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機動戦士ガンダム SEED C.E71 連合兵戦記(仮)

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第7話 市街地戦突入



主戦場である放棄された都市から離れた森に改レセップス級陸上戦艦<リヴィングストン>は待機していた。

金属でできた小山の様なその巨体は、周囲のザフトの対空戦車や装甲車両、補給車両とは比べ物にならず、
隣にある崩れかけた木造の民家が子供のドールハウスに見えるほどであった。

上空に向けられた主砲は、古代の竜脚類の首の様に長く、艦体を覆う様に無数の対空火器を搭載したその姿は、針鼠さながらだった。

レセップス級陸上戦艦は、NJ下でも円滑に通信・指揮を行うための指揮車両として当初、設計された。
ベースとなったのは、火星開拓時に地表に設営されるであろう基地間の移動用として設計されていたランドクルーザーである。

そこに地上でのMSの突入支援用として、西暦時代の戦艦の主砲に匹敵する主砲の追加が設計案に加えられた。
これは、誘導兵器の信頼性が大幅に低下しているNJ下の戦場では、艦砲の重要性は更に高まると推測されていた為である。
さらに大部隊に指示を下す為の通信設備の増設も必要となった。

更に地上におけるモビルスーツの整備・補給基地としての機能も付与すべきという意見が加わった。

こうしてヘリウムを吸った風船のように大型化を余儀なくされ、当初は大型トレーラー程度だった車体は、
旧約聖書の巨獣ベヒモスやギリシャ神話の巨人族を想起させる巨体となったのである。

この改レセップス級は、砂漠地帯以外での活動用に作られた派生型で、レセップス級とは異なり、スケイルモーターではなく、大型ホバークラフトを移動手段にしているのが特徴であった。


「アイアンズ襲撃中隊、対空戦車部隊と交戦中!」
「ロジャース戦闘小隊補給完了!」
「ケイト中隊より通信、敵戦車部隊を撃破」
宇宙艦艇のものと同じ防弾強化ガラスで守られたブリッジ…そこでは指揮下の部隊との交信が絶え間なく行われていた。
中央の司令席には指揮官が腰掛け、その周囲の計器類にはオペレーター等の艦の運営に関わる人員が数十人近く着席していた。

現在、改レセップス級<リヴィングストン>司令席に座るのは、ウーアマン中隊を指揮下に置く
ファーデン戦闘大隊指揮官 エリク・ファーデン大隊長であった。

彼は、艦長や基地司令官、副官級等の人員が着用する黒い軍服を着用していた。

その傍らには、赤い軍服に身を包んだ少女が立っていた。
赤い軍服、通称ザフトレッドと呼ばれているそれは、ザフトの士官学校に相当する機関 アカデミーで、卒業席次10位までの成績優秀者に与えられるものであった。

特別に戦功を立てた人間にも着用を許すという改革案が一部で挙がっているが未だにそれは実現することなく、
人類初のコーディネイターの軍隊であるザフトにおけるエリートの証であった。

その少女は、職人が技巧の限りを尽くして彫り上げた精巧な象牙細工を思わせる白い肌と肩まで伸びる金糸を思わせる美しい髪が特徴的であった。
赤い軍服の少女 ノーマ・アプフェルバウムは、ザフトのMSパイロットである。

アプフェルバウム小隊を率いる彼女が、この<リヴィングストン>に乗艦したのは、つい1時間前だった。
遭遇したユーラシア連邦軍の戦闘機部隊との戦闘で弾薬と燃料を予想外に消費したことで、付近にいた補給可能な部隊であるこの艦を有するファーデン戦闘大隊と合流したのである。

