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真田十勇士

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巻ノ九十五 天下の傾きその三

「まさにな」
「左様ですか」
「もう教えることはない」
 慶次はこうも言った。
「では時が来ればな」
「その時はこの術で」
「思う存分戦われよ」
 こう伊佐に言った。
「是非な」
「はい、それでは」
「そしてこれからは」
「一旦九度山に戻ります」
 そうするとだ、幸村が答えた。
「そしてです」
「そちらでも修行じゃな」
「そしてまた山を出て」
「この様にか」
「天下の豪傑の方に教えを乞います」
 時に備えてというのだ。
「そう致します」
「やはりそうされるか」
「はい、今は」
「わかった、ではもうお会いすることもないと思うが」
「これで、でしな」
「別れようぞ」
 慶次は笑顔で言った。
「これでな」
「はい、それでは」
「餞別に酒にするか」
 今彼等は慶次の屋敷の道場にいる、そこで最後の修行を終えたのだ。
「飲むか」
「酒ですか」
「今はな」
「それでは」
「うむ、早速出す」
 その酒をというのだ。
「それではな」
「それがですな」
「別れの杯じゃ」
「そうなりますか」
「そうじゃ、では飲もうぞ」
 こう言って実際にだった、慶次は。
 最後に別れの酒を心ゆくまでだ、幸村そして伊佐と共に飲んだ。そのうえで。
 米沢を発つ慶次と笑顔で別れた、その後でだった。
 彼は自分の屋敷に来た兼続にだ、笑顔で聞かれた。
「楽しんでおったな」
「やはりわかっておったか」
 慶次も笑顔で応えた。
「そうであったか」
「うむ、殿もな」
 景勝もというのだ。
「そうだ」
「迷惑をかけたな」
「ははは、幕府には証拠を見せておらぬ」
 幸村達がいたというそれはというのだ。
「だからな」
「気にせずともよいか」
「そうじゃ」
「そう言ってくれるか」
「うむ、しかしな」
「しかし?」
「上杉家はもうあの御仁と轡を並べることはない」
 兼続は慶次にこのことも話した。 
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