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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第239話 攻略不安要素

 
前書き
~一言~

ほんとに、ほんとうに……遅れちゃってすみません。色々とトラブルがあった――とだけ、短いですが言い訳をさせてください……涙

非常に遅れてしまいましたが、何とか一話、投稿する事が出来ました。今後も……頑張ります。


最後に、この作品を読んでくださって、本当にありがとうございます。これからも、完結できるように頑張ります!


                                 じーくw
 

 


「まず、何よりも大事なのは、BOSSの攻撃パターンをきっちりと把握する事なの」
「うんうん。ちゃんと回避できる所は回避して、自分達のダメージは最小限に。その上で効率よくBOSSにダメージを与える事だよね? 回復アイテムの消費だって最小限に抑えられるし!」
「ああ。BOSSのデーターを全て丸裸にする事が出来れば、如何に人数が少なくても、理論的にも物理的にも攻略は可能だ。こちらのHP(体力)は減らず、BOSSのHP(体力)は減らすんだ。相手は無限じゃなく、有限だからな」

 過去については、明らかにはしていない。何も言っていないが、それでも、旧アインクラッド(SAO)でのBOSS戦を熟してきた攻略組出身である3人の説明には何処か説得力があるのは、当然の事だった。

 それは、事情を全く知らないスリーピング・ナイツの全員も感じていた事だった。だからこそ、今までの経緯を説明する必要がある、と思ったユウキは、やや前のめりになりつつ、説明に入った。

「うんっ! ボク達もそう思って、最初はぶっつけ本番って感じて突入してて、頑張って攻撃の種類とかパターンとか、覚えて さぁ、もう一戦っ! って思ってたんだけど――」
「いつの間にか、大きなギルドが攻略をしてしまっていて、あと一歩、及びませんでした」

 ユウキの説明にランも加わる。
 ユウキはしゅんっ、と表情を落とし、隣にいたランが慰める様に頭を数度撫でていた。ラン自身もやはり悔しさはある様子なのは、彼女の表情を見たアスナやレイナもよく判った。特にアスナ……。


――妹(多分)のユウキの前ではしっかりとしないと。


 そう ランは強く思っているのだろう、と想像出来たのだ。

 そして、次にテーブルの反対側にいたジュンがやや眉を寄せて言葉を更につなぐ。

「んー、でもさぁ。三時間後に出直したらもう終わってたんだよなぁー。まぁ、気のせいなのかもしれないけど、なーんか、僕らが失敗するのを待っていたみたいな気がするんだよ」
「へぇ……」
「うーん……、そうなんだ……」

 アスナは口許に手を充てて考え込み、レイナは やや 表情を引き締め直していた。
 BOSS攻略は、その難易度の高さゆえに、成功報酬も多大なるものになって来ている。だからこそ、その競争率は非常に高く、何よりトラブルが発生している事もざらだ。
 かつての世界では、文字通り命がけの戦いだったから、蟠りも上に昇るにつれて、少々は薄れたりはしていたが、この世界は娯楽(ゲーム)だ。仮の姿(アバター)に身を窶している為に、人の欲が出やすい世界とも言えるから、仕様が無いとも言えるだろう。

 そして、何より 最近でも よく耳にするのも事実だった。大ギルドによる管理が過ぎる為、と言う件からのトラブルが主立っている。……が、スリーピング・ナイツの様な、少人数のギルドにまで 注意を払うか? と疑問も同時に生まれると言うものだ。
 絶剣や剣聖の名が轟いたのは ほんのつい最近の出来事だから、彼女達を警戒して――、と言うもの時期的に有りえないと思える。

「…………」

 色々と考えているのは、アスナやレイナだけではなく、リュウキも同じ事だった。

 この世界で言う2、3時間は それ程長くは無い。本当にあっという間、と言っても良い。ダンジョン攻略にも数時間かかる、と言うのもざらだから。(勿論、例外はあるが……)
 そんな短時間でBOSSを、それもスリーピング・ナイツの挑戦後に立て続け……と言うのは、はっきり言って看破できない情報だ。