彼女の部下達は、<リヴィングストン>の正規パイロットが一人もいない待機室にいた。

「よろしかったのですか?」この艦と隊の最高権力者の座る椅子に対して放たれた少女の声には、小鳥のさえずりの様な繊細さと、薔薇の棘があった。

「ん?」
この時エリクは、煙草を口に含んでいた。
紫煙が空調の風を受けて揺らめく。

空気が有限で、コストと資源と多少の手間をかけて製造されるものである宇宙の生活では、空気を汚染する行為である喫煙は、一部の富裕層のみに限られた贅沢であった。
だが、空気が宇宙のコロニーやステーションから見ると無限に等しいほど自然に存在する地球上では、
基本的に禁煙エリアや潔癖症の政府が統治している地域を除けば、誰でも喫えたのである。
そしてこの地上の特権をエリクはフル活用していた。

無論地上でも任務中の喫煙は規則違反であるのだが、部下達も軽くたしなめる程度であった。


「何のことかね?アプフェルバウム小隊長」
大隊指揮官としての威厳を持ってエリクは隣に立つ若き小隊長に質問を返す。

「前線からの支援要請を断ったことですよ」
「仕方あるまい、この<リヴィングストン>の主砲では、友軍を巻き込みかねない」

エリクは教科書的模範解答で言い返した。
旧時代の戦艦に匹敵するリヴィングストンの主砲の威力は友軍をも巻き込みかねない危険性があった。そしてエリクはそのことを誰よりも認識していた。

「前線部隊は、郊外に展開していました。敵部隊は市内に潜伏しており、郊外には存在が確認できず、誤射の危険は皆無に等しかったと考えますが?」
年齢でも階級でも上位者の模範解答ともいえる論に対して、物怖じする素振りすら見せず、金髪の少女…ノーマは、自信に満ちた声で持論を述べる。

「…」
「アプフェルバウム小隊長、君は何故そこまで艦砲射撃に拘るんだね?」
「市内の地球軍を完全に叩き潰す為です。地球軍は、我々のモビルスーツ部隊に対抗するために、市内の地下空間や廃墟に潜伏し、我々が市内に突入するのを待ち伏せています。」
遺伝子操作によるものであろう端整な容貌を、無表情にして語る少女の口調には自信が満ちていた。
対する座席の男は、渋面で応える。
エリクが、艦砲射撃を忌避するのは、ある事件が原因であった。
それは、約20日前 イベリア半島制圧戦の過程で起きた。

工業都市 ビトリアを巡る戦闘の時、エリクと<リヴィングストン>は後方にてモビルスーツ部隊の補給拠点、部隊指揮所として待機していた。
市内の地球連合軍は撤退するか全滅し、戦闘が間もなく終結するか、と誰もが想像していたその時、
都市外周で索敵行動を取っていたサンドラ偵察小隊から緊急通信が入った。

地球軍の地上部隊が市内への突入を図っていると。

この時、敵部隊の進路上には、基地設営隊の車両や補給車両が多数展開しており、側面から蹂躙されかねない状況であった。

飛行襲撃部隊は補給中であることと、エリクは、制圧力と射程を考慮し、<リヴィングストン>の主砲による艦砲射撃を行った。

エリクは既にサンドラ偵察小隊が後方に退避、車両部隊と合流したと判断していた。

しかしサンドラ偵察小隊は、艦砲射撃の着弾点である敵の予想侵攻ポイントで、踏み止まって戦闘を継続していたのである。
前線部隊の一つから誤射を知らせる通信が届いた時には遅すぎた。

