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第2話
教室では女子の驚きとドン引きのざわざわと、チャラい男子らの大笑いと、僕や僕以上にオタクの連中のざわめきで充満され、教室の外にまで溢れている。他の教室はそこから共鳴するように更に騒めく。
それをもろともしないうちの担任は、ざわめきの中大きく声を上げるでもなしに先ほどと同じ大きさで話を続ける。
「特に学校を舞台とした、いわゆる『学園ファンタジー』と言うのですか?あれには驚きましたよ。なにせ普段の日常のように『魔法』、『超能力』、『武器』などというものが登場するのですから。我々の日常には絶対に登場しないものですしね。」
担任の溝田先生の声は未だに聞こえるざわめきの中でもしっかりと聞こえる。先生の声質なのだろうが、不思議に思えるぐらいきっちりと聞こえていた。
更に先生は続ける。
「ただ、私はあのようなライトノベルに登場する|破廉恥<はれんち>な描写というのを私は嫌っております。皆さんもライトノベルというジャンルの本はそういうものばかりだと思っているのではないでしょうか。実際は違います。確かにそういう描写をする時もありますが、それは作品を十としてみるなら一よりも少ないのですよ。
どんな作品にも伝えたい言葉があり、訴えたい題材があるのです。その題材のない作品は結果的に作者の自己満足に過ぎなくなってしまいます。実際に読んで見てください。第一巻の前書きだけでなく、とりあえずは後書きまで。
そこまで読んでやっと作者が読者に伝えたいことが達成されるのです。そして、先生はこの教室にそれを目的としてライトノベルの第一巻だけを二十作品持ってきました。今は手元にありませんが、今日の帰るときにはそこの棚に置いておきます。」
と溝田先生は黒板を前として一番教室の左前、校庭の見える窓の隣にある棚を目で指す。
「何故第一巻だけかというと、その第一巻を読んだ後あなた方には続きを気になって欲しいのですよ。第二巻を置かないのはそのため、続きからは自身で買って頂きたい。そこから日本が世界に発信した斬新な文化を楽しんで頂ければ社会科の教師としてはいうことはないと思っております。」
先生は一度皆の顔を右から左へと流すように確認してからもう一度口を開けた。
「確信しました。このクラスの生徒、四十一人はこの一学期中に全員がここに置く本を手に取り、最後まで読みきってくれるでしょう。」
そう溝田先生は言う。生徒の反応は少し気の立っている生徒がやや、聞いてもいない生徒が残りの半数を占める。
この反応を第三者のように見ているだけの僕はこの状況に不快感以外を感じなかった。
もう一度周りを見る。朝挨拶したあの子はそのどちらにも属さず、ただ戸惑っているがその周りの生徒は全員笑いしっかりと聞いていない。
担任の挨拶だと言うことを忘れているのだろう。僕は担任に一気に親しみを持てたが笑っていたりする生徒は違う。そんな人たちこそがいわゆる『オタクキモい』と言うような言葉で全てのことを片付けようとしているのだ。
周りにこのような反応を取られるのは日本ぐらいらしい。まあそれは他の国に日本の文化がないだけなのだが、それでも他国で自分の好きなこと、趣味を口にしてただ笑われるだけ笑われて、そのことを馬鹿にさせることはないそうだ。むしろはっきりと言えない方が笑われるそうだ。
そういう事が、自分らしさを全面に出して腹を割って話をする事が出来ないこの国の環境が、個人というものを恐れて周囲に合わせた集団としての意思を優先するこの国の現状がこうしているのだろうか。
それでも、彼らの笑いはおかしいし、それを先に述べた周囲に合わせた集団としての意思となっていることも気に食わない。
何より、彼らのような自らをこの国の優良人種だと思い込んでいるその態度が、自身というものを平等な測りにかけず、周囲がこうだからこんなことをしても大丈夫というその無神経で頭の悪すぎる理屈があまりにもおかしすぎるのだ。
僕が強ければ彼らに一言「笑うな。」と言えるのだろうか。
『もしも』、だ。もしも僕が今よりも心が強ければ、彼らを叱れるのだろうか。立場的にはできなくとも、人間同士と考えれば出来る事。
実際に溝田先生の言っていることは正論だ。
彼らの存在が溝田先生の本に興味を持っている人達の『読んでみよう』とする意欲を、現在進行形で限りなく削いで言っているのだ。これで読もうと思っていた人たちはもう読もうとしないだろう。
彼らの今の笑いはこのあと読む人にも向けられるのだ。そんなことが目に見えてしまったら、興味のある人はもう読まない。
「黙れ。」
口で発することのできない、言う事自体に抵抗が出てくる。彼らに今この言葉を言えば、自分はいじめのうようなものの対象となり以後このクラスから始まり学年、|仕舞<しま>いにはこの学校の生徒のほとんどが僕をそういった目で見るだろう。
教師は知っていたら僕を助けようとする。知らなければ生徒は一流の役者のような演技をして教師に察しさせないようにする。彼ら彼女らの演技は俳優などとは比べ物にならず、演技だということを見切ることは大抵の人間はできない。
