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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第6部 贖罪の炎宝石
  第3章 病

ウルキオラはダイニングルームから出ると、使用人から部屋を案内された。

当初は、平民ということから、納戸のようなスペースに案内されるはずだったが、カトレアの治療をするということで、それなりの部屋が用意された。

ベッドが一つにテーブルが一つ。

そのテーブルには二つの椅子があった。

シンプルな感じだが、どこか高級感があふれていた。

久々に部屋の中で一人となったウルキオラは、自身のことについて考え始めた。

昔なら、人間如きの病を人間如きに教え、且つそれを治療するなどありえなかった。

ルイズの使い魔ということを鑑みても、異例の行動であった。

ウルキオラは、自分が随分と変わったなということを考えながら、淹れたての紅茶に手を伸ばす。

そんな風に考えていると、扉がノックされた。

探査回路から、誰が来ているのか分かった。

「シエスタか?」

ウルキオラは、椅子に座ったままノックに答えた。

扉が開くと、シエスタが立ってはにかんだような笑みを浮かべた。

「あ、あの……、来ちゃいました。その、眠れなくって」

「そうか」

そういって、シエスタは部屋に入った。

「よくここがわかったな」

「召使の人に聞いたんです。ウルキオラさんはどこにお泊りなんですかって」

「そうか」

シエスタはベッドに座って足をぶらぶらさせた。

どういう訳か顔が真っ赤だった。

ウルキオラに向かって来い来いをした。

しかし、ウルキオラはそれを無視するかのように紅茶を啜る。

痺れを切らしたシエスタが、ウルキオラの腕を引っ張り隣に座らせた。

それから、馬車の中でずっとそうしていたように頭をウルキオラの肩にもたれかからせる。

「どうした?」

と問いかけると、シエスタは無邪気な顔でのぞき込んできた。

「わたし、こんなすごいお城に来たの初めてだわ。迷路みたいですね。このお城」

「そうだな」

「学院の仲間が言ってました。ラ・ヴァリエール家は、トリステインでも5本の指に入る名家なんですって。こんなお城に住むのも、当然ですよね。はぁ、爵位も財産も、そして美貌も何でも揃ってて……、ミス・ヴァリエールは羨ましいな」

「そういうものか?」

ウルキオラには、シエスタが羨ましいといったあれもこれもが別にどうでもよかった。

「そうです。だって、私が欲しくても手に入れられないものを、たくさんお持ちなんですもの」

それからシエスタは、ウルキオラの顔を覗き込んだ。

「ウルキオラさんも」

「俺はあいつの所有物じゃない。使い魔だ」

「わかってます」

ぽつりと、シエスタは言った。

「それでも…羨ましいんです」

寂しそうにシエスタは顔を伏せた。

ウルキオラには全く理解できなかった。

ひっく、ひっくとシエスタがしゃっくりを上げる声が聞こえてくる。

泣いているのだろうか?

