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剣士さんとドラクエⅧ

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111話 涙

「大きくなったら何をするんだ?」

 駆け回って駆け回って、疲れたしまったのか地べたに座り込んだ子供二人。見た目は配色が普通ではそう見ない感じなだけで、別に耳が尖っていたりとかそんなことは無い。……よく見たらラプソーンの方には角があったかな。アーノルドの方は……ただ色白なだけに見えるよ。

 ……アーノルドの方は人間じゃ?

「さぁ。やりたいことをやるだけだろ。決めてるのはお嫁さんを見つけて子供を可愛がる!これに決めてるから何があっても邪魔するなよ」
「ほんとアーノルドって子供好きだなぁ……分かったよ」
「ラプのことだからゼッテー忘れて子供いじめるだろ。それか似てなかったらいじめるだろ!口約束なんて信じないからな」

 ぷいとそっぽを向いたアーノルドは、慌てるラプソーンらしき少年が恐る恐る話しかけるのにも怒っているように見えるんだけど。なんだか、子供の姿だから怖くないし、恐れもない……。

 むしろなんか可愛い。微笑ましい。

「……ぬいぐるみ壊したこと、まだ怒っているのか?」
「フンッ……絶対に分かる、血の契約をしなかったらお前は俺の娘が殺すし、息子と気づかずに踏みつぶす!お前のことは友達だけどそれは信用してないからな!」
「すりゃあいいだろ。ラプソーンはアーノルドの子供を殺せない!ほら、手を出せ」
「……アーノルドはラプソーンの子供を殺せない」

 ……やっぱり人間じゃ、ないや。手の爪で手のひらをずたずたにして互いに当て合うなんて、普通じゃない。

 なんだか前世で読んだバンパイアの小説みたいだ。

「気に入ったから飼っていた犬も猫も山羊もうさぎも鹿もみーんな殺されてきたからな、次はやめてくれよ」
「……」

 アーノルドはカラカラ笑った。笑ってるのにラプソーンを見る目はちっとも笑ってない。そんなことされたのに友達には変わりないみたい。変だなぁ。

「特に可愛かった人間を殺された時は流石に殺意が湧いたからな?いくら親友ってもなぁ」
「……」
「なぁラプ。俺と一緒に人間の街でも行かねぇか?」
「狩りか?」
「そりゃそうだ。あんなカワイイ子以外は人間なんてムカつくもんだしなぁ」

 嫌な感じがちょっとする。……私を抱えたままのアーノルドの方を見る。なんだか嫌悪感丸出しって顔をして二人の少年を見ていた。

 気分的には私が魔物を狩るようなものなのかな?それならいくら酷いことだと思っても、何千か何万か知らないほど魔物の命を奪い、片手で足りない不届き者の人間を殺してきた私には綺麗事なんて言えないね。

 場面が眠い時みたいにぼやぼやと歪んで切り替わっていく。

 場所は室内だ。豪華な部屋。王族の部屋みたいに飾りが沢山ある。

「おい、エイリーンに手を出すな」
「何言ってるんだ。お腹に子供がいるのに手を出すわけがないだろう。わざわざ契約まで結んだんだからそこを疑ってもらっちゃ困る」

 今のアーノルドと寸分違わぬ姿の彼と、大人になったらしいラプソーン。それからアーノルドに庇われた、緑色の瞳が印象的な女性。……そういえばさっきから気になってたんだけど。二人とそこの女性以外……モノクロの世界だ。回想を見てるからなのかな?セピアっぽいけど、色はないんだ。

「息子かな?娘かな?産まれたら見せにおいで。アーノルドによく似た子供だといい」
「……今にも妻を殺しそうなやつに見せたくはない」
「妻?……お前、ほんと異端者だよなぁ。人間好きのアーノルド、いつ絆されたんだ?」
「さぁな。もう俺は人間狩りなんてしないし、わざわざお前とあちこち燃やそうとも思えないだけだ。ほら、魔神継承の儀式はすぐだろ?さっさとみんなに姿を見せてこい。俺はただの魔族で、お前は神になるんだ……昔なんて引きずるなよ……」

