ガンダムビルドファイターズ ~orbit~
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未来へのミチシルベ 中編2
ーーー--
「…………よし。行くか」
玄関で靴を履き、鞄を背負ってドアノブに手をかける。
「レイ君」
後ろから声をかけられ、顔をだけ振り返る。
「あまり無茶をしないようにしてくださいね」
「分かってる。んじゃ、行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」
ドアノブを捻り、扉を引いて外に出る。孤児院の外へと視線を向けると、二人の人影が見えた。
「なんで家の前にいんだよ?アマネ、セシリア」
「どうせ行き道は同じでしょ?それに、ギリギリで来られても困るし」
「………イッショにいきたかった」
「そうかよ」
それだけ言って孤児院を出て、何事もないように歩く。その背中に、二人がついてくるのが分かった。会話をすることは無く、ただ黙って集合場所へと向かう。
「おっ?おーい、こっちだぜー」
「やっと来たか」
「これで全員来たけど、ハルカゼさんはまだだね」
集合場所…………天之川学園の校門前に、俺達は集まった。
「時間まであと十分…………少し緊張するね」
「なんでお前が緊張してんだよ? 」
「部長の気持ちは分かるわ。だって、一介の高校生が研究所…………それもガンプラバトル関連。この機会はめったにないわ」
「そーいうものなのか?じゃあサクラ先輩は? 」
「…………多少はな」
「セシリアちゃんは? 」
「タノしみ……」
「カグラは? 」
「なんで一人ずつ聞いてきてんだよ? 」
「いいから答えろって。ちなみに俺は、ワクワクしてるぜ? 」
「お前のは誰も聞いてねぇよ。それより、ハルカゼが来たっぽいぞ」
道路の奥を見つめると、ハルカゼが乗っていた車と同じものが、こちらに走ってきている。そして俺達の前で止まると、後ろからもう一台車が止まる。
「お待たせ~。早速だけど乗って」
「乗ってって…………後ろの車は誰が運転してるんですか? 」
「俺だよ」
車の窓が開くと、運転席にサオトメが座っていた。
「前にいる車オンチに頼まれてな。まあ、移動するのに六人も乗れないし、飯を奢ってもらうで妥協した」
「ちょっと待って!?それ初耳なんだけど!? 」
「うるせい。俺の貴重な休日潰してんだから、それぐらいしろ」
「え~? 」
ハルカゼとの会話を聞いていると、サオトメと目が合う。そして数秒すると、何か納得したのか、前を向いて小さく頷いた。
「とりあえず乗れよ。カグラは俺の車な」
「拒否権はねぇのかよ。ハルカゼよりはマシなんだろうな? 」
「当たり前だろ? 」
「二人して酷くない!? 」
と、茶番は終わりにし、俺、アマネ、セシリアはサオトメ。ヒメラギ、アキザワ、サクラはハルカゼの車に乗った。
車は走りだし、目的地に着くまで外の景色に顔を向ける。
「それで、あのあとはどうなったんだ? 」
少しすると、急に聞いてきた。
「あのあとって、大会の後か? 」
「そうだ」
「…………まあ、色々あって、皆で帰った」
つい先週の事を思いだし、あまり話したくないので、詳しい事は省いて答える。なぜって?恥ずかしいからに決まってんだろ。
「やっぱり、最終的にはそうなったんだな。じゃあ、お前の心臓は別の人の心臓ってのは分かったんだな? 」
「…………知ってんのかよ。ハルカゼから聞いたのか? 」
「いや、薬を見せてもらった時に気づいた」
それであの反応だったわけか。
「事実を知っても、目を背けなかったんだな? 」
「…………まあな」
「いや、アンタかなりの時間逃げてたわよ」
「サガすのタイヘンだった……」
待て。ここでそんなことを言うのかよ?鬼かお前達?そんでセシリア。お前はなんとなくで着いただけだよな?
