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機動戦士ガンダム SEED C.E71 連合兵戦記(仮)

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第6話 偽りの囁き



「エレノア隊が全滅しただと…?!あの都市の地球連合はどれだけ戦力を有しているんだ?」

市内に突入する予定だったウーアマン中隊指揮官 ケヴィン・ウーアマン中隊長は、狭い車内に大きく響く声で言った。
彼の遺伝子操作の産物であるエメラルドの様な緑色の目は大きく見開いていた。

その発言は、報告者であり、唯一の生存者が目の前に立っているということを考えると余りにも無思慮であった。
だが、戦場でその様なコミュニケーション上の配慮を求めるのは、酷であった。


彼の視線の正面には、先程帰還してきた唯一の生存者…エレノア襲撃中隊のMSパイロット エルマー・アダムスが反対の座席に腰掛けていた。
その顔は青ざめ、鳶色の双眸は、目つきが刃物の様に鋭くなり、白皙の肌からは艶が失われ、車内の赤い照明と相まって墓場に埋葬される直前の死体の様に見えた。

それは、まるでB級ホラー映画で使い古された人を生ける屍に変容させる架空の疫病の初期症状を患っているかのような錯覚を見る者に与えるものであった。

精神面での影響が肉体に及ぼす悪影響は、これ程のものなのか、とケヴィンは、唇を歪めて思った。


第1次世界大戦以来、科学技術の所産が戦場に投入され、それに伴う戦闘期間が長期化した近代戦によって蒙る兵士の精神面のダメージとそれが齎す影響についてはその重大性は、十分軍部にも政治家にも認識されていた。

再構築戦争とその前後の紛争で多くの戦争後遺症患者が生みだすこととなった地球の国家の軍隊は、
対策として専門の心理カウンセラーを置いており、また同様にザフトも心理カウンセラーを置いていた。
精神疾患の発症率では肉体的にナチュラルよりも優れているコーディネイターも変わらなかったからである。

尤も心理カウンセラーのカウンセリングをエルマーが受ける為にはディンを操縦して
後方に展開する陸上戦艦を有する部隊と合流する必要があった。

戦闘中であることを考慮すると精々、医務室で精神安定剤を服用させられるのが関の山だろうが…彼自身、同僚であり、友人でもあったエレノア・チェンバースが部下と共に戦死したことについてはショックを受けていた。

本来なら彼の部下で、同じく戦死が確実視されたバルク小隊が偵察&掃討任務を終えていた筈だった。

彼にとっても現在のザフトの優位を確立した最新兵器のモビルスーツがこうも容易に
失われたということに驚いていた。
直後彼は、エルマーが自分に許しを求めるかのような視線を向けていることに気付いた。
慌ててケヴィンは、質問を続けた。

「それで敵部隊の戦力は?エレノア隊を全滅させたのはどんな兵器だ?」
そしてエルマーは口を開いた。


「敵は、私の部隊の進路を信号弾でトレースし、予想進路上に多連装…MERSを発射することで全滅させたんです!その後ターニャが市内に突入を図り…戦死しました。私は敵の兵器の確認しに向かったので、敵は見ていません。」
「対地兵器を転用したトラップか…」
「それとターニャを撃墜したのは、恐らく対空戦車によるものだと思われます。」
エルマーは、報告を終えると何度も荒い息を吐いた。
まるで激しい運動を終えた後の様に過呼吸気味になってしまっていた。

「ありがとうエルマー、君が生還してくれたことで我々は貴重な情報を得ることが出来た。
中隊員全員を代表して感謝する。少し休むといい」
前線で休めるとは思えないが。脳裏でそう毒づくとケヴィンは、
いたわる様にエルマーの肩に手を置くと、指揮車の外に出た。

指揮車の周囲には、索敵車、ミサイル車や兵員輸送車等の戦闘車両の姿があった。
それら車両部隊を護衛する様にジンやザウートが展開していた。
なお先程帰還したエルマーのディンは、最後尾の輸送トラック改造の整備車の後部トレーラーで整備兵による応急修理を受けていた。


