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真田十勇士

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巻ノ六十六 暗転のはじまりその十一

「わからぬ」
「五十を過ぎられてもですか」
「子が出来ることもあるな」
「言われてみますと」
 妻もだ、このことについて答えた。
「稀にですが」
「あるな」
「はい、確かに」
「だから若しやじゃ」
 幸村は妻に述べていった。
「あくまで若しや、じゃが」
「太閤様にもですか」
「またお子が出来るやもな」
「そうなのですか」
「ただ、出来てもな」
 それでもというのだ。
「おのこかおなごか」
「どちらかが生まれるものですし」
「おなごの場合も充分にある」
 その可能性もあるというのだ。
「その場合は何ともないが」
「では、です」
「おのこが生まれた場合じゃな」
「その場合は」
「妙な胸騒ぎがする」
 今の秀吉に男の子が出来たならとだ、幸村は述べた。昨夜見た星のことも思い出しそのうえでのことである。
「何もなければよいが」
「次の天下人は関白様ですね」
「太閤様が決められたがな」
「では問題がないのでは」
「そう思いたいが」
 それでもというのだった、幸村の不安は容易には消えなかった。
 そして暫くしてだった、唐入りが秀吉により決められたことが天下に知らされた。幸村はその話を上杉家の邸宅に招かれ兼続と共に茶を飲み書の話をしている時に聞いた。
 兼続はその話を聞いてだ、目を閉じて言った。
「そうなると思っていましたが」
「それでもですか」
「よくないことですな」
 こう小声でだ、幸村に言った。
「今は天下は政をする時です」
「一つになった天下を磐石にする為に」
「はい」
 まさにというのだ。
「その時でありますので」
「唐入りは、ですか」
「後でよかったのです、むしろ後の方がです」
「上手きいきましたか」
「明は今は帝が朝廷に出ず腐っているときいております」 
 まさに国全体がというのだ。
「その時に攻めればよく」
「今は、ですか」
「その時ではないと思っておりました」
 幸村に話すのだった。
「ですから」
「左様ですか」
「これはよくありませぬ」
 こう言うのだった。
「やはり」
「そうですか、実はです」
「真田殿もですな」
「同じことを考えていました」
「左様ですか」
「戦の時ではないと」
 まさにというのだ。
「そう考えていました、ですが攻めるならです」
「迷わずにですな」
「敵の都を攻めるべきです」
 こう言うのだった。
「明の都まで」
「左様ですな」
「戦をするのなら」
「そうですな。ですが」
「それでもですか」
「おそらく真田殿はです」
 幸村、彼自身はというのだ。
「唐入りには入りませぬ」
「そうですか」
「西国の方々が主に行かれる様です」
 大谷と同じことを言った。
「ですから」
「それがしは、ですか」
「やはりおそらくですが」
 それでもというのだ。 
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