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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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「みつるぎ」

「ここが『みつるぎ』の本社ですね」

「だな」

 IS学園から1時間と少し。東京の都心から少し離れたところにあるビルを見上げて私は隣にいるクロエに声をかける。私はオレンジ色のワンピースに青のスカート。対してクロエは水色のTシャツに黒いジーパンの格好のせいで電車の中では男に間違われた。クロエが怒りそうになるのを必死になだめるのは苦労したけど無事たどり着いて良かった………

「さーて、どうやって入るかねえ」

「そうですね……」

 クロエの言葉に私は言葉を濁す。二人共代表候補という立場上、公に日本の1企業にアポイントを取って見学、面談など申し込める立場にはない。申し込んだとしても国を通して、ということになってしまうのだろうが何も確証のないこの時点で本国に了承を得ようとしても了承が取られないのは分かりきっている。だからこそ、ぶっつけ本番できてみたわけなのだが…

「警備も厳しそうだしなあ」

 正面玄関にはガードマン。時々出入りする人は警備員に首から下げた社員証を見せてから、更に自動ドアについている指紋認証を行って中に入っている。当然私たちが行っても取り合ってもらえないだろう。
 そんなことを考えているとクロエが突然歩き出した。

「まあ行くだけ行ってみっかねえ」

「あ、ちょ、クロエ!?」

 私も慌ててクロエの後を追ってガードマンに近づく。無造作に近づいてくる私たちにガードマンが不思議そうな顔をするが、目の前までくれば流石に手を前に出して声をかけられた。

「何か用ですかお嬢さんたち。ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」

「あの、私たちISに興味があるんです。調べたら『みつるぎ』さんが装備の開発をやってるってネットで見て、それで見学させてもらえないかなって、ね?」

「え、ええ。そうなんです」

 即興で始まったクロエの芝居に慌てて私は言葉を合わせる。

「なるほど、確かにここでは装備開発などをやっていますが、流石にアポイント無しでいきなりは無理ですね。誰かに連絡は取っていないのですか?」

「いきなり来てしまったのは申し訳ありません。でも私たち今日しか空いてなくて……明日には国に戻らないといけないんです。だからなんとかなりませんか?」

「うーん、そう言われましても……」

 クロエが少し下からガードマンを上目遣いに見上げる。
 普段のクロエを知っている人なら笑いをこらえるので精一杯になるだろうと言える程の演技が私の目の前で展開されていた。

「「お願いします!」」

私もクロエも頭を下げるとガードマンは困ったように頬を掻いたあと腰の無線機を弄りはじめる。

「うーん……そう言われてもねえ、今からでも受付に電話をかけてみてください。私の立場では何とも言えないので……」

「そこをなんとか……」

「何を揉めているのですか?」

 クロエとガードマンの押し問答が始まろうとしていたのを後ろからの声が止めてくれた。その場の全員がその方向に顔を向ける。そこにいたのは長身で美しい金髪のスーツ姿の女性。スーツの上からでも分かる豊満な胸は、それでも窮屈そうではなくその姿があるべきものかのようにそこにある。その姿自体がまるで完成された一つの芸術であるかのような、そんな人だ。

「ああ、ミューゼル専務。お疲れ様です」

「ええ、お疲れ様。で? 何を揉めているの?」

「ええ、実は……」

 ガードマンがミューゼル専務と呼んだ女性にことの経緯を話し始める。私たちはその話の終わりを固唾を飲んで見守るしかなかった。専務クラスの人に断られれば大人しく帰らざるを得ない。クロエもそれが分かっているから黙って事の成り行きを見守っている。

「まあ……いいでしょう」

 女性は少しだけ考え込んでからそう言った。

「よ、よろしいのですか?」

「よろしくはないけど……今日しか日本にいられないのでしょう? ただし条件があるわ。中で見たことは口外しないこと、私が一緒に回ること、見せられるところには限りがあるから私の言いつけには必ず従うこと。これを破った場合法的措置に出る場合もあるけど、それでもいい?」