ウルキオラがどうしたものかと考えていると、シエスタはいきなり立ち上がった。

「どうした?」

「かといって……」

ウルキオラはシエスタが何を言わんとしているのか疑問に思った。

「わたしも捨てたもんじゃありませんけど」

「どういう意味だ」

シエスタはくるりと振り向いた。

「ミス・ヴァリエールより、むむむ、胸は確実に勝ってますわ。ひっく」

「確かにな」

ぷるぷると怒りで震えながら、シエスタは言葉をつづけた。

「なな、なーにが貴族ですか。わたしなんてメイドですわ。めいど。ういっく」

「知っている」

シエスタは何度も、ひっく、ウイック、としゃっくりをかました。

ウルキオラはそこで、シエスタの様子に気が付いた。

「お前…まさか酒を飲んだのか?」

「夕食に一本付いたんです。長旅お疲れさまとか言って。ひっく」

顔が赤いのは照れているだけでなく、酒が入っていたせいらしい。

ウルキオラは思わず口をあけた。

酔ったシエスタは初めてである。

なるほどここではシエスタも、付き添いのメイドとはい客だ。

もてなすためには、この城の召使はシエスタに酒を出したらしい。

酔っぱらったシエスタはガサゴソと、シャツの隙間からワインの瓶を取り出した。

「どこから持ってきた?」

シエスタはウルキオラに顔を近づけた。

「もらったのれす」

「そうか」

シエスタは、コルクを抜くと直接ぐびっと酒を煽った。

その飲みっぷりにウルキオラは少し驚いた。

ぷは、とシエスタは瓶から口を離した。

その顔がさらにとろみを増している。

「おいウルキオラ」

とうとう呼び捨てである。

「なんだ?」

「お前も飲め」

「……ああ」

恐らく断ったらさらに面倒なことになるだろう。

ウルキオラはワインを受け取った。

ぐいっとひと口飲み込んだ瞬間、思わず怪訝な顔をした。

ワインではないのだ。

非常に強い酒であった。

「ワインじゃないな?」

「厨房のテーブルにあったのれす」

どうやらシエスタは、一本つけられたワインを飲み干して気分がよくなってしまい、テーブルの上にあった酒を適当に失敬してきたらしい。

なんとも酒癖の悪いシエスタであった。

意外な一面である。

「盗んだのか?」

「こらウルキオラ」

「……」

思わず口を閉じる。

「とにかく飲め」

「……」

断ったら本当に面倒な予感がしたので、仕方なくウルキオラは酒をあけた。




爽やかな陽光が、窓を介して部屋の中へ入ってくる。

昨晩、ベロンベロンに酔ったシエスタは、ウルキオラの部屋のベッドで寝てしまった。

ウルキオラは、多くの霊力を消費しない限り、睡眠も食事も必要としないため、このままにしようかと考えたが、ルイズあたりに見つかると何かと面倒だと思った。

そのため、近くにいた召使に、シエスタの居室を聞き、抱きかかえて送った。

その後、部屋の椅子に座ってぼけっと過ごしていたら、いつの間にか朝を迎えていたのだ。

さて、そんな風にしていると、ウルキオラの居室の扉が叩かれた。

「開いている」と伝えると、扉が開かれた。

召使のようであった。

「ウルキオラ様。旦那様がお呼びです。ダイニングルームまでお越しください。




ダイニングルームまで足を運ぶと、公爵、カリーヌ、ルイズ、カトレア、エレオノールが昨晩の晩餐会と同じように、周りに召使を待機させた状態で朝食を摂っていた。

ウルキオラが扉を開くと、一斉に視線が向けられた。

「おお、来たか。お主も座れ」

そういって、公爵は一つの座席を指した。

そこは、ルイズの座る座席から一つ開けたところであった。

その前には、ヴァリエール家族と同じ料理が並べられていた。

「俺に朝食は必要ないんだがな」

「必要ない?興味深いお話ですわ」

カリーヌがウルキオラの呟きに答えた。

「必要なくとも、食べられはするだろ?」

公爵の言葉に、ウルキオラは少し悩んだが、頂くことにした。

座席に座ると、召使が紅茶を注いできた。

それを気にせずに、ウルキオラは食事に手を付けた。

味は一流。

さすがは名家というだけのことはある。

そんな風にウルキオラが考えていると、カリーヌが口を開いた。

「カトレアの治療は何時頃に?」

「俺は何時でも構わん。場所も、カトレアが寝そべることができればそれでいい」

ウルキオラはカリーヌを見向きもせずに言った。

「治療の際に同行してもいいかしら?」

エレオノールが口を拭きながら呟いた。

「構わん」

ウルキオラの言葉を聞いて、公爵が口を開いた。

「では、皆で同行させてもらうとしよう。構わんな、カトレア」

「はい。私はいかようにでも」

カトレアは、屈託のない笑みを浮かべて答えた。

それを聞いた公爵が、持っていたパンを皿の上に置き、ゴホンっと咳ばらいをした。

ウルキオラ以外の者は、視線を公爵に向ける。

「では、治療開始は2時間後とする。部屋は使用していない一室を用いる。部屋を清潔にしておけ」

それを聞いて、控えていた召使の内の3人がダイニングルームから出ていった。

「では、頼みましたよ。ウルキオラさん」

ウルキオラは、カリーヌの言葉に、「ああ」と単調に答えた。




治療は2時間後ということであったため、ウルキオラはヴァリエール城内を散策していた。

しばらくすると、中庭に到着した。

中庭の中心には、池があり、その上に小さな小舟が浮かんでいた。

ウルキオラは池の畔にたたずむ。

なんとも情緒あふれる雰囲気であった。

