仮面ライダーAP
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第一章 鉄仮面の彦星
第5話 愛するために
南雲サダトの突然の失踪から、数日。
行方をくらましたまま、一向に帰ってこない彼の行方を案じるアウラは、窓から見える町並みを覗き続けていた。
もしかしたら、ひょっこり姿が見えるのではないか。そんな、淡い期待を抱いて。
「南雲、様……」
だが、彼が期待通りに現われることはなかった。そして――その理由は容易に想像がつく。
「やはり、シェードに……なら、それは私の……」
シェードに狙われていた自分を庇った。標的にされる理由など、それだけで十分過ぎる。そして、そこから来る自責の念が、彼女の心を大きく揺るがした。
(私が、あの人を……)
いくら外を覗いても、待ち続けても。彼は帰ってこない。その現実に打ちのめされたように、アウラは膝から崩れ落ちていく。
それほどまでに、彼女にとっては大きいのだ。南雲サダトという男の存在は。
(……故郷から、この星の人々を改造人間の哀しみから救うべくやって来て、半年。この日本に来るまで、私は何人もの被験者達を治療してきた。けど……)
――アウラはこれまで、世界中を巡り改造手術の被験者にされた元構成員達を、何人も救ってきた。……だが、それで必ずしも誰もが幸せになれたわけではない。
むしろ人間に戻ったせいで、一度社会から追放された者は生き抜くための武器を失い、野垂れ死んだケースもある。治療が原因でシェードに存在を知られた彼女の巻き添えで、人間に戻って間も無く殺されたケースもある。
そんな彼女に向かう、遺族の罵声。怨み。嘆き。その全てを背負ってなお、彼女は治療を投げ出さなかった。ここで立ち止まれば、その時こそ犠牲になった命が無駄になってしまうのだと。
それでも。たった一人で背負うには、その罪は重過ぎた。
だから彼女は、味方も作らず無謀も承知で、わざわざシェードの本拠地がある日本に来たのだ。彼らに捕まり、殺されるならそれもいい――と、半ば投げやりに己の命を軽んじて。
そうすることで、自分の罪を清算しようと。
――だが。
それを許さない者がいた。
シェードに追われ、いよいよかと覚悟を決めようとした自分を、身を呈して守り抜いた青年は――罪に塗れているはずの自分を、こともあろうに「正しい」と言ってのけたのだ。
そんな資格はない、と頭では理解していながら。自分には勿体無いとわかったつもりでいながら。それでも心のどこかで、狂おしく求め続けていた言葉が――アウラという少女の心を、溶かしてしまったのだ。
もう――この人なしではこの星で生きられないと。
それほどまでに想う相手が、自分が原因で危険に晒されてしまった。その胸の痛みは、あらゆる痛みに勝る責め苦となり、彼女を締め付けている。
――そして。その痛みが。
(助け出さなくては……南雲様を、なんとしても!)
愛する男との約束を破ってでも、捜索に向かう決断に踏み切らせたのだった。彼女は「家を出るな」というサダトの言いつけを破ると、勢いよくアパートを飛び出し、東京の街へと繰り出して行った。
絶世の美貌を持つ彼女は、道行く人々の視線を一身に惹きつけ、時として色欲に塗れた男達に声を掛けられることもあった。
だが、それら全てをかわす彼女は、一心不乱にとある場所を目指す。――彼女の胸中には、心当たりがあったのだ。
――それはかつて。No.5と呼ばれた改造人間と、7年前のテレビ局占拠事件の首謀者との決戦が行われた廃墟。
そして今は、シェード残党が潜伏するアジトにもなっている。
都会から程よく離れた地点であり、遮蔽物が多く入り組んだ構造でもあるため、彼らにとっては絶好の潜伏先なのだ。
「仮面ライダー」と呼ばれているNo.5により、7年に渡る戦いで世界各地のアジトを潰された彼らは今、居場所を求めてこの場に集まっている。
アウラは改造人間が持つ独特の脳波を感知し、その気配が集まる場所を特定していたのだ。
人気がまるでない、僻地の廃墟。そこにいるだけで孤独感に押し潰されてしまいそうな、その魔境に足を踏み入れた彼女は――神経を研ぎ澄まし、怪人達の居所を追う。
(失踪から数日が経っていても、南雲様の御遺体は発見されていない。シェードが人手不足になっているという点を考慮するなら、改造人間にするために誘拐されたという線が強い。……なら、今もこのアジトに囚われているはず!)
サダトの脳波を探し出そうと、アウラは瞼を閉じ、さらに感覚を鋭利なものにしていく。――その時。彼女の足元に砂利の坂から小さな瓦礫が転がって来た。
「……!」
小さな埃が舞い散り、アウラは顔を守るようにそれを振り払う。
――刹那。禍々しい気配が、少女の第六感に轟いた。
瓦礫が転がる坂の上にいる「何か」を見上げた彼女は、恐怖に屈しまいと唇を噛み締める。
「……!」
彼女の眼前の先。
「……まさか貴様の方から、のこのこと来てくれたとはな。――エリュシオン星人よ」
「――シェードの改造人間っ!」
そこには、シェードによってその身を改造された異形の怪人が佇んでいたのだ。
青白い筋肉組織のようなものを剥き出した、人体模型を思わせる悍ましい姿。
更に、その全身を得体の知れない、無色の粘液が覆っている。
彼が一歩踏み出すたびに、べちゃり、という音が立つ。
シェードの刺客……エチレングリコール怪人だ。
「さぁて……孕んでもらおうか、俺の子を!」
「――お断りよ!」
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