ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
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第6部 贖罪の炎宝石
第4章 カリーヌの実力
前書き
どうも、お久しぶりです。
大変長らく更新を途絶えさせてしまい、申し訳ありません。
私情が思った以上に忙しく、執筆をする時間が確保できませんでした。
なるべく時間を作り、書き進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
また、多くの感想における叱咤激励、感謝申し上げます。
ここはもう少しこうすべきなのでは?というお言葉やおもしろい!というお言葉を頂き嬉しい限りでございます。
ウルキオラの人物像やゼロの使い魔の世界観に違和感を感じることもあるかと思いますが、何卒ご容赦くださいませ。
今日も空は青く澄み渡っていた。
ヴァリエール家のお城の外壁に、ギラギラと太陽の光が染み渡っている。
ヴァリエール家の正面玄関から少し離れたところに、ウルキオラ達の姿が見えた。
これからこの広い庭園にて、ウルキオラとカリーヌの決闘が始まるようだ。
カリーヌは杖を右手に持つと、ウルキオラに言葉を放った。
「本来、決闘を行う際は、それなりにしきたりがありますが、今回は省かせていただいてもよろしいかしら?」
「俺にとってはその方が好都合だ」
ウルキオラは感情のない調子で答えた。
ルイズやカトレア、エレオノールにヴァリエール公爵は固唾をのんで二人の会話を見守っていた。
シエスタはどうした?といった感じであったが、どうやら飲み過ぎでまだ酔いが覚めていないせいか、客室のベッドの上でぐうぐう眠っているのだ。
「決闘のルールは、相手がこれ以上戦闘を行えないと見届け人が判断するか、どちらかが降参をするということでよろしいですか?」
カリーヌがウルキオラに背を向け、距離を取りながら言った。
「無論だ」
ウルキオラはその場から一歩も動くことなく、突っ立っている。
そんなウルキオラの様子を見て、カリーヌは少し嫌悪を覚えた。
「では、見届け人はルイズに任せましょう」
いきなりのご指名でルイズの身体はびくっとはねた。
「わ、わたくしですか?」
「あら、不服?」
カリーヌは目も向けずに冷たく発した。
「いえ…わかりました」
ルイズは細々と声を吐き出した。
「では、始めましょうか」
カリーヌはそういうと杖を高々と掲げた。
ウルキオラは恐らく、この世界に飛ばされて一番ともいえるほどに驚いていた。
この世界において、最も戦闘力の高い知的生命体はメイジであった。
その中でも、スクウェアクラスのメイジが最上級である。
ウルキオラはカリーヌの実力をワルドと同じ程度かそれよりも多少上だと捉えていた。
しかし、それは大きな誤りであった。
カリーヌが杖を掲げて最初に放った魔法はエア・ハンマーであった。
何度かその身に受けてきた魔法であったため、軽くあしらう程度に左手を前に出した。
だが、それはウルキオラの予想を大きく超えていた。
結果としては、受け止めきれた。
しかし、『押された』のだ。
後方約5メイルほどである。
普通の人間からすれば、それは素晴らしいことであるが、ウルキオラからしたら大問題なのである。
人間の、しかも女の、対して攻撃性能が高くもない魔法に押された。
これがアンリエッタと操られたウェールズが放ったペンタゴンスペル程度の強大な魔法ならば納得がいく。
しかし、エア・ハンマーは、ドットやラインでも扱える魔法である。
いくらメイジとしての実力があり、ドットやラインのエア・ハンマーとはわけが違うと言われても、限度というものがある。
事実、ワルドの放ったエア・ハンマーではこうはならなかった。
同じスクウェアメイジでも、ワルドとカリーヌでは、天と地の差であった。
「あら、恐らく防がれるとは思っていましたが、まさか素手で止められるとは思いませんでしたわ」
カリーヌはウルキオラの姿を見て、少し驚いた様子であった。
「……やろう」
「はい?」
ウルキオラの言葉が聞き取れなかったカリーヌは聞き返した。
「認めてやろう。俺がこの世界で戦った奴らの中で、お前は最も強いメイジだ」
ウルキオラの言葉にカリーヌは目を見開いた。
「あら、それは感激ですわ…ですが、だからと言って手を抜いたりはしませんわ」
そういうと、カリーヌの周りに烈風が躍り出た。
ウルキオラとカリーヌの決闘が始まると、今まで静寂を喫していた広々とした庭は、一瞬で闘技場の如き空気を醸し出していた。
少し離れたところで観戦しているルイズたちがいた。
「母上のエア・ハンマーが片手で防がれるなんて…」
そう言って驚いた様子で口を開いたカトレアであったが、隣にいるルイズは違った意味合いで驚いていた。
(あいつが…押された?)
