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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#46
  FAREWELL CAUSATIONⅥ~Hold Me In The Stormy~


【1】


 
 静寂(しじま)の中を翔ける流星。
 裡に、一人の少女を抱きながら。
 冷たい風、寂びた空気。
 その姿、嘗てドス汚れた悪意に敢然と立ち向かった、
哀しみの魔人にも似たりか。
 ならば、オワリ無き道を駆け落ちた二人のように――
 このまま、何処かに逃げてしまおうか? 
 宿命も使命もない場所まで、スベテを棄てて、何もかも置き去りにして。
 解ってる、赦されない。
 そんなコト、絶対に赦されないし、しちゃいけない。
 でも……!
「チッ! 追ってきやがった! 
速度はさほどじゃねーが射程距離が拡過ぎる!
ジジイ達と合流は出来ねーな。
フツーと違ってあの 『能力』 の前じゃ
数が増えるほど却ってヤバイッ!」
 あぁ、私、この人が好き――
 どんな時でも諦めないから好き――
 どうしようもないくらい、どうにかなってしまうくらい。
 でも――!
「承……太郎……」
「喋るな、取り合えず今は休んでろ。
二人バラバラに逃げても片方が捕まりゃあ意味ねぇ。
問題はあの “霧” の射程がドコまで及んでるかだ。
上は論外として下、地下の奥深くまで浸透してくんのか?
リスクのワリに旨みが少ねーな、読み違ったら袋の鼠だ。
なら――」
 珍しく口数が多い、恐らく喋りながら考えてる。
この先の逃走経路をどうすれば、二人とも生き残れるのかを。
 だから、言わない方がいい。
 それはただの自己満足、自分の感情を爆発させたいだけの我儘に過ぎない。
 彼に、アラストールに報いるためなら、ここは抑えるべき、
言ったって何もならない、言っちゃいけない。
 でも、でも、無理、だよ、承、太郎? 
だって、だって…… 
「腕がッッッッ!!!!」
 言って、しまった。 
 静寂(しじま)の大気が、一段と重く密度を増した。
 元より仕方のない事、避けては通れぬ事象だが、
失った代償が重く二人の双肩に圧し掛かった。
 痛々しく喰い千切られた左腕、破れた制服が気流に靡く。
 出来れば、なかったコトにして戦いに挑みたかった処。
 出逢う前の二人だったなら、それも可能だったかも知れない、
 でも、こうなったのが、



『自分で良かった』
“自分なら良かった”



 相反する感情、相克する想い、何れをも抱いて流星は翔ける。
「私が……弱いから……あんなヤツらに、モタモタしてたから……
だから……!」
 こうなるコトが解ってれば、絶対一人でなんか行かせなかった。
 充分予測出来た事なのに、強力な罠や守護する徒が居ないわけないのに。
 なのに、甘えてしまった、信じてしまった、
“私が迎えに来て欲しかったから……!”
「……」
 告げられる言葉は、幾つも浮かんできた。
 おまえのせいじゃない。腕一本で上等の男だった。
おまえが居たから勝利できた。
『最高の戦いだった』
 だがソレは、オレ個人の我が儘によるモノ、この少女には関係ない。
 戦いたいから闘った、途中おまえのコトは完全に忘れていた。
 だから、詫びるコト等出来ない、おまえが泣く必要はない、
でも、おまえは、それでも――  
「いつだって……」
 ならば、詫びはしない、慰めなど意味がない、
おまえのために出来る事、ソレは――
「もう片方もくれてやるさッッ!!」
「――ッ!」
 少女の涙が止まった。
 中途半端な優しさや感傷を言った所で心の傷は返って深まるばかり。
 だから偽りのない 『本心』 だけをブツける。
 一本はアノ “男” にやっちまったから、もう一本はおまえに――
 惜しくはない、本当に惜しくはない。
 アラストールがそうしたように、
立場がたまたま “オレの側” だったというだけの事。
『逆』 だったらおまえもそうしただろ?
 だから――
 死んでねぇんだから、何もかも悪いように受け止めるな。
『恋人』 なんだろ? オレはおまえの。
 だったら信じろよ、腕の一本や二本でガタガタ言わねぇよ。
 おまえがそうされたら相手はブッ殺すけどな。
「……承太郎、承太郎、承太郎……!」
 引きつく嗚咽を無理矢理抑えながら、少女は何度も彼の名前を呼んだ。
 こんな戦場の、どうしようもない絶望のなかでも言いようの無い多幸感が身を包んだ。
 どうしてそんなに強いのよ? どうしてそんなに優しいのよ――!
 私、何もしてあげてないのに。それなのに、ワガママ言って、すぐに怒って。
 それでも、大事にしてくれるの? 大切に、想ってくれるの? 
 どうして? という疑問は握り締めた拳に潰された。
 もう理由は、どうでもいい。正しいかどうかすらも、どうでもいい。
 いま、幸せ。
 アナタに想われて、幸せ。
 なら、この気持ちを奪おうとする者は、
踏み躙ろうとする奴は、誰で在ろうと――!
「「ブッ潰すッッッッ!!!!」」
 二人の声が重なった。
 言葉を交わさずとも、心が通じていれば感情も同調する。
 もう過程や現状は問題ではない、ただひたすら生き抜くために。 
 ただ、信じる者の為に――!
「さぁ、いつものように二人でブチかまそうぜッ!」
「了解ッ!」
 後方から迫るは、魔の霧、そして、怒りの狂獣、満身創痍のこの状態では、
否、万全無傷の状態で有っても向こうは(能力の)相性が良過ぎ、
此方は悪過ぎる。
 だがそれでも、二人は身を翻した、
ビルの屋上を足場に迫り来る災厄に眼を向けた。