砲弾を自爆させようにも、自爆信号は通信障害で届かず、空しく砲弾は予定通り全弾が
予定の着弾点に大穴を穿った。

着弾した40㎝砲弾は、機甲歩兵、歩兵部隊を塵も残さず消滅させ、バイソンの群れの如く進撃していた戦車や装甲車の車列を瞬時にスクラップに変換した。

更に匍匐飛行し、ザフト軍部隊に雀蜂の如く執拗に攻撃を加えていた攻撃ヘリコブター部隊も衝撃波で、紙細工の様に弾き飛ばされた。

そして友軍であり、前線で踏み止まっていたサンドラ偵察小隊もその例外ではなかった。

戦車部隊の主砲による集中射撃を封じるべく、地球軍部隊に突撃していた彼らは、砲弾の着弾点近くにいたため、
全ての機体が大破した。

指揮官機は文字通り粉々に破壊され、唯一原型を留めていた3番機も胴体が衝撃によって内部機関を破壊され、パイロットは首の骨を折って死亡していた。

結果のみを見れば、それは、NJによる通信障害が招いた数限りない戦場の喜悲劇の一つでしかない。

だが、同時にエリクの経歴に拭うことの出来ない汚点を残したのであった。

「それは、貴官の推測にすぎん、それにもうウーアマン中隊は市内への突入を開始している。今更遅いのだよ」
エリクは、精一杯の指揮官の威厳を持って彼の傍らに立つ少女に自らへの追及を止める様に婉曲的に言った。

対するノーマもそれ以上は追及すべきでないと考えたのか、沈黙した。

エリクは、正面を見据えた…<リヴィングストン>のブリッジの防弾強化ガラスを隔てた外界…鉛色の雲が立ち込めた空、草色の丘陵の連なり、ひび割れた道路…その遥か向こうにある打ち捨てられた都市、そこでは彼らの同胞が、廃墟に潜む敵と、戦端を開いている筈だった。

そして彼の傍らに立つ少女の翠玉の双眸も同じ方向を見つめていた…しかし、それはエリクよりも遥かに先を見つめているようであった。



砲弾が落下する遠雷の様な音と、大地を揺るがす怪物の足音の如き振動が廃墟を包む中、地下通路の中で、
ユーラシア連邦陸軍第89歩兵大隊所属の女性兵士、ニサ・アブドゥラニエヴァ一等兵は、両腕で自動小銃を胸に抱えて身体から湧き出る震えを抑えようとしていた。

生まれ故郷でもある、ユーラシア中央部に位置する中央アジア ウズベキスタン州、州都タシュケントで数ヵ月前まで花屋の仕事に就いていた彼女は、開戦後に他の多くのユーラシア連邦の人間と共に徴兵され、西ヨーロッパ方面軍の兵士として送り込まれていた。

彼女を含むガラント少尉指揮下の部隊は、先程までいた地下のピザ屋の食糧庫から出ていき、敵の侵攻予想ルートの付近で待機していた。

彼女以外の兵士も半分近くは、同様に開戦後に兵士になった者達で、不安げな表情をしていた。
戦闘は、数度既に経験している。

しかし、ザフトの本格的な大部隊との戦闘は初めてのことだった。


ニサが最初に兵士として従事した任務は、NJ災害の影響で西ヨーロッパの諸都市に近隣地域…遠くは北アフリカから流入した避難民の救援・誘導の任務であった。
ザフト軍の攻撃は、前線や都市だけでなく、道を埋め尽くす避難民にも及んだ。

ニサは、有翼の悪霊を思わせるザフトのモビルスーツ ディンが放った攻撃で、避難民を満載したトラックが破壊され、周囲にいた人々が巻き込まれるのを目の当たりにしていた。
トラックは焼け焦げ、屑鉄と化して肉とゴムと金属の焼ける臭いが混合した異臭を放ち、その周囲には、黒焦げになった人体がバラバラになって転がっていた。

更にその外側には巻き込まれた不幸な人々が、炎に巻き込まれ、手足を失ってのた打ち回り、動かなくなった家族の身体に縋り付いていた…………

その光景は、今もニサの脳裏に焼き付けられ、今ザフトの襲来を待つ彼女は、3年前に病死した、町の警察官だった父親に助けを求めたくなる心境だった。


「お前ら、怖いか?」不意に先頭に立っていたガラントが言った。

「安心しろ、俺だって怖い!あんな鉄の化け物が隊列組んで突っ込んでくるんだからなぁ……だがな…」
ガラントはここで言葉を切った。
そして振り返り、背後の部下の兵士を見た。