しばらくすると、ウルキオラに近づいてくる足音が一つ聞こえた。

「ルイズか」

ウルキオラは後ろを振り返ることなく、足音の正体を見抜く。

「うん」

ルイズはそういうと、ウルキオラの横にきた。

ウルキオラはそんなルイズを横目で見つめた。

何か言いたげな目をしている。

「なんだ?」

ルイズは驚いたようにウルキオラを見つめた。

「なにか言いたげだが?」

ルイズは一つため息をついた。

「ねえ、本当にちいねえさまは治るの?」

「俺が嘘をつくとでも?」

ウルキオラは冷徹に答えた。

「別に、そうは思ってないわよ」

ルイズは少しふてくされたように呟いた。

「ねえ、ウルキオラ……」

ルイズ真っ赤な顔でウルキオラを見つめた。

「なんだ?」

ウルキオラはルイズに顔を向けずに答える。

「ありがと……」

爽やかな風が中庭の新鮮な空気を運んでくる。

その風が、ルイズの桃色がかったブロンドを揺らした。




さて、ウルキオラはルイズの案内のもと、カトレアの治療を行う部屋へと向かった。

中に入ると、公爵にカリーヌ、エレオノールがベットで横になっているカトレアを囲むようにして立っていた。

部屋の大きさは、かなりあるようだった。

ウルキオラが一夜を過ごした部屋の倍ほどの大きさを有していた。

「言われたとおりに準備いたしましたわ」

カリーヌが部屋へと入ってきたウルキオラに向けて放った。

「そのようだな」

そういって、ウルキオラは横になっているカトレアの元へと足を運んだ。

「治療の際痛みはない。だが、相当時間がかかる。寝ても構わん」

「あら、お優しいですわね」

カトレアは屈託のない笑みを浮かべた。

どうにも調子が狂う。

それが、ウルキオラがカトレアに抱いた最初の感情だった。

何故かはわからない。

おそらく、考えるだけ無駄なのだろう。

だが、一つ明らかなのは、カトレアがあの女に少し似ているからであろう。

そんな風に考えていると、公爵が口を開いた。

「我々も同行してよいのだったな?」

公爵の言葉に、ウルキオラは短く肯定した。

「治療の時間が長くなるといっていたけれど、どのくらいなの?」

エレオノールが怪訝そうにウルキオラに質問する。

「そうだな。まあ、半日といったところか」

その言葉に、皆が絶句する。

どんなに優秀な水の使い手でも、小一時間も治療を続ければ、すぐに魔力切れで意識を失う。

それを、半日も行うなど、まさにクレイジーなものだった。

「半日もあなたは大丈夫なのですか?」

「問題ない」

カリーヌに疑問をすぐさま打ち砕く。

ウルキオラは、差している斬魄刀とデルフを椅子に掛ける。

「やるぞ」

ウルキオラはカトレアの腹部の辺りに両手を添える。

手には緑色の魔力が発言する。

最初は心配そうに見つめていたルイズたちだが、カトレアがいつも通りに会話をしているのを見て安心した。

これを機に、ウルキオラにとって初の『治療』と、このハルケギニアに来て初めての大きな霊力の消費が始まった。




治療は13時間にも及んだ。

既に深夜の時間帯であった。

ウルキオラは休むことなく、カトレアの治療にあたった。

ルイズたちは、入退出を繰り返しながらも、カトレアの様子を随時心配していた。

カトレアは最初の4時間は目をあけていたが、その後は目を閉じていた。

治療は大成功であった。

カトレアは、治療後20分ほどで起きた。

起きてからというもの、身体はすこぶる調子がよく、ジャンプをしたり、回って見せるなど、普段のカトレアからは想像もつかない行動をした。

ウルキオラは、カトレアに魔法を使用するように命じた。

言われたとおりに魔法を使用するカトレアであったが、いつものような痛みはなかった。

それを見ていたカリーヌは、思わず涙をこぼした。




ここは、ダイニングルーム。

いつものように晩餐会が開かれていた。

いつもなら、食べるのを断るウルキオラであったが、多少霊力を消費していたので、もらうことにした。

そうして食事をしていると、上座に座っている公爵が徐に口を開いた。

「ウルキオラよ」

その一言で、ルイズたちの手が止まる。

しかし、ウルキオラは手を止めることはしなかった。

「なんだ?」

「カトレアを治療してくれたこと、心より感謝いたす」

公爵は深々と頭を下げた。

それを見ていたルイズたちや、召使は大いに驚いた。

国を代表する、名家の当主が、身分上では平民に頭を下げていることがあり得なかった。

しかし、それを横目で見ていたカリーヌは、同じようにウルキオラに頭を下げた。

「礼ならルイズに言え」

「え?」

思わぬ言葉に、ルイズは驚いた。

「俺は別に善意で治療をしたわけではない。ルイズが治せと言ったからやっただけだ」

「だが、カトレアが治ったのは事実。褒美を取らせなければならんな」

公爵はそう言って、顎を撫でながらウルキオラを見つめた。

「どうだ?カトレアを嫁にもらわんか?」

公爵の言葉に、カリーヌも乗ってくる。

「それは良い考えですね」

カトレアは、「まあっ!」とまたもや微笑しながら驚いていた。

これを聞いて、ルイズが黙っているわけはない。

「ちょっと!父様!母様!ウルキオラは平民ですわ!それに、私の使い魔……」

しかし、最後まで言わせてはもらえなかった。

「私が直々に国に願い出れば、ウルキオラを貴族にすることはたやすい。それに、カトレアとウルキオラが結婚したところで、お主の使い魔としての責務が果たせぬことはなかろう?」