僕はそれでも分かる。彼らが嘘を吐いている時に感じる無理やりな|辻褄<つじつま>合わせ。無理はなくとも不自然に感じてしまうのだ。その時に感じる不快感が限界を超え、僕の心を蝕んでいく。
「黙れ。先生の言っていることを笑うな、話すな。先生の言っていることを正論とも分からないのかっ!?」
僕の頭の中は周りの反応に対しての怒りがとても大きく膨らんでいる。もちろん僕自身はそれを全く表に出さない。と言うよりかは、僕自身そう思っていることすらわかっていないのだ。何か不快だと思っても何が不快で具体的にどう思っているのかは全くにわかっていないのだ。
先生の話が終盤に差し掛かっている頃、そんなことを心中に『無意識』に思っていた僕はその時にあることに気づく。
やけに教室が静かになっているのだ。先ほどの笑いやこそこそとした声は聞こえない。ただ先生の講義とこの教室のざわざわに反応する両隣の教室のざわざわが聞こえるだけである。『まるでさっきのざわざわが|演技<うそ>』の様に誰も話さず、ただ溝田先生の恥ずかしいながらも正論としか言いようのない講義が続いている。
気づかずか、先生はやけに張り切って続ける。
「えぇ~、皆さん。まあいろんな意見があるとは思いますが、一度読んでみることです。もしかしたらそのとてもふざけた様な本のタイトルからでは全くにわからなかった事があるかもしれない。読んでやっと出会えるのにもかかわらず、『こんなふざけた本が面白いわけがない』という言いがかりで見もせずただただゴミと変わりないものとしてみているようなその態度はおかしい。
実際に人が見て良いものだから、読んでみて良かったと思えるものだから売りに出されるんです。読書は自分の発想力を存分に繰り広げることのできるエンターテイメントの場です。まず、手に取ってみてください。まず、読んでみてください。
何故なら、あなた方がただ表紙で嫌っていたものの中身は、あなたの味方次第で無限に広がっていくのですから。」
先生の『ライトノベルの講義』はいつの間にか『本との向き合い』のような道徳の授業に変貌していた。
先生が話し終わり、僕がそんなどうでもいいことを感じたところで丁度チャイムが鳴る。先生はその音を聞くなり始業式のことを思い出す。
「すいません。皆さん、出席番号順に廊下に二列になってください。一番から二十番、二十一番から四十一番になるように。」
そう言いながら、担任の溝田先生は出席簿を手に廊下へ並ぶように誘導しだす。僕も席を立ち、後ろの扉から教室を出る。
出るなり色んな生徒が男女問わずにお互いの名字を聞き合い、15秒ほどで先生の言った通りの二列に並ぶ。そして教卓のあったほうを背に先頭が歩き出す。
体育館。
三学年の全生徒が集まる。部隊を正面から見て右から三,二,一年生と並んでいる。
校長やPTAの会長の話が長いのはいつものことだが、次の一瞬で生徒達の目の色が明らかに変わる。
『在校生代表』
進行担当の教師がそういうと上級生の主に男子から先ほどと同じざわめきが聞こえる。ざわめきだけでいうと先ほどからもあったが明らかにそれとは違う、見せ物を見るようにニヤニヤとしたざわめきだ。
舞台に1人の生徒が上がる。1人の女子生徒、髪が白く他に比べて一際目立っている。まるでラノベや漫画の中にいるようなその白髪美人は顔も良かった。
そして、幻想的に思えるその状況で男子達が見せ物気分でいる意味がわかった。
ハーフのような顔立ちは妖精を連想をさせ、皆は彼女をもう人間でなくもっと高位な存在として見ているだろうか。
そんな彼女の話が始まる。
「皆さん、おはようございます。私は生徒会副会長の銀薔薇といいます。そして新入学生の皆さん、本日はご入学本当におめでとうございます。みなさんの入学を祝福するように空も雲ひとつない快晴とますます気分の高揚するところかと思います。」
彼女は手元の紙を読み上げていく。容姿の印象と違い事務的なその口調が明確に彼女を物語っていく。
あぁ、あの天使のように美麗な彼女がこの世に存在しているのならばゼロより少ないと言ったリアルでのライトノベル展開を僕は受け入れて、砕け落ちるまで彼女に関わるだろう。
彼女のあいさつを流石に聞き飽きてきた僕は自分の中だけでそんな独り言を言う。
気づけば彼女の話が終わっていた。
変な違和感を感じる。先ほどと何も変わらない光景から何かが違うと見渡している浮かれ者が一人。辺りの有象無象がそんな僕を見ている。冷たい目を感じているのだがそんな目に今更引き下がることもできず、血眼とはいかなくとも首を回すのではなく目だけで探す。
違和感はなく先ほどの彼女も美しい白い髪に背中から本当の天使のような白い翼が見え・・・・、
翼が見える。真っ白な白鳥のような翼が見える。
そんなことを気にせずに彼女は舞台を降り、おそらく自分の場所であろう位置に行きフローリングの冷たい場所に座る。翼が後ろの人の邪魔にならないように綺麗に器用に折りたたんでいる。
あれ、あれ人間だよな? 元からあんなんじゃなかったよな?
