| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第86話:知識があるのなら、それを生かす努力をするべきである……と思う時もある

(グランバニア城・2階会議室)
ティミーSIDE

父さんの考え方をウルフ君が否定し、ただ黙って怖い笑みを浮かべる彼に、室内の視線が集中する……
「先程の殿下の『武器の知識を持ってる者の脱獄は拙い』と言う発言ですが、これは更なる兵器の情報を引き出す呼び水なのです」

僕の疑問に答え、新たなる疑問を発生させる彼は、もう僕では対応できそうに無い。
助けて貰いたくて父さんに視線を向けると、悔しそうに歯を食い縛りウルフ君を見詰めてる国王陛下が居るだけ。

「話が飛んだので、正確に経緯を言います。ウィンチェストが投獄された理由は……陛下が火縄銃を見て、開発中止(ア~ンド)発明品封印を指示したからです。ウィンチェストと関わった事のある方はお解りと思いますが、あの男は自身が脚光を浴びる事しか頭にありません。ザイルさんに命じて作らせたボウガンが、余りにも大きすぎて一般兵では扱えない不良品だと気付くと、全責任をザイルさんに押し付けそのザイルさんを紹介した俺にまでクレームを吐いてきたのです。そんな男がこの火縄銃を見て封印できると思いますか? 勿論答えはノーです。その場で陛下に向かって暴言を吐き、武器を全世界へ公表すう事を宣言しました。 ……殿下、如何思います、公表されたくない情報を公表すると言われたら?」

「そ、そりゃぁ……黙らせる為に捕らえるしかないですね」
そうか……それで彼は牢屋に居たんだ!
そこへホザックの大使連中と引き合わせたんだな。

「その通り! 陛下は即座に逮捕を命じました。俺はそれに喜んで従い、自らアイツを地下牢へと連れて行きました……そして(ニヤリ)」
あぁ……怖いぃ!
ウルフ君が怖すぎるぅ。

「そう、そして近日訪れるホザックの連中に見せる為、彼の国出身の奴隷商人の房が目の前な房にアイツを収監し、時が来るのを待ち続けました」
「だ、だからウルフ君はギルバート殿下が交渉不発で落ち込んだ時に、味方のフリして囚人との面会を勧めたんだな!?」

「はっはっはっ……あのボンボンが俺の勧めに従って本当は地下牢なんて嫌なのに、行くと言った時は喜びを隠すのが大変だったよ。リュカさんに『先方の緊張をほぐす為、城下で買い物してる姿を見せましょう。そして馬鹿みたいな失敗して見せましょう』と提案して良かったですよ。あの馬鹿(ウィンチェスト)も狙い通りティミー殿下を見て、自らの無実と凄い発明自慢をしてくれたから、大助かりでした。本当、皆様のご協力で俺の計画は成功へと近付いております」

「しかし解せない事が……偶然リュリュとギルバート殿下が知り合いだったから、彼等を国に招く事が出来たけど、違ったら如何してたんだい? 彼等を招かないと、この計画は台無しになると思うのだが……?」

「あれはラッキーでした。リュリュさんを出汁にボンボン殿下を誘き寄せる事が出来たのですからね。でも当初から連中を来させる事は想定の内にありましたから、苦労しても来るように仕向ける計画ではありましたよ」
そこまで言い切るって事は、それなりの考えが有ったんだろうな。

「あのぉ~……結局、何が如何してウィンチェスト部長を亡命させる事が、未来のグランバニアにプラス作用を設けるんですか?」
あ、そっか! そう言うスタンスでウルフ君は、この悪辣な計画を進めてたんだったね。リブちゃんが言ってくれなかったら、話の重さに忘れるところだったよ。

「さてさて……そこだよね。それこそが俺が計画した悪事の終着点なんだよね。でもね、ここから先は俺の力じゃ如何にも出来ない。そうリュカさんの協力が無いと、俺の計画が失敗するんだよ! 如何致しますリュケイロム陛下?」
「さて如何するものかね。僕にはお前の描いてる未来が見えてこないよ……」

「そうですか……では宰相である私が、陛下の取るべき選択肢をご説明致します。どれを選ぶかは陛下の自由。私の計画を失敗させたいとお思いでしたら、どうぞその道を選択して下さい。その先の未来が如何なる物であっても……」
な、何か怖い。一体どんな未来の選択肢があるんだ?