少し遅れてエルマーが指揮車から出た。

「君は後方の<リヴィングストン>に帰還後、医務室で心理カウンセラーの所に行くように」
ケヴィンは、エルマーに指示を伝えると、彼を見送るべく、後に付いていった。
整備車両の上には、エルマーの乗機であるディンが立っていた。
破損個所がいくつか整備されており、煤塗れで帰還してきた時の姿より綺麗に見えた。

エルマーは、整備車両に座っていたディンのコックピットに向かった。
そしてコックピットハッチの上に立ったエルマーは、最後にケヴィンの方向に振り向く。

「ケヴィン中隊長、必ずエレノア隊長と仲間の仇を討ってください!」

力強い声でエルマーは言った。
その表情は先程と比べるといくらかマシに見えた。

「ああ、必ず撃破してみせるよ」
直後、胸部コックピットハッチが閉じられ、ディンは空へと飛翔していった。

ケヴィンは、背後にある現実へと振り向いた。彼の視線の向こうには、ザフトのモビルスーツ部隊を2つ屠った地球連合軍部隊が潜んでいるであろう放棄された都市が、コンピュータゲームに出てくる魔王の棲む城塞の如く聳え立っていた。

ウーアマン中隊は、10機のジンと25両の装甲車両で編成され、支援を担当するカッセル軽砲小隊と偵察を担当するバルク偵察小隊を指揮下に置いていた。
現在、バルク偵察小隊は未帰還であり、指揮官であるケヴィンの指揮下にあるのは
ウーアマン中隊とカッセル小隊のみであった。

「バルクとエレノア達の為にも何としても敵を撃破せねばな」
ケヴィンは、乗機のジンに乗り込んでいた。

彼のジンは、頭部のブレードアンテナが大型化され、地球連合軍の戦車の残骸から回収した爆発反応装甲を胴体部に張り付け、防御力が強化されていた。

「さて、敵の兵力はどれ位だ?」
指揮下の通信車両から無人偵察機が収集した市内の画像が転送される。
それらの画像には荒廃した都市とそこに横たわるモビルスーツ ジンの残骸の姿を映したものもあった。

「バルク…間に合わなかったか」
エレノア隊からバルク機から支援を要請する緊急通信を受けた段階で、バルク隊が全滅の可能性は考慮していた。そして、エレノア隊の全滅が判明した時、それは確信となっていた。

しかし、いくら覚悟していても、数日前、数時間前に言葉を交わした同僚がこの世の住人ではなくなるということは、ザフトの前身である黄道同盟時代の武装闘争にも参加していたケヴィンにとっても慣れることでは無かった。

「バルク小隊を撃破したことを考えると戦車1個中隊、支援の歩兵が500~2000以上居ると考えられます。」
部下の一人が通信で応える。作戦会議は、指揮車ではなく通信を通して行われた。
近距離なら電波障害の影響も少なく、通信車両のサポートもある為問題は無い。
本来なら指揮車で顔を突き合わせて行いたかったが、いつ敵の航空攻撃や少数のゲリラ部隊による逆襲が無いとも考えられない以上、ケヴィンは、安全の方を優先した。


「歩兵部隊の数が多い…少なく見積もってもこちらの数倍とは覚悟していたが厳しいな」
モビルスーツは、宇宙、地上、水中、空中で縦横無尽に活動し、現在、最強の兵器と言って差し支えない兵器であり、ザフト軍の快進撃はそれを証明していた。

しかし、どれだけ技術が発達しても最後に勝利した後にその地域を制圧占領するのは、歩兵なのである。

これは、数千年前にシュメール人がチグリス・ユーフラテス川の近辺に最初の都市文明を煉瓦と青銅と犂鍬で築き上げた頃から変わらない原理であった。

その代替として再構築戦争以降、各国が軍事用ロボットの開発を進めているが、コンピュータウィルスや今次大戦のNJによる電波障害等の影響で歩兵に代わる存在には至っていなかった。コロニーを国土とする国家故、人口で地球連合側に遥かに劣るザフト軍は歩兵の数で常に劣勢であり、アフリカ戦線では北アフリカ共同体の兵員で補填していた。