「「あ、ありがとうございます!」」

「そういうわけだから、この2人は私が責任を持って預かります」

「はあ、専務がそうおっしゃるなら私としては問題ありませんが……」

「さ、どうぞ」

 ガードマンは無線機を取り出して私たちが入ることを受付に伝えだした。その間にミューゼル専務が私たちについてこいと促してビルの中に入っていく。私とクロエはその後についてビルに入った。自動ドアを潜ると3階部分まで吹き抜けになっているエントランスホールがあり、正面には受付カウンターには3名の男の人が待っている。IS企業だから女性向けなのだろうか、世間一般で言うかっこいい人しかいない。
 受付で通行証を受け取りエレベーターの前で待ってる時にミューゼル専務が振り返って名刺を差し出してきた。

「ああ、そうそう。まだ名乗ってなかったわね。私は『みつるぎ』渉外担当取締役専務を務めさせてもらっているスコール・ミューゼルよ。よろしくね。カルラ・カスト候補生、クロエ・アシュクラフト候補生」

「あ、ありがとうござ……!」

「あんた、私たちのこと気づいてて通したのか」

 いきなり本名で呼ばれて私とクロエは一気に警戒態勢に入る。

「仮にも渉外担当ですから、国家代表と代表候補の顔はほとんど頭に入ってるわ。IS関連企業の営業で知らない人の方が珍しいと思うけど?」

「あ、それは……」

 言われてみれば確かにそうだ。一般の、興味のない人ならわからないかもしれないが・・・・・・IS関連の、特に営業の人にとって国家代表や代表候補生はお客様なのだ。顔も出身国も公開されている以上、調べればすぐにわかる。ガードマンと受付で騒がれなかったのが偶然だっただけなのかもしれない。
 緊張が緩和したところに丁度エレベーターが来て私たちはそれに乗り込む。

「それで? ジャクソン社所属の候補生二人が嘘までついて何の要件かしら? 場合によっては本国に確かめる必要も出てくるのだけど……」

「脅す気か?」

「脅し? いいえ、これは至極まっとうな私たち企業の権利よ。貴方たちを問答無用で企業スパイとして突き出すこともできるんですから、せめて用件くらいは教えてもらわないとね」

 ミューゼル専務は地下5階行きのボタンを押し、エレベーターが下へと動き始める。
 少しの沈黙の後、私は覚悟を決めて話を切り出した。

「あの、この会社に渉外担当の巻紙礼子さんという方はいらっしゃいますか?」

「巻紙? ええ、いるけど彼女が何か?」

「会わせて欲しいんです」

「なぜ?」

 私はIS学園で一夏さん宛てに受け取った名刺をミューゼル専務に差し出した。

「確かにウチの名刺で巻紙のものに間違いないわ。これをどこで?」

「先日IS学園の学園祭で、彼女にいただきました。その時にいつでも来ていい、と」

 まるっきりの嘘だが、ここではこれくらいしか言えない。もしあのアラクネの操縦者「巻紙礼子」がまだ『みつるぎ』に潜入しているとしたらミューゼル専務の身が危ない・・・以前にこの会社自体が亡国機業の隠れ蓑の可能性も捨てきれない。こんなはっきりしてない状態で全部正直に話すなんて自殺行為もいいところだ。
 ミューゼル専務はふむ、と口元に手を当てる。

「確かに彼女にIS学園に行くように指示を出したわね。でもいつでも来ていいなんて話は聞いてないけど……あとで聞いておかないとね」

「そ、それで今日は訪問させてもらったのと、あとはお礼を言えれば……と」

 正直本人に会うとかなりまずい状況・・・・・・だけどそれを確かめたくて今日はここまで来た。
 最悪こんなところで戦闘になる可能性も否定できないが、少しでも手がかりが掴めれば御の字だ。