“見つめ合っている二人より、同じ方角を見つめている二人の方が遥かに強く結ばれている”





 無敵の、否、如何なるスタンドであろうとも、
その能力でどれだけ相手を打ちのめそうとも、
それは、人の精神(こころ)まで奪った事には絶対にならない!
 絶望は、そのまま希望へと転化した、
傍に居る、互いの存在が希望そのものだった。
「承太郎? もういい、放して。ちょっと、苦しい」
「ん? あぁ」
 落とさないようにチョイ強く抱き過ぎたか? 
片腕がないと力の微妙な加減が解らなくなる。
 スター・プラチナは能力なのでそこまで如実に影響を受けないが。
「うぐっ!?」
 瞬間、水月(みぞおち)に強烈な衝撃が走った。
 力を緩めて弛緩した躯に、シャナの肘打ちが突き刺さっていた。
 どういう? つもりだと問う暇もなく、
膝の力が抜け小さな彼女の躰にもたれ掛かる。
 その上半身を優しく支え、少女は屋上入り口の壁にそっと横たえる。
 ただでさえ出血が多く疲弊した状態、そこに酸素の供給を断ち切られれば
意識など問答無用で霧散する。
 アノ『神鉄如意』の一撃にも怯まなかった男、
だが護るべき者の、殺気無き一撃にはこの場合躱しきれない。
 転がり落ちていく石のように、抗いようのない眠気が視界を昏く染めていく。
 決死の想いで呑み込まれまいとする青年の耳元で、
それを溶かすように囁かれる少女の声。
「もう、無理しないで。
承太郎は、これ以上戦っちゃダメ。
ありがとう。もう、充分よ。
帰ってきてくれて、ありがとう。
約束護ってくれて、ありがとう」
 バカな、まだまだこれからだ。
 まだ、戦える、オレは、オレ、は――
 強がる間にも意識は闇に沈んでいく、
逃れようのない死で在るかのように、二人の間を隔てていく、
静かで穏やかな、別れの旋律と共に。
「今度は、私が帰ってくる。
必ず、迎えに来るから。
だから、待ってて、承太郎」
「……ぅ……ぁ……」
 幾ら叫ぼうとしても、彼女を引きとめようとしても、
微かに口唇が震えるだけ、僅かに指先が戦慄くだけ。
最強のスタープラチナも、本体がこうなってはどうしようもない。
 偽りのない人の想いだけは、
如何なるスタンドでも手が出せない。
「アラストール、眼が醒めたら、承太郎をお願いね? 
護ってあげて、私の代わりに……」
 意図せず垂れ下がった首筋に、銀鎖で繋がれた神器がかけられる。
 視界はもう、殆ど像を成さない、
ただ清らかで優しい少女の囁きが響くのみ。
 だがその甘やかな感覚に身を委ねるわけにはいかない、
シャナを一人にさせられない。
(やめ、ろ……) 
 己に背を向け、白い閃光の中に消えていく少女へ、
承太郎は必死で手を伸ばした。
 届かないと解かっていても、それでも。
(行く、な……!)