「俺達は、軍人だ。俺は、単に就職の時に有利になる技能や資格が手に入るって
宣伝に乗って入って今ここにいるだけだ。お前たちの中にも似た様な理由や義務を果たせ!とか言われて連れてこられただけの奴が大半だろう。
それでも軍人になったからには、俺達は命令に従わなくちゃならない。そして今の俺達の後ろには、守るべき市民……ひいては、両親、兄弟、子供、恋人、友人がいるんだ。おい、三等兵」

ガラントは、後ろの方で、震えていたニサを指差した。

「なんでしょう、少尉」
怯えていることを咎められるのではないか…そう彼女は覚悟した。だが、その予想は裏切られた。

「お前には、家族はいるか?」

「……家に母と妹がいます。」深呼吸をしてから彼女は答えた。

「なら、怖くなった時そいつらの顔を思い出せ。お前らも大切な人のことを思い出せ。ザフトの奴らにお前らの好きにさせはしない!ってことを教えてやれ!!」

「「「「「はい!」」」」」」
兵士達は、目の前の上官に敬礼した。


そして彼らは、各々決められた廃墟の中の場所にうずくまり、静かに待った。
敵が自らの持ち場に来るのを…

其処が彼らの狩場となるか、墓場となるかは、彼らの技量………そして神ならざる身には、
把握しえない運の問題であった。


カッセル軽砲小隊によって砲弾が撃ち込まれた市内は、凄惨な状態に陥っていた。
放棄され、荒れ果てていた建築物は、砲弾の直撃を受けて瓦礫の山に変貌するか、奇怪な邪神像の様な姿に強制的に変換された。

道路には、瓦礫や隕石が激突したクレーターの様な大穴や散弾の炸裂で生じた無数の小穴が穿たれた。

これは、通常車両の通行がもはや不可能なレベルであったが、モビルスーツとそれなりに不整地での走破性を有する装甲兵員輸送車で構成されるウーアマン中隊には、余り問題ではなかった。

ジンのパイロットの1人が突入して最初に目撃したのは、蜂の巣のように穴だらけとなった道路とその周辺に散らばる車の残骸だった。

「…」
彼の視線の先には、鮮やかな水色に塗られた物体があった。
それは、かつては彼の憧れの一つだったが、今は何の価値もないガラクタであった。

水色の物体…流線型の強化積層プラスチック製の外装がセールスポイントの、ブルースターと呼ばれていた高級車であったその物体は、緑色のゴミ箱に激突して停止していた。

それは、最新式の対ウィルスプログラムと衛星対応自動運転システムをインストールした車載コンピュータもあらゆる外部からの通信が大幅に制限される通信障害の前では無力ということを教えていた。

先程の支援砲撃による建物の崩落による瓦礫で通行不能になっている場所もあった。

「敵は何処にいるかわからん!警戒を怠るなよ!」
ジンに乗るパイロットは、そう言って部下に警戒を促した。
市街地戦では、日常生活が営まれていたあらゆる場所が敵味方の隠れ場所となるのだということを知っていたからである。

突如廃墟の一角で爆炎が起り、装甲車の側面車体に大穴が開いた。
内部に搭載されていた弾薬が誘爆し、装甲車が爆散する。


「敵がいるぞ!7時方向」
ザフト兵の一人が叫ぶ、数名のザフト兵がミサイルの白煙のする方に銃撃を浴びせた。
ザフト兵の反撃の銃火を受け、退避し損ねた連合兵が射殺される。
「ナチュラルの猿が!」手ごたえありと見たザフト兵の一人が、中指を立てて叫ぶ。
直後、迫撃砲弾が着弾し、付近にいた数名のザフト兵の命を刈り取った。