「なるほど、でも残念ね。今彼女海外出張中なのよ。戻るのは一週間後の予定よ」

 どうやらここで戦闘が始まる、という最悪の状況は避けられたみたい。
 ほっと胸を撫で下ろしつつ、会話を続ける。

「どこにですか?」

「あなたたちの故郷、オーストラリアよ。今頃ジャクソン社の本部で会合してるんじゃないかしら?」

「「え?」」

 何気なく聞いた問いに予想外の言葉が返ってきたせいで私とクロエは同時に声を上げてしまう。
 ちょうど目的の階についたのか、エレベーターが止まり扉が開いた。

「さ、どうぞ。ここが『みつるぎ』の装備開発エリアよ。案内できるのはここのワンフロアのみになりますけどね」

「す、すいませんミューゼル専務! お手洗いはどちらでしょうか!?」

「わ、私も行きたいかな!」

「? この通路をまっすぐ行って右手よ。先は行き止まりだし直ぐわかるわ」

「ありがとうございます!」

「直ぐ戻るんで!」

 私とクロエはなるべく走らないように落ち着いてお手洗いにたどり着くと死角に入り込む。私はすぐさま通信端末を取り出し秘匿通信を起動させた。クロエは入り口の直ぐ横に立って誰か来ないか見張りについてくれる。
 数度のコールが異様に長く感じる・・・・・・1回・・・5回・・・10回・・・出た!

「スミスさん!」

『やあ、カスト候補生。どうしたんだい? そんなに慌てて』

 相手が返事をする前に私は声をあげてしまう。通話の相手、スミスさんが少し可笑しそうに笑いながらいつもの優しい声で返事をしてくれた。
 不安に脈打つ胸を落ち着けつつ言葉を紡ぎだす。

「あの、そっちに『みつるぎ』の渉外担当の巻紙って人が来てませんか!?」

『ああ、よく知ってるね。今ちょうど新しい装備の提案で会合をしてたところだよ』

 一緒に・・・いる!?
 予想外すぎる答えに私の視界がグラつく。国の・・・・・・しかも候補生管理官レベルと会話ができる程の立場に亡国機業の人間が入り込めているとしたら・・・・・・
 そんな最悪の状況に二の句が告げなかった私に変わって横からクロエが割って入ってきた。

「ほんとか!?」

『ア、アシュクロフト候補生!? 何してるんだいそんなところで! 君は今日帰ってくるよt……』

「んなことは後でいい! スミスさん、そいつの顔リアルタイムで送れるか!?」

『な、なんでそんなこと……』

「いいから!」

 スミスさんの反論を遮りクロエが捲くし立てる。

『あ、ああ……ちょっと待っててくれ』

 その迫力に気圧されたのかスミスさんからの音声が一瞬切れて映像が送られてくる。映ったのは見え覚えのあるジャクソン社の廊下、会議室のある階だ。私たちからの連絡でスミスさんは外に出たのだろう。
 少し廊下を戻って会議室の扉の前で動きが止まる。スミスさんも何かを感じているのか少しだけ扉を開けて中の様子を映してくれた。
 手前には以前挨拶されたことのあるジャクソン社の装備開発の人が座っている。対面の人と楽しげに談笑しているのが見て取れた。映像が少しずつその対面の方へと移動していき・・・・・・その人物を捉えた。

「どうだ!?」

 クロエが焦ったように尋ねてくる。
 その人物は・・・

「・・・・・・・・・・・・違う人、ですね」

 全く知らない日本女性の方でした。

「なんだよー! ここまで来て無駄足かよー!」

 私がホッと胸を撫で下ろすと同時にクロエはやってられないとばかりに体を大きくそらした。
 まあ、何もないほうがよかったと思うんですが・・・・・・

『一体どういうことなんだい? そろそろ説明してほしんだけど……』

「えっと実は……」

 さすがにスミスさんにこれ以上何も説明しないわけにはいかない。
 簡潔に、結論だけを掻い摘んで私はスミスさんに事の事情を説明する。

『なるほど、亡国機業が使っていた名刺の名前が『巻紙礼子』だったわけだね』

「ええ、すいませんご迷惑をおかけして」

『いや、いいんだよ。何も言わなかったのは僕が知って、本物の亡国機業だったらまずいと思ったからなんだろう?』

「ええ、その通りです」

『まあ先に一報欲しかったのは事実だけど、あまり危険なことはしないでね。君は一人で無茶するところがあるから』

「大丈夫だよ。今日は私が付いてるんだから」

 スミスさんの声に答えたのはクロエだった。もう用は済んだとばかりに両腕を上に伸ばして伸びをしているところを見るとクロエも相当気を張っていたらしい。

『アシュクラフト候補生、君のは独断専行って言うんだよ。この間の世界演習の時だって何も言わずにカスト候補生の見送りに行ってしまうし、フォローするこっちの身にもなって……』

