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作者:@観測者
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第1話

 
前書き
公開期間は十一月の中頃までにしておこうと思います。
 

 
真っ暗な部屋の中。カチカチというタイプ音だけが鳴り響いている、唯一の明かりがPCの画面。そんな部屋。

その音を出しているPCは数ヵ月前に出たPCゲームをプレイすることに特化していると話題の『G-do 200MEGA DREAM』という名前のPCだ。

そんな最新のPCでカチカチと、音をまるで作業BGMの様に奏でているメガネオタクが言う。
「今期のアニメは最悪だった。  次の冬アニメだってそこまでよさげなのは全くない。」


少年は動画サイトで来週から始まるアニメのPVを集めている動画を見ながら言う。

「去年やってたあれはよかったなぁ~。  DVDの売り上げや原作ストックを見る限りアニメの2期の可能性は無いとか掲示板に乗っけられてたなぁ~。」
少年の言うアニメはライトノベル原作のファンタジー作品。結構に人気が出たが売り上げが悪いのが謎ともいえる良作品。




内容は、2次元にしか興味のないようなオタク少年を更生させるために来た天使が3次元の素晴らしさをその少年に教えていくというもの。

そんな内容のはずなのだが、アニメを見た俺達(2次オタ)からは3次元に対する絶対的な拒絶がさらに深刻になってしまうアニメであった。


だからと言って僕は違う。2次元のキャラクター達をかわいいとは思っているが、『俺の嫁』とか『結婚したい』とかを口にしたことは一切ない。

恋愛をするのなら3次元しかないと思ってはいるが、はっきり言ってそんなことを言っている時点でモテるはずも無く、ただ日々を2次元中心のNEET生活に費やすばかりである。




だが、こんな僕にも本来ならば行く学校がある。もう入学して6カ月を迎えようとしているが、4月の最初に少し行っていたぐらいで今となっては学校という単語自体がトラウマとなりそうだ。




































あれは春先すぐの事。入学式が過ぎてから最初の学校の日である。もちろんこの頃からアニメは見ていたし、それを特別隠しているという訳でも無かった。

この日から高校生。気持ちを新たにすると同時、僕は舞い上がっていた。いつもは目が傷ついてしまったり、うっかりつけたまま寝てしまったりするのが嫌いでしていないコンタクトを付けて通学していたのだ。


少し遅れ気味だった僕は走ると行かないまでも、速めの速度で通学路を歩いていく。

僕のこれから通う学校はこの辺りではけっこう有名な進学校である。入試の時も高い倍率の中勝ち残った秀才たちだけが、合格できるといってもいいほどに学力の高い学校である。


そんな学校に合格できたからだろう。僕はアニメのような通学途中でのボーイミーツガール、そんなことが無くても学校である部活に打ち込むスポ根もの、はたまた極小どころか0以下の可能性で存在している学園ファンタジーを夢見ていたのだ。

いつもそんなことを夢見ていたアニメオタクだからこそ言える事がある。そんな事、現実では0よりももっと下の数字の確率でしか起こりえない。


昼休みに屋上でご飯を食べようと扉を開けると空から銀髪の女の子が降ってくるような現実は無いし、かといって部活動に入部して色々なハプニングを乗り越えながら全国を目指していくような熱血さも持ち合わせていない。








だが、そんな僕に1度だけ奇跡の神様が微笑んだ。目の前に見える光景である。

通学途中、道端で。電柱の陰で猫と戯れる女子高生。
まだ5メートルほど離れていたが、彼女の横顔がはっきりと見える。口元が動いており、何か言っている。

綺麗な黒髪のストレートに日本人な肌色、制服も僕の通う学校のものだ。




歩みを止めずに進む。距離2、3メートルのところ。

先程まで彼女の声がちょくちょく聞こえていたのだが、ここまで通行人が近づいたからか彼女は何も言っていない。ただ、猫とじゃれるのは止めていなかった。


丁度横を通り過ぎるときに彼女が何か言っていた気がしたが、特に何も気に留める要素がなかったために僕は学校に向かう足を止める事はなかった。
























学校、玄関。

玄関には学年別に靴箱があり左から3年、2年、1年の順番だった。僕は自分の靴箱がある右の方に向かい一番右の真ん中辺り、五十音でも真ん中辺りだと思う『て』から始まっている名札の靴箱を探す。