ジンの左肩に砲弾が、着弾する。戦闘車両用と思しきその砲弾は、空しく弾き返された。

ジンが重突撃機銃を廃墟に叩き込み、其処に隠れていた連合兵が吹き飛ばされる。
ビルの屋上から発射されたミサイルが次々とジンに着弾し、内1発が左肩装甲を破損させた。

既にそこかしこで、廃墟内に侵入したザフト兵と地球連合兵が銃撃戦を開始していた。

「死神にお辞儀させてやれ!」
ガラント少尉が自動小銃を通路から突入して来るザフト兵達に向けて乱射した。

部下の兵士もそれに続く、被弾したザフト兵が次々と悲鳴を上げて崩れ落ち、地面を鮮やかな赤に染める。
対するザフト兵も反撃し、銃撃を浴びた連合兵が斃れた。

ザフト兵の一人が、ナイフを右腕に握り、ガラント少尉に飛び掛かった。
「何!」
「隊長!」
副官のヒュセイン曹長が拳銃でザフト兵の側頭部を撃ち抜いた。
次の瞬間そのザフト兵の頭部が吹き飛ぶ。

「助かったぞ!」

奇襲を受けたザフト兵の反撃も次第に組織だったものとなって行き、連合兵が先程とは逆に圧倒され始めた。
身体能力では、コーディネイター主体のザフト側の方が優勢であった為、これは当然と言えた。

「ぐぁっ」
「ヤーコフっ!」
ニサの隣にいた同僚が頭部を撃ち抜かれて倒れる。
こちらに迫ってくるザフト歩兵の姿を認め、ニサは、仲間の仇とばかりに自動小銃で弾幕を張る。

「隊長!」
部下の一人が指差す。その方向…砲撃によって壁が吹き飛ばされ、外が丸見えになっている辺りには、ザフト兵と、その後ろの車道い鎮座する装甲車の姿が見えた…グリーン系の色に塗装されたその車両は、別の友軍部隊に向けて機銃を乱射していた。
撤退しなければ、アレにやられるのは間違いなかった。
「全員撤収!無駄死にするな!」
ガラント達が撤収しようとしたその時、装甲車にミサイルが命中し、オレンジ色の爆発が膨れ上がった。その装甲車は、操縦席を破壊されて擱座した。

住民の絶えた市街地に憎き敵の骸を積み上げんと、双方が文字通り死力を尽くす。


「敵は何処にいる…」
ジン1機と兵員輸送車3両で編成されていたある部隊は、突如、横合いから対空機銃弾の豪雨を浴びた。
20㎜対空機銃弾は、戦車の放つリニアガンすら弾き返すジンの装甲に火花を散らせただけで終った。

だが、ジンに随伴していた兵員輸送車3両はそうはいかなかった。
兵員輸送車の薄い装甲は、段ボールの様に穴だらけにされた。

操縦席の強化ガラスが砕け散り、運転手の肉体が粉々になる。
バッテリーが撃ち抜かれ、車内に残っていた兵員は、逃げる暇すら与えられることなく爆発に呑み込まれた。

尤も攻撃を受けた時点で車内にいた兵員は全員機銃弾で引き裂かれていた為、火葬された様なものであった。

周囲に展開していたザフトの機械化歩兵は、全員が防弾性能の高いボディアーマーを着用していた。
だが、航空機の装甲を貫き、爆発する様に出来ている機銃弾の前では無力だった。

「ぐぁ」
「ぎゃあ」
「足がっ!」
「痛いっ、畜生!」
それは、手足に掠っただけでも致命的な結果を齎した。
人体の破片が飛び散り、むせる様な血と硝煙、鉄の臭いが辺りを支配する。
胴体に被弾した兵士は風船の様に破裂し、肉片と鮮血を撒き散らす。