「わー! わかったわかった! そのことはまた帰ったら謝るから! じゃね!」

『あ! ちょっとま!・・・・・・』

 説教が始まると見るやクロエは私の通信端末の電源をオフにしてしまった。
 私は呆れた顔をしてクロエに向き直る。

「クロエ、あれ黙ってきてたの?」

「カルラまで細かいこと言わないでよ。そのお陰で助かったんだからさ」

 まあそれは確かにそうなんですがね・・・
 私とクロエが戻るとミューゼル専務が笑顔で待っていてくれた。

「話は終わったかしら?」

「は、話・・・ですか?」

「エレベーターの中での話を聞いて直ぐに二人ともお手洗いに行くんだから本国に確認をとっていたのでしょう? それで、巻紙は確かにオーストラリアにいたかしら?」

 まあ、それはそうだ。せめてどっちかは残っておくべきだったのかもしれない。クロエもそう思ったのか肩を竦めつつ軽い調子でミューゼル専務に返す。

「ああ、どうやら私たちは完全に空振りだったみたいだね」

「戻ったらお二人が来ていたのは伝えておくわ。じゃあ施設の見学に行きましょうか。見せられるのはさっきも言ったようにこのフロアの一部だけだけど」

「ええ、構いません」

 折角ここまで来たのだし、ここで帰るのも失礼と思った私は素直にミューゼル専務の後に続く。
 何度かのセキュリティチェックの後、本格的に装備開発のエリアに入った。
 楯無会長が『みつるぎ』の装備はいい、と言っていたとおり施設はかなりのものが揃っている。国営企業のジャクソン社には流石に劣るが、一企業の設備としてはかなりの規模だ。
 射撃装備、近接装備、増設ブースター、各部スラスター等々・・・・・これで一部なのだから全貌は国営企業に迫るほどの設備があるのかもしれない。

「すごい・・・・・・」

「代表候補生からお褒めに預かり光栄の至りね」

 私のつぶやきにミューゼル専務が答えてくれる。日本の一企業って言うことであまり詳細は知らなかったけど、他の国の企業も今後しっかり見ておこうと再認識させられてしまう。
 ふと、一つの部屋の前でクロエの足が止まった。
 4方をガラスの壁で囲まれた部屋の中には一つのベッド。その上には一人の女性が横たわっていて腕には点滴がされている。
 何の部屋か気になり部屋の名前を確認する。

「『強化薬実験室』? 薬品の開発もしてるんですか?」

「ドーピングでもしてるのか?」

 なんともそのまんまの名前の部屋に私とクロエがミューゼル専務に尋ねる。

「まあそう取ってもらっても構わないわ」

「え?」

 まさかの返答に私は間抜けな声を上げてしまった。ここまで包み隠さずにドーピングと言われてしまうと逆に冗談に聞こえてしまうから不思議だ。

「ふふ、冗談よ。でも薬を作ってるのは本当。視覚を一時的に広くしたり、思考処理を早くするようなものを開発中といったところね。あまり詳しくは話せないけど人体に後遺症が残るようなものは作ってないわ。そもそもまだ実験段階だからIS操縦者に試したことはないのだけれど・・・ああ、よければ実験台になってみてくれないかしら? 報酬はしっかり出させて貰うわよ」

「え、遠慮しておきます」

 笑顔を崩さないでミューゼル専務が言って来る。何でだろう。この人の言葉は一つ一つが冗談に聞こえるのに冗談に聞こえない。何を思っているのか自分でも分かりづらいけど、言葉では言い表せない雰囲気を持っているのは確かだ。
 だからこそこの若さで専務取締役なんて重要な役職に就けているのかもしれない。
 そこから先は立ち入り禁止ということで、ミューゼル専務に促されて外へ戻ることになった。
 外に出ると思ったより時間が経っていたのか、既に日が傾きかけている。

「さて、こんなところかしらね。どう? 参考になった?」

「ええ、とても参考になりました。ありがとうございました」

「国営企業じゃなくても馬鹿にできないってことは十分理解できたよ。」

「ふふ、それは良かった。本国に帰ったら是非『みつるぎ』の宣伝をよろしくね」

 ミューゼル専務はそう言うと頭を下げ、私たちは駅へと足を向けた。
 これで喉の奥に引っかかっていたものが取れたような気がする。とりあえず亡国機業が公の会社一つを隠れ蓑にしているっていう可能性が一つ消せた。まあ他の会社はどうかは分からないけど・・・・・・
 とりあえずは・・・・・・
 
「おーいカルラ! この人形焼って美味そうだな! 親父さんとかにお土産で買って行きたいんだが! お、あっちにも珍しいものが・・・・・・」

 クロエのいつもの癖を止めなくては!