「先ず一つ目の選択肢は……『逃亡者を引き渡すように圧力をかける』です。これに応じて貰えれば無益な戦争も回避できますし、戦争での被害も発生しなくてお得です。ですが……火縄銃を手に入れたいホザックは応じないでしょう。むしろ圧力をかけた事を切っ掛けに、戦争を開始する恐れがあります。何故なら逃亡者隠匿はグランバニアの言い掛かりと連中は言い切れ、自国の利益を守る為の大義名分を手に入れるからです。これはリュカさんがリュリュさんのルーラを使って、ホザックの城へ直接の乗り込んでも戦争勃発の可能性が大きいので、お勧めする事が出来ません。何故ならば、直接乗り込まれて王と王の一騎打ち……もしくはリュカさんとホザックの兵の戦いで我が方が勝利しても、火縄銃を手に入れた後の軍隊同士の戦争であれば、ホザックは負けないと思ってるからです。むしろ先に手を出した我が国が悪とされ、ラインハット等友好国の援助も期待できなくなります」

そ、そうか……
グランバニアが強いのは、現状で父さんが強いからでしかない。
ルーラで突如現れて攻撃してくるって怖さだけじゃ、ルーラで行く事の出来ない秘密の場所から指示を出して戦争をするという作戦を採られるだけなんだ。

「では第二の選択肢……それは『このまま何もしない』です。自ら悪者になりたくないから、何もせずに傍観する。ですがこの選択肢は、100%ホザックから攻撃を仕掛けられる未来です。何故ならホザックが火縄銃という現段階で最強の兵器を手に入れるからです。我が国の技術力や豊かさ……剰え美しい王妃を目の当たりにして、それらを欲しがらないとは言えません。むしろ欲しくて仕方ない状態になってるはずです! 最強の兵器たる火縄銃を手に入れた今、力押しでグランバニアを奪いに来る事は明白! 奴隷制度を続けてる国ですからね……末端の兵士が犠牲になる戦争なんて何とも思ってないでしょう」

何だそれは!?
火縄銃開発を防ぐ為、逃亡者引き渡しを要求しても戦争に発展する可能性が大きく、諦めて防衛に勤しんでも先方が戦争を止める気が無い限り、被害が発生する。八方塞がりじゃないか!?

「リュカさん……もう一つ選択肢がありますよね? 私の口から言いましょうか? それとも陛下御自らの口で提示なさいますか?」
あだ選択肢があるの? それは戦争を引き起こさない選択肢なのか?

「……………はぁ~。要するに僕が火縄銃を超える武器の情報を提示しろって事だろ!?」
「流石陛下……ご明察でございます」
幾何かの沈黙を踏まえ、大きな溜息の後から発せられた父さんの声は、酷く疲れた様子を感じ取れる。

「陛下……いや、リュカさん。リュカさんが恐れてるのは、この兵器が発展していき未来で人々を苦しめるかもしれないから嫌なんですよね? そんな未来を見た事があるから、だから危険な兵器の開発を恐れていたんですよね?」
「そうだよ……それらの兵器は発展すると、途轍もなく恐ろしい化け物に変化する。だから存在自体が怖いんだよ」

「ですがリュカさん。俺はこう考えるんです……武器は何処まで行っても道具でしかない。本当に恐ろしいのは、それを扱う人間なんだと。恐ろしい未来を知ってるリュカさんが居るからこそ、その未来が訪れないように武器の扱い方を確定させれば良いのだと!」
「扱い方を確定……?」

「そうです。現在リュカさんが持ってる権力(ちから)は絶大なモノです。その絶大な権力を背景に、今の内から危険兵器の暴走を止める手立てを打つのです! そうする事で武器を扱う人間の成長を促し、長きに渡ってグランバニアが正しく繁栄していくように道筋を作る事が出来るはずです。ですが、それを行う事が出来るのは危険兵器の情報を持っており、尚且つその兵器の行く末の一つを見た事があるリュカさんだけなのです! サボらないで下さい……手を抜かないで下さい……リュカさんの持つ膨大な知識を、未来の人々の為に良い方向で活用して下さい。弱き者の気持ちが解る強き者……リュカさんにしか出来ない事なんです!」

「くっそ~……嫌な言い方をする」
僕もそう思うが、先程まであった恐ろしい雰囲気がなくなり、真摯に父さんを説得してるウルフ君の姿は胸に響く。
あれ……? でもさぁ……

「ウルフ君……名演説の後に悪いんだけど、火縄銃より強力な兵器を作り出したら、もっと問題がややこしくならない?」
「なるでしょうね……作り出しただけでは」
はぁ? それじゃぁ意味ないじゃん!