ウルキオラとこれまで一緒に行動を共にしてきたルイズはわかっていたのだ。
「むう…スクウェアメイジの放つ魔法を素手で、しかも片手で制圧するものなど初めて見たな」
公爵は顎に手を当てながら興味深そうに呟いた。
「危険ね…間違いなく…」
エレオノールは鋭い眼光でウルキオラを睨みつける。
(違う…)
ルイズは目を細めた。
(これは…この戦いは今までのそれとは違う)
ウルキオラを見る。
ウルキオラは今までにないほど戦いに集中しているように見えた。
もしかしたらルイズの勘違いかもしれないが、そんな気がしたのだ。
各々がそうこう考えていると、瞬間的に突風が起こった。
カリーヌが放った魔法であった。
轟轟と音を立て、天高くまで風の渦が巻き起こる。
『エア・ストーム』である。
トライアングルスペルであるエアストームは、全てを巻き込まんとしていた。
カリーヌの前に出現した竜巻を、ウルキオラは警戒していた。
カリーヌが杖を振り下ろすと、鎮座していた竜巻が轟音と共にウルキオラの方へと向かっていく。
ウルキオラは右手を上げ、人差し指をそれに向けた。
指先に緑色の光が集まる。
『虚閃』であった。
少しして、圧縮しきった虚閃が放たれる。
特徴的な音を立てて竜巻へと向かっていく。
激突。
ウルキオラは虚閃で竜巻をかき消し、黒崎一護の月牙天衝を応用した『斬虚閃』を放ち、応戦しようとした。
しかし、それは崩れる。
竜巻は虚閃の軌道をずらした。
それだけではなく、虚閃を包むようにして天高くへとかき消した。
驚愕する。
ウルキオラは瞬時に行動を変更しようと踏みとどまった。
しかし、それと同時に竜巻からサッと風の刃が現れた。
それは『エア・カッター』であった。
ウルキオラは咄嗟に斬魄刀を手に取り、迎え撃った。
エアカッターは斬魄刀との小競り合いに負け、左右に散り地面へと衝撃する。
ウルキオラが大勢を立て直したと同時に、竜巻も勢力を失い空気へと溶け込む。
「ふふ、私のエアストームを力ずくでかき消したのはあなたが初めてですわ」
カリーヌは楽しそうに呟いた。
ウルキオラは何も発さずに、ただカリーヌを見つめていた。
「でも……」
杖を水平に持ち上げる。
「先ほどの緑色の光よりも、私のエアストームの方が上でしたわね」
言葉の終わりと共に、カリーヌは新たに魔法を放った。
それは鋭い、槍のようなものであった。
『エアスピア―』である。
ウルキオラはそれを軽くかわし、響転で一気に距離を詰めた。
常人ならば、まるで瞬間移動したかのように見える。
それは、メイジにとっても変わりない。
ウルキオラはカリーヌの杖を切り裂くように斬魄刀を振り下ろした。
しかし、斬魄刀は空を斬り、地面へと刺さる。
ウルキオラは目を見開いた。
躱されたのである。
斬魄刀が杖を斬るその瞬間、カリーヌは右腕を引き、後ろへ一歩後退したのだ。
そしてすぐさま、『ウィンドブレイク』でカウンターを狙った。
だが、それは響転を用いて移動したウルキオラにあたることはなかった。
「速いですわね…想像以上ですわ」
カリーヌは態勢を立て直しながら言った。
ウルキオラは驚きのあまり声が出なかった。
(どういうことだ…俺の響転を見切っただと?)
