ガンダムビルドファイターズ ~orbit~
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未来へのミチシルベ 中編
「レイ少年の原因には心当たりがある。一つはあの日の事件。もう一つは、最後に話そう。皆は、あの日の事件についてどこまで聞いた? 」
「カグラ レイ以外は死に、その日は親子行事だったっと聞いた」
「そう。だが、なぜレイ少年は生き残れた?レイ少年は命に関わるほどの病気を患いながらも、どうやって生き残った? 」
どうって……………俺も治ったってしか聞いてねぇぞ。
「そういえば、カグラから聞いたね。なんかもう治ったらしいっては言ってたけど」
「てか、まずなんの病気だったんだカグラ? 」
「俺も知らねぇな…………レイナ。お前はなんか知ってんのか? 」
レイナに顔を向けて聞くと、少し暗い表情をしている。
「…………病名は聞いてませんが、治療法だけは知ってます。そして、レイ君が薬を飲まなければいけない理由も……」
「レイナさん、カグラ君が飲んでる薬ってなんなんですか? 」
「シクロスポリンを飲んでいるんだ。レイ少年は」
「「「「「「シクロスポリン? 」」」」」」
その単語に、俺達は一斉に聞き返した。
「って待て待て!なんでカグラまでわかんねーんだよ!? 」
「飲めとしか言われてねぇんだよ!悪いかよ! 」
「静かに。別室とはいえ、ここは病院だ。あまり騒がないようにしてくれ」
「「すいません………」」
くそっ。ヒメラギのせいで俺まで怒られたじゃねぇか。
「さて、では続きを言おう。彼女のおかけで話しやすくなった。シクロスポリンは、臓器移植における拒絶反応の抑制剤として用いられる事もある」
「……………臓器、移植……? 」
俺は思わず聞き返した。だって、そりゃ、自分が臓器移植されてるって聞けば、多少動揺するだろ。
「そうだ。腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植、骨髄移植などがある。そして、レイ少年の病気は…………
突発性拡張型心筋症だ。つまり、レイナさんも知っており、行われた治療法は…………」
「心移植…………」
心移植の単語に、レイナとタカナシ院長以外は驚きの表情をしていた。
「レイ少年、君の心臓は、君の心臓ではない。そして、問題はドナーだ。どうしてドナーが見つかったと思う?君はいつ、突発性拡張型心筋症が治っていた? 」
「…………なるほどね。ドナーは、あの日の事件にいたってこと。そして、カグラは病院に運ばれた時に、心臓移植を行われた」
俺の代わりに、アキザワが答えた。冷静に答えているが、動揺が隠せていない。
「正解だ。実際に、レイ少年は手遅れの状態だった。だが、この病院まで命をとりとめ、身近に適性値が異常に高いドナーがいた。奇跡的に生き残ったんだ。そして、問題はこのあとだ」
そう言うと、一つ咳払いをする。
「突発性拡張型心筋症の発病。事件で親や友人を亡くす。そして、心移植による身体へのストレス。これが一気に重なり、レイ少年は無意識に心のダメージを回避しようとした。それにより、解離性同一障害になったのだと思う。
それだけではない。レイナさんが言っていた、レイ少年らしくない言動や行動が起きた原因は、同じく心のダメージを回避しようとした結果、別の人格が生まれたんだ」
タカナシ院長の言葉に、俺達は息を飲む。俺は自分の胸に手を当て、鼓動が速く打っているのを感じる。
「俺の、いや………………この心臓のドナーの、名前を教えてくれ」
「…………少し待ってくれ」
そう言うと、資料らしきものが纏められていた紙の山から探し出す。
「あったぞ。君の心臓のドナーの名前は、レイエン ユキヤだ」
「レイエン ユキヤ…………」
それが、この心臓の持ち主………………。
