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真田十勇士

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巻ノ七十三 離れる人心その六

「その石高、官位だけでなく」
「ご資質もな」
「無類の戦上手にして政も見事」
「ご領地をよく治めてもおられるな」
「はい」
 このことにも頷く幸村だった。
「非常に」
「そうしたものを見るとな」
「まさか」
「天下泰平の為にはな」
「徳川殿がですか」
「そうも考える」
 再び瞑目してだ、大谷は幸村に話した。
「わしはな」
「左様ですか」
「徳川殿は律儀な方」
 この律儀さでも有名だ。
「お拾様も無下にはしない、ただ」
「ただ、とは」
「茶々様はそこを認められぬが」
 次の天下人は我が子であるとあくまで言うというのだ、大谷は茶々がそう言うことを既に読んでいるのだ。
「しかしじゃ」
「茶々様は」
「わし等が何とかお止めすれば」
「それで、ですか」
「何とかなるからな」
「では」
「お拾様で天下がまとまらぬのなら」
 そうとしか思えない場合はというのだ。
「わしもな」
「内府殿がですか」
「天下人になられることもじゃ」
「あるとですか」
「思いだしておる」
「あの方ならば」
「その際多少強引なことになろうとも」
 家康の動き、それがだ。
「血生臭くない限りはな」
「よいですか」
「内府殿は血は好まぬ方でもある」
 残忍無道、家康と最も縁遠い言葉の一つだ。
「ならばな」
「よいですか」
「そうも思っておる、とかくな」
「これからの天下は」
「豊臣家で足りぬのなら」
 それならばというのだ。
「あの方でもな」
「よいですか」
「天下が泰平でなければ」
「苦しむのは民です」
「そうじゃ」 
 まさにとだ、大谷は幸村の言葉に頷いた。
「それはな」
「だからですな」
「わしはそれでもよいと思っておる、しかしな」
「治部殿jは」
「あ奴は無類の頑固者じゃ」
 石田についても言うのだった。
「だからな」
「そうしたお考えはですな」
「出来ぬ」 
 石田、彼はというのだ。
「あ奴は真っ直ぐ過ぎる」
「潔癖ですな」
「清廉潔白じゃ」
 まさにというのだ。
「それはよいことじゃが」
「それが過ぎるのですな」
「清濁どころかその濁は一点たりともじゃ」 
「認められぬからこそ」
「だからな」
「豊臣家にですか」
「何があろうともじゃ」
 それこそ天地がひっくり返ってもというのだ。
「あ奴は豊臣家に忠義を尽くしてな」
「それが変わることはありませんか」
「幼き頃に寺の小僧から太閤様に見出されてな」 
 秀吉が寺に入った時に三杯の茶をそれぞれ量と濃さ、熱さを変えて出して振る舞いその知恵を買われて召抱えられてだ、秀吉に深く恩を感じているのだ。 
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