特に都市制圧戦では、モビルスーツや戦車、戦闘機等よりも歩兵の存在が重要になる場合が多く、稀に市内に立て篭もった敵部隊の連携攻撃にモビルスーツが不覚を取ることもあった。


「理想としては包囲してゆっくり叩き潰したいが、今の状況では無理か」
「やはり市街地に対して砲撃を行い、敵戦力を減らしてから突入するべきだな」
「市内全域をまんべんなく砲撃するには、弾薬もザウートや車両の数も足りませんよ、市内の敵を叩き潰したいのでしたら艦砲射撃でもないと無理です」
そう言ったのは、ザウート部隊を率いる褐色の肌と燃える様なオレンジの髪を持つ巨漢 ウィレム・カッセルであった。

「艦砲射撃か…」
「やはり、<リヴィングストン>に支援砲撃を要請するべきか。通信兵、支援要請を」
「了解」

後方の陸上艦 改レセップス級 リヴィングストンは40㎝砲を搭載しており、その火力は、並みの砲兵隊を上回る。
この改レセップス級は、欧州のザフトには、4隻が配備されていた。

「<リヴィングストン>より通信、艦砲射撃の必要性を認めず、また友軍を巻き込む危険性がある。とのことです。」
「拒否されたか…」
「ちっ、前に自分が味方撃ちしやがったからってあの野郎…」
カッセルは、乗機のザウートのコックピットで毒づいた。

彼率いるカッセル軽砲小隊は、砲戦MS ザウート4機と支援用の車両10両で編成されていた。

戦車の車体の上にモビルスーツの上半身と大砲を載せた様な形状のザウートは、
モビルスーツ中心の軍隊であるザフトにおいて砲兵、対空戦力を兼ねていた。


ザウートの背部が爆発し、白煙と共に弾着観測ドローンが次々射出され、都市の方へと飛んで行った。
単座式のコックピットの正面モニターにドローンからの画像や気温、風向、風速といった砲撃に必要なデータが映し出された。

「砲撃開始」
カッセルは、指揮下の砲兵部隊に観測データを送信すると、命令を下した。
その直後、ザウートの肩部にマウントされた2連式キャノンが一斉に発射された。

数秒後、その周囲に展開していた鹵獲リニア自走榴弾砲やら多連装ロケット車両が火を噴いた。
市街地に炎の雨が降り注ぐ。
傷口に塩を塗り込むかの如く、砲弾が半壊のビルに次々と撃ち込まれ、ビルを崩落させた。
ロケット弾が撃破されたジンの横たわる道路に叩き込まれ、爆発の毒々しい閃光の華が咲き乱れる。
公園の頭上で炸裂した砲弾の破片と爆風が、金属製の遊具も、木製のベンチも石造りの噴水も全て等しく吹き飛ばしていった。


砲撃が行われる中、ジンに護衛された索敵車両が都市の付近にまで接近し、地中に音響センサーを撃ち込み、砲撃の戦果確認と索敵活動を行っていた。

兵士の絶叫や兵器が破壊される音、着弾したミサイルや砲弾の爆音、落雷の様な建造物の崩れ落ちる轟音等の音が混然一体となった戦場音楽は、一見情報とは無縁に思える。

地中に撃ち込まれた音響センサーから取り込まれた音は、コンピュータによって解析され、幾つものパターンに分割され、敵に関係する音が選別される。また敵とは関係ないと判断された音…支援砲撃の着弾音や廃墟の崩れる音等は雑音として排除される。

これらの原型となったのは、将来木星圏開拓の際に木星、木星の衛星の中で液体の海や大気の存在が確認されている衛星の地表で探査活動を行う際に用いられる予定だった探査装置である。
地球外生命体の存在を探索する為の装置が、地球内の生命体の存在を探索しているというのは皮肉であった。
だがこの様な高性能な機器が存在しても、最後には、人間の判断力が結果を左右するのである。