「たくっ、カッコつけてんじゃないわよ」
「うるせえよ。あん時はしょうがねぇだろ」
「どうだか?それともなに?アンタはメンタルが弱いってわけ? 」
「んなわけねぇだろ。お前こそ、誘拐された時に俺の事を呼んでたじゃねぇか。お前の方こそ、案外弱いんじゃねぇのか? 」
「っ!…………へー?そんなことを言うよね?いいわ。明日覚悟しときなさい」
「お前は何をする気なんだよ!? 」
「フタリトモ…………オちツいて」
セシリアが仲介に入ったことで、この話は終わった。
「ひとまず、無事でよかったな。あー、それと三人共。一人抱え込まず、ちゃんと仲間を頼れよ?一人じゃ出来ないことだって多いんだからよ」
「へいへい」
「…………分かりました」
「ワカッタ………」
「本当に分かってるのかお前達…………」
サオトメは呆れたようにため息を吐き、車を走り続ける。しばらく走っていると、目的地に着いたのか駐車場に入っていく。
「デッケー。俺、てっきり小せー研究所だと思ってたぜ」
「研究所というだけはあるな」
「本当に研究所だったんだね」
「本当にね」
「ウン」
「出任せじゃねぇらしいな」
「なんか皆して僕の事を悪く言うな~。まあ別に気にしないけど。とにかく着いてきて」
ハルカゼに案内され、研究所の中へと入っていく。そして受付の所へと向かい、なにやら手続きをしているようだ。
「気になってんだけどよー。なんで入り口が二つに分かれてんだ? 」
気になっていたのか、ヒメラギが疑問を口に出した。確かに、受付を挟んで入り口が二手に分かれている。
「その理由は、二つの部署に分かれているからだ」
後ろから声をかけられ、振り返ると白衣を着たオジサンっぽい人が代わりに答えた。
「えっと…………誰スか? 」
「失敬。私はカシワギという。ハルカゼとは別の部署で研究をしているんだ」
「そうなんですか。カシワギさんはどんな研究をしているんですか? 」
「残念だが、秘匿事項だ。申し訳ないな。それより、君達学生がなぜこんな所にいるんだ? 」
「コーチに呼ばれて来たんです。彼の為に、何かバトルをするらしいんで」
「彼の為にバトル?それはどういうことだ…………?もしかして、一般のシステムでは出来ないバトルという訳か…………」
と、カシワギは考え込むようにブツブツと言い出した。あー、なんか研究者ってぽいなコイツ。
「お待たせ~…………ってあれ?カシワギさんだ。こんにちは~」
「…………ハルカゼか。今日は彼らを連れて何をするんだ? 」
「それは秘密ですよ~。そっちもそうですよね? 」
「まあな。だが、そっちの研究より、こちらの研究の方が運用性は高い。すぐに結果を出す」
「カシワギさんは本当に研究熱心ですね~。ですが、こちらも負けませんよ。お互い、頑張っていきましょう」
「ふん…………減らず口を」
吐き捨てるように言うと、カシワギは右の入り口に入っていった。それを見送ったあと、ハルカゼは左の入り口に入り、そのまま廊下を歩いていく。
「お前達仲わりぃのか? 」
「微妙かな~。僕なんかした記憶無いんだけどね」
「いや、お前は案外してるからな? 」
「君もだけどね~」
傍観を決め込んでいたサオトメが、ハルカゼにツッコミを入れる。だが、ハルカゼもツッコミで返し、男性用更衣室と書かれたプレートの部屋に入ろうとする。
「着替えてくるから、三分間待っててね」
「一分で着替えてこいバーロー」
「アハハハハ」
ハルカゼは更衣室の中へと入り、言われた通り一分で出てきた。
「さて、じゃあ行くよ」
「「「「「「……………………」」」」」」
「ん?どうしたの? 」
「…………いや、なんでもねぇ」
「え、ええ」
「な、なんでないです」
「お、おお……」
「気にする必要は無い」
「…………」
「?ならいいけど。じゃあ行こっか」
ハルカゼは来ていた服の上に、新たに着こんだ服…………白衣をはためかせて前を向いた。
そう。俺達が無言になり、唖然としていたのは、今までのハルカゼとは別人みたいな姿を、俺達は見てしまったからだ。
「相変わらず似合ってないな」
「最初は似合ってたって言ってたよね? 」
「知らん」
「アハハハハ。じゃあ、今さらだけどようこそ。ガンプラバトル研究所へ」
広い場所へと出ると、振り返って挨拶をしてきた。
事務所で見るような場所や、いくつかの扉がある。奥の方には、部屋の中を覗けるように巨大なガラスが張られている箇所が一つあった。
「ハルカゼさん。準備は出来ましたよ。後は彼らの準備が出来れば、始められます」
「仕事が速いねウスイ君。タイミングバッチリだよ」
「どうも」
ウスイと言われた男は、すぐに持ち場へと戻っていった。
「ナイーブだな~」
「いいから本題に入れバーロー」
「はいはーい。これからレイ君には、あるシステムを利用してもらうよ。案内するから、こっちに来て」
ーーー--
案内された場所は、さっきの場所の更に奥にある部屋だ。というか、扉には許可証無しの立ち入り禁止とかあったんだけど。