全力…とまではいかないものの、それこそ8割程度のスピードで迫ったはずだった。
相手が隊長格クラスの死神ならわかる。
しかし、相手は人間。
いくら魔法が強かろうと、響転を避けられるほどの反射神経は持ち合わせていない。
だが、結果として避けられてしまった。
これ世界で初めて、ウルキオラは他人に『警戒』をした。
「驚いたな」
ウルキオラは小言を言うように言葉を発した。
「何がです?」
カリーヌが答える。
「俺の響転に反応するだけでなく、躱すとはな」
「響転…ああ、先ほどの…そういう名なのですね」
カリーヌはどこか楽しそうにしていた。
しかし、それとは裏腹に戦場に立つ兵士のような、ピリピリとした殺気を漲らせていた。
「どうやら俺は、お前を過小評価していたようだ」
ウルキオラはそういうと、斬魄刀を握りなおす。
カチャッと金属音が響き渡る。
「あら、まさかとは思いますが、簡単に倒せると思っていたのですか?」
カリーヌはどす黒い声を発した。
「ああ、正直な…だから……」
そこまでいって、ウルキオラは一度言葉を止めた。
庭の草木が、空気が、風が徐々に震え始めた。
カリーヌはそれを感じ取り、嫌悪を抱いた。
そして……。
ドンッッ!!とまるで空から無数の砲弾が降ってきたかのような衝撃が庭全体を覆った。
ウルキオラが霊圧を解放したためである。
カリーヌは反射的に杖を握る力が強まる。
「詫びに少々本気を出してやる」
そういった途端、カリーヌの目からウルキオラの姿が消えた。
ルイズにとって、ウルキオラとカリーヌの決闘は想像以上のものであった。
ウルキオラもカリーヌも強いことは知っていた。
しかし、まさかここまでの戦いになるとは思わなかったのである。
今までルイズが見てきた強者の戦いは、そのほとんどが一方的で短絡的なものであった。
つまり、強者と強者の戦い…というものを経験、もしくは観戦したことがなかった。
「すごい…」
ただ、それだけであった。
他にも、ウルキオラがエアストームをかき消した!とか、母上が響転による攻撃をよけた!と色々と思うところがあったのだが、それを発する余裕がないくらい、衝撃的であった。
横にいるカトレアたちも、何も発することなく戦いを見ている。
そして、ウルキオラがカリーヌのウィンドブレイクを躱し、お互いが静止したところで、ようやく公爵が口を開いた。
「むう…カリーヌの奴…ここまで強かったか?」
公爵が困惑したように言の葉を放った。
「母上が本気で戦っているところなんて見たことがありませんのでわかりませんわ」
カトレアは「ふふっ」と微笑しながら答えた。
しかし、ここで会話を遮断する出来事が起きた。
空気が…大気が震えを起こしていた。
一番最初にこの異変に気付いたのはエレオノールであった。
「空気が揺れてる…母様の魔法?」
だが、その予想は早々にはずれることとなる。
ドンッッッ!!と頭上から何かが打ち付けるような感覚を覚えた。
ルイズたちは、驚きの表情を浮かべ、意図せずに腰が曲がる。
「なに!?」
エレオノールが驚いたように口を開いた。
「ウルキオラが霊圧…魔力を解放したようですわ!」
現状をいち早く察したルイズが皆に伝えるように声を張り上げて言った。
「くっ…なんという圧迫感…魔法を使用したのではないのか!?」
公爵は、この圧迫感が単なる魔力の解放だとは信じられなかった。
「いえ…魔法は発動しておりませんわ…父様」
ルイズはそういうと、母様に目を向けた。
さすがのカリーヌもこの魔力には驚いているようであった。
「母様!!」
ルイズの声が耳に届いたカリーヌは、ルイズの姿を横目で捉えた。
「お気を付けください!…この状態のウルキオラは今までのウルキオラとは違います!」
ルイズはウルキオラの変化を必死に伝えようとした。
カリーヌは、その言葉を受け取り、改めてウルキオラに意識を向ける。
「そんなこと…言われなくともわかりますわ」
カリーヌは杖を握りなおし、ウルキオラの攻撃を見定めようとしていた。
しかし、それとは反してカリーヌの視界からウルキオラの姿が消えた。
カリーヌは驚愕した。
だが、それと同時に、自分の上方の風に変化があることを察した。
上を向く。
すると、ウルキオラが斬魄刀を振り下ろす姿があった。
カリーヌは即座に後方へと身を翻した。
しかし、ウルキオラの斬撃を完璧に躱すことができず、右肩に軽く切り傷を負った。