「うーん、じゃあ 一応念を入れて、全滅したらすぐに再挑戦できるように準備を整えておきましょう。えと、皆の都合が良いのはいつごろなのかな? 私達は、今週は大丈夫だけど……っとと、リュウキ君は?」
「ん? オレも問題ない。今の所は幾らでも調整が効くから」

 『調整が効く』 とさらっと言ってしまう辺り、大物感を感じてしまうのは、リュウキの事を知っているからこそ、なのだろうか? と一瞬 思ってしまって 思わず くすっ、と笑うのはレイナ。

 だけど、やっぱり 色々と心配だから レイナはリュウキに耳打ちをした。


「(………でも、無茶しちゃだめだよー?)」
「(しないよ。今もしてない。……大丈夫)」


 レイナの言葉に、リュウキは微笑みで返していた。
 そして、ギルドの皆の顔を一通り見た後。ひょい、と手を上げるのはノリ。

「あ、ゴメン。アタシとタルは、夜はダメなんだ。明日の午後1時からはどうかなぁ?」
  
 ノリの言葉に、ギルドの皆は頷いた。
 それを確認したアスナやレイナ、リュウキも互いに頷き合う。どうやら 時間合わせは滞りなくいける様だ。

「うん、大丈夫だね」
「私もっ!」
「了解」

 アスナは、全員の意志を訊いた後に、ユウキ達に向かい訊いた。

「えっと、じゃあ 明日の1時にこの宿屋に集合、で良いかな?」

 オッケー、了解! と口々に頷くギルドも皆。
 最後は、アスナとレイナ、リュウキが顔を見やって頷き合うと。

「――頑張ろうね!」

 アスナの号令と共に、続けて軽く ぐっ、と拳を出す3人。
 それに答える様に、一番前にいたユウキが『うんっ!』と右拳を高くにあげ、ランはぺこり、と頷いた。連鎖する様に 其々が答えて 名残惜しいが これで今日は仕舞いとなった。










「……ん」

 宿屋を出た辺りで、リュウキは足を止める。

「あれ? リュウキくん? どうしたの?」

 名残惜しそうに、本当にありがとう を繰り返すユウキ達と何度も言葉を交わし、肩をぽんぽんと叩きあった後に リュウキがやや 遅れている事に気付いたレイナが振り返った。

 何やら ホロ・ウインドウを見ている様だ。

「ああ。悪い。用事が出来たみたいだ」

 どうやら、何かメッセージを受け取った様だった。
 この世界ででも、リュウキはたまに依頼を受けたりする事はあった。依頼者はクリスハイトであったり、アルゴであったり、更に言えば 仲間内でのお手伝い募集中! と言った具合に幅広い。

 流石にそれ1つ1つを逐一監視する様な真似はレイナは止している。

 例え リュウキの事を明らかに好意的な目で見ている人であったとしても……、束縛する様な事は 基本的にはやらない。重たい、と思われてしまうかもしれない、と感じる時があったからだ。

 ……正直な所、今更感はあるし、レイナの事を()う事はあっても、()い、と感じる様なリュウキじゃない、と言うのも周知の事実なのだが……、その辺りはレイナの試行錯誤の末の答えなので、微笑ましく傍観しつつ、たまにからかったりする、そして頻繁に頬を膨らませる、と言うのが、最近の導き出したレイナのスタンスだったりするのだ。(アルゴ情報)

「だから、アスナ、レイナ。先に上がっていてくれ。……確か、2人は18時までには 家に戻って無いといけないんだろう?」
「え、あっ! もうこんな時間なんだー! お姉ちゃんっ」
「あ、了解っ! リュウキ君、ありがとう。ちょっと危なかった」

 現在の時刻を慌てて確認し直したレイナとアスナは、慌てて礼を言った。
 よくよく時刻を確認すると、もう17:40を回っている。リュウキだけではなく、仲間内では皆が知っている家庭の事情、と言うモノだ。今までも何度かあったから。

「じゃあ、リュウキ君も、また 明日ね?」
「明日は頼っちゃうからね? 白銀の勇者様っ」
「……はぁ、アスナ、それヤめてくれ」

 ぱちんっ、とウインクをしながらそういうアスナ。

 何処か悪戯をしようとする表情は、本当にレイナとそっくりだ。元々非常によく似ている姉妹だが、今はそれ以上に感じる。もう長年の付き合い。普通の年月よりももっともっと濃い時間を共にしてきて、何度も顔を合わせて、2人の違いは、もうはっきりと判っているリュウキ。それも心を通わせ、特にレイナの事を本当にたくさん見てきたリュウキであっても、真剣な時の表情と、今の表情ででは 本当に、かぶって見えてしまい、どっちがどっち? と思わず二度見をしてしまう程だった。

