もう一人の八神
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新暦79年
覇王襲来
memory:29 想い
-side 悠莉-
「お邪魔しまーす」
「ただいま……と言っても、私ら以外誰もいないけどな」
「そうなのか? まあ一応だ、一応」
学校終了後、ライを連れて自宅へと直行した私は、玄関を開けてすぐさま、ライとそんなやり取りをする。
「ところでザフィーラさんやイクスはどうしたんだ? 今日は道場があるはずだし普通ならいるはずなんだろ?」
「ヴィータもな。三人とも中央街の方に行ってるさ。たまには場所を変えて練習したいと誰かが言ってな、向こうのジムか公民館を借りて練習をやってるらしい。ほれ」
「なーるほど。ま、こっちばっかだろうし、偶にはそういうのもいいかもな。練習場所は海岸ばかりだったし、新鮮味が出て楽しめるだろ。っと、サンキュー」
冷蔵庫から適当な飲み物を投げ渡し、ライ と同じようにソファーに腰かけた。
ミウラを始めとした出場候補の人数を指を折って数える。
「そういや今年のインターミドル、道場から誰か出場すんのか?」
「確かミウラ入れて五人だったかな? ザフィーラやシグナムやヴィータが本人たちとの面談で最終決定するとか」
インターミドル。
正式にはディメンジョン・スポーツ・アクティビティ・アソシエイション公式試合インターミドル・チャンピオンシップ。
各地区ごとで地区選考会、地区予選、都市本選が行われ、それらを勝ち抜いたが者が世界代表へと出場し、世界最強の十代を決める魔法戦技術を競い合う競技大会。
参加者の中にはプロや格闘家へと進む人も少なくはなく、毎年数人は転身しているとか。
「ふーん。ミウラっちゃん、インターミドルに出たいと言ってたし道場の中でもズバ抜けてるから出場確実か」
「そうだろうな。みんなが認める八神道場のエースと言っても過言ではないし、実力もザーフィーラたちのお墨付き」
「勝ち越してるとはいえ少なからず俺も負けるしな。つか、ミウラっちゃんの動きや技、ユウを参考にしてる上に攻め方がエグ過ぎて、相手にすると俺としては辛くてしょうがない」
「一撃一撃が重いうえに受ければ受けるだけ体にダメージが溜まってくるしな」
数日前にインターミドルを見越してか、道場の練習メニューとして真剣勝負をやった。
で、その時にライがミウラと闘ったのだが、結果はミウラがライに初白星を付けた。
これには驚いた。
善戦はするものの、いつもあと一歩が届かず負けてしまっていたのだがその時は違っていた。
最後までライに食いつき、最後の最後ミウラが得意とする距離にライを誘い込み必殺の収束打撃を叩き込んだ。
その情景を思い出してるライは無意識なのか腹を擦りだすのを見て苦笑いした。
「あの時はマジでやばかった。シミュレート解いても体がなかなか動かなかったしな」
「あの一撃が入る前も結構な量のダメージが溜まってたんだし、逆にその程度で済んでよかったんじゃないのか?」
「……お前の場合はホント容赦ないからな」
「失礼な。ライを認めてるからある程度本気でやってるんだ。それとも何か? 本気ではなく遊びの中でやれと? それにお前だって俺が本気じゃないだろうに」
図星のようで「うぐっ……」と押し黙るライ。
「そ、それよりもだ!」
「……話変えやがった」
私の言葉をスルーして尚も続ける。
「例の物はどうなってんだ?」
そんなライに呆れながらもソファーから腰を上げる。
「心配するな。学校で言った通りアレならちゃんと用意できてる。部屋から持ってくるからちょっと待ってろ」
部屋へと入り机の上にある茶封筒を手に取る。
中身は不明でライに渡すように頼まれたもの。
「ライ、これでよかったのか?」
受け取ると軽く目を通して中身を確認するライに首を捻る。
文字やグラフが見えるから何かの資料か?
それにしてもなんで姉さんがライにこんなものを?