“シャナ!”
“大好きよ”






 幻聴か幻想か、一度だけ振り返ったように見えた少女の姿が灼きついた。
 彼の、空条 承太郎の戦いは、これで終わった。
 決して絶ゆるコトなき不屈の精神、それを少女の囁きが眠りにつかせた。
 その光景、100年前の、あの二人が最後の生き写しか。
 そうでなければ死ぬまで戦う。
 愛する者のために、受け継がれる未来のために。
 それが、気高き血統の一族に示された宿命。
 少女の心は、他の何にも代え難い「尊いもの」で充たされていた。
 ソレの前には、恐怖も苦痛も絶望も意味を無くした。
 二度と振り向く事はなく、足元を蹴り最愛の者から離れ行く少女。
 穏やかな表情から一変、決然と前に視線を向けた風貌は凛と研ぎ澄まされている。
 だがその様相は戦士のソレではない、
女神のように静謐で聖者の如く威風に溢れている。
 黄金を、ダイヤモンドも凌ぎかねない精神の燦めき。
 そして変革。
「――ッッ!!」
 少女の裡で、その存在の源泉、中核と成る部分が弾けた。
 同時にその真紅の双眸が光を一切透さない、
事象の地平が如き無限の超高密度へと変貌を遂げる。
 歴代フレイムヘイズを全て紐解いても、
伝承は疎か存在すらしなかった未曾有の覚醒能力、
フレイムヘイズ “(しん)灼眼(しゃくがん)
 これまで少女の窮地を救い、その凄まじい能力(チカラ)が猛威を揮ったのは実に三度、
彼女の感情が著しく高ぶった時のみ。
 一度目は怒り、二度目は激情、三度目は歓喜、
何れに於いても壮絶の一言に尽きる戦果を捲き起こしたが
今回のソレは以前を上回る深度で発現しているように視られる。
 だが裏腹に、感情は燃え盛っていない。
 凪のように、波のように、一切の情動が無いように想われる。
 コレは、嘗ての発現感情(トリガー)が自己に向かっていたのに対し、
今回は他の、『別の方向』 に向いているからなのか、
アノ蹂躙の爪牙の首すら刎ね飛ばした力にしては厳かな立ち上がり。
 しかしそれが却って、裡に宿る深情を揺さぶり
前3回を超える能力の発現と成り得るのか?
 だが無駄である。 
 シャナ本人が自覚していない能力のためその全貌は未だ明かされていないが、
これまでの戦況から概論すれば、 “真・灼眼” とは要するに
神経の情報伝達速度が異常に『加速』 される能力である。
 その影響により従来の剣技、焔儀、法儀が練度、精度共に数段底上げされ、
更に活性した感覚が身体の精密動作を極限まで向上させ
通常では成し得ない超絶技までも発動させる結果となる。
 だが先刻のアラストールの例を出す迄もなく、
スタンド、 『正 義(ジャスティス)』 には如何なるパワーも技も通じない。
 それが内面的な力の強化なら尚更のコト、
増大した威力がそっくりそのまま己に返ってくる。
 無意味どころか逆効果、これまで遥か格上の相手を倒してきたこの切り札も、
今回ばかりは能力(スタンド)の次元が違うため己を(しゅ)する以外術を失う。
 それはシャナに限らずこの戦場に在るスベテの者に云える事。
何とか対抗出来そうなのは時を止められる承太郎か、
波紋の極意を究めたエリザベスくらいのモノだ。
 少女の奇妙な落ち着きは、
この能力の発現を予感しての事だったのだろうか?
それが無意識であったにしろならば余りにも無謀な、
想いに浮かされて血迷ったとしか言い様がない。
 全身傷だらけのこの状態で、ティリエルが能力を発動させる前に絶技で秒殺する?
追い縋るソラトを置き去りにして?
 そんな事は吸血鬼のEXTRACT(エキス)で充たされた血水泥の海(ブラッド・オーシャン)で、
対岸に泳ぎつくまで人間のままでいろと言うのと同じコトだ。
『正義』は力で押さえられない、だから最後に勝利する、
その名を冠するスタンドもまた斯くの如し。
「――ッ!」
 気でも違ったのか? 凄まじい炎気を星の帯のように捲き散らしながら
転進してきた者に、紅世の美少女が酷烈な笑みを浮かべた。
 まぁ何か小細工でも思いついたのかもしれないが逃げないのは良い事だ。
それよりも僥倖は、最も帰還を恐れていたアノ男が隻腕(せきわん)と成り果てていたコト。
 イルヤンカかシュドナイか、(彼らが敗れたとは考え難いが)
一番厄介な男によく深手を負わせてくれた。
 コレで心置きなく “生き人形” に出来る。
敵側全員を屠っても、最強のアノ男だけは殺さない。
“天目一個” をも超えるミステスとして、精々此方の手駒として働いてもらおう。
いつまでもいつまでも、その歯車がズタボロに壊れるまで、
その最初の犠牲者は――!
 霧がザワめき無数の死霊へと形容(カタチ)を成したスタンドが前方へと殺到する、
最早実力の差は歴然、ソラトを切り込ませ様子を見る必要もない。
 策が有るなら好きなだけ足掻いてみれば良い、
コチラは正々堂々、真正面から打ち破るのみ。