ウルキラオの斬魄刀がカリーヌの右肩を掠め、地面へと落ちていった。
砂ぼこりが巻き上がり、それに便乗するようにカリーヌはさらに後方へと移動し、ウルキオラと距離を取った。
と同時に、ウルキオラがいるであろう砂ぼこりが発生しているところに向けて、エアカッターを放った。
エアカッターは砂ぼこりを切り裂く途中で二股に分かれ、空へと消えていった。
カリーヌは、何が起こったのかを一瞬で理解した。
砂ぼこりが巻き起こっていた場所には、はっきりとウルキオラの姿が映っていた。
カリーヌは、今度こそ見失うまいと、目をギリッと細めた。
しかし、それとは裏腹にウルキオラはいつもの調子で突っ立っている。
「驚いたな…今のを躱すとは」
ウルキオラが小さく呟いた。
「それはこちらのセリフですわ。まさかここまで速度が上昇するとは思いませんでした…それに、今のは躱せませんでしたわ。」
カリーヌは皮肉っぽく言葉を放った。
ウルキオラはカリーヌの言葉を聴き、カリーヌの右肩の傷を見ていった。
「俺はお前の右肩から左腹部を切り裂くように刀を振った。その程度はあたった内に…」
そいういと、またしてもウルキオラの姿が消えた。
カリーヌはまたしてもウルキオラを見失った。
だが、それを認識する前に、カリーヌは右腹部に何かが当たる感触を覚えた。
目を向けると、それはウルキオラの右手であった。
「破道の三十二 黄火閃」
黄火閃は、黄色く輝き、扇状に拡散した。
カリーヌは躱す間もなく、ゼロ距離でウルキオラの鬼道に飲み込まれた。
「母様!!」
戦いの一部始終を見ていたルイズが、声を張り上げた。
しばらくすると、黄火閃が真ん中辺りから二手に分かれるようにして軌道を変えた。
いや、軌道を変えられた。
黄火閃が空気に溶け込むように消えると、カリーヌの姿が見えた。
その前には、うっすらと半透明な、壁のようなものがあった。
『エア・シールド』であった。
カリーヌは、最初こそ反応が遅れ、黄火閃の餌食となったが、熱に耐えながら即座にエアシールドを発生させ、ダメージを最小限に抑え込んだのだ。
だが、そうは言っても、ウルキオラの攻撃をゼロ距離でくらったツメ跡は深かった。
右腕のひじから下と、右腹部に所々火傷の跡があった。
カリーヌは痛みに顔をゆがめた。
「ほう。即座に魔法を放ち、ダメージを削ったか」
カリーヌは息を荒げながらウルキオラを見つめていた。
「もう限界か?」
ウルキオラがカリーヌへと身体の向きを変えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
カリーヌは地面に膝を着きこそしなかったが、もう立っているのも辛い状態であった。
しかし、表情はそれを思わせないといった具合に、笑顔であった。
「想像以上ですわ…はぁ、はぁ…あなたになら、使ってもいいかもしれません」
「なんだと?」
ウルキオラは何のことだ、と考えたが、それが直ぐに愚考であることに気づく。
カリーヌの周りに、今までとは比較にならないほどの魔力がカリーヌを渦巻くように発動していた。
純粋に驚いた。
なぜなら、その魔力量は、隊長クラスのそれに引けを取らないほどであったからである。
カリーヌの周りで渦巻いていた魔力は、風へと変化し、竜巻を形づくる。
「竜巻…同じ魔法か?」
ウルキオラはそう言葉を放ったが、しばらくしてそれが当初使用してきた魔法とは違うことに気づいた。
先ほどより、明らかに巨大な竜巻であった。
さらに、竜巻を形作っている風も高度が増していた。
「スクウェアスペル…か」
天高くまで上り詰める竜巻は軽く100メイルを超え、発生範囲も庭を覆い尽くさんばかりに膨れ上がっている。
まるで小さな台風であった。
「『カッター・トルネード』…私が放つことのできる…最強の風魔法ですわ!」
カリーヌは、息継ぎをしながらも、力強い声を放った。
「なるほど…確かに、最強の貫禄はあるな」
ウルキオラは竜巻を見上げながら、いつもと調子を変えることなく答えた。
「ふふ…冷静なのか冷淡なのかわかりませんが、これは他の魔法とは比較になりませんわよ!」
そういってカリーヌは杖を振り下ろした。
すると、カッタートルネードは、一瞬圧縮したように小さくなると、圧倒的な風をまき散らしながらウルキオラへと向かっていった。
「大した魔法だな…」
そう呟きながら、ウルキオラは考えた。
エアストームにすらかき消された虚閃では話にならない。