「……ああ。頼んでたやつに間違いない。ありがとな」
「別に。姉さんから預かってただけだし。……ところでなんなんだそれ?」
「身体強化魔法についての資料。この前リンちっちに身体強化魔法について詳しくかつ分かりやすい資料があるかどうか聞いてみたんだ」
「身体強化魔法ね……」
「その時口頭で教えてくれたりリトにデータ送ってくれたんだが、後日わかりやすくまとめたやつをくれると言ってくれて」
「で、それが今言ってたやつか。それにしても急に身体強化魔法なんてどうしたんだ?」
「あー…その、なんだ。特に理由ないんだが……」
何を言いにくそうにしてるんだ?
あさっての方向にそっぽ向いて頬を掻く。
疚しいことでもあるのかと思って見るが、その顔から読み取れるのはそんなものではなく恥ずかしさだろうか?
「まあいいや、深くは聞かない。……後々わかる気がするし」
そう結論付けてライに聞き出すことをあきらめた。
夕方になるとライは自宅へと帰り、それと入れ違いになるように道場の練習からイクスたちが帰ってきた。
「ただいま帰りました」
「お帰りイクス、ザフィーラ。あれ? ところでヴィータは?」
「ミウラのランニングに付き合うそうだ。しばらく帰ってこんだろ」
「ん、りょーかい」
それからしばらくして夕飯の準備に取り掛かる。
手元の野菜をリズム良く軽快に切っているとイクスがやってきた。
しかしその顔はいつもと違い元気がなかった。
「どうしたのイクス」
「あ、え? あれ? 悠莉?」
どうやら無意識でここまで来たらしい。
その証拠に本人まで戸惑っている。
少し落ち着くまで待って話を聞いてみた。
「ヴィヴィオの元気がなかった?」
原因はどうやらイクス自身ではなくヴィヴィオのことが気になっていたかららしい。
道場の練習が終わって帰っている途中に偶然見かけたようで、
「帰ってる途中にリオやコロナたちといるのを見つけたので声をかけようとしたんですけど……」
「様子がおかしかったから声をかけれなかったと」
「はい」
コクンと頷いた。
ヴィヴィオに元気がない、か……いつも笑顔でいるのから気になるな。
「悠莉、こういう時、どうしたらいいんでしょうか」
「そだねー……」
リオたちもいたってことはノーヴェさんとストライクアーツの練習かな? 練習中に何かあったのかそれとも……そういえば、ノーヴェさんがあの覇王っ子とヴィヴィオに会わせるとかどうとか言ってたような……
本人に聞くのが一番なんだろうけど、ヴィヴィオのことだから聞いても笑って誤魔化したりで変に気を使うだろうし。
こういう時、内に溜め込まないで外に出してくれればいいんだけど、そうはいかないよね。
「……今はそっとしてあげた方がいいかもね」
「ですが……」
「大丈夫。ヴィヴィオなりに頭ん中整理したらいつも通りの元気なヴィヴィオに戻るさ」
「ホントですか?」
「だてに何年もヴィヴィオの友達名乗ってないよ」
「……わかりました」
「イクスももっとヴィヴィオのことを知っていけばきっとわかるよ」
頷いたけどまだ心配そうな顔のイクスの頭に触れた。
「悠莉は、どうしてヴィヴィオが元気がなかったのか、知ってたりするんですか?」
「……どうして?」
「なんとなくそんな気がして」
「知らないよ。でも予想がつくってだけだよ。ヴィヴィオが落ち込む理由で真っ先に思いつくのが自分が大切にしているものや一生懸命にしていることを否定されること。今回なら誰かに自分のやるストライクアーツを否定されたんじゃないの?」
「……それじゃあいったい誰が……」
「さあ? そこまではわかんないよ。でもこれはあくまで予想なんだからあんまり真に受けないでよ」
「ゆ、悠莉、髪がくしゃくしゃになります」
イクスを荒く撫で、この話題を無理やり打ち切った。
-side end-
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