『正義』が姦計に敗れた例なく、邪道が 『正道』 に打ち勝った(ためし) なし!
『LUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
―――――――――――――――ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!』        
 促されずとも血染めの獅子は先陣を切る、
先刻からの燃え滾る激気を初合以降抑圧され続けた、
狂おしいまでのもどかしさ、ソレが冥獄の如き爆熱の奔流を体内に吹き荒れさせた。
 相対するスピード差のため結果ソラトが死霊を引き連れる戦形(カタチ)になる。
触発は数秒後、決着はその半分に充たないであろう。
正 義(ジャスティス)』 は疎かソラトにすら、
まともな交戦では手も足も出なかったのだから。
 絶体絶命、嘗ての未来、一人の少年に全ての希望を託し、
壮絶に散って逝った勇女のように、 
少女の躰が飛散するのは時間の問題。
 承太郎は動けない、灼眼は役に立たない、
フレイムヘイズの能力は 『正 義(ジャスティス)』 には通用しない。
 何も出来ない、どうしようもない、抜き差しなど成りよう筈がない、
どれだけ絶望的な言葉を並べ立てても尚足りない状況。
 にも関わらず少女は、ドコを視ている?
 背後に死霊を引き連れて強襲するソラトの外貌?
 否、気持ちは解るが意識を割くべきは背後のスタンドへ、だろう。
ソラトの攻撃は運が良ければ防げるが
正 義(ジャスティス)』 の能力は “防げない” のだ。
 全身傷だらけのこの状態では射程圏内に入った瞬間に暗孔(アナ)だらけ、
後は “良くて” 即死に、最悪仲間の首を自らの手で刎ね続けるコトになる。
 にも関わらず何故ソラトを、“ソラトだけを” 視る? 
 アラストールの犠牲を無駄にする気か?
 承太郎の想いは伝わらなかったのか? 
 イヤ、もしかして、“我々が想像する以上に受け継いでいるとしたら”
 二人を置き去りにしたのは情に(ほだ)されたのでも犠牲に酔ったのでもなく、
何が何でも護るという強い決意の許に在るとしたなら……
 何故なら見つめているのは、その奥の構成まで読み取ろうと
凝視しているのは、ソラトの装甲。
 相手の姿態(すがた)を移し取るのは “魔術師” の得意手、
その基幹を成す情報分析に於いて、“真・灼眼” ほど相性の良い能力も他にない。
 爆発と空気、光と鏡、罪と呪い、スタンド能力の例を出すまでもなく
思考、推考、選考、補考、あらゆる演算活動が
スベテ同時進行で行われソレはすぐさま実行に移される。
 保留、先延ばしとは対極に位置する究極の速攻、
最早行き着く先は 「予知」 の領域に在ると云っても過言ではない。
 無論ソレを攻撃に結びつけても意味を成さない、
だが今の少女の演算がその事実を見落とすコトは有り得ない。
 ならば何に使う? 極限にまで畢竟したその叡智、
破壊のために遣うのでなければナニに遣う?
 そんなコトは決まってる――!
炎髪(えんぱつ)” が一度、ザワめいた。
 運命の兆しで有るように、神の啓示で在るように。
 煌きを放つ紅の束が、炎の絹糸が如き烈しさと滑らかさを相克して拡散し伸びる。
 DIOの幽血技に酷似した現象だが受ける印象はまるで対極、
そして前者は相手に向かって伸び身も心もズタズタに蝕むが
少女の炎髪は逆に、『己自身』に向かった。
 散開して少女の躰を覆う様相は繭というより厳粛な(ひつぎ) を想わせる、
だが棺とは本来別離(わかれ)のそれではなく新たなる存在への「復活」を意味する。
 今までの自分を棄て去る勇気、ソレは新たなる「段階」へと
進むために欠くべからぬ重大な要素。
 異邦の刃を心臓に突き立てる、
屍人に身を千切られながらも脳天を撃つ、
発想を四次元的に、そしてそれほどの覚悟が無ければ、
真の能力(チカラ)は目醒めたりしない。
 もうここまでイケばお解りだろう。
“真・灼眼” による超解析能力、ソレを少女は敵ではなく己自身に向けた。
 全身傷だらけ、左腕は役に立たない、贄殿遮那も使えない、
焔儀も法儀もスベテ『正 義(ジャスティス)』には通用しない。
 でもまだ何か無いのか?  本当に出来る事は何も無いのか?
 自分はまだ生きている、生かされている、
例え絶対の死が目前に迫っていたとしても、
終わりのその時まで手は動く、足は動く、考える事だって幾らでも出来る。
 なら考えろ、(かんが) えろ、(かんが) えろ! 
 自分の死が即承太郎の死へと繋がる、玉砕すら許されない。
 だったら生き残れ! 
 どんな手を使っても、何が何でも、例え死んでも生き残れッ!
 絶対何か有る筈だ。
 アラストールはその身を犠牲にして護ってくれた、
承太郎は片腕を失っても迎えに来てくれた、
何も無い筈が無い、彼らの行動は無駄なんかじゃない!






