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仮面ライダーAP

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第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
  第10話 艦娘と仮面ライダーのファーストコンタクト

 ――194X年8月25日。
 鎮守府執務室。

 この世界を脅かす深海棲艦に対抗すべく結集した、艦娘達の本拠地。その運営を担う提督の執務室は、整然とした内装で固められている。
 だが、今その席に着いているのは提督本人ではない。特型駆逐艦配備の交渉のため、大本営に出向いている提督に代わり――秘書艦「長門」が、その任を代行している。

「……由々しき事態だな。これは」
「深海棲艦の亜種……とも違うわよね」
「奴らに共食いの習性はない。もっとも、我々が今まで知らなかっただけかも知れないがな」

 執務室の席に座り、部下からの報告書に目を通す黒髪の美女。その傍らに立つ茶髪の女性――陸奥は、険しい面持ちの姉を神妙に見つめる。

「だけど今日に至るまで、彼らが同胞を捕食したケースなんて見たことも聞いたこともないわ」
「ああ。――確証はないが。深海棲艦でも艦娘でもない未知の脅威が、この海に現れた……という可能性が濃厚だな」

 本日の深夜4時。
 哨戒任務に就いていた川内型三姉妹が、帰投する航路の中で発見した深海棲艦の遺体。その遺体を喰らう、二体の未確認生命体。
 一つは鮫のような歯型を残す、恐らくは等身大の怪物。もう一つは、深海棲艦すらも丸呑みにするほどの巨大な生物。

 いずれも、既存の情報(データ)にはない個体である。そもそも、深海棲艦を捕食する存在そのものが前代未聞なのだ。

「深海棲艦を喰らう巨大飛蝗、か……」

 報告書に添えられた、数枚の写真。巨大生物を目撃した三姉妹が動転しながらも、確実な情報を持ち帰るために撮影した決定的瞬間が、そこに写されていた。

 身体のあらゆる部位が欠損した深夜棲艦の遺体……があったという海中。その最奥に、うっすらと赤い複眼を光らせ――こちらを見つめる、飛蝗の顔。
 造形こそ飛蝗のそれだが、その大きさは虫という範疇を逸脱している。頭部の尺から察するに、全長20メートルはあると見ていい。

「……他のみんなにも、不安が広がってるわ。深海棲艦が食われている以上、私達に害がない保証もないし……」
「そうだな。……今までの実戦経験も戦術も、根底から通じない未知の生命体。さらに対話の望みも薄い上、深海棲艦の群れ――夜戦特化のチ級まで喰らうほどの強さと来ている」

 この事態は、深海棲艦との戦いを専門とする艦娘達に衝撃を与えている。
 ただ強い、というだけではない。自分達の常識を根底から覆す、未曾有の大敵にもなりうる存在を知り、実戦経験が豊富な者達すら不安を覚えていた。
 経験が浅い一部の若手は、そんな先輩達の様子からさらに不安を煽られ、鎮守府全体が不穏な空気に包まれるようになっている。

 ここで艦娘達を束ねる立場にある長門が、先陣を切って全艦隊を鼓舞すれば、その空気を打破できるだろう。

 だが、この未確認生命体に関する手掛かりが何も無いまま、根拠もなく虚勢を張ることは長門自身の矜恃が許さなかった。それは、かけがえのない仲間達を欺くことに他ならないからだ。

 不確実な情報のままいたずらに戦意を煽ったところで、待ち受ける未来に光明はない。今の状況を切り開くには、この巨大飛蝗に纏わる謎を解き明かすしかないのだ。

「何処から来たのか、何のためにこの海域に来たのか、目的は何なのか、そもそも何者なのか……。いずれにせよ、今は情報が少な過ぎる」
「少しでもあの生物の情報が欲しいところだけど……金剛(こんごう)達からは、まだ?」
「ああ。まだ、これといった連絡はない」

 昼間の時間帯である今現在、川内型三姉妹が巨大飛蝗を発見した当該海域には、金剛型四姉妹「金剛」「比叡(ひえい)」「榛名(はるな)」「霧島(きりしま)」の四名が偵察に出ている。
 高い戦闘力と素早い移動速度を併せ持つ高速戦艦である彼女達ならば、調査対象が予想を遥かに凌ぐ戦力だったとしても早期に撤退できる――と踏んだ、長門の采配によるものだ。

 万一のことが起きても被害を最小限に抑えるには、少数精鋭で偵察を送るしかない。だが、それでも未だに有力な情報は得られずにいた。

「活動海域を移した……とは考えられないかしら。深海棲艦を何十体も捕食したあとなら……」
「私も考えたが、それなら他の海軍や民間が被害に遭う可能性も考慮せねばな。種類がわからなくてもいい、せめて習性が知りたい」
「そうね……今のままじゃ、行動パターンすらまるで読めないわ」

 ――もしかしたら、もうこの海域には現れないかも知れない。自分達に実害が及ぶことはないかも知れない。
 だが、それは自分達が預かり知らぬところで違う誰かが犠牲になる可能性を孕んでいる。最悪の場合、自分達が見失ったせいで民間人が餌食にされる危険すらある。

