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怪物不在

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第四章

 その咲を中心とした面々の向かい側にいる兄妹も一緒だった、寿はまだ目をきらきらと輝かせて言っていた。
「藤浪さんの活躍楽しみだな」
「そうなのね」
「大谷さんの不在が何だ」
「ダルビッシュさんもマー君もいないけれど」
「四人分働くんだよ」
 あくまでこう言う寿だった。
「藤浪さんがな」
「潰す気?」
 藤浪をとだ、千佳は兄に冷めた目で返した。
「エースを」
「だからな、藤浪さんが投げてその気迫がだ」
「チームを引っ張るっていうのね」
「そっちの黒田さんがそうだっただろ」
「まあね、けれど相変わらずの楽天ぶりね」
 千佳が兄に言うのはこのことだった。
「どういう精神構造してるのよ」
「それは御前が一番よく知ってるだろ」
 実の妹であるだけにというのだ。
「こうした精神構造なんだよ」
「阪神しかないのね」
「御前も大体同じだろ」
「まあね、鯉命よ」
 恋ではなくだ。
「カープの為に生きてるのよ」
「それじゃあ僕のこと言えないだろ」 
 寿は自分が持っている親に言われて買ったものが入ったビニール袋を一瞥もせず妹に言った。千佳は背中の赤いリュックに自分のものを入れている。
「御前もそうなんだからな」
「だってうち今回ピッチャー出してないから」
「三人出しててもか」
「内野外野よ」
 その三人はというのだ。
「だからピッチャーについてはよ」
「言わないんだな」
「そりゃ活躍して欲しいけれど」
 それでもというのだ。
「お兄ちゃんみたいにピッチャーばかり言わないわよ」
「藤浪さんだから当たり前だろ」
「というか他の選手に頭に入れてる?」
「巨人の選手以外はな」
 この辺り実に阪神ファンらしかった。
「ちゃんとな」
「じゃあ言ってみてよ」
「言うぞ」
 実際にだ、寿は他の選手達も言ってみせた。藤浪以外のだ。広島の選手もしっかり頭に入れていたので千佳も納得した。
 兄妹で野球の話をしつつ歩いていたがだ、ふと。
 六人と二人はすれ違った、すると。
 咲と千佳はふとだ、お互いの顔を見合った。すれ違いは一瞬だったが。
 お互いの顔を見てだ、こんなことを言った。
「あれっ、何か」
「また会う?」
 すれ違った後でだ、二人は思ったのだった。
「シリーズか何処かで」
「そうなるかも」
「シリーズ?今年は阪神だって決まってるから」
 寿は妹に即座に言った。
「安心して二位でいろよ」
「その超絶的な楽天さ本当に変わらないわね」
「ノストラダムスも予言してるんだぞ」
「ノストラダムスって誰よ」
「予言者だよ、知らないか?」
「全然知らないわよ」
 一九九九年が終わりすっかり知名度が下がってしまった。
「というか私予言信じてないから」
「僕だって阪神以外の予言は信じてないからな」
 毎年暮れから新年にかけてテレ朝では行われる。 
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