「で、でも……」

ルイズは焦っていた。

このままではまずい。

非常にまずい、と。

しかし、ルイズが打開策を考えている間に、ウルキオラが口を開いた。

「断る」

場が静まり返る。

「理由を聞かせてくれんかね?」

「聞かねばわからんか?」

ウルキオラと公爵の目が交差する。

しばらくすると、公爵が大きく笑った。

「いやいや、すまんすまん。ちょっとした戯れだ」

「戯れにしては、明白な言及だったな」

ウルキオラはルイズを見た。

プルプルと震えている。

早とちりをしてしまったとでも考えているのだろう。

しかし、ウルキオラは思った。

今回の件に関しては、ルイズの考えが正しかった。

「では、お礼の品を考えなくてはなりませんわね」

カリーヌがなにかないものかと、試行錯誤した。

「あれはどうですか?母様。あの倉庫にある……」

エレオノールが呟く。

「ああ、なるほど。もしかしたら、ウルキオラさんなら使えるかもしれませんわね」

それを聞いたウルキオラが、食事の手を止めた。

「どういう意味だ」

「深い意味などありませぬ。ただ、我がヴァリエール家に長きに渡りある、いわゆる骨董品というものです」

「ほう?」

ウルキオラは少し興味が出た。

それを見ていた公爵が、これだとばかりに話を進める。

「ならば、この晩餐会が終わり次第、向かうとしよう」

そこへルイズが口を挟んでくる。

「しかし、お父様。あれはただの……」

「ルイズ、お主は心配せんでいいのだ」

ルイズは心の中で、ムスッとした。

まあ、顔にも出ているのだが…。

あんな鉄の塊などもらってもうれしいはずがないわ、とルイズは思っていた。




さて、深夜にも関わらず、中庭には7人の人影があった。

ヴァリエール家族とウルキオラ、シエスタであった。

シエスタは、先ほどダイニングルームから退出した際に、合流した。

どうやら、昨日の酒がまだ抜けていないのか、少し調子が悪そうだった。

「ウルキオラさん、これ、どこに向かってるんですか?」

「直にわかる」

会話はそこで途切れた。

着いた場所は、豪勢な城と中庭には似合わない、ボロ屋であった。

公爵がアンロックの魔法を唱えると、ボロ屋の鍵がガチャンと外れた。

その後、カリーヌが同じように魔法で扉を開く。

一気にボロ屋内の空気が漏れだす。

埃っぽい空気に、ルイズとエレオノールは思わずせき込んだ。

7人は、そんなボロ屋へと足を踏み入れた。

ウルキオラとルイズ、シエスタ以外の4人がライトの魔法を使い、暗闇を照らした。

すると、その明かりに、何か赤い塊が照らされた。

「これが、我がヴァリエール家に伝わる骨董品、鉄の馬じゃ」

次いでカリーヌが口にする。

「最初はただの箱と思っておりましたが、中々に精巧な作り。なにか秘密があるのではと調べてはみたものの、何もわかりませんでした」

ウルキオラは絶句した。

思わず目を見開く。

この世界にはあるはずのないものであった。

シエスタは興味津々とその鉄の馬を撫でている。

そう……あの時と同じであった。

タルブの村でゼロ戦を見た時と同じ。

それと同義のものが、今ウルキオラの目の前に鎮座していた。

「これは……」

ウルキオラは小さく呟く。

そんなウルキオラを見て、ルイズは不審に思った。

「どうしたの?ウルキオラ……」

しかし、そんなルイズの言葉など耳には入っていなかった。

シエスタが気づく。

「もしかして、これもウルキオラさんの人間の世界のもの?」

シエスタは言葉に詰まりながら答えた。

「ああ、そうだ…」

カリーヌが口を開く。

「あなたの世界のもの?なるほど。ならば全て合点がいきますわ」

「ふむ、まさかこの鉄の馬がウルキオラの世界のものだとはな」

公爵が顎を撫でながら言った。

「これは、『鉄の馬』という名ではない」

「では、なんといいますの?」

エレオノールが問うた。

「これは……『車』だ」

「車?」

カトレアは首を傾げた。

「この世界で言うところの『馬』だ……」

「へえ、馬ってことは、これは走るんですか?」

シエスタは目を輝かせた。

ウルキオラは公爵に目を向けた。

「これは何時からここに?」

公爵が申し訳なさそうな顔をした。

「悪いが、儂が物心ついた頃にはここにあった。骨董品とはいえ、皆、ただのガラクタだとしか思っておらんかった。悪いがわからん」