「……」
ヘッドギアを被った金髪黒目の少女 メイ・リョングは、ソナーが感知し、コンピュータが選別した音の正体を突き止めるべく、耳を澄ましていた。

東アジア共和国出身の母を持つ第2世代コーディネイターである彼女は、その独特の名前からハイスクールの頃には、男子に恐竜の様な名前だ、と馬鹿にされたこともあった。
メイは、音楽家になるのが夢で、ソナーマンに選ばれたのも彼女の優れた耳によるものであった。

コーディネイターで、優れた楽器の使い方や歌声を持った者は大勢いたが、音楽家や作曲家として世界的に大成した者は未だに1人もいなかった。
それでも、それを知っているからこそ彼女は夢を諦めない。
音楽が、人の心に与える影響というものを彼女は身を持って理解していたからこそである。
この戦争が終われば、その夢を叶えるつもりでいた。

夢を叶えるためにも、メイは次々と音響センサーとコンピュータから送られる音と聴覚と訓練で植え付けられた情報を照合し、選別を行った。

「先程消失した音紋は、地球連合軍のリニアガンタンクと思われます。」
彼女は、耳が聞き取り、選別した友軍の戦果を弾んだ声で報告した。
彼女は、ソナーマンとしては優秀だった。それらの音紋パターンは殆ど地球連合軍の車両とほぼ同一であった。
それ故、地球連合が仕掛けたダミーに見事に嵌ってしまっていた。

ザフト側の鹵獲リニア自走榴弾砲が発射した砲弾の一つが廃墟に着弾し、その中に存在したものを薙ぎ倒し、破片で引き裂いた。
廃墟に置かれていた黒い物体はなすすべなく、鉄屑へと変換された。

黒い物体…その正体は、併設された小型バッテリーにより稼働するエレカ用モーターであった。

ザフト側の偵察車両が捉えた音源は、殆どが、これら都市内部に設置されたエレカのモーターだったのである。

これらのモーター類は元々、地球連合軍が、民間より接収した自動車用モーター類であった。
本来は、補給車両の予備部品として使用される予定のもので、地球連合の予想を超えるザフト軍の快進撃により、特に活用する機会もないまま爆破処分されるはずだった。

ハンスは、これらのモーターの内、長期間の使用に耐えないと判断したものを分解し、地上の廃墟や地下の駐車場に設置した。
流石に常時作動させるのはエネルギーの浪費でしかないので、必要な時に連合兵たちによって有線操作によって起動させられた。
モーターの動力源となる小型バッテリーは、長くても20分程しかモーターを動かせなかったが、熱紋、音紋センサーを駆使して見えざる敵を求めるザフト軍部隊には十分すぎた。

また戦闘車両に比べて音が小さく、整備の問題で音紋パターンが不揃いなゴライアスのモーター音は
雑音と判断される可能性が高かった。

「支援砲撃にしては余り勢いがないな…」
既に第22機甲歩兵中隊を含む地球連合部隊は、シェルターや地下の安全なエリアに退避を済ませていた。

「今頃敵の奴ら、俺達を全滅させたと思い込んでるでしょうね」
部下の一人は、楽しげに笑みを浮かべる。
不意にハンスは、ザフト側の推定している〝戦果〟がどんなものか知ってみたくなった。
だが、自分がそれを知ることは無いだろうと思い、その考えを振り払った。

「ルシエンテス少尉より連絡、砲撃によりスカイデストロイヤーが損傷を受けたみたいです。
射撃は可能とのことです。」
「自動モードでその場に放置する様にと伝えろ」
「では、我々も赴くとするか」


同じ頃ザフト軍は、市街地に潜伏する架空の機甲部隊を全滅ないし、大損害を与えたと判断していた。

「ケヴィン中隊長、索敵斑とドローンの情報を照合した結果が出ました。敵の装甲車両を10両以上撃破確実、不確実6とのことです。」
指揮車両のオペレーターが興奮気味に報告した。

「連中の半分は仕留めたかな」
ケヴィンは、ここ最近剃らずにしていた為、山羊の様に伸びた顎鬚を右手で扱きながら言った。

「しかし、その程度の兵力でモビルスーツ3機を有するバルク隊が全滅するとは。」
「連中は偵察装備で軽装でしたからね。それに奴のアカデミーでのモビルスーツ操縦の成績は酷いもんだった。良くモビルスーツに乗れたと思ったものですよ」
そう言ったカッセルは、アカデミーでの成績がバルクよりも高かったにもかかわらず、バルクがジンのパイロットになったのに対し、自分が、戦車モドキのザウートのパイロットとなったことに不満を持っていた。