 ラプソーンが口を開く前に場面がまたぼやける。

「アーノルド、お前の子供は殺せない」

「お前は俺と並ぶ権利がある」

「ならば子を連れて俺の元に来るしかないだろう?」

「逃げないで」

「俺とともに過ごしたのはお前だけなんだから」

 だんだん人間味がなくなっていく声だけが耳元に響いていて……。

 それを断ち切ろうとするのか、守ってくれるようにぎゅっと抱きしめられる。

「やっぱりそうだ、エイリーンを殺したのはお前じゃないか!娘を連れてこいだと?いい加減にしろ、お前とはもう……もう……ッ」

 叫び声が遠く聞こえる。いつの間にか体温は離れていて、くしゃりと頭をなでられる感覚を最後に風だけが私の体を駆け抜けていく。

 ねぇ、なんでじゃあ……私を捨てたの?要らないわけじゃなかったんだよね?

 そうだ、天下無敵の花言葉の名前をくれたのは貴方なの?ねぇ、それくらい教えてくれたっていいじゃない。

 意識は周りの闇に溶けていく。溶けて、溶けて、混ざり合うみたい。

・・・・

「ゲホッ……気管に……ッ、ゲホッ」
「トウカ!」

 なんだろう、なんか夢を見てたような。ただ寝てただけのような。突然流し込まれた水に盛大に咳き込みながら飛び起きると目の前にはみんなが。なんでそんなに心配そうなの?元気いっぱいだよ?

「……なんか心配でもかけた?」
「心配どころじゃないよ!トウカ、あの杖に刺されて死にそうだったんだからね?!」
「へ……?」

 杖……?刺されて……?エルトは何を言ってるの。ピンピンしてるじゃないか。杖に刺されたら死ぬでしょ。生き返れなくなるって何人も見てきたじゃない。

「トウカ……良かった……」
「ククール、なんで泣いて……」

 ガバッと正面から掻き抱かれてびっくりした。ククールだよ、クールなククールだよ?いつも隣にいて不快感のない距離を保ってくれるような人が。……いつもサラサラのククールの髪の毛、血でベタベタだ。

 だんだん思い出してきた。目の前でメディさんが刺されたところで記憶が終わってる。ククールがやられた私の代わりに反撃してくれてた気もするけど……。

「ねぇ、メディさんは。私は助かったんだよね……刺されても」
「……駄目だったよ」
「そう……」

 また守れなかったんだ。私、弱いなぁ。生き残れたのは嬉しいけど……こんな生き延び方って。

 ううん、ククールが泣いてる。顔は見えないけど、この距離ならわかるさ。優しいククール……大切な仲間で友達。友達の死なんて嫌に決まってる。生き延びれて良かった。

「ベホマでも目を覚まさなかったから不思議な泉の水を飲ませたんだよ、トウカ。こんなこと言いたくないけど……今は自分のことを考えた方がいいよ」
「え?もう元気だよ?」
「さっきまでどれだけ真っ青だったと思ってるんだ!いいから休んでて!また居場所がわからなくなったんだからどっちにしろ動けないんだから!」

 そう言ってエルトはククールをばりっと引き剥がした。……美形は顔がくしゃくしゃでも様になるんだね。びっくりするぐらいボロ泣きのククールにゼシカがハンカチを差し出し、ヤンガスの男泣きに私はハンカチを探して……装備がまるっと剥かれていることに気づく。

 誰のかわからない、ていうかゼシカでしかありえないんだけど、見知ったワンピース姿だった。ゼシカの普段着だ……む、胸のあたりだぼだぼなんだけど。ねぇ、ちょっと、着替えさせて……。

「とりあえず宿だよ、アスカンタでも行けばいいでしょ?嬉し泣きも後悔も着替えも後、もう誰かを失うなんてごめんだよ!」

 見たこともないくらい目を釣り上げたエルトが私に肩を貸してくれた。もうひとりで平気、体調万全、いつだって戦地に戻れるのに。でもおとなしく今は借りた。

・・・・ 
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