真田十勇士
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巻ノ六十四 大名その一
巻ノ六十四 大名
幸村は信之の目を見据えた、そのうえで彼に答えた。
「信じられぬお話です」
「大名になることがか」
「はい、それがしはとてもです」
「大名にはか」
「なる者とは思っていませんでした、それに」
「その欲もじゃな」
「はい」
兄の問いにすぐに答えた。
「ありませんでした」
「そうであったな」
「はい、どうにも」
実際にというのだ。
「考えもいませんでした、ですが」
「この話を聞いてか」
「はい、ですから」
「戸惑っておるな」
「どうにも、しかし」
「まことの話じゃ」
幸村にだ、信之は告げた。
「そうなりそうな話じゃ」
「左様ですか」
「二千石は確かに大きい」
幸村の今の禄はというのだ。
「それはな、しかしな」
「それが万石ともなれば」
「二千石は旗本じゃ」
その扱いである、禄により扱いは変わるのだ。
「しかし万石ともなればな」
「大名ですから」
「その扱いになる」
「左様ですな」
「そして格も違う」
旗本と大名では、というのだ。
「全くな、何もかもがじゃ」
「これまでとは」
「そうなる」
「ですな」
「しかし御主や扱われ方や格には関心がないな」
「実は禄の大小にもです」
それにもとだ、幸村は答えた。
「昔からですが」
「そうじゃな、文武の道には興味があってもな」
「そうしたことには」
「しかし大名になればな」
「何かと違ってきますな」
「御主の奥方の立場も家臣達のそれもじゃ」
そうしたものまでもがというのだ。
「全く違ってくる、それに家臣達の禄もな」
「増えまするな」
「この者達もじゃ」
十勇士達も見て言う。
「禄が増える」
「これまでとは違い」
「そうじゃ、旗本扱いじゃ」
「ですか」
「どうじゃ、御主に欲がないことはわかっておる」
禄や地位にだ、とかくそうした欲がないのが幸村だ。武士の道を進み極めることが彼の思いであるからである。
「しかしな」
「大名となることは」
「そうそうなれるものではない」
下克上であり力があれば望むものが手に入れられる世であるがだ、まだ。
「だからな」
「ここは望むべきですか」
「わしはそう思う」
「ですか」
「まあどうなるかわからんしじゃ」
「これから次第ですな」
「しかしこうした話が出ておることはな」
このこと自体はというのだ。
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