「突入開始、カッセル隊は最後に市内に突入せよ、チャールズとユースフはカッセル隊の護衛に付け」
ケヴィンのジンが突入開始の信号弾を打ち上げる。鉛色の空に打ち上げられた赤い星は、鮮血の滴の様だった。

直後、指揮官機である彼のジンを先頭にジン部隊が、分散して装甲車両を従えてそれぞれ市内へと突入を開始した。
ケヴィンとしては兵力分散の愚を犯さない様に1つに部隊を纏めて突入したかったが、
その場合、攻撃を回避することが困難な上、纏めて撃破される危険性があった。

常識的に考えて市内に立て篭もる敵にモビルスーツを複数破壊できる威力を持つ兵器があるとは思えない。

だが、彼は、敵を軽視して全滅したエレノア隊の二の舞にはなりたくなかった。
2機のジンがザウートとその周辺に展開する車両の護衛としてその場に待機した。

「敵部隊進軍を開始!モビルスーツ10、車両12以上」
都市郊外近くの建物に隠れていた熟練の偵察兵は、興奮と修飾語を極力抑え、有線式通信機で報告した。
市内に工兵隊が徹夜で張り巡らせた有線通信網を通じて、それは各部隊に伝達された。


「急いで!」
即席の退避壕から飛び出し、廃墟の屋上の射点に付いたアンジェリカは、対物ライフルを2人の部下と組み立てていた。
ライフルを組み立て終わったアンジェリカは、集中力を高めるべく、ポケットから小瓶を取り出した。

瓶の中には、干した唐辛子が入っていた。アンジェリカはそれを口に含んだ。口一杯に舌を焼く様な辛さが広がる。
その横では体力を回復する為に部下の1人が栄養ドリンクを飲み干していた。

「いよいよ来たかぁ」
「ザフトはセオリー通りに来る!そこが狙い目だ!」
かつて大西洋連邦資本のピザ屋の食糧貯蔵庫だった地下の一室で、ガラント少尉はミサイルランチャーを肩にかけて部下達を鼓舞した。

「お前ら、逃げ場は確保されてる!だからビビるな!ケツをまくるのはまだ早いからな!」

別の地下壕でゲーレン中尉は、居並ぶ部下達に大声で叫ぶ、背水の陣の格言の様にわざと退路を断って
兵員の戦闘意欲を高める方法もある。
だが、この戦いは、友軍の撤退支援の戦いである。市内に立て篭もり、遥かに戦力が上の敵に囲まれているという状況では、退路が存在しているという希望を与えた方が、戦闘意欲を引き出せるとハンスは考えていた。
彼は、無理に戦場に踏み止まり、戦死するよりも次の戦いの勝利に向けて生き延びることが大切だと考えていたのである。

地球連合軍部隊は、ハンスと各部隊指揮官が組み立てた作戦計画の通りに行動を開始した。
市内に立て篭もる地球連合軍の中で砲撃の犠牲になった者は殆どいない、これは、彼らが都市内の地下空間に退避していたことが大きかった。

西暦期に勃発した第二次世界大戦の島嶼戦闘における最大の激戦である硫黄島の戦いでは、アメリカ軍は、3日間に渡り、爆撃機の大編隊や旧式戦艦を含めた水上部隊によって島全体に準備砲撃を加えた。
にも拘わらず、地下洞窟陣地に立て篭もっていた日本軍はまとまった戦力を保持し続けていたのである。

更にウーアマン中隊は、砲撃兵力が市内の広さに比べてあまりにも少なすぎた。
その為、支援砲撃の結果が単に市街地をさらに破壊したというだけの結果に終わったのは当然と言えた。

この住民が消え去った都市での地球連合軍とザフトの血で血を洗う戦いは、こうして約束されたのである。

 
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