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真田十勇士

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巻ノ五十九 甲斐姫その六

「ならばな」
「このまま完成させてな」
「水攻めを入りましょう」
「そうじゃ、だからこそじゃ」
 絶対にというのだ。
「今宵守るぞ」
「わかった、ではな」
 石田達も夜襲を警戒し守りを固めた、そのうえで夜を待ち。
 夜になった時にだ、大谷は本陣において石田にあらためて言った。
「堤の全てに兵を置いた」
「そしてじゃな」
「うむ、わしは遊撃の兵を率いて甲斐姫にあたる」
「問題は甲斐姫が何処に来るかじゃな」
 石田は腕を組み鋭い目になって言った。
「どの堤にじゃ」
「それじゃ、何時かじゃ」
「水が溜まってきておるが」
 石田は水攻めの状況を言った。
「堤全体に」
「今日凌げば城は水に覆われてな」
「降るのを待つしかなくなるな」
「その正念場じゃ、だから今宵しかないが」
「問題は甲斐姫か」
「甲斐姫は強い、しかもじゃ」
 石田に干し飯を勧めながらの言葉だ、石田もそれを受け取り食う。二人の夕飯は今は干し飯に水であった。
 大谷も干し飯を食いつつだ、石田に言う。
「正々堂々としておる」
「そうした気性か」
「だからどう攻めてくるかというとな」
「夜襲ながらも正々堂々か」
「そうしてくる」
 このことは間違いないというのだ。
「だからわしも正面から受けて立つ」
「北条の兵は白い服と具足じゃ」
 石田は目を鋭くさせこのことを指摘した。
「だから戦うにあたっては目立つぞ」
「夜でもな」
「それはわし等もじゃがな」
 羽柴家の兵は服も具足も旗も金色だ、派手好きな秀吉が金色を羽柴家の色として定めたのである。
「大層目立つがな」
「しかし北条の兵も同じ」
「城は目立つ」
「その城で動く兵があればな」
「それが甲斐姫の兵か」
「わしはそこに向かう、何時来てもな」
 その時はというのだ。
「行って来る、ではよいな」
「頼むぞ、わしは本陣を守っておる」
「その様にな、では本陣は任せたぞ」
「ではな」
 二人で夕飯を食い合い話を決めた、そのうえで大谷は甲斐姫を待っていたが本陣に一人の兵が飛び込んで報を届けてきた。
「白い具足の騎馬武者達が一直線にです」
「動いておるか」
「はい、堤に向けて」
 まさにというのだ。
「凄まじい速さです」
「わかった、ではじゃ」
 そこまで聞いてだ、すぐにだった。
 大谷は立ち上がり己の馬に飛び乗った、そのうえで。
 精兵達を率い堤に向かってきているという北条の軍勢のところまで来た、そのうえで彼等に対して叫んだ。
「そこの者達、名を名乗れ!」
「名乗れというは如何な者か!」
「大谷吉継!」
 大谷は自ら名乗った。
「以後見知られよ」
「私は甲斐姫」
 軍勢の戦闘をいく女が言って来た、兜は着けず鉢巻きだけを締めた姿が月の光に眩く映し出されている。 
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