「あはっ、リュウキくん、ほんと 頼りにしてるからねー?」
「……ああ。善処はするよ」

 レイナはレイナで、アスナにからかわれてるリュウキを見て、やっぱり可愛さがあって良い、と笑ってそう言っていた。どことなくリュウキも察した様で、それとなく頬を赤く染める。そんなやり取りの一部始終を見たユウキは。

「あはははっ。ほんと リュウキは 苦手なんだねー? そういう風に言われるのはさ? もう、ボクは平気だけどねー」
「はぁ。仕様が無いだろ? ユウキ。オレだって、得意じゃない事だってある。沢山、な」
「得手不得手、ってありますよね? 私もちょっと、ユウの様には楽観的に受け止めきれませんが……」

 ユウキはにこやかに笑いながらそう言い。ラン自身は、やっぱり 恥ずかしいのと、そこまで好まないのであろう事が表情に出ていた。

 そんな2人を見て、リュウキとのやり取りも見て、後ろのギルドの皆も同様に笑顔になっていた。

 これまた結構端折った様な気がするが……、特に天真爛漫なユウキはもう違和感なく、溶け込んでいたりする。もう既に名を呼びあっている所からも判る通りだ。勿論 他のメンバーも同様だ。シウネーやランは 基本敬語主体だから変わって無い様な気もするが、雰囲気のそれは全く違うと言うものだ。

「じゃあ、皆っ! ほんと、私も名残惜しいけど、また明日!」
「うん。また明日ね」

 アスナとレイナは、挨拶を済ませると、指先で操作。数秒後その身体は、淡く光を放ちながら消失した。

「……ん。とりあえず、頼む(・・)か。動向云々を」

 リュウキは、2人を見送った後、再びウインドウに視線を向けた。
 実は、リュウキは 皆とBOSS攻略についてを話していた時に、メッセージを送っていたのだ。……その 送り先は…………。

「あの、すみません。リュウキさん」
「ん?」

 リュウキが送り先を再確認をしていた時、ランが声をかけた。リュウキはホロ・ウインドウを消失させると、彼女に向き合う。
 その後ろを見てみると、他のメンバーは 皆其々明日のBOSS攻略に向けての気合溜め中だった様で、話かけてきたのはランだけだった。

「その……、BOSSの攻略が無事に終えたら、少し、少しだけお話をしてもよろしいでしょうか?」
「ん……?? 別に今でも問題は無いんだが」
「いえ、その――……」

 ランはリュウキの返答に困った様な表情を作っていた。

 うん。まぁ、昔のリュウキであれば、『訊きたい事があって、直ぐにでも答えて良い、と言っているのになぜ?』と思い、そのまま訊き返すだろう。

 だけど、それなりに経験を重ね、少なからず心の機微を読む事が出来る様になってからは(まだまだ低レベルだけど)、訳があるんだろう、と 自分自身で納得して、胸の内に留めていた。

 何より、リュウキ自身も ランについて…… 少し話をしてみたい、と思ったから、願ったりかなったりとも言える。

「あははっ 姉ちゃんがねぇー?」

 ユウキは、少々離れた位置で ニヤニヤと笑っていた。その隣では、シウネーが口許に手を充てて、笑っていた。

 どうやら、シウネー辺りが余計な事を、ユウキに吹き込んだのだろう、とランは察知。

「もうっ、ユウ!」
「あわわっ、ゴメンゴメンっ、ゴメンってば ねぇちゃんっ!」

 むっ、とランがにらみを付けると、あっさりと降参するユウキ。
 そんな2人を笑顔で見守る他のメンバー。

 それらを見ていてよく判る。普段から こんな風に賑やかだと言う事が。

 どうやら、この姉妹の姿は 少々アスナやレイナの姉妹とは少しばかり違う様だ。似ている部分はあるのだが、有り余る元気を持つユウキの印象。その元気は、レイナを上回ってると感じる。そして 穏やかな表情で見守っていたランだったが、そのランにも違う一面があると言う事が判った。
 だからこそ――、リュウキは笑ったんだ。