『神』は、乗り越えられる 『運命』 しか与えないッ!





 硬質化した炎髪が、形容(カタチ)を成した。
 伸長して包み込んだ髪は解けない、
逆に一本の例外もなく少女の躰、その至る箇所に纏わり、
形成を阻害する衣服は取り込まれ、
超絶を露わに、その勇姿(スガタ)が顕在する。








   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!






 その全貌は、甲冑を纏った天使そのものだった。
 基幹(ベース)は、 『白 銀 の 戦 車(シルバー・チャリオッツ)』 と同じ、
マクシミリアン式フリューテッドアーマー。
 だが動きが鈍ってしまうため完全武装(フルアーマー)とはいかず、
頭部は開け、両腕部は半身、ベルトライン下部も大腿を覗かせながら
法衣(ローブ)状に広がっている。
 (ヘルム) はサークレット型の目当て(ヴァイザー)のみ、
肩 甲(ボールドロン)補 強 板(ガルドブレイス)は堅牢だが、
上 腕 甲(アッパーカノン)はない。
 尖立った肘当て(クーター)からの手 甲(ガントレット)
女性形に湾曲した胸 甲 板(ブレストプレイト)、同様に引き締め広がった腰 甲(タセット)
そこからまた腿 甲(クゥイス)が除かれしかし、膝 当 て(バウレイン)から脛 甲(クリーヴ)を経て
鋼 靴(サバトン)に至るまでは、緻密過ぎるほどに遮蔽されている。
 何より眼を瞠るのは、紅石(ルビー)で設えたが如き精巧な輝き放つ、
大翼型の背 下 甲(バック・キューレット)であろう。
 性質上飛翔能力はない筈だがコト “魔術師” の(ワザ)に於いてこの定石は愚問に成り下がる。
 正に強さと美しさ、本来両立し得ないモノが同時に存在する神秘。
狂戦士(きょうせんし)装甲(そうこう)” に対する 『聖天使(せいてんし)甲冑(かっちゅう)』 !
 元来、女の髪には禍いを打ち払い神の加護を宿す魔力が在ると云われている。
 灼眼と同じく装飾的な意味合いしか持たないと想われていた
“炎髪” にも、実は隠された能力が潜在していた。
 業の威力を最大限に引き出す “真・灼眼”
ソレを外部の干渉により一切阻害させないため
髪を変質、具現、融合させ鎧と成す特質能力。
炎 髪(えんぱつ)鳳 煌 紅 煉 鎧(ほうこうぐれんがい)
 伸長させた髪に他の物質を 「特性を保持したまま」
取り込み遍く炎の糸で守護の形体(カタチ)を織り上げる。
 この場合既に纏っていた黒衣 “夜笠” と
瞬時に発現させた “双翼” を 『合成』 したという事になり、
つまりは髪で在るのに硬質化でき、装甲で在るのに飛翔出来る能力を
同時に獲得出来たと云うコトに成る。
 シャナが仕切りに、真・灼眼の能力を技や策にではなく
己の裡に割いていた理由は正に此処。
 灼眼にも自分の知らない未知の能力が眠っていた、
ならば “炎髪” にも同様の能力(チカラ)が在ると視て然るべし。
 余程の莫迦でもない限り、ただ紅いだけの眼と髪を
わざわざ大仰な真名()として示したりはしない、
必ず隠された意味が在る筈。
 スタンド能力の例を出す迄もなく、