「俺の腕がぁ!」右腕を失ったあるザフト兵は、地面に落ちたその名残を拾おうとした、
次の瞬間彼は、上半身を吹き飛ばされた。


歩兵部隊を紙屑さながらに引き裂いた機銃弾はジンにも浴びせられる。
だが、リニアガンタンクの主砲すら弾き返すジンの装甲の前では火花を散らせることしかできなかった。

「よくも仲間を!」
眼下で繰り広げられる殺戮劇を見せつけられたジンのパイロットは、
重突撃機銃を銃弾の雨が吐き出される場所に叩き込む。

76㎜弾数発を受け、そこに放置されていたスカイデストロイヤー対空自走砲は大破した。

「対空戦車か?!」
スカイデストロイヤーは、穴だらけにされ、黒焦げの残骸になっていたが、ぼろ屑のようになった防盾で、辛うじて判別できた。

彼は、市内で最初に敵を撃破するという武勲を立てた。
そして同時に彼を援護する筈だった歩兵部隊を喪失していた。少し前に突入し、壊滅したバルク小隊の様に…

「無事か!?」指揮官からの通信が入った。

「中隊長、生き残っているのは私だけであります!」
そう返答したジンのパイロットの声は半ば涙声であった。

「ヨセフ後退しろ!近くのカーンの斑と合流するんだ」
次の瞬間、ジンのメインカメラが砕け、正面モニターは、白黒の砂嵐に覆われた。


「何!」
直後、周辺の廃墟から地球連合兵が携帯型対戦車ミサイル等の火器で一斉に攻撃を仕掛けた。
流石にNJによる電波障害の下であった為、外れ弾も多く、
命中してもリニアガンをも弾くジンの分厚い装甲に弾き返されるか、
あるいは表面で爆発してダメージを与える程度でジンを撃破するには至らない。

対するジンはメインカメラを破壊されるという、人間でいえば半ば視覚を失った様な状態であったが、
戦車を撃破可能な火力は健在だった。
重突撃機銃を受けた不運な陣地の一つが砕けた。

爆炎が生まれ、同時に人体の部品と瞬間硬化剤で固められていたコンクリート片が盛大に飛び散る。
ジンは、損傷で戦闘能力を半減させられながらも後退を開始した。

いつもならば、機体各部のサブカメラに切り替えて戦闘を継続していたが、
バルク小隊の末路を知っていたこともあり、渋々ながら、上官の命令に従った。

「ちっ、仕留め損ねたか」
狙撃用のポイントの1つであるビルで対物ライフルを構えるアンジェリカは舌打ちした。
先程のジンのメインカメラを破壊した一撃は、彼女によるものであった。

「ん?」その時、ジンの左脚部にミサイルが着弾した。
関節部を狙ったその一撃は、ジンの左脚部を見事に機能不全に追い込んでいた。

片足を鉄屑に変えられたジンは、バランスを崩して隣接する住居を巻き込み、土煙を巻き上げて倒れ込んだ。


その攻撃は、ジンの周囲の廃墟に隠れていたハンスのゴライアスが放った対戦車ミサイルであった。
彼のゴライアスの周囲には、数機部下のゴライアスの姿もあった。

「敵の攻撃!どこからだっ」ジンのパイロットは、予想外の事態に慌てる。
間髪入れず、ゴライアスの放ったミサイルが、ジンの重突撃機銃を破壊した。

しかし彼は、パニックを起こしてコックピットから敵が待ち受ける外界に出るという愚を起すことなく、
上官に連絡を入れた。

「ケヴィン中隊長!こちら5番機行動不能!支援を!敵に包囲されています。」
「くっ!こちら1番機支援要請には、応えられない!上空に信号弾を撃て!
カッセル隊が砲撃支援してくれる!」
同じ頃、別の地区で地球連合軍部隊と交戦していたケヴィンの班は、
支援を送れるような状態ではなかった。

「…畜生が!」ジンのパイロットは、悪態を付きつつ、自機の信号弾発射装置のボタンを押した。
信号弾がジンの胴体から放たれ、空中に黄色い煙が上がる。

「総員!ジンから離れろ!砲撃が来るぞ!」一方、敵の意図を察したハンスがそう叫ぶや否や、
ゴライアスも、歩兵部隊も、廃墟や、地下への入り口に向けて雪崩を打って後退する。