「そうか」

ウルキオラは短く返した。

車のボンネットに手を添える。

すると、左手に刻まれたルーンが光る。

その瞬間、車の情報がウルキオラの頭の中に流れ込んでくる。

三菱 ランサーエボリューションⅨ MR GH-CT9A。

エンジンは、直列4気筒DOHC16バルブICターボ。

最高出力、280馬力。

最高速度、260km/h

どうやら、リミッターは解除されているようであった。

それ以外はすべて純正と言った感じであった。

だが、どうにも腑に落ちない。

ゼロ戦といい、この車といい、なぜか俺にちなんだ名称をしている。

ウルキオラは考察した。

しかし、その考察が無意味だと判断する。

「ねえ、これ中に入れるみたいだけど……」

ルイズが車の中を覗き込むようにして見ていた。

「当たり前だ」

ウルキオラは運転席側の扉を開く。

そんなウルキオラの行動を、6人は興味津々に見つめていた。

先ほど触れたおかげで、この車の全てを理解した。

ガソリンも結構残っているようであった。

かけられていた固定化の魔法を打ち消し、車全体に霊膜をはる。

律儀なことに、イグニッションキーはささったままであった。

それを右に向けて奥まで回しこむ。

バッテリーの呻くような音と共に、エンジンが始動した。

いくらノーマルとはいえ、スポーツタイプであるランサーエボリューションⅨは、爆音の如き排気音を吐き出した。

それを聞いた6人は驚きのあまり口を開く。

「な、なんだ!これは!」

公爵が思わず声を漏らす。

「ゼロ戦と同じような音を発しましたわね」

シエスタがウルキオラの乗る運転席に顔をのぞかせた。

ウルキオラはエンジンが始動したのを確認し、エンジンを切った。

「おや、音が収まりましたわ」

カトレアが呟く。

ウルキオラは運転席から身を乗り出すと、公爵に向かって口を開いた。

「貰うぞ」

「かまわん。もとよりそのつもりだ」

ウルキオラはもう一度ランエボに触れた。

また元の世界のものを手に入れることができた。

しかし、手がかりは特になかった。

また、コルベール辺りに騒がれるだけだな、と思った。




外では鳥のさえずりが、朝日の訪れを告げていた。

ランエボのあるボロ屋を引き返した後、皆はそれぞれの場所で夜を迎えた。

それから、今日も同じようにダイニングルームで朝食が執り行われていた。

基本的には、誰も口を開かずに朝食に手を伸ばしていた。

そんな静寂の中、カリーヌがその手を止めた。

「ウルキオラさん」

カリーヌの声で、場は一瞬緊張した。

「なんだ?」

「ルイズの出征についてです」

それを聞いたルイズは身体をぴくっと震わせた。

「ルイズの出征を認めましょう」

「ちょっと!母様!本気ですか!?大体ルイズは……」

「話は最後まで聞きなさい、エレオノール」

エレオノールはしゅんっと小さくなる。

「しかし、条件があります」

「条件だと?」

ウルキオラは冷徹な声を発した。

「あなたの実力を示してごらんなさい」

「どういう意味だ」

カリーヌが微笑した。

「つまり、私と決闘しろということです。あなたが私に勝てたら、ルイズの出征を認めましょう」

「それはダメです!母様!」

ルイズがバッと立ち上がった。

「ウルキオラの戦闘能力は異常ですわ!戦ったら母様が無事じゃ……」

しかし、ルイズの言葉は遮られてしまった。

「あら、ルイズ。私の二つ名を忘れたのですか?それに私はスクウェアメイジです。遅れは取りませんわ」

それを聞いていたウルキオラは少し興味が出た。

今までのスクウェアクラスのメイジといえば、あのワルドくらいであった。

最強のメイジの実力を見ておいて損はないと思った。

「いいだろう。受けてやる」

ウルキオラの言葉に、ルイズはさらに戦慄した。

「ちょっと、あんたね!」

「心配するな、殺しはしない」

それにカリーヌが反応する。

「あら、その言葉、そのままお返しいたしますわ」

カリーヌは笑っていたが、それは美しい笑いなどではなかった。

獲物を狩る目をしていた。

それに公爵すらも恐怖する。

ウルキオラはこのとき、まさか自分が追い込まれることになるなど、想像すらしていなかった。 
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