怪物不在
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第五章
「他はな」
「というか阪神のそれは願望でしょ」
「予言だよ」
「願望でしょ」
「相変わらず言うな、しかしさっきの高校生みたいな人達と知り合いか?」
すれ違った時の千佳の反応には寿も気付いていた、それでこのことをここで聞いたのだ。
「そうなのか?」
「いや、全然」
「それで何で反応したんだよ」
「何となくね」
「何となくか?」
「そうなの」
「訳がわからないな」
寿は千佳のその返事に首を傾げさせた。
「変なことだな」
「まあね」
「そんなこともあるか、まあ家に帰ってな」
「お母さんにお買いものとおつり渡して」
「それで後は勉強するか」
「お兄ちゃん最近成績落ちてるって?」
「ちょっとな、今学年で十番なんだよ」
前は七番だったのだ。
「やっぱり一番取りたいな」
「トップね」
「鳥谷さんの背番号な」
「今年チャンスで打てばいいのね」
「五月蝿いよ、そういう御前はどうなんだよ」
「クラスで三番だったわよ」
ここで千佳は笑ってこうも言った。
「衣笠祥雄様の背番号よ、永久欠番ね」
「何でそこで様付けなんだよ」
「とても素敵な方だからよ」
他には山本浩二にもこう言う、何はともあれ兄妹は家に帰った。
そして咲もだ、すれ違った千佳の方を見て言った。前に向かって歩きながら。
「はじめて見るのに」
「どうしたの?」
「いや、何か縁がありそうな」
未晴に答えた。
「そんな気がするの」
「すれ違っただけの娘なのに?」
「何かね、一脈通じるかシリーズで会う」
「日本シリーズ?」
「何時かそんな気がするの」
「あの娘服もリュックも真っ赤だし」
未晴も千佳とは面識がない、しかし彼女のファッションを思い出して言った。
「帽子カープだったわね」
「ホークスとカープがシリーズで会う?」
咲はこう考えた。
「つまりは」
「そうなるの」
「そうなのかしら」
「いや、今年ヤクルト優勝するからな」
「シリーズではね」
だがここでだ、春香と奈々瀬は自分達の贔屓のチームを話に出した。
「決まってるじゃない」
「他の何処だっていうんだよ」
「阪神しかないでしょ」
「こう決定事項よ」
静華と凜も言う。
「パリーグはどうか知らないけれど」
「阪神で決まりよ」
「咲もセリーグのことはよく知らないけれど」
実際あまり興味がない、根っからのパリーグファンなのだ。
「そんな気がしたのよ」
「気のせいだろ」
「そうそう、それだけよ」
「カープには健闘して欲しいけれど」
「今年はそうはいかないわよ」
「その辺りは咲はわからないけれど」
それでもというのだった。
「そんな気がしたのよ。じゃあ今からめぐりんのお店行って」
「喫茶店飲みましょう」
「それじゃあね」
最後は未晴の言葉に頷いた、そしてだった。
六人でクラスメイトの家がやっている喫茶店に行った、そこでそれぞれコーヒーや紅茶の味を楽しんだ。その時は咲も野球から離れていた。
怪物不在 完
2017・2・25
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