その最中、連絡を受けたカッセル軽砲小隊指揮下のリニア自走榴弾砲とザウートからの砲撃が降り注いだ。

撃ち込まれた砲弾は、徹甲弾ではなく、榴弾、それも空中で炸裂するタイプのもので、
目標近くにいるジンとパイロットにダメージをなるべく与えないようにするための配慮であった。


空中で次々と爆発が起こり、降り注いだ破片と爆炎が、下の地面に存在するものを薙ぎ払い、焼き尽くした。
高温の炎が、逃げ遅れた連合兵と、地面にこびり付いたザフト兵の残骸を焼きつくし、爆風が瓦礫を吹き飛ばした。

「ナチュラル共め…これで…」
爆風が晴れ、周囲の惨状を眺めていたジンのパイロットの顔には、
凶悪な笑みが浮かんでいた。
自分の命を脅かしていた敵は既に跡形もなく消し飛び、自分は生き残ることができた…彼の心を満足と安堵が包み込もうとしたその直後、その映像を黒い影が遮った。

そこには、倒れ込んだジンの胸部に乗る大西洋連邦製のパワードスーツ ゴライアスの姿が映し出されていた。

「ば、ばけも…」
「止めだ…」
次の瞬間、ハンスのゴライアスは、左手に握りしめた対戦車地雷を、ジンの胸部に置くと、即座にロケットブースターを併用した跳躍後退を行い、ジンから距離を取る。

ゴライアスがヒビ割れたコンクリートの上に着地すると同時に、対戦車地雷は爆発し、ジンのコックピットハッチを吹き飛ばした。

続いて、別のゴライアスが、グレネード弾をむき出しの操縦席に叩き込んだ。
少し遅れて、ジンの胴体に穿たれた裂け目からオレンジ色の火柱が上がった。

「畜生!また装甲車がやられたぞ」
「ラバロ!、ラバロが撃たれた!」
「こちらアンリエッタ歩兵中隊、支援を要請します!」
市内で行動中のザフト歩兵部隊は、地球連合軍の歩兵部隊にモビルスーツと車両の支援がありながらも苦戦を余儀なくされていた。

いかに訓練を受け、遺伝子操作により、優れた身体能力を持つコーディネイターで構成されているとはいえ、市内の構造に詳しく、市内に潜伏している地球連合軍の兵士を全滅させるのは容易ではなかった。
地球連合軍がザフトの歩兵を優先して攻撃していることもその一因にあった。

指揮官であるハンスは、ザフトがモビルスーツ偏重の編成であることから、まず歩兵、戦闘車両を優先して攻撃することで、対モビルスーツ攻撃の成功率を挙げようとしていたのである。
かつて、西暦の頃、戦車が陸戦兵器の王であった頃、歩兵による対戦車戦闘において戦車を援護する敵歩兵の排除がまず行われたことから、それを対モビルスーツ戦にも応用したのである。

中隊長であるケヴィンの率いる班は、指揮官であるケヴィンのジンと部下のジンの2機、ザフト軍兵員輸送車3両と歩兵部隊で構成されていた。

廃墟の合間から、対戦車ミサイルが発射され、ケヴィンのジンの胸部にミサイルが着弾する。装甲車両の装甲を貫く威力を持つその一撃は、ジンの胸部に追加装備された爆発反応装甲が防いだ。

「隊長、敵は、右の廃ビルの3階に!」
「そこか!」
友軍の兵員輸送車からの報告を受け、ケヴィンは即座に報復の一撃を放った。
コックピットの彼が、スイッチを押すと同時にジンの右腕に装備された重突撃機銃が発射され、76㎜弾が廃ビルに次々と叩きつけられた。

