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剣士さんとドラクエⅧ

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110話 昔話2

・・・・

 いいことなんて何もない。メディさんは守りきれずに亡くなり、トウカは今もなお瀕死。ククールのなけなしの魔力を振り絞っての必死のベホマのおかげで傷こそすべて癒えたトウカだけど、未だ呼吸は弱々しくて、目覚める気配はない。

 嘘みたいだ、トウカの風邪なんて見たこともないし、大怪我を負って動けなくなっていても威勢はいいんだから。いつぞやのドルマゲスの呪いを受けた時だって僕たちの拘束をあっという間に千切ってしまうくらいだったんだから。

 それでも……あの杖に突き刺された賢者の子孫たちは揃いも揃って魂を抜かれていたんだから……魂を抜かれずにこの世に留まっているのは奇跡と言ってもいいだろう、けど。そんなの不幸中の幸いなんて言えない。あんなにいつも元気で、元気過ぎで、溌剌としたトウカが目覚めないんだから。

 トウカが何故魂を抜かれることなく一応、死に至らなかったのか。……トウカを治そうと飛んだ不思議な泉であの隠者さんと話し、トウカは賢者の子孫ではないからだろうという仮説は聞けたけど。僕らはそれでは納得はしない。

 ドルマゲスに殺されたのはなにも賢者の子孫だけじゃないから。トラペッタとリーザス村を繋ぐ関所の兵士は殺されたんだから。殺そうと思えばいくらでも殺せただろうし、あの大怪我でトウカが生き延びたのは嬉しいことだけど不自然すぎる。

 ゼシカ、ヤンガスは死んだことがある。忘れもしないドルマゲスとの激戦で。その時の二人の怪我は……さっきのトウカよりはマシだったように見えるよ。もちろんトウカのほうが体力があったっていうならそれでおしまいだけどね。

 でも、忘れそうでほとんど忘れてたんだけど、トウカってHPがすごく低い人なんだ。守備力も防具でカバーしているだけ、魔法耐性については言わずもがな。最近は伸びていて、ゼシカよりはあるかなって感じ。やっぱり女の子だからかな。

 どちらにせよ前衛のHPじゃないんだ。あの時のヤンガスの方がよほどHPが高かったはず。なのに生きてた。おかしいよね?トウカは激痛の中、血を吐いても生かされてたってこと?生かすだけ生かしておいて……あんな、腹に杖を突き刺すなんてしておきながら、死なせない。なんて残虐なんだろう。もちろん杖を突き刺して命を奪うことだって最悪には違いないのだけど。

 こんな時でも不思議な泉は美しい。木々の間をそよぐ風はこんな状況でも気持ちよくって、清浄だ。ここに連れてこれたら本当はいいんだろうけど……。

 水筒に泉の水をなみなみと汲んだ。残念ながら前回、泉の近くに寄るだけで辛そうだったトウカ自身を連れてくるわけにはいかなかったから。ククールと陛下と姫と一緒に隠者さんの家にいる。

 さぁ、戻らないと。これを飲んで……ちょっとでも、いや。全回復してくれることを祈ろう。姫の強力な呪いを一時的に払い除けるぐらいなんだから……できるよね?

・・・・

「ねぇ、あなたは誰」
「俺かい。君のお父さんだ」
「私をトロデーンの、モノトリア家の家の前に捨てた実の父親ってこと?」
「……あぁそうだ。言い逃れのしようもない」

 闇が波打っているような不思議な空間で、私は背の高い男の人と向かい合っていた。いつの間に。

 怪我はない。痛みもない。体の調子も悪くない。なのになんだか体を動かせない気がして、だらんと腕を伸ばして立っているんだ。

 銀髪に紫色の目をしたその男の人は、とても強そうだった。目は鋭く、顔は……エルトやククール、ヤンガスとも違うイケメン。こんなかっこいい人と血が繋がっている割には私って顔良くないよね。話を鵜呑みにするならさ。可愛くも、かっこよくもないんだよ、私ってね。中性的でなんとも言えないんだ。

 彼の声は男らしく低く、私の声は変声器なしの高い声。それがとてもはずかしく感じられた。

「……そう。別にあなたの事は恨んでないよ。私はモノトリア家の一員として幸せだから」
「そうか。それなら良かった」
「ところで、ここはどこ」
「……はざま、というのが正しいだろう」

 彼は少し微笑む。笑顔は冷たい容姿と反対に温かだった。なんか安心する。やはり父親だから?父上といても安心するけどそれとは種類が違う。

 しかもそれは恥じらい無しに抱きついたって構わないって思わせるような包み込むような笑顔だった。

「生と死。表と裏。体と心。そんなもののはざまだ、トウカ」
「……私って案外死にそうなの?」
「いいや。俺が呼んだだけだから後で帰れるさ」

 そう言うといきなり彼は動けない私を子どもにするみたいに抱き上げたんだ。ひょいって、軽々と。身長差があるにしても……あ、夢なのかな。なら重さなんてないや。ただの夢なんだろうか。生みの親を見る夢なんて。どうせならお母さんが良かったかも。

「俺の名前はアーノルド。アホなラプソーンの親友だった存在だ。……ちょっと見て欲しいことがある。少し時間をもらおうか、我が娘」
「え、ちょっと、どういう……」

 ラプソーンの親友だった?何を知っているの。なら人間なわけがないじゃないか!私もそれなら人間じゃないってことになるし……。その割には別に普通だよね?白塗りメイクとか顔色が著しく悪いとかそんなことないものね?

「トウカ、これは夢だから。安心しなさい、不安なことはなにもない。目覚めれば怖いと思った事は忘れているから」

 ぽんぽんと、小さな子供にするみたいに背中を叩かれ、私はそれで何故か納得して落ち着いた。安心してしまって、体の力を抜いて、身を任せ、預けるくらい。ほっとして、顔からもたれてしまった。

「そう、それでいい。なにも親らしいことが出来なかったんだから今だけは甘えなさい」

 闇が揺らめく。だんだん、闇は光に変わる。眩くなって、思わず私は目を閉じた。体が上下して、どんどん進んでいくのが感じられた。

 夢のはずなのにアーノルドの体温は温かくて、それにすがってしまいそうだった。なんでだろう。人肌恋しいのかな?

「ほら、あれが小さい頃のラプソーン。可愛いだろう?よく遊んだものだ。今はただのアホだが」
「……え」

 思わず目を開ける。開けると……そこはなんだか変なところだった。セピア色の空間で、私たちだけ普通に色があった。目の前にはラプソーンには到底見えない少年と、アーノルドそっくりの少年が駆け回って遊んでいて……どういうこと。

 ラプソーンは人間だったの?

「それは違う。ラプソーンは魔神だからな。最初はただの魔族だった。それだけのことだ」

 今のラプソーンの顔は知らないけれど、生意気そうな少年がアーノルドと一緒になって普通に遊んでいる姿が妙に……眩しい。ただの無垢な子どもが……あの悲劇を生み出す原因となるってわかっているんだから。

・・・・ 
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