だが、竜巻の範囲が広いこともあり、避けるのも不可能に近かった。
その証拠に、竜巻はウルキオラを逃がすまいと、まるで囲い込むように近づいてくる。
ウルキオラは「ふっ」と声を漏らした。
「まさか、この世界でこれを使うことになるとはな…」
ウルキオラは持っていいた斬魄刀を地面へと突き刺し、刀身を掴むように右腕を置いた。
すると、右腕をそのまま下へとおろす。
指にできた切り傷から血が流れる。
それをそのまま竜巻…カリーヌの方へと向けた。
これまた圧倒的な霊力…魔力がウルキオラの右腕へと収縮していく。
少しすると、その収縮も終わりを迎えた。
それを確認したウルキオラは、放つ技の名を口にした。
「『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』」
刹那、ウルキオラの右腕から巨大な閃光が放たれる。
そして、即座にカリーヌの放ったカッター・トルネードと衝突する。
何度か双方の魔法が押し問答のような展開を見せる。
辺りは、双方の魔法によって暴風と閃光が巻き起こる。
ルイズたちは、その暴風と閃光を目の当たりにし、驚愕するとともに、その圧倒的な力に、双方の魔法の衝突地点から、ある程度距離があるにも関わらず、立っていることすら厳しいと言わんばかりに、手で顔を覆い、背中を丸め、膝を曲げて耐えている。
しばらくすると、王虚の閃光が不安定な状態となり、爆発を起こす。
その爆発に巻き込まれるようにカッタートルネードも回転が不安定になる。
爆発が辺り一帯のモノを吹き飛ばし、回転が不安定となった暴風が辺り一帯のモノを天高く舞いあげる。
それにより、庭園全体はまるで砂漠の砂をひっくり返したような砂埃に包まれた。
カリーヌは、カッタートルネードを放った瞬間、足から力が抜けるのを感じた。
魔力…精神力が削りすぎたため、膝から崩れ落ちた。
「はっはっはっ……」
先ほどと比べて、明らかに息荒くなった。
意識を手放したくなる思いをぐっとこらえて、自身の放った魔法を見つめる。
竜巻の動きが変わる。
ウルキオラが応戦しているのだろうか?
そう考えていると、竜巻の端から緑色の閃光がチラチラと顔を出す。
一瞬、虚閃…という魔法かと思ったが、明らかにパワーも質も違うことに気づいた。
恐らく、虚閃の強化版か上位の魔法だろうと推測できた。
もし、これでカッタートルネードが押し負けたら勝ち目はないと思った。
カリーヌは竜巻の意向を見守った。
すると、緑色の閃光が爆発を起こす。
自身の魔法が上回ったと思った。
しかし、即座に自身の魔法も力を失い、四散するのが見えた。
結果は相殺であった。
カリーヌは、僅かに残った魔力で自身の周りに風を発動しようとした。
恐らく、ウルキオラの追撃が来ると予想したからである。
しかし、風を発動させる前に、後ろから刀剣が伸びているのを確認した。
その刀剣は、カリーヌの首元のすぐ右側へと伸びていた。
首を曲げて、後ろを振り向く。
すると、そこには何食わぬ顔で立っているウルキオラの姿が見えた。
「終わりだ」
ウルキオラは冷徹な声でカリーヌに言った。
カリーヌは吐き捨てるように言葉を放った。
「参りましたわ」
砂埃が晴れる。
庭園は、まるで戦場の如く荒れ果てていた。
ルイズたちは直ぐにウルキオラとカリーヌの居場所を確認した。
ウルキオラがカリーヌに斬魄刀を突き付けていた。
「母様!」
ルイズはそう叫ぶと、二人の元へとかけていった。
カトレアたちも後に続いた。
ウルキオラはカリーヌの降参を聞き、首元から斬魄刀を引き、鞘に納めた。
ルイズは地面に膝を着いているカリーヌに寄り添った。
「大丈夫ですか、母様」
ルイズは心配そうにカリーヌの顔を覗き込んだ。
「ええ、心配ないわ」
カリーヌは少し落ち着いたのか、いつもの調子で答えた。
それを聞いたルイズの顔に安堵が見える。
少しして、他の3人もカリーヌの元に近づいた。
「母様!無事!!」
「まあ、大変。怪我をしてますわ」
エレオノールとカトレアは各々にカリーヌの身を案じていた。
「無茶をしたな、カリーヌよ」
公爵は低い声で、唸るように言った。
「あら、本気だった…といってほしいわね」
カリーヌはよろめきながら、何とか立ち上がった。
「母様!」
「大丈夫よ、エレオノール」
カリーヌは、エレオノールの手を軽くあしらい、ウルキオラへと身体の向きを変えた。