轟音を立てて廃ビルは崩壊し、其処に潜伏していた連合兵達を押し潰した。

兵員輸送車から降りたザフト歩兵が周囲に潜伏する敵を掃討するべく、廃墟に突進する。
窓際や砲撃によって開けられた穴から連合兵が彼らを銃撃する。

ザフト兵達は、即座に走り、廃墟の中や壁へと逃れようとするが、一部が被弾し、絶叫を上げて倒れる。
あるザフト兵は、膝を撃ち抜かれた同僚を助けようと足を止めた。
その直後、重機関銃の銃弾の嵐を浴びて彼は、戦友の隣に崩れ落ちた。

兵員輸送車の車体上部に搭載された20㎜銃座が即席の火点に銃撃を浴びせた。
次々と火点が制圧され、その隙にザフト兵が、連合兵の立て篭もる廃墟に迫る。


彼らの〝活躍〟は、敵手たる地球連合軍部隊にも脅威を感じさせた。

「ハンス大尉、14地区の部隊から応援要請、押されてるみたいです。」
「パドリオ!どんな機体か情報は?」
「敵の戦力はジン2機、兵員輸送車3両、歩兵50とのことです。
またジンの1機は、頭頂部アンテナが大型化されているカスタム型です。」

「角のでかいジン…偵察隊が言ってた最初に市内に入ってきた機体か。」
恐らくそいつが指揮官機…ハンスは、敵の機体が通信能力を強化されているという点、部隊の先頭に立って向かってきたという情報から、その機体が市内のザフト部隊の指揮官機であると推測した。

「わかった。恐らく指揮官が率いている部隊だ。俺の隊が攻撃する。」
「隊長、どうするんで?流石に敵も、馬鹿じゃない。
生半可な待ち伏せや作戦じゃ返り討ちに遭いかねませんよ」
「安心しろ、策はある。各員作戦は、〝チェーンスモーカー〟でいく」
「「「「了解」」」」

指揮官たるハンスのゴライアスを先頭にゴライアス部隊は、進軍した。
周囲にいた歩兵部隊も、それぞれの戦場に向かうべく、地下への入り口へと向かう。


穴だらけの道路…それも無数の瓦礫や車の残骸、オレンジ色の炎を上げる可燃物といった障害物が転がる中、
機械仕掛けの甲冑たちは、人間を遥かに超える速度で進む。

ゴライアスには、別のタイプの地球連合の使用する軍用パワードスーツ グティ 雷電と同様にローラーダッシュ装置が装備されている。
しかし、この時、障害物と、穴だらけの道路の状態から、ハンス以下ゴライアスの着用者達は、人工筋肉による通常走行で、移動していたのである。

「もうすぐ、14区だ!作戦通りにいくぞ!」
「「「「了解!」」」」
ゴライアス部隊は、一斉に駆けだした。
人工筋肉の独特の駆動音が着用者の耳に響いた。
まるで人間の心臓の鼓動の様だ…ふとハンスはそんなことを思った。

すぐにその考えを振り捨て、目の前の敵と任務に集中する。


「これで最後か?他の味方と合流…」
「ケヴィン中隊長!敵が出てきました!」僚機のジンのパイロットが叫ぶ。
同時に正面モニターに、地球連合側のパワードスーツ ゴライアス数機が映し出される。

その先頭を行くのは、指揮官であるハンスのゴライアスである。
ハンスのゴライアスは、右腕の20㎜チェーンガンを連射した。

操縦席を撃ち抜かれ、車内の弾薬に銃撃を浴びた兵員輸送車が爆散した。
「敵の増援か、次から次へと!」
ケヴィンは、ジンの重突撃機銃でゴライアス部隊を迎撃する。
彼の僚機もそれに続く。
即座にゴライアス部隊は、散開し、林立する廃墟の谷間に隠れる。

同時にハンスのゴライアスは信号弾を撃ち上げた。

撃ち上げられた信号弾は上空で爆発する。

「信号弾だと?何のつもりだ?」

ケヴィンは怪訝な顔をした。
次の瞬間、無数の砲弾が彼らの元に降り注いだ。

「なに?!」
 
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