いくら天使のような顔立ち・髪・む、むむむむ胸を持っているのにもかかわらず、さらにあんな翼を持つとは神々しい。
そしてここで僕は思う。なんで誰も気にしない?確かにふざけてはいたが、本当に翼が生えているようにしか見えない。
僕の目か脳かおかしくなったのか?
そうでなければ、本当に彼女から翼が生えているのか?
客観的にに考えてみよう。と、そこで僕は教室での出来事を思い出す。いきなりクラスの全員が静かになったことだ。
そのことを考えれば僕に特殊能力が発言したという厨二的かつラノベ的な考えが沸き上がりつつも信ぴょう性を持ってきている。
というか、それ以外は夢という可能性しか残っていない。
あまりにも非現実的すぎる。もうライトノベルのような展開しか出てきてくれない。客観的に見ようとも、一度僕の見たものを整理しようとも結論としてはその二つの考えしか湧いてきてくれない。
そして僕はたどり着く。こうしている現状を客観的に見て至る。
こんな状況でライトノベルの主人公たちはどんな行動をとるだろう。どんな行動を今僕は取るべきだろう。というかこんな日現実的かつファンタジーすぎる内容にどういう視点から対処すればいいのか全くにわからなくなっている僕がいる。
考えに考えても仕方がなく、現状彼女の異変に気付いているのも周りを見ても僕だけな気がする。
ライトノベルで自分だけが異変に気付いたのだったらとる行動は一つである。
彼女の話の後、入学式の閉会の言葉を教師から言われ、1クラスずつ呼ばれる順番に体育館から出ていく。
こういう時にその人物がとる行動、それは周囲に合わせる。これが一番人間らしくも現実的だ。それに、もしも今起きていることを認識している僕以外の人間がいて、その人間が僕にとって害のある存在だった時、今ここで僕が周囲にとって訳の分からないことをするわけにはいかない。
そこまで見通して、僕は周囲の雑音に紛れる。気にしないでおこう。きっと何かそのうちにわかる。そんな気が僕の脳裏にずっとあった。
教室。
教室に戻ってきた。今日はまだ入学式だけで授業はないのでHRをもう一度してから下校となる。担任の溝田先生が
「はい皆さん。今日はこれで終わりですが、明日から早速授業が始まります。確か皆さんは社会も明日ありましたね。では、明日を楽しみにしておきましょう。明日は皆さんと一緒の授業が二つもあるのですからね。」
とだけ言うと、HRを終わった。
「みなさん。起立、気をつけ、礼っ!!」
『ありがとうございましたーーー!!』
後書き
お久しぶりです。観測者です。はい、生きてます。
学校のことや、自分事などで完全に間が空いてしまいました。もうすでにこの『if:dE-ViL』の内容も結構忘れて湿っている部分もあるので前話を見返しながらに書いている現状です。
さて、今回は前話から引き継いでいる溝田先生のラノベ談義から始まり、周囲がそのことをただただ笑っていることに対しての手野々くんのもはや現代に対する怒りに続き、同時に自らの弱さを痛感してましたね。
普段何か悪いことをしている人を見かけたときに、その人に注意できますか、止めさせる事が出来ますか?
という個人的な意見も入っているつもりです。あえて出来ない彼の心情を色濃く映したのは、現代人らしい考え(たぶん)を彼に代表していてもらっているつもりです。
そして、次の場面。入学式ですね。
ここでやっと『手野々 明青』以外の名前の出ている女性キャラが出てきました。銀髪のいで立ちというファンタジー感の強い見た目の人物です。それながら日本語話すんですよね。
まあこのキャラは、純潔の日本人って設定だろうに白髪を出す先人様に皮肉を込めてしまいました。
とまあ、こんな感じで観測者は生きてます、息してます。本当に息しなくなったらこのアカウント消えると思うんで、その時に察してください。
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