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 『みつるぎ』本社、午後10時・・・・・・
 既に一般社員は帰宅し、すっかり静まったビルの一角。
 幹部職員に用意された部屋で一人の女性が残った仕事を片付けていたのか、端末を叩く音のみが響く。その静寂を破るように女性の胸ポケットから着信を知らせる音が部屋に鳴り響いた。
 女性は胸ポケットから通信端末を取り出し着信先を確認してからクスリ、と一つ笑うと通話を開始する。

「はい、こちら『みつるぎ』のスコール・ミューゼルです」

『似合いませんね、その名乗り』

「あなたほどではないのではなくて?S(エス)」

 端末を叩いていた手を休ませ、女性・・・スコール・ミューゼルが背もたれに体を預ける。

『あまり無茶させないでくださいよ。連絡くれるならともかく、いきなりあんなことされたら対応に困るじゃないですか』

「あら? あなたはあの程度でボロを出すような人だったかしら?Sともあろう方がこの10年で随分不抜けたのね」

『ご冗談を……こっちの身としてはあなたの正体がバレるんではないかとヒヤヒヤしてましたよ。なにせスコール・ミューゼルは本名ですからね。調べれば一発でわかる』

「アメリカの国防総省で極秘情報を調べれば、ね。そんなのアメリカの国家代表でも難しいことよ。私の心配より自分の心配をしたほうがいいのではなくて?」

『まあ確かにそうですが……』

 相手の無粋な心配にスコールはくすくすと可笑しそうに笑う。電話している相手のほうが遥かに危険度は高いのだ。10年に渡る潜入、なんていうのは伊達ではない。

「それで? そんなことのために連絡してきたわけではないでしょう?」

『おっと、そうでした。実は先日IS学園から要請がありまして。日本、オーストラリアで共同開発中の『ワタツミ』を使用したいとね』

「へえ、何に使うのかは?」

『そこは極秘情報だって隠されたので何に使うかは分かりませんが、まあ近々IS学園であるイベントで使うんじゃないですか? 一応これが最新の状況報告ってことで』

 近々あるイベント・・・・・・ああ、『キャノンボール・ファスト』のことだ、とスコールが思い至る。IS学園で行われる妨害ありのIS競争。それに『ワタツミ』を使う?
 使用目的は予想がつくが、わざわざそんなことをする意味が分からない。これもあの『ブリュンヒルデ』の策略なのだろうか?
 スコールは少し首を捻りつつも会話を続ける。

「そう、報告ご苦労様」

『そろそろ決めてくださいよー。こっちも色々手は回しますが限度がある。あまり大きなものは拾いきれませんからね』

「分かってるわS。そろそろ貴方も準備しておいたほうがいいわよ」

『了解です、ではこれで』

「ふふ、さて、次はどういう手で私たちを楽しませてくれるのかしらね。ブリュンヒルデ・・・・・・織斑千冬さん?」

 おそらく自分たち(ファントム・タスク)に対応できる唯一・・・・・・いや、唯二の片割れの策略をどう潰すか、それを考えるのは今までの困難の中でも最上級のものに他ならない。それが堪らなく楽しい。スコールは心底楽しそうに笑うと作業を進めるために再び端末へと向かった。
 
 

 
後書き
どうも皆様お久しぶりです。

グニルです。

まさかの2年半更新なしっていう意味不明なことやらかしつつやっと復帰できました。

もう読んでくれてる人もいないのではないかと半ば諦めつつここまでやっているのだから少しずつでも完結へ、という想いでまた再開させていただきます。

拙い文章ですが今後とも宜しくお願い致します。

誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます 。  
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