「ここは、今開発中の新システムの試作がある部屋。秘密だからあんまり言えないけど、皆は口が固い方かな? 」
その言葉に俺達は同時に頷く。流石に、秘密と言われた事を喋るほど腐ってねぇからな。
「オーケー。じゃあ説明するよ。まずガンプラバトルをするに辺り必要不可欠なプラフスキー粒子があるよね?プラフスキー粒子は、ビルダー、ファイター、人の想いや気持ちに反応する性質がある。
そして、この部屋では通常の十倍以上の量のプラフスキー粒子を散布する。
その膨大な粒子により、レイ君の深層心理にある人格を読み取り、それを形にするシステムが組み込まれている。簡単に言えば、マリオカートのゴーストかな」
「そんな事が出来んスか!? 」
「分かんないよ。だって別人格の投影なんてやったことがないからね。それに試作中のシステムでもあるし。
それでも、可能性は充分にある。試す価値はある。けど、やるかやらないかの選択権はレイ君にある。もしやりたくないって言う───」
「やるに決まってんだろ。もう逃げねぇって決めてんだ。早速始めようぜ」
俺の言葉に、ハルカゼは嬉しそうに微笑み、アキザワとヒメラギは俺の両肩を叩いてきた。
「じゃあ手順の説明ね。まず、レイ君だけはこの部屋にいること。一度入ったら、事が終わるまで扉を開けちゃ駄目だからね」
「ああ、分かった」
「次に、アマネさん。アルケオニスを二体作ってきたよね? 」
「もちろん」
「レイ君が使わない方を僕に渡して」
アマネは頷き、鞄からアルケオニスガンダムを取り出す。そのカラーリングは焔カラーではなく、白だった部分が黒く塗装されている。
その黒いアルケオニスガンダムをハルカゼに渡し、ハルカゼは部屋の中心にあるバトルシステムの奥へと置いた。
「次に、レイ君以外の人は部屋から出て。別室からこの部屋を直接見れる場所があるから」
「分かりました」
「では退室させてもらう」
アキザワとサクラはすぐに返事をし、部屋から出ていく。その際に、アキザワは俺の肩を軽く叩いていった。
「カグラ、あんま無茶すんじゃねーぞ? 」
「分かってる」
突き出された拳に拳を合わせ、ヒメラギも部屋から出ていった。
「レイ…………ミマモっているから」
「ああ。ありがとな」
「…………チュッ」
「 !? 」
近づいてきたセシリアは背伸びをし、俺の頬にキスをしてきた。
「セ、セシリア!? 」
「ガンバって……」
それだけ言い、セシリアは部屋から出ていった。
「ヒュー。大胆だねセシリアさん。なんか昔を思い出さないかい、ヒロヤ君よ? 」
「三回死んで二回生き返れ」
「アハハハハ」
「お前、あとで覚えてろよ? 」
そう言いながら、サオトメも部屋から出ていこうとする。だが、俺の隣に来て一度止まり、一言だけ言って出ていった。
───頑張れよ───
「…………言われなくても、やってやる」
出ていった扉に向けて、小さく呟く。
「残りは僕とマヒルさんか。じゃ、マヒルさん。アルケオニスをレイ君に渡したら出てきてね~」
ハルカゼもすぐに出ていき、俺とアマネが取り残された。
「…………はい、カグラ君」
「あ、ああ」
アマネからアルケオニスガンダムを受け取るが、両手で俺の手を握ってきた。
「アマネ? 」
「あんまり無茶するんじゃないわよ。心配するこっちの身にもなって」
「あー…………わりぃな」
「て言っても、どうせ無茶するんでしょ?なら、せめて勝ってきなさい。私は、いつでもアンタをサポートしてあげるわ」
「…………おう。ありがとな」
「あー…………それと、アンタとセシリアさんって、恋仲なの? 」
「いや違ぇよ…………さっきのだって、正直俺だって驚いてんだよ」
「そう…………そうなのね」
「なんだよ? 」
「いや、なんでもないわ。少し気になっただけ。多分、終わったあとに他の皆に問い詰められるわよ」
「めんどくせぇな…………まあいいや。じゃ、望み通り勝ってきてやるよ。俺自身にな」
「ええ。頑張りなさい」
ようやく両手を離し、アマネも部屋から出ていき、残りは俺だけとなった。
『レイ君。バトルシステムの前に移動して』
スピーカー越しにハルカゼの声が聞こえ、指示通り、中央にあるバトルシステムの前へと移動する。すると床が深く沈んでいき、隔離するかのようにガラスが張られる。
穴はバトルシステムと、俺が今いる場所。そして、バトルシステムの先にあるもう一人分のスペースがあった。
『レイ君。今からシステムを作動させる。準備は出来てる? 』
「ああ。いつでも大丈夫だ」
『じゃあ、始めるよ。GPベースと、アルケオニスガンダムを用意して』
GPベースをポケットから取り出し、バトルシステムに置いてある黒いアルケオニスガンダムと自分が持っているアルケオニスガンダムを交互に見つめる。
───いつでもアンタをサポートしてあげるわ───
「…………心強ぇな、お前は」
小さく呟き、前を見据える。
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