(ことば) は初めに父(神)と共に在り、スベテのモノはコレによって出来た-
(新約聖書・ヨハネによる福音書・第一章2、3節)




 名前自体に重大な意味が在るのではなく、
ソレに宿った「心の(パワー)」こそが重要。
 適当に名づけたものには、やはり適当な力しか宿らない。
 嘗てのフレイムヘイズ、アラストールほどの存在が
その全霊を賭して共に在る事を誓って授けた真名。
“彼女” の時は発現しなかったが、
宿りしその真力(チカラ)は想いと共に時空を超え
一人の少女に受け継がれていた。
 その者が織り成す、異なる世界との関連性によって目醒めたモノ。
 その血の宿命(さだめ)、気高き血統は、決して一人では存在し得ない。
『LUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――
―――――――――――ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!』
 虚仮脅(こけおど)しをと獅子の王が一際猛る、
背後の死霊を置き去りにして凄まじい激気と共に鬣を奮り挙げる。
 己の猿真似のつもりか? 
 色彩も構成も酷似、だが複製(コピー)正 統(オリジナル)には勝てない。
 そのような模造、我が凄爪(ツメ)で薄紙の如く切り裂いてくれる。
 攻めるも退くもなく、ただ煌きと共に宙へ佇む鎧の少女に
残虐の一閃が薙ぎ払われる、防具ごと切り裂くに十分な斬擊だったが
ソラトが狙ったのは当然生身の上腕(うで)を主軸に絞ったものだった。
 並の遣い手ならまだしも、ソラトほどの強者に対すれば
頑強な装甲も殆ど意味を成さない、
強度を犠牲にして研磨された薄刀が継ぎ目を狙うように、
身の丈を超える大剣(鉄塊)が甲冑ごとブッた斬るように、
小さな手 甲(ガントレット)一つでは強者の猛攻を止められない。
 しかし、獅子が凄爪を振り下ろすとほぼ同時に少女は動いていた、
回避ではなく防御のために、斬擊の軌跡に合わせ、
少女の左腕にも紅の光跡が浮かぶ。
 ソレは瞬時に具現化し魔獣の牙すら喰い止める形容(カタチ)と成る。





 
 グァッッッッッッッッギイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィ
ィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




 攻防何れ劣らぬ鋼の(こだま)
 狂える獅子の凄擊を怯まず受け止めたのは
瞬時に少女の腕に装着された 『盾』 であった。
 正統的な騎 士 盾(ナイトシールド)、厚さはさほどでもないが
その分硬度が密に凝結し砲弾すらも弾き返す威容を示す。
 近接戦を阻害しないサイズ、表面に炎を模った装飾、色は言う迄もない深紅、
戦う者の気高さと純潔さを象徴するような形体(フォルム)
 ここにきても “魔術師” の特性は活かされた、
関わる者との繋がりが紡いだ成長。
 だがそれで止まる獅子に在らず、
返しの左ではなくより相手に近い(アギト)にて
サークレットごと頭部を噛み砕こうと身を乗り出す、
 しかし対手の少女も先読み、
守りながら攻める攻防一体の迫撃を跳ね上げる。
 ヴァギンッッ!! 
 肉ではなく装甲が()ち合った為より凶暴な残響を軋ませ
弾ける金属片と共にソラトの躯は大きく仰け反りズレる。
鋼 盾 殴 打(シールド・バッシュ)
 古来より培われてきた、盾を用いる戦法の基本。
 一般的にはイメージしにくいが盾と云うのは
“防御のみを” 目的としたモノではなく、
実際には両手に武器を携えている状態に近い。
 体幹の間近で構えられるため力が伝わりやすく
足運びを利用すれば近・中距離の攻防を “護りながら” 行う事も可能、
投擲すれば遠距離の敵も討つ事も可能なのだ(無論相応の技術を要するが)
 シャナが優れた戦士と雖も遣ったコトもない武具を
此処までの練度で運用出来るのは素質によるものだけではない、
やはり物事の本質を瞬時に見透かし最大限に引き出せる
『真・灼眼』 の能力に拠るモノ。
“だがそこまで”。
 当然のように鎧姿の少女に集まる霧、装甲の強度は関係ない以前に、
素肌を露出してしまっている部分がある為ほぼ論外と云って良い。
 僅かな掠り傷でも勝利が決定する無敵のスタンド、
死霊の幻 像(ヴィジョン)は関係なく、既に目視不能の微細な粒子は
少女の周囲を完全に取り巻いている。
 甲冑など無意味、スタンドには無意味、
窮地に於いて発現した存在能力も灰燼に堕したか?
 しか、し――





 クゥワァァァッッ!!




