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真田十勇士

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巻ノ七十三 離れる人心その五

「所詮は」
「ですからそうしたものはです」
「最初から求めておりませぬ」
「求めるものは殿と同じです」
「有り難い、ではこれからな」
 あらためて言う幸村だった。
「共に稽古をしようぞ」
「稽古ですか」
「それをですか」
「これよりですか」
「しますか」
「今日も共に汗を長そう」 
 こう言うのだった。
「是非な」
「義兄弟として」
「そのうえで」
「そうじゃ、今日もな」
 自ら立ってだった、幸村は十勇士達を稽古に誘った。屋敷に揃っている時に毎日行っているそれにである。
「そうしようぞ」
「はい、では」
「今日もそうしましょう」
「剣術に忍術にと」
「何かと」
「ではな」
 幸村は主従で鍛錬を行った、彼は如何なる時でもそれを怠ってはいなかった。そうして心身を共に鍛えていた。 
 彼は秀次が世を去ってからも表向きは平静だった、しかし。
 天下の話を聞いてだ、都に来ていた彼の義父である大谷にこう言った。
「どうも都でも」
「関白様のことでか」
「はい、太閤様をです」
「そうであろうな」 
 大谷は幸村の言葉を聞いて頭巾から見えている目を閉じて言った、既に左目は眼帯で覆われ右目だけとなっている。
「どうしてもな」
「あの件は」
「民達がそう思ってもじゃ」
「致し方ないことですか」
「言葉には出さずともじゃ」
「心では」
「違う」
 そうなっているというのだ。
「人心は間違いなくな」
「そうなっていますな」
「この状況はまずい」
 大谷は言った。
「非常にな」
「やはりそうですな」
「何とかもう一度民の心を取り戻したいが」
「ではどうされますか」
「政の失態は政でしか取り返せぬ」
「それでは」
「民の為になる政をしてな」 
 そうしてというのだ。
「人心を取り戻すとしよう」
「それでは」
「うむ、そしてな」
「そしてとは」
「内府殿じゃが」
 家康のこともだ、大谷は幸村に言った。
「どう思われるか」
「あの方ですか」
「そうじゃ、御主の家は以前あの御仁と戦をしたが」
「はい、武田家にお仕えしていた時も」
「何かと争ってはきたな」
「立場を変えて」
 真田家から見てだ、武田家に仕えていた時も武田家が滅んでからもだ、徳川家とは確かに何度も干戈を交えている。
「そうしてきました」
「しかしどうした御仁だと思うか」
 家康、彼自身はだ。
「御主は」
「天下でも太閤様を除けば」
「まさにじゃな」
「第一の方かと」
 家康、彼はというのだ。 
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