IS《インフィニット・ストラトス》~鉄と血と華と~
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第九話 来訪者
「ねえ、まだ?」
「あとちょっと待っててね~」
休日、三日月は束のラボにて阿頼耶織システムとバルバトスのメンテナンスに来ていた。上半身裸の彼の背中にある端子には物々しい器具が取り付けられており、束はコンソールを打ちふむふむと時おり呟く。
「ナノマシンの状態良好、うん!システムは正常だよ!」
器具が取り外された三日月は肩を擦る。
「毎回このメンテナンス苦手なんだよな」
「そんなこと言わないの、何かあったら大変だよ?」
「んー……」
「あとはバルバトスの調製してくるから待っててね~」
そう言い残し束は別の場所へと移動した。
「……むぐっ」
ラボに残った三日月はポケットからチョコを取りだし口に放り込む。
「阿頼耶織のメンテナンスは終わりましたか?」
不意に声を掛けられると、両目を閉じた銀髪の少女が入り口に居た。少女は三日月のそばに近寄り、手にしていた上着を彼へと手渡す。
「ん、終わった。良好だってさ」
「それはなによりです」
少女、『クロエ・クロニクル』は優しく笑みを浮かべる。
「……何?」
チョコを頬張る三日月をじっと見つめていたクロエに首を傾げて問う。
「いえ、ただこうして見ていたいだけです」
「相変わらず変わってるね、クロは」
クロと愛称で呼ばれている彼女はうっすらと瞼を上げると、僅かに金色の瞳が覗く。
「ええ、変わっています……そして三日月様も」
「かもね」
「だからこそ、“惹かれ”合うのかもしれません」
一部を強調するクロエだが、三日月は聞いておらず
「あー今日夜帰らないとな。セシリアにまた勉強教えてもら――なんか言った?」
「……何でもありません」
何故クロエが不機嫌になったのかわからないままの三日月であった。
※
「二組のクラス代表が変更になったって知ってる?」
「知らない」
朝、教室で唐突に言われた事に三日月は机に頭を乗せながら答える。彼は昨晩、脳をフル回転させながらセシリアとの勉強に挑んだ。その結果、想像してたよりも疲れたため、翌日にも響きこうして机に突っ伏しながら話を聞いている。
「そっか、知らないかー何でも中国からの転校生らしいよ」
「へぇ」
「あ、これはオーガス君は興味ない感じかな?」
「誰がなろうと関係ないし、興味な――」
「ちょっとは興味持ちなさいよ!」
大きな声にクラスが静まり返る。それと同時に皆の視線が扉元に集まり
「よくも昨日は出鼻挫いてくれたわね、三夏!」
「???」
「オーガス君知り合い?」
「……誰だっけ?」
思わずずっこけるツインテールの少女
「あ・ん・たねぇ~!昨日名前いったでしょ!」
「……ああ、ファーファーリンリンだっけ」
「『凰鈴音』よ!そんな楽しそうな名前じゃ――」
スパンッ!!とそんな彼女の頭に炸裂する打撃音。
「いっつ~何すんのよ!?」
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「げっ!ち、千冬さん……!?」
げっ、と言われたからか明らか不機嫌そうな目で千冬は鈴音に睨みを利かせ
「ほう、まるで怪物をみたかのような反応だな」
「す、すみません、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、邪魔だ」
「すみません……」
二度謝った鈴音は三日月を指さし
「またあとで来るからね! 逃げないでよ!」
脱兎の如く去っていく鈴音。
「……何だったのですか、彼女は」
「さあ」
「……」
黙って三日月を見る箒は大体察しがついた。凰鈴音、彼女もまた自分と同じく三日月……いや、織斑三夏を知る者だと。だが今の三日月は彼女を“覚えていない”、また二人が顔を合わせればトラブルは避けられないだろう。三日月の事を説明せねば、そう箒は決めた。
※
同時刻、屋上にてこの時間帯にいるはずの無い人影がいた。
「とりあえず潜り込むことは出来たよ」
どうやら生徒が一人、端末で誰かと話しているようだ。
「こうも容易いとはね、IS学園も“存外”間抜けなのかな?……ああ、後は時を待つよ。それじゃあ、宜しく」
通話を切り端末を仕舞うと、左胸付近につけられた8本脚の軍馬が描かれたエンブレムに触れ
「上手くやるさ、なあ――――」
※
休み時間、箒は二組の教室へ赴いていた。
「すまない、凰鈴音はいるか?」
「何?」
偶々近くにいた為、箒の言葉に直ぐに反応してもらえた。
「あんた誰?」
「一組の篠ノ之 箒だ。少し話があるのだが」
「話?」
腕を組み少しの間悩み始めたが
「早めに終わらせてよね」
「ああ」
「んで?話ってなによ」
屋上に着き早々に鈴音がそう問いかける。
「ミカの事についてだ」
「!?」
表情を変える鈴音。
「SHR前の言葉を聞くかぎり、お前とミカは知り合いだと思うのだが」
「……そうよ、あいつとあたしは……幼馴染みよ」
箒の想像していた通りだ。鈴音はムスっとし
「久しぶりに再会出来たってのに、あいつの第一声何だと思う?“あんた誰”よ……会えるの楽しみにしてたあたしがバカみたいじゃない……それに、一夏だって……もう……」
不機嫌な顔から暗い表情へ変わり俯いてしまう。今の彼女には酷かもしれないが、事実を伝えればならない、箒は意を決し
「実はだな、凰……ミカは―――」
「あ、此処に居た」
箒と鈴音は扉の方を向くと三日月が。
「そろそろ次の授業始まるよ」
「三夏!」
「ん、リンリンもいたんだ」
「鈴音よ!!」
箒の想像通り、食って掛かる鈴音。
「あんた本当に思い出せないの、あたしのこと……」
「うん、覚えて――」
「思い出してよ、一夏とあたし、三人で遊んだこと!」
その言葉に三日月はピタリと固まる。
「一……夏?イ……チ……カ…?」
「っ!!ミカ!」
三日月は頭を抑える右目をぎゅっと瞑ると、血が眼から流れ頬を伝う。
「誰だっけ……そいつ……わかん……ない……や……けど、なん……で、わからな……い……だっけ……ぐっ……」
彼は力なくその場に倒れ
「ミカ!!」
「三日月ぃ!!」
少女達の悲鳴がその場に響いた。
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