「想像以上だったわ…まさか、この私が完敗だなんて…今でも信じられないわ」
ウルキオラは返答もなく、カリーヌを見つめた。
カリーヌは一呼吸置いて、もう一度口を開いた。
「……いいでしょう。ルイズの出征を認めます」
その言葉にエレオノールが反応した。
「でも母様…」
「口出しは許しません、エレオノール」
カリーヌの言葉に、エレオノールは何も言い返せなかった。
「これだけの実力があれば、問題ないでしょう。単体で私より強いメイジなどそうはいません。それに……」
カリーヌは微笑しながらウルキオラに言い放った。
「ルイズを守れぬほど、無能ではないでしょう?」
「ああ、ルイズが自爆でもしない限りな」
ウルキオラがカリーヌの問いに答える。
「ちょっと、あんたそれどういう意味よ!!」
ルイズはウルキオラの言葉に激昂したが、それがウルキオラに届くことはなかった。
ウルキオラはルイズを無視して思い出したかのように口を開いた。
「カリーヌ…だったか?」
突然名前を呼ばれたカリーヌは目を見開いた。
「あら、なんでしょう?」
「お前は、俺の響転による攻撃を避けたが、あれは反応して避けた訳ではないだろう?」
カリーヌは少し驚いた表情を見せた。
「どうしてそう思うのです?」
「お前が俺の響転に本当の意味で反応できていたならば、もっと早くに避ける行動を取れたはずだ。だが、お前が反応を示したのは俺がお前に近づいてから…」
カリーヌは言葉を発することなく、ウルキオラを見据えた。
「お前は、自分自身の周りに風を展開させ、その風の変化で俺の響転を見切っていた。つまり、俺がお前に近づくことで、お前の周りの風が押され、変化し、それを感じ取って反応していた。いわば、間接的な反応というやつだ…違う?」
カリーヌはそれを聞いて微笑した。
「ふふ、その通りですわ。風をまとっていなければ、反応できなかったでしょうね」
「やはりな」
カリーヌの言葉を聞いて、ウルキオラは納得した。
「風の魔法にそんな使い方が…」
ここでルイズが口を開いた。
「魔法は使いかた次第よ。あ、ついでだから私からも一つ質問いいかしら?」
カリーヌはルイズの言葉に返答をし、ウルキオラに質問を投げかけた。
「私のカッタートルネードをかき消したあの魔法…あれはなんという魔法かしら?」
「『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』だ」
ウルキオラは単調に答えた。
「そう…王虚の閃光ね…」
「何だ?」
ウルキオラはなぜカリーヌがわざわざ質問してきたのか理解に苦しんだ。
「いえ、ただ、私の最強の魔法を破った魔法の名前を知りたかっただけよ」
「悲観的だな。俺が見る限り、互角かそれ以上だ」
ウルキオラは純粋にカリーヌの魔法を認めていた。
「あら、それは嬉しいわね」
「まあ、積もる話もあるだろうが、後は家内で話したらどうだ?カリーヌは怪我の治療もしなくてはならんだろう?」
ウルキオラとカリーヌの話を遮るようにして、公爵が口を開いた。
「そうね。エレオノール、従者に水の秘薬を持ってくるように伝えてくれるかしら?」
「私が?…わかりました」
エレオノールは一瞬不服を訴えたが、直ぐに従う意向を見せた。
「さて、ウルキオラ、ルイズ」
公爵が2人の名を呼んだ。
「は、はい。」
ルイズは唐突で言葉を詰まらせた。
相変わらずウルキオラは無反応である。
「3時間後、もう一度ダイニングルームへ顔を出せ」
「なぜ?」
ウルキオラが疑問が投げかけた。
「昼食も兼ねた見送りだ。何か不服か?」
面倒だと思ったが、丁度霊力を消費したウルキオラにとって、食事は好都合であった。
「いいだろう」
ウルキオラの同意を得た公爵は、ルイズに視線を向けた。
「ルイズ。お前もいいな?」
「はい、父様」
それと同時に、何人かの従者が城から駆けてきた。
従者達は負傷したカリーヌを気遣いながら、城の中へと向かっていく。
ルイズと公爵も後に続いた。
カトレアは腰から杖を出し、庭園に向けて振った。
ウルキオラは、庭園を見渡した。
そこは、先ほどまでの庭園の荒れようが嘘のように、燦爛とした景色が広がっていた。
その様子を見たウルキオラは、少しばかり目を見開き、「俺には不可能な類のものだな」と思いながら、庭園を後にした。
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