仮面ライダーAP
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第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第9話 異世界への扉
――2016年8月25日、深夜。
ありとあらゆる命の灯が消え去り、無と静寂に包まれた都市の中で……一人の男が、眠りから醒める。
「ぶっ……はぁあっ! げはっ!」
瓦礫の上に横たわる、ひしゃげたマシンアペリティファー。その傍らに、水中から手が伸びてくる。
瓦礫の端を掴んだその手は、自分の体を懸命に海中から引き上げて行った。
やがて、夜の海中から這い出た青年――南雲サダトが、瓦礫の上へとよじ登っていく。彼が、共に戦った相棒の無残な姿を目の当たりにしたのは、その直後だった。
「ぶごっ……お、えぇっ!」
だが、それに心を痛める暇すらない。なんとか海中から陸に上がってきたサダトは、傷が開いた胸を抑えながら海水を吐き出して行く。水没した状態で気絶していたため、大量に海水を飲んでいたのだ。
忙しなく嘔吐を繰り返し、ようやくそれが落ち着いてからも、彼は傷の痛みに息を荒げている。
「は、はぁ、ぁあ……」
だが、それすらも意に介さず。彼は自分の傷より、マシンアペリティファーの損傷と――東京の惨状に気を移していた。
(ち……く、しょう……ちくしょう……!)
傷の痛みさえ忘れさせるほどの、変わり果てた東京の姿。炎上と共に傾いたビルや、水浸しの道路。亀裂が走る路面や瓦礫の山。二つに割れたターミナル。
そして――海上に漂う、ヘリ部隊と。
231便の、残骸。
それだけが、この戦いの結末を物語っている。どれほどの命が、失われたのかを。
(……あの、光が……)
スワリング・ライダーブレイクの一撃。その直後、サダトはマシンアペリティファーと共に墜落した。
そのさなかで、彼は意識が混濁しつつある中でも確かに見ていたのだ。
巨大怪人の大口から溢れ出た、蒼い輝き。その光が一条の線を描き、閃いた瞬間。
ヘリ部隊も231便も光の中へ飲み込まれ、自身もマシンアペリティファーもろとも、衝撃波で遠方まで吹き飛ばされていた。
気がつけば自分は水の中で、意識が明瞭になった途端に窒息寸前になっていることに気づき、もがき苦しみながらここまで上がってきた。巨大怪人が忽然と姿を消していることに気づいたのは、それからのことだ。
そして今、無残に破壊された東京の有様を、己の眼に焼き付けている。
そして。火の海に包まれた東京に、ただ一人生き延びた改造人間の、慟哭が響き渡る。
涙で歪んだ視界の向こうには、焼き払われたヘリパイロットのヘルメットと、231便に乗っていた女子高生の制服の切れ端が、業火に照らされた海上に漂っていた。
「……!?」
――その時。
涙すら枯れ果てた若者の眼に、あるモノが留まる。
絶望が見せる幻か、蜃気楼か。その類と断じて直視していなかったソレは、現実の事象であると思い知らせるかのように、彼の視界に広がっていた。
空間に。夜空に。
亀裂が走っていたのだ。
「あれ、は……」
ひび割れた夜空の隙間からは、どんな闇にも勝るほどの――見ているだけで吸い込まれそうなほどの、圧倒的な深淵が覗いている。
明らかに自然の現象ではない。だが、幻にしてはいやにハッキリと亀裂が見えている。むしろ、今自分が見ている夜空こそが偽物ではないかと、感覚が麻痺してしまいかねないほどに。
だが。夜空も亀裂も、間違いなくこの世界に存在している。幻などでは、ない。
(な、んなんだ、あれは……まさか!?)
少なくとも、気を失う直前まであんなものは視界に入らなかった。
空の亀裂は、巨大怪人がいた場所に非常に近く、あの時から在ったなら接近する前に気づいていたはず。
――そう。あの空の亀裂は、巨大怪人が姿を消した後に見つけたのだ。
ならば。あの蒼い閃光の影響で発生したものであると、容易に想像がつく。
(……あの、穴……)
サダトは鋭い眼差しで、空の亀裂を観察する。広々と亀裂の線が伸びているが、そのほとんどは小さな穴しか開いていない。
だが中央部に大きく開けられた穴だけは、ひときわ大きな風穴が出来ていた。
――あの巨大怪人くらいの大きさなら、入り込めてしまう程度には、巨大な風穴が。
(……)
空に走る広大な亀裂。姿を消した巨大怪人。亀裂の中にある、大きな穴。
この状況から導き出される答えは、一つだった。
サダトはすぐさまマシンアペリティファーを起こし、エンジンを掛ける。原子炉プルトニウムの叫びが、主人に劣らぬ深手を負った車体を強引に蘇らせた。
各部から煙という名の悲鳴を上げつつ。それでもマシンアペリティファーは、主人を運ぶために力を振り絞っていた。
「……行くぞ、アペリティファー。これが最後でいい、俺をあそこまで運んでくれッ!」
そして――上向きに横たわる瓦礫を足場に、一気に助走を付けて駆け上がり。サダトを乗せたマシンアペリティファーは、再び空中へと飛び立つのだった。
行く先は、亀裂の向こう。
その最果てに待ち受けているであろう、あの巨大怪人だ。
「これ以上……させない! 絶対、絶対にッ……!」
どれほど怒ろうと嘆こうと、決して戻らない命の群れ。現世を離れていくその魂を、看取る暇さえ惜しむように。
サダトはエンジンを限界以上に噴かし、強引窮まりない加速で宙を駆け抜け、亀裂と大穴の先へと突き抜けて行く。
そこで待ち受けている異次元が自分の理解を超えた、凄まじい戦火の中であることも知らずに……。
後書き
今話でようやく、仮面ライダー側の世界のお話は終わりになります。次回からは、艦これ側の世界を中心に物語が展開していきます。
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