「――ッ!」
「――ッ!?」
 殺人ウィルス(よろし) く少女の躰に(むら)がった霧が、
刹那の閃きに吹き飛ばされた。
 本来の守備力とは別に、鎧自体が烈輝(れっき)を放ち
ソレが魔の霧を封殺せしめたのだ。
 各装具が熱を宿した “炎そのものの鎧”
 広域に拡散するのではなく一個に凝集しむる
云わば 『正 義(ジャスティス)』 と 「逆」 の能力。
 ソレが無敵のスタンド、その絶望的特性の一端を無効化した、
鎧が放つ烈輝は(マイナス) ではなく(プラス) の力。
 マージョリーのトーガのように破壊的エネルギーでは魔の霧を増幅してしまうが、
創造的エネルギーならば粒子を包み込み傷まで到達しない、
加え時間を置けば軽傷ならば回復すら行えるのだ。
 完全にとは言い難いが現状にてこの形態はベスト。
 少なくとも何も出来ないまま全身をスタンドに支配されるコトはなくなった。
 密度を増し形体(カタチ)を執るならまだしも、
眼に視えない粒子レベルでは鎧の烈輝(バリア)を突き破れない。
 深い霧も、いつかは晴れるもの。
 眩い暁の曙光の中に。
 戦況は、革めて元に戻る。
 真の姿を現したソラトと真の能力(チカラ)を発現させたティリエル。
 対するに承太郎無き今と云えど未曾有の潜在双力を覚醒させたシャナ。
 もうこれ以上続くコトも(あた)わず、文字通りの最終局面。
 左胸甲に杯状の光紋が浮かびそこから戦慄の白刃が抜き出される。
 絶望の余塵を振り飛ばすが如く払った後に存在を誇示するは、
西洋甲冑に日本刀を携えた少女。
 無明の双眸、光明の庇護、背の鎧翼で空に立ち、
苦難を乗り越えた者だけが発する気高さを宿し
純潔な声が天啓のように響き渡る。
「人は、成功や勝利よりも、
『失敗』 から学ぶコトの方が多い。
正直、勝ち目なんてなかった。
おまえ達二人、どっちが相手でも私一人じゃやられてた」
 敗北宣言とも取れる少女の言葉、
しかし一切の卑屈さも惨めさもなく声は廉潔に紡がれる。
「でも “だからこそ” おまえ達が死ぬほどに、
それ以上に追い詰めてくれたおかげで、
ほんの少しだけ 「成長」 出来たみたいなの。
おまえ達がそうだったみたいに」
 大刀の柄を握り締めたまま、微塵の隙もなく少女は
逆水平に構えた指先をソラトに向ける。
「 『似ていた』 のよ。
おまえの 『宝具』 と、私の “炎髪”
その裡に宿る真の 『能力』
何かを取り込み生み出すという点で、
“とてもよく似ていた”
『運命』 なのか、それともスタンドみたいに
同じような存在同士 引かれ合ったのか、
ともあれおまえの能力がヒントになって私は成長出来た。
感謝はしないけど、それだけは言っておくわ」
 頬についた傷が治りかけている、全身に刻まれた無数の裂傷も同様に、
似ているとはいっても逆の能力、ソラトの装甲が破壊に特化しているなら
シャナの甲冑は守護の特性に長けている。
 吸血鬼と人間、奪う者と護る者、棄てる者と誇る者、
対極の存在次元が二つの鎧に明確に顕れた。
「――ッ!」
 この事態に最も焦燥を露わにしたのはティリエル、
正 義(ジャスティス)』 の最も無敵なる部分の
牙城が崩されたというのもあるが、問題なのはその後の対応。
 単純に考えれば、スタンドを一旦解除し
再び大樹の発現操作に移行すれば良いのだが、
コトはそう都合良くは進まない。
 己の存在を知る者、そのスベテを例え何人だろうと
虹彩の裡から跡形も無く爆殺し、
尚且つその「事実」すらも破壊のみを遺し
時間を逆行させるスタンド能力。
 ソレと同じコトで一旦「解除」してしまえば、
甲冑が砕けた所で再び 『正 義(ジャスティス)』 を
発現させようとしても不可能なのだ、
極限まで追い詰められて発現した能力故に。
 ティリエルほどの才能ならば、
修練を積めばそう長い時間を要さず
次元の異なる双力を自在に行使するコトの出来る、
恐るべき遣い手に成長するだろう。
 だが今は肝心のその「時間」が無い。
故に彼女は、実質攻撃力はゼロのスタンドで、
非常に相性の悪い敵と戦い続けなければならない、不利を承知で。
 ソレこそが 『正義』 の真価、都合の良い夢想だけに耽り、
苦難や絶望から逃げ出すのは 『正義』 でもなんでもない。
「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
『LUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッ!!!!』
 彼女の憂慮を他所に、天使と狂獣が空中でブツかり合う。
 長い長い戦い、熱く激しい精神の鬩ぎ合い。
 その決着が終極の一点に凝縮される。
 時の流れのままに、運命の成るがままに。
 刮目せよ、スベテはいま、此処に在る。


