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真田十勇士

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巻ノ六十二 小田原開城その二

「それで、です」
「降ると」
「そしてその仲裁を願ってきました」
「そしてわしに」
「はい、お願いしたいと」
「降るならよし」
 秀吉もそれでいいとした。
「ならばその仲裁の手柄としてです」
「いえ、手柄なぞとは」
 家康は断り秀吉の言葉をかわそうとかかった。
「とても」
「よいと言われるか」
「それがしは今のままで充分です」
 土地も民もというのだ。
「この五国で、ですから」
「そう言われるか」
「はい、それに北条殿は縁戚です」
 氏直が娘婿だからというのだ。
「ですから当然のことです」
「その仲裁も」
「当然のことですから」
「手柄にはされぬと」
「今のままで充分です」
「いや、そう言うものではありませぬぞ」
 謙虚さを以てかわそうとする家康にだ、秀吉は攻めてかかった。
「これは当然のこと、ましてや徳川殿の手で戦は終わり天下が泰平になるからには」
「褒美はですか」
「貰って下され、それは」
 一気に詰めてきた、そしてその一手を打ったのだった。
「この関東八国です」
「関東の」
「左様、北条家の領地は全て一旦召し上げ」
 そのうえでというのだ。
「関東一円を徳川殿にお任せしたいと」
「何と」
 家康は予想しており内心苦い顔になったが言葉はこれだけだった、そして四天王達もここではあえて言葉を出さなかった。
「この関東一円を」
「合わせて二百五十万石を」
 これだけの石高をというのだ。
「徳川殿にお任せしたい」
「二百五十万石」
「それだけを」
 まさにというのだ。
「是非共」
「それがしが二百五十万石」
「頼みましたぞ」
 笑みであるが有無を言わせないものがあった、秀吉も家康にそれを言わせない為にあえて笑みとなったのだ。
「それでは」
「・・・・・・・・・」
 家康はここで駆け引きを読んだ、そして。
 最早避けられるものではないことを察してだ、秀吉に頭を垂れて答えた。
「わかり申した」
「引き受けて下さるか」
「はい」
 一言での返事だった。
「さすれば」
「それではですな」
「謹んでお受けします」
「では関東はお任せしましたぞ」
 こうしてだった、家康は関東を治めることになった。だが。
 徳川家の陣に戻るとだ、四天王達は口々に言った。
「してやられましたな」
「流石は関白様ですな」
「攻めてこられそして」
「殿に頷かせましたな」
「流石は関白様じゃ」
 家康もこう言った。 
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