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真田十勇士

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巻ノ六十五 大納言の病その十一

「あそこでは御主が穏やかに言ってもわしが言ってもな」
「駄目か」
「三日後にもあらためて参上して申し上げよう」
「うむ、他の者達も連れてな」
「何なら徳川殿にもお願いするか」
 秀吉に次ぐ力を持つ彼にもというのだ。
「そしてじゃ」
「何としてもじゃな」
「利休殿をお救いしよう」
「そうせねばな」
「うむ、だが佐吉よ」
 大谷は石田自身にもだった、ここで問うたのだった。
「御主は利休殿は好かぬかったのではないか」
「いや、別にそうではない」
 石田は大谷の今の問いははっきりとした言葉で否定した。
「わしは利休殿は嫌いではない」
「そうなのか」
「御主、わしが利休殿に申し上げたことを言っておるな」
「利休殿が黒い茶器を御主に見せてな」
「わしはその時確かに利休殿に申し上げた」
 石田の言葉は毅然として何も疚しいもののないものだった、少なくとも彼自身に負い目は全く見られなかった。
「関白様は黒い色は好まれぬとな」
「それでと思ったが」
「事実を申し上げたまで」
 秀吉の好み、それをだ。
「あの方は黒い箸も使われぬからな」
「そのことを申し上げただけか」
「ただそうしたまで、だが」
 石田はここで目を鋭くさせ大谷に述べた。
「利休殿は天下に必要な方」
「それ故にか」
「わしは何としてもあの方をお救いしたい」
「その為に動くか」
「全ては天下、関白様の御為」
「それでか」
「わしはまた申し上げる」 
 秀吉、彼にというのだ。
「そうする」
「わかった、ではな」
「徳川殿も頼り」
「三日程後にな」 
 こう話してだ、二人は実際に丁度大坂城にいた家康の下に参上し彼に頼み込んだ、すると家康は二人にすぐに答えた。
「わかった、ではわしも申し上げよう」
「そうして頂けますか」
「徳川殿からもそうして下さいますか」
「うむ、しかしこのことは言っておく」
 家康は二人に難しい顔でこう述べた。
「わしは大納言殿とは違うからな」
「では」
 大谷は家康の言葉からだ、すぐに察した。それは石田も同じであったが彼はこの時は彼にしては珍しく言葉を詰まらせてしまい言えなかった。
「徳川殿でも」
「難しいであろうな」
「左様ですか」
「関白様は意固地になっておられる」
「そしてその意固地をですか」
「わしではな」
 どうにもと言うのだった。
「解けぬであろう」
「そうなのですか」
「大納言殿なら出来た」
 秀長、彼ならというのだ。
「必ずな」
「関白様の弟君であられるが故に」
「わしはな」
 所詮という言葉だった。
「妹婿に過ぎぬからな」
「血を分けた兄弟ではないからですか」
「それでは絆が全く違う、そして」
「さらにですか」
「わしは大納言殿より関白様をご存知ないからな」
 このこともあってというのだ。 
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