 ゆえに、見なかったことには出来ないのだ。人類の自由と平和を守る、艦娘としては。

 ……その時。

「長門秘書艦! 金剛より通信がありました! 当該海域にて、複数の深海凄艦を発見したと!」

 黒い長髪を靡かせ、眼鏡をかけた色白の艦娘「大淀(おおよど)」が飛び込んでくる。その報告を聞きつけた長門は、剣呑な表情で椅子から立ち上がった。

「状況はどうなっている。数は」
「駆逐イ級五体、ロ級三体。現在は扇状に散開しており、イ級二体とロ級一体が民間の海岸に接近中です!」
「民間の海岸……? よし、最寄りの艦娘にその四体の撃破を優先させろ。イ級とロ級の体型ならば地上を侵攻される危険性は薄いだろうが、最悪の事態も想定せねばならん」
「了解しました!」

 数秒に満たない短いやり取りを終え、大淀は素早く執務室から引き返していった。そんな彼女の背を見送り、長門は神妙な面持ちで陸奥と顔を見合わせる。

「扇状に散開して、民間の海岸に接近……か。今までにないケースだな、例の巨大飛蝗の影響と見ていい」
「攻めてきたのではなく、逃げてきたのね……きっと。でも、これではっきりしたわ。あの巨大飛蝗は、まだここから離れていない」

 陸奥の言葉に、長門は深く頷き。窓の向こうに広がる水平線を見つめる。

「……まさかとは思うが……いや、まさかな」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。――提督に現状を報告する。もはや我々だけでは、手に余る案件だ」

 そう呟く彼女のデスクには、提督が嗜んでいた一冊の本が立てかけられていた。
 その表題には、「パラレルワールド 互いに干渉する異次元」と記されている。

(相互に影響し合う、複数の世界――か)

 ◆

 ――194X年8月25日。
 某海域。

「海岸方面に逃げるなんてッ……今までにないパターンデスッ! 比叡、他のイ級とロ級はどうネッ!?」
「はい! 現在は榛名と霧島が追撃に出ており、この程度なら撃滅も時間の問題かと!」
「オーケー……とにかく、民間人に犠牲者が出ることだけは避けねばならないデース。比叡、私に続きなサーイ!」
「はい、お姉様!」

 溌剌とした声を上げ、二人の美少女が茶髪を揺らして海上を疾走する。
 長女「金剛」と次女「比叡」は、海岸方面に移動したイ級三体とロ級一体を追撃すべく、三女「榛名」と四女「霧島」に残りを任せて別行動に移っていた。

 魚雷のような形状であるイ級とロ級には小さな足があるが、体長に対してあまりにも短く地上での歩行には不便であるとされている。よって上陸してもまともに動けず、民間の住宅地まで侵攻する可能性は薄いと言われてきた。
 だが、それはあくまで「深海棲艦が陸に上がる場合を想定した場合」の「机上の空論」に過ぎない。そもそも今まで実際に陸に近づく気配がなかったこともあり、今となってはその信憑性も怪しくなってくる。

 歩きにくい体型であり、地上の侵攻に向かない個体であることには違いない。それでも、這ってでも地上を侵攻し出すようであれば、対抗手段を持たない民間人はひとたまりもないのだ。

「お姉様、これはやはり……」
「……偶然にしては出来過ぎてるネ。私も同じ考えデス」

 非常事態に次ぐ非常事態。金剛も比叡も、薄々ながら察している。
 川内型三姉妹が発見した、巨大飛蝗との関連を。

 ――やがて。二人の視界に、徐々に目標の影が鮮明に映り込んでくる。
 もはや海岸とは、目と鼻の先。避難警報が間に合わなかったのか、沖合いにいる金剛と比叡にまで、住民達の悲鳴が聞こえていた。

「見えましたネー……! 比叡、海岸との距離は!?」
「およそ130! イ級とロ級の射程圏内です!」
「クッ……! 比叡、後方に回るネ! 真後ろから確実にヒットさせマース!」
「了解しました!」

 すでにイ級とロ級は海岸を砲撃できる位置まで近づいている。彼らに攻撃の意思はまだ見られないが、次の瞬間には海岸線に火の手が上がっているかも知れない。

 民間人の安全を優先するなら、一秒でも早く彼らを背後から砲撃するに尽きるが、寸分でも狙いが狂えば海岸線に誤射する可能性もある。
 普段なら第一射の砲撃で射角修正を行った上で、本命の第二射を命中させるところであるが、今回に限っては試射する余裕がない。

