敗したら今回の更新が最後になります。
でも大丈夫。本当に失敗の可能性は低いから。
医者は、Wi-Fiの設定より確実だから……って言ってた。
私の身体、Wi-Fi以下!
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