←TOBE CONTINUED…


 
 

 
後書き


はいどうもこんにちは。
どこの神聖聖衣(ゴッ○・クロ○)だという話ですが、
そもそも“炎髪灼眼”という設定に(っつか設定にすらなってない・・・・('A`))
大いなる疑問と不満を抱えていたのでここで昇華させて戴きました。
だって“灼眼の”と銘打っておきながらその実「ただ眼が紅いだけ」ですから。
そんなの普通の人間にもいますしカラコン入れれば済む話です。
『ゴールド・エクスペリエンス』と言っておきながら
何の能力も持たずただ色が金色なだけと同じコトです。
この方は一部の人には「設定魔」とか言われているそうですが、
「設定」と「妄想の垂れ流し」の区別がついてないんじゃないですかネ?
ジョジョの『スタンド』は無論として、HUNTER×HUNTERの『念』など
優れた「設定」にはそれだけでワクワクし先が楽しみになる力があるものですが、
この方の設定とやらは出るたびに辟易し矛盾の多さに唖然となるのみです。
(電車が走ってる状態で封絶使えば、間違いなく玉突き衝突が起こり
修正される因果とやらも天文学的数値になる。
ソレが残りカスで治るっていうのは、何も考えてないのと一緒だろ・・・・('A`))
まぁ読んでれば解るんですが、この方は元々バトルモノを描く気がない、
描きたいとも想ってない、ただただヘタレ(自分の分身)とツンデレ(幼女)の
学園ラブコメが描きたいだけで、他は嫌々描いてるのが丸解りです。
(だからジョジョのように魅力的な敵キャラが出てこないし、
強いと想わせるキャラもいない、そしてバトルパートより明らかに日常パートの方が
多過ぎるのがその確たる証拠)
だからワタシなんかに眼は攻撃、髪は防御と余計な設定付けられるのであり、
他のヤツはなんで「変身」しないの?とツッコまれたりするわけです。
(まぁコレは責任ないか・・・・('A`))
しかしまぁ知れば知るほど好きになる作品とは逆に、
知れば知るほど嫌いになる作品があるというのは
コレを描いて無ければ気づかない感覚でした。
「じゃあ何でおまえみたいなヤツが描いてるの?」という
当然の疑問があると想いますが、逆に言わせて貰えば「シャナが嫌い」じゃなければ
この作品は描けなかったとワタシは想っています。
「嫌いだから」好きになるためにキャラを練り直したり、
成長させたり、新らたに設定を設けたりするわけですし、
単純に「ヘイト」で描いたら肝心要のジョジョとの両立が出来ません。
既存の作品に「不満(嫌い)」があるから自分で「創造」しようというのが
「創作」の大きな「原動力(の一つ)」だとワタシは考えますし
現状に満足したら新たなモノは決して生まれないからです。
だからこれからもジョジョは称えますしシャナはクサします。
そうでないと「不満点」が解消出来ず、作品もキャラも好きになれないからです。
(シャナ原作に好きなキャラは一人もいませんが、
この作品に登場したシャナのキャラは全員好きです)
それでは。ノシ




 
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