「これで、レイ少年について知っていることは終わりだ。何か質問はあるか? 」
「あっ、じゃあちょっといいスか? 」
ヒメラギが手を上げ言ってきた。
「なんだ? 」
「その事件の犯人って、結局誰なんスか? 」
その言葉に、タカナシ院長は眉をピクッと反応した。
「…………私も詳しくは知らない。だが、レイ少年だけが生き残ったが、レイ少年が犯人ではないことは確かだ。そして、残念ながらこの件に関しては公にされていない。私にも調べようはない」
「そうッスか…………いや、わざわざどもっす」
「いや、大丈夫だ。他に、質問がある者はいるか? 」
今度はアマネが手を上げ、質問した。
「あの…………どうすれば、カグラ君の解離性同一障害が治るんですか? 」
「申し上げにくいが、解離性同一障害は簡単に治るものじゃない。なぜなら、それはもはや一人の人格として存在してしまっているからだ。
その人格も、レイ少年を形作っている。その人格を消すと言うのは、極めて困難だ。存在そのものが消えると同義だからな。そして、その人格が無くなれば、自然と今の人格も崩れる危険性がある」
「そんな…………」
「だが、だからと言って方法がないわけではない。受け止めるんだ。レイ少年も、ここにいる皆も。解離性同一障害とはいえ、精神病の一種だ。回りの環境も良くなれば、自然と良くなっていく」
「っ───はい! 」
アマネは力強く返事をし、一瞬だけ俺の事を見てきた。
「さて…………レイ少年の症状も、事件の事も、そして治療法も話した。他に聞きたいことはあるか? 」
「いや、もう充分だ。ありがとう、タカナシ先生」
「気にする必要はない。これも君達子供達の、未来のためだ。私達大人は、そのミチシルベを示すのが役割だ」
「カッケーなこの先生っ!? 」
「では、本日はありがとうございました」
「邪魔をした」
「失礼しました」
「ありがとうございました」
「おジャマしました」
「よし、じゃあ帰るか」
「無視かよっ!? 」
ーーー--
「ん?お帰り~。どうだった? 」
病院を出て駐車場に行くと、自分の車に寄りかかっているハルカゼが手をヒラヒラと振っていた。
「聞くぐらいなら来ればよかったろ」
「いや~。流石にただのコーチが相席するのはマズイと思ってね。んで、話せる範囲で教えてもらえないかな~って」
「あっそ。じゃあ、移動しながら教えてやるよ」
「オーケー。じゃあ、乗りなボウズ共」
自分の車に向けて親指を指して言われたが、俺達は無視して二つの車に別れる。それに対し、ハルカゼは棒読みの笑いをしながら運転席に座る。
ひとまず孤児院に向かうことになり、移動最中にさっき話した事を教える。
「なるほどね~。いやー、流石メガネ君。薬見ただけで分かってるなんて」
と、呑気な事を言い出した。
「なんの話しだよ? 」
「こっちの話しだよ」
「と言うか、ハルカゼコーチはあんまり驚いてねーな」
「多少は驚いたよ?まあ、ガンダム的にはありじゃないかな~って受け入れただけ」
「そういうものなんですか……」
「そういうものだよ。それで、これからどうするの?大会は敗退し、やることもない。レイ君は、ひとまず自分自身を安定させる必要もある。それらを踏まえて、これからどうするの? 」
「どうって…………」
「どうすんだろーな」
「そんなのすぐに決められるわけねぇだろ」
「アハハハハ。そう?じゃあ一つ相談だけど、レイ君。君の別人格と戦ってみない? 」
その言葉に、俺達は反応する。
「それって、どういう意味だよ? 」
「言葉のままだけど?もちろん、精神的にじゃなく、現実で」
「戦うって、どうやってなんですか? 」
「…………ガンプラバトルでだよ。で、どうする?別に強制はしないけど、別人格に打ち克てば、少なくとも自分自身を制御出来るはずだよ」