あった、手野々。珍しいかもしれないが、これが僕の名字である。

あ、言い遅れていたね。僕の名前は『手野々(てのの) 明青(あお)』。これだけでも不思議な名前だろうと思う。

実際に僕に名前を付けたのはおじいちゃんで、その時に空にちなんだ名前にしたいと言って、漢字は『明青』に決まったのだが、肝心の読みがこのままなのはさすがに可愛そうだという事で水色(light bule)の空を意識したような名前から『あお』と付けられたのだ。

あるかどうかわからないが、子供に名前を付けるときはよく考えた方が良いという事だけは言わせてもらう。




話戻し、靴箱。

靴箱を開け、中から上靴を取り出す。取り出した後そのままそれを下に置くのではなく手を離すように落とす。この方法が楽でいい。

後は下靴を足をうまく使って脱がせ、両足のかかとが出たくらいで今度は片足ずつ上靴の方に足を移す。




上靴に履き替えた僕は2,3メートルの距離と、少しの段差を乗り越えて廊下を右に曲がり歩き出す。

(さて今日から!)

と、もう一度高校生活が始まったことを実感した僕。あの時のあの子の事を頭の片隅に意地でも留めておいた状態のまま教室に入る。
0以下の確立を信じている頃の僕はとりあえずフラグを立てたらこうしていた。ラノベの鈍感主人公の用になるまいと記憶力を鍛えているのだ。

相変わらず高校というものは部活が盛んである。歩いている廊下の左側の壁には隙間を埋めていったかのように満遍(まんべん)なく部活の勧誘ポスターが貼られている。


生憎(あいにく)だがうちの高校は県有数の進学校だ。部活なんかをしている暇があるのなら勉学に(いそ)しめといいたいところだが、あいにく僕もそこまで勉強しかしていないような頭でっかちになる気はない。そんなことを無意識に思っていたのだろう僕は、そのポスターを歩くのと同時に流れ作業で見ていた。








バン


人とぶつかった。重たいとか硬いという感覚はなく感触からして女子だ。彼女と当たったと同時、彼女が持っていた紙の束が地面を四方八方に滑っていく。僕はぶつかったので重心を崩し後ろに少し下がってしまい、彼女も反動で尻餅をついていた。

「あぁっ!   すいません、大丈夫ですか?」
いつの間にか彼女の落とした紙をかき集めながらそんなことを言ってた。咄嗟だったんだろう。この頃の記憶はあまり覚えていない。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
そう言いながら彼女も紙をかき集め始めていく。


周りの生徒も流されてなのか少し手伝ってくれている。

「はいこれ。」
床でトントンと向きを綺麗にそろえてから彼女に渡す。手伝ってくれたほかの生徒も同じようにして彼女に渡している。


「皆さんありがとうございます。」
そう言いお辞儀をする彼女の髪が肩から落ちているのを覚えている。深く長いお辞儀だった。

「そんな頭下げなくていいから、僕の方もよそ見していたし。」
と、若干引きつった顔の僕が言う。


「そう・・・・・ですか・・・・・・。ありがとうございます!」
そう言って彼女は僕の来ていた方向に歩いて行った。あちら側は確か1年生の学年職員室があったな。




僕も教室に向かうのを再開した。








進んですぐ、階段が見える。階段の隣に『新入生の教室はこの上です』というペンで書いた紙がテープで貼られてあった。


その階段を上っていく僕。後ろに何人も生徒がいるのだが、上っている生徒は僕だけだ。

階段を上り終え、右に曲がる。そして、扉の上に出っ張っている室名札を見ながら歩いていく。やはりここまで来ると話し合っている生徒は少ない。各教室に目をやったが、皆自分の席で本を読んでいる。

始業式もまだなので、他の人間に話しづらいのか緊張しているのか、他の事に興味がないのか必至といっていいほどに座っている生徒は皆読書に勤しんている。




そんな同級生を見ながら、6つ目の教室。1年6組。

教室の中に入ろうとすると、一人の女子生徒から「おはよう。」の声が聞こえた。その声に驚いた僕は声の聞えた教卓近くの席に目をやる。


そこには本を読んでいる黒髪で眼鏡な女の子がいた。このクラスのクラス長がもし多数決で決まるなら、間違いなく彼女がなるであろうと思えるほどの委員長気質をオーラで感じる。

「お、おはよう。」

答えた。まあ、挨拶されれば返すのが常識だろうが、僕は普段そんなことはできない。咄嗟、彼女の方を見た瞬間に出てしまったのである。

彼女は僕の返事を聞くなり、ニコッと笑顔になるとまたすぐに読書を始めた。


まあ、普通に可愛いと思える子だった。




辺りに目をやりながらに教室へと入る。本来こういう時には教室の前の黒板に席順を書いているものだが、今黒板は真っ白で教室の皆はほとんどが席に座り読書の世界へと他界(ねっちゅう)している。