 より命中精度を上げ、第一射で命中を狙うには、対象と同じ方向――直線上の射線に入れるしかない。
 金剛と比叡は互いに深く頷き合うと、同時に航路を大きく曲げていく。

 やがてイ級とロ級の航跡に沿うように、彼らの背部に回り込む二人は――同時に砲身を展開させ、狙いを定める。

「気合い、入れてッ……!」
「バーニング、ラァアァヴッ――!?」

 そして彼女達の35.6センチ連装砲が、同時に火を吹く――時だった。

 突如。海岸線の向こうから舞い上がった一つの物体が、放物線を描き――ロ級の上に激突する。轟音と同時にロ級を中心に波紋が広がり、水飛沫が天を衝くように噴き上がった。

「砲撃!?」
「違いますネー……榛名と霧島は向こうにいるはずデス。援軍が来るという連絡もナッスィング。……それに、あれは……」

 砲身を下ろした比叡が目を剥く一方。金剛は冷静沈着に、目を細めて状況を見据えていた。

 砲撃なら爆発と共に火の手が上がるはず。だが、ロ級には衝撃音が響くのみであり、爆炎は見えないし硝煙の臭いも感じない。
 不発弾という線も考えられたが、その可能性もすぐさま彼女の脳裏から消え去った。

 ――残ったイ級へと飛び掛かる物体の動きを見るに、そもそも「砲弾」の類に当てはまるものではないからだ。

「な、何かが海岸から飛びついて……深海棲艦を襲ってる!?」
「……比叡! 例の、二体現れた謎の生物のウチの一体かも知れマセン。気を付けるデス!」
「は、はい!」

 深海棲艦を捕食した、という二体の未確認生命体。片方は巨大な飛蝗であり、もう片方は鮫のような歯型を残した等身大の生物であるという。
 状況を見る限り、後者の生物が現れた可能性が高い。夜間のチ級を、いともたやすく屠るほどの存在となれば油断はできない。
 対象とコミュニケーションが取れる保証もないのだ。

 金剛はいざという時に比叡だけでも逃げられるよう、先陣を切り海岸線に近づいていく。イ級までもがロ級に続いて海に沈み、徐々に海に静けさが戻ろうとしていた。

「見てくださいお姉様! あの謎の生物、浜辺に……!」
「地上での活動も可能ということデスか……?」

 やがて海岸線の砂浜が見え始めた頃。
 三体の深海棲艦を沈めた謎の生物は、獲物の骸を足場に再びジャンプすると、浜辺の上にすたりと着地した。
 その光景から対象の活動範囲を推し量る二人の頬を、冷や汗が伝う。

 もし彼の者の攻撃対象が地上の民間人に移れば、地上で有効に戦えない自分達にそれを止める術はない。よしんばそれが出来たとしても、戦艦たる自分達の武装では確実に民間人を巻き込んでしまう。
 提督に深い愛情を寄せる金剛としては、彼が不在である時に不祥事を起こしてしまうことは何としても避けたかった。それは彼女に限らず、提督を慕う艦娘達の誰もが思うところなのだが。

「……とにかく、限界ギリギリまで接近するネ。周囲の影響を最小限に抑えるためにも、『絶対に外さない間合い』が必要デス」
「……わかりました」

 敬愛する姉の強い決意を背中越しに感じ取り、比叡も厳かに頷く。彼女達は滑るように海岸線に近づき――やがて、浜辺の上に辿り着くのだった。

 そして金剛と比叡は、三体の深海棲艦を沈めた戦士と対面することになる。

「あれが、昨日川内達が見つけたっていう……?」
「巨大飛蝗とは……随分受ける印象が違いますね。複眼くらいにしか共通点を見出せません」

 だが。その風貌は、写真で見た巨大飛蝗とは掛け離れたイメージを金剛達に与えている。

 黒塗りの外骨格。その全身を伝う真紅のエネルギーライン。金色の複眼に、一振りの剣。
 巨大飛蝗のような生物感が伺えない、機械的な容姿。人型であるという点といい、川内達の報告から予想されたビジュアルとはまるで噛み合わない。

 ――しかし、全くの無関係ではないのだろう。見た目も形状もサイズも巨大飛蝗とは大きく異なるものの、飛蝗を彷彿させる複眼という意匠は共通している。

 さらに、イ級とロ級を一瞬で斬り伏せる戦闘力。間違いなく、只者ではない。

「まさか、三体目の未確認生命体……!?」
「あの剣で鮫のような歯型は残せないハズ。その可能性が高そうネー……!」

 金剛と比叡は警戒心を露わに、35.6センチ連装砲を展開する。そんな彼女達を――異世界から紛れ込んだ異物は、金色の複眼で静かに見つめていた。

(……なんなんだ、この世界は。建物は古めかしい昭和の東京みたいだし、変な化け物は海岸に沸くし、武装した女の子が海の上を走ってるし……。まさか、彼女達も機械系統の改造人間なのか……?)

 先ほど斬り伏せた鯨のような怪物は、あからさまに人間を襲っていたが……自分に警戒している二人の少女は、敵意は見せつつも一方的に襲いかかる気配はない。
 ……望みは薄いが、単純なコミュニケーションなら取れるかも知れない。そんな僅かな希望を頼りに、異物――仮面ライダーAPは、剣を収める。

「君達、ここは一体どこ――」
「ひぇえぇえっ! 喋ったぁあぁあ!?」

 そして。そんな彼の希望は。
 予想だにしない速さで、叶えられたのだった。
 
 

 
後書き
 他の艦これ二次創作では「艦これ世界は現代もしくは近未来」という設定が多いようなのですが、本作では明確な「現代」である仮面ライダー側の世界と区別を付けやすくするため、戦時中に近しい時代として設定しています。 
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