「ガンプラバトルでって…………カグラ君の別人格ってことは、暴走した際のログをコンピューターで再現して戦うってわけですか? 」
「あー…………まあそう考えるよね。けど、それとは違うやり方だよ。で、どうするのレイ君?選択権は君にあるよ」
車は信号で止まり、ハルカゼはこちらを見て返事を待っている。
「………………分かった。やってやる」
「よし。じゃあこっちも準備を進めるよ。今週の日曜日にやるから、予定を空けといてね」
ハルカゼは頷き、青信号になったため前を向き、再び車を走らせる。
「そういや、どこでやるんスか? 」
「僕の研究所~」
「「「…………研究所っ!? 」」」
ーーー--
「まさか、コーチが研究員だったなんてね」
「世の中何があっかわかんねーな」
「フシギでいっぱい……」
翌日の学校の昼休み、弁当を食べつつ昨日の話をする。
『そっちにも準備をしてもらいたいから、アマネさん。アルケオニスを二機用意しといて。あっ、片方のカラーリングは変えといてね』
と、ハルカゼは最後に言っていた。
「てか、なんの研究所ってのも言ってねぇよな」
「ガンプラバトルって言ってたし、多分ガンプラバトル研究所でしょ?コーチもガンプラバカだし」
「それ貶してねぇか? 」
「誉め言葉よ」
「マヒル…………ガンプラ、ニタイツクるのダイジョウブ? 」
ちょうど弁当を食べ終えたセシリアは、心配そうな表情で聞いた。
「大丈夫よ。予備パーツもいくつかあったから、日曜日には間に合うはず」
「…………コンをツめすぎないようにしてね」
「分かってるわよ」
「にしても、セシリアちゃんも大分日本語に慣れてきたなー。まだカタカナのところがあっけど」
「イエでニホンゴのレンシュウはしてるから…………ナせばナる、ナさねばナらぬナニゴトも、ってコトバがある」
「…………おいカグラ!意味を教えろ! 」
なんで俺に聞くんだよ。意味知らねぇのか?少しはセシリアを見習えよ。
「セシリアを見習えよ、この馬鹿」
「ひでーな!? 」
罵倒もプラスして口に出てしまった。まあヒメラギだからいいか。
為せば成る、為さねば成らぬ何事も…………できそうもないことでも、その気になってやり通せばできるということ。
どんなことでも強い意志を持ってやれば必ず成就するということで、やる気の大切さを説いた言葉だ。
「…………まあ、なんとなくで知ってればいいか。てかセシリア。それ日本語であっても、使う機会とかそうそうないからな」
「…………でも、なんとなくスき」
「あー…………そうか」
この言葉の意味はかなり前向きに捉えられている。そう思うのは仕方ないか。
ーーー--
電話帳を開き、ある人物へと電話をかける。
「へいへいメガネ君。今暇かい? 」
『お前に構ってるほど暇じゃない。じゃ、切るぞ』
「待って待って!普通に真面目な話だから! 」
『たくっ…………なんだよ?手短に話せよ。こっちは休憩中なんだから』
「了解了解。今週の日曜日、試作中のものを試すから助っ人に来て」
『断る。お前達でなんとかしろよ』
「やるのはレイ君。本人の同意も得てる。システムに何が起こるか分からないから、助っ人を頼みたいんだよ」
『…………お前、一歩間違えば人体実験になるぞ』
「分かってるよ。けど、僕も一度だけやったし、そうならない為に来てほしい」
『…………あー、分かった分かった。今週の日曜日な。場所はお前の研究所でいいのか? 』
「うん。じゃあよろしく」
電話を切り、試作中のシステムへと目を向ける。
「…………蛇が出るか蛇が出るか……」
「それどっちも同じですよ」
「君は相変わらずナイーブだな~」
と、試作システムの作業をしているウスイ君を笑いながら一瞥し、すぐに作業に専念する。
「さて、やりますか…………」
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