「要は武器を如何使うかです。ホザックは何故にグランバニアへ攻め込もうと考えてるんですか?」
「な、何故!? な、何故なんだろう?」
あぁどうしよう。何だか僕ってば馬鹿みたいだぞ。

「火縄銃ですよ。現段階で強力な兵器を所持する事になるホザックは、その兵器を使った物量戦術であればグランバニアに勝つ事が出来ると、思ってるからです。ですがリュカさんが頭の中に保存してある、更に強力な兵器を作り出せれば、戦争をしても勝つ事が出来ないと考えさせ、無益な行いを踏み止まらせてくれるのです」

「そう上手くいく? 火縄銃だって凄い武器だよ! 簡単に負けるとはホザックも思わないんじゃないかなぁ?」
「生半可な武器だったら誰も思わないでしょう。ですが想像を絶する兵器だったら如何でしょう? 火縄銃が役立たずに思えるくらいの超絶兵器であれば……」

「そんな武器があるの!?」
「さぁ……俺の頭の中じゃないから」
「何か曖昧だな」
「だから先刻(さっき)も言ったでしょ。リュカさんの協力に掛かってるって」

「有るんですか父さん、そんな危険な兵器が?」
「……………無くは……無い」
有るんだぁ……凄いなぁ……

「やはり危険兵器の知識は持ってましたね」
「知識はね……実物を見た訳じゃないけど、書物やTVなどで見た事を憶えてる。ただ結構曖昧な記憶だから、100%同じ物は再現できないだろう」
TVって何?

「俺の期待してるのは、この火縄銃を凌駕する事の出来る武器です。結果的にリュカさんの記憶とは違う物が出来ても、全く気にしません」
「そうだろうね……お前の計画は、僕に武器のアイデアを出さざるを得ない状況にする事だろ。大成功じゃねーか!」

「そうでも有りません。リュカさんが意固地になって、戦争する事を選択されたら最悪の結果ですから……」
「そ、そんな選択はしないですよね!?」
いくら何でも戦争しようとは考えないよ……ね?

「考えない。考えないけど、ウルフの思い描いた通りに進むこの状況がムカつくぅ!」
戦争を選択しないと聞いて安心できた。
何より子供みたいに口を尖らせ悔しがる父さんに心が軽くなる。

「陛下……ムカつき序手でにもう一つ決めて戴きたい事柄がございます」
「何……まだ僕をムカつかせたいの?」
折角空気が軽くなったのだから、また重くするのはやめようよぉ!

「しかし決めて貰わねばばりません。私……宰相ウルフの進退問題です」
「はぁ!?」
「ど、如何したのウルフ君!?」
突如自身の進退問題を提示してきたウルフ君に、僕も父さんも驚きを隠せない。

「当然でしょう……私は陛下のご意向を無視して、国家に危険が及ぶかもしれない状況を作り出したのです。何らかの罰を受けなければ、今後の政に影響を及ぼします。まだ宰相に就任してからの期間が短いですがクビになる事も覚悟しておりますし、国家の敵として処刑される事も覚悟しております。あとは陛下のご決断次第です」

「な、な、な、何を言ってるんだウルフ君!! 君は僕の妹と付き合ってて将来は結婚もする予定なんだろ!? クビは兎も角、処刑なんてする訳……な、無いですよね父さん?」
余りの発言に吃驚して彼を責めてると、難しい顔でウルフ君を睨む父さんが見えて、語尾が弱くなってしまった。

「リュカさん安心して下さい。どの様な決定をされても恨む事はありません。むしろ俺は感謝しております……以前『娘と結婚しなくても義息だ』と俺に言ってくれましたね。実の両親の顔すら知らない俺には、涙が溢れるほど嬉しい言葉でした。なのに、こんな親不孝を働いた俺です。親子の縁を切られようが、死を賜ろうが……全て受け入れる覚悟で決行した計画です! 悩まないで大丈夫です……リュカさんの産まれたグランバニアが末永く平和に繁栄してくれれば、俺はそれが最大の願いなのです」

気負ってる様子も無く、淡々と自らの死刑を醸し出すウルフ君。
何かを言ってフォローしたいけど、何を言えば良いのかも解らない。
下手な事を言って逆効果になるのが凄く怖い……

「舐めてんじゃねーぞクソガキ! 俺は国王になって直ぐ……妻が魔族に攫われたから単身で助けに行ったんだぞ! 今でも当時の気持ちは揺らいでない。国家より家族を最優先にする……誰に何と言われようが、利己的な感情で行動する王様だ! エゴイスト? 上等だ! お前は俺の義息……誰が殺すか!」

良かった……まぁ当たり前なんだろうけど、本当に安心したよ。
でもやっぱり怒っちゃてる父さんは、ウルフ君を処断しないと宣言して立ち上がり出口へ大股で歩き始める。
そして……

「ザイル! 午後で良いから俺の執務室へ来い。新たなる兵器の打合せをするぞ! それと今晩は重要な家族会議を行う。ティミーもウルフも絶対参加! 今日に限り残業は許さない」
と、大声で言って出て行ってしまった。

怒ってたけど、家族を大切に思ってくれてる父さんに愛を感じる。

ティミーSIDE END



 
 

 
後書き
リュカさんは良くも悪くもエゴイスト 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