真田十勇士
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巻ノ九十一 消える風その十
「あの山から出ずにはいられまい」
「あまりにも静かなので」
「そのせいで」
「そうだ、静か過ぎる」
だからこそというのだ。
「絶対に出よう」
「ではその時は」
「出られればですか」
「半蔵様は」
「動かれますか」
「左衛門佐殿には止めてもらう」
絶対にというのだ。
「山にいてもらう」
「そしてそうあれば」
「幕府にとってもよいことですな」
「あの御仁が敵にならないので」
「それだけで違いますな」
「その通りじゃ、あと後藤殿や長宗我部殿、明石殿もな」
その彼等もというのだ。
「出来ればな」
「幕府にですな」
「幕府に入ってもらいたい」
「そう言われますか」
「そう考えておる、どの御仁も見事な武士じゃ」
服部は忍であるが彼等をあえてこう呼んだ。
「それならばな」
「幕府に入って頂き」
「若し時が来ても」
「幕府の敵になって欲しくはありませんか」
「心から思う、強い者同士の戦は流れる血が多い」
激しい戦になるからだ、このことは戦国の世で多くあったことだ。
「だから獅子は獅子同士では闘わぬのじゃ」
「互が強いと知っている」
「だからですな」
「獅子はお互いとは闘わぬ」
「そうなのですな」
「強い者同士は戦うものではない」
流れる血が多いからだとだ、服部はまた話した。
「こちらは出来るだけ強くなるのじゃ」
「まさにですな」
「そうした方々に幕府に来て頂くかその場に留まってもらう」
「そうしてですな」
「そのうえで」
「若し戦になっても楽に勝てる様にしたい」
是非にというのだ。
「そうしていこう、ではな」
「はい、それでは」
「これよりですな」
「江戸に戻られますか」
「間もなくそこが駿府になる」
服部はこうも言った。
「御主達も同じじゃ」
「あの地ですか」
「我等が戻る場所は」
「そこになりますか」
「これからは」
「中納言様お付きなら別じゃが」
秀忠の傍にいるならというのだ。
「御主達、そして十二神将もな」
「はい、半蔵様お付きです」
「そうなっています」
「だからじゃ、御主達もじゃ」
これからはというのだ。
「駿府にとなるぞ」
「わかりました、駿府ですか」
「馴染みの場所ですな」
「我等にとっても」
「御主達も長いからのう」
徳川家に仕えてというのだ。
「あの地のことは覚えておるな」
「はい、よく」
「よい地です」
「気候はよく景色もよく」
「何かとよい場所です」
「上様も愛されておらえる場所じゃ」
その駿府はというのだ。
「そしてそこにじゃ」
「戻りそのうえで」
「これからもですな」
「駿府で過ごされる、そして我等もそこに行くことになる」
駿府、そこにというのだ。こう話してだった。
服部は伊賀者達を残し自身は霧の様に消えた、そして彼が次に行くべき場所に向かったのだった。
巻ノ九十一 完
2017・1・17
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