教室の右前。右の机の間2本目、前から机3列目まで来た。ここまで迷っているというのに他の生徒は一切僕にかまわない。あの子も最初に「おはよう。」と言ってからは完全に読書ワールドに引きずり込まれているようだ。




もう一度辺りを見回す。そして、机の上・横・椅子の位置から推測し、自分の席と思われる席に座る。

と、大げさに描写してはいるが、やっていることはしょぼい。ただただ、誰かの座っている席と誰かの座った跡のある席と誰かの荷物の置かれてある席を除いただけである。結果、席は一つしか開いていなかった。

(まあ、入学式の日だからなぁ〜。)
何てしょうもないことを心の中で言った後、僕も机の隣にバックを引掛けて、その中から本を取り出し読書に専念する。

本の内容は、上記しているはずの僕の好きなライトノベルである。タイトルは『世界の幸せを君に』と言うものである。

読み始める第1巻。小説はもう既に完結しており、最終は第12巻までだった。もちろん全巻2冊購入し、家に保存用と実際に読む用に分けて保存してある。

(最後の方で主人公はどうなったんだっけ。)
と、家にある最終巻を思い出しながら思う。確か最後は側にいた天使に恋をしてしまったんだけど、天使との恋が実るはずもなく天使は天界に帰って主人公は一般人(ノーマル)になったんだっけ。

第1巻、始め。

朝日は焼け焦がす勢いで差している夏の日。今日七月三十日・・・


と小説が続いている。

もう何十回も読んだ冒頭である。この冒頭では何もわからなかった。『焼け焦がす』というワードから戦闘描写があるのかなんて思っていたけれど、まったくに違う展開だったのをよく覚えている。あの時は驚いた。天使のヒロインが登場した時である。


天使が主人公の勉強机の上にあった主人公の知らない本からいきなり飛び出したのだ。

この展開の描写に想像力を高められた。今でもこんな展開は期待している。〔本当にこの本から天使でも出て来てくれれば、僕の人生にも花が出来るんじゃないか〕なんて思いながらに本を読み進め次のページをめくる。


この本を読んでいる時間は好きだ。何度読んでも初めて読んでいるような新鮮な気分になり、前に何度も読んだ展開で驚き、各話の終わりに気分が高揚する。




キンコ-ンッ カンコ-ンッ




チャイムが鳴り響く。僕は本に本屋で買った時について来たもう結構古いライトノベルの最新情報の乗ったしおりを挟み閉じると、本を机の横に掛けたカバンになおした。


いつの間にか担任だろう教師が教卓に立っている。
「えー。皆さん、おようございます。担任の『みぞた』です。」
担任は痩せた老人で、年は60を超えていてもおかしくなかった。その担任が黒板に文字を書く。


溝田 平作。

自分の名前だろう。
「改めまして、担任の溝田です。これから一年間、よろしくお願いします。」
と、教卓に両手をついて言った。

続けて、
「ちなみに趣味は読書、特に最近は若い子のよく読むライトノベルが好きです。」


「ッ!!!」
あまりの驚きに何かを吹き出し掛けた。

最初にさっきの本を読んだ時の驚きに勝るとも劣らない程である。


「やはり、あのような作品が日本の文化の重要な部分を担うのもよくわかりますね。皆さんも『ヲタクキモい』等と一線を置くのではなく、実際に読んでみればいいのですよ。」

何か、講義のようなものが始まってしまった。高校生活最初の一日の最初の授業がヲタクの偏見についてのことから始まるなんて、この学園生活大丈夫かな? 
 

 
後書き
とりあえず、一話です。

一万字書いてから公開なんて言っていましたが、無理でした。結果、五千字ということになりました。


冒頭、現在の主人公『手野々(てのの) 明青(あお)』くんから始まり、入学当時の彼へと(さかのぼ)りライトノベルやヲタクという文化について熱く論する教師が担任につき、ついつい吹き出してしまった主人公という状況ですね。


今回の話は『とある』の二次創作とは違い、行き当たりばったりな書き方ではなく漠然とですが物語の方向性や登場するキャラクターなどはしっかりと考えおります。

今回は公開しますが、期間が終わると報告なしに非公開にしますのでご注意ください。 
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