「あはははっ」

「え??」
「ん??」

 ランとユウキがしっかりと話し合い?? をしている時、リュウキの笑い声が聞こえた為、一度止まり、リュウキの方を見た。

「どーしたの? リュウキ」

 ユウキはリュウキが笑った事に疑問を感じた様だ。
 だから、首を傾げながら訊いた。

「ふふっ……いや、ちょっとな。本当に楽しそうだ、って思ったからついな」

 目元を拭うリュウキ。
 
「オレの知っている姉妹とは、また違った感じがするよ。……でも、温かさは同じだ。やっぱり良いものだな。うん」
 
 にこり、と笑顔を向けてそういうリュウキ。
 その自然な素顔を見て、思わず視線をそらしてしまうのはランだった。ユウキは、その言葉を訊いて、リュウキ同様に笑顔になり。

「えへへー。そーかな? でも、そう言ってくれたら嬉しいね! ありがとっ!」

 くるくる~と身体を2回転、回って笑顔でリュウキに礼を言っていた。

 そして、その後は少し談笑をした後。

「じゃあ、オレももう行くよ。……明日、皆宜しく」
「うんっ! 宜しくね! リュウキ!」

 ユウキは、笑顔で手を挙げた。

 そして、ノリたちを見送っていた他のメンバーも気付いて。

「明日は宜しくお願いしますね。リュウキさん」
「頼むよー! リュウキ!」
「宜しく」

 シウネー、ジュン、テッチの3人も其々手を挙げた。
 ノリとタルケンは、もう席を外しているから、後1人……、ランだけだった。

 ランはゆっくりとした動きで視線をリュウキの方へと向け、笑顔を見せて言った。

「また、また 明日。宜しくお願いしますね? リュウキさん」

 その宜しく(・・・)の中には、話がある、と言っていた部分が含まれているであろう事はリュウキにも判る。だから。

「ああ。全力を尽くす。こちらこそ、宜しく頼むよ」

 リュウキは、そう返すと翅を広げ――大空へと羽ばたいていった。

 その姿を見送るユウキ達。
 ユウキは、姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。
 ランも、リュウキの姿をずっと、見ていた。





 そして、いつの間にか、ランの隣に立っているのは、シウネー。

「ランさん」
「………」
「ランさん?」
「っ……、あ、何? シウネー」

 何処か上の空なラン。
 ユウキや他の皆は、リュウキの事に気があるのだろう、と先ほどのやり取りから思っていたのだが、シウネーだけは少しばかり違った。
 確かに、全力でぶつかり合い、受け止めてくれた相手を―――、と考えれなくも無い事だが、それ以上に何か(・・)を、シウネーは感じたのだ。
 
 リュウキを見るランの瞳に、その瞳の中に秘められた光に。

「不思議な人達、でしたね。知り合って間もない、と言うのに。本当によくして貰って……」
「うん……」
「ユウキもすっかり懐いちゃったみたいですし?」
「あはは。ユウは基本そんな感じじゃないかな? 活発な妹ですから。シウネーも知ってると思うけど」

 ランはにこっと笑ってシウネーにそういうのだが、シウネーはただ目を瞑っていた。

「――リュウキさんの事」
「っ」
「ランさん。……リュウキさんに何か感じる事があったのですか? その――、少し、違う(・・)感じがしましたので」 
「あはは……、違うって、何がですか?」

 何が『違う』のだろうか? と一瞬だけ誤魔化す様にランは思い、口に出した。
 単純に、好意的に見ていた。一目ぼれをした。と言われれば、ランは、慌ててしまっただろう。リュウキと相対して、――至近距離で彼と戦い、最後は圧倒されてしまった。

 その戦う姿が、その一つ一つの表情が、脳裏から離れなかったのは本当の事だったから。

「ふふ。直ぐに教えてください、とは言いませんよ」

 シウネーは、そう言って笑い。

「相談なら、いつでも受け付けてますから。はい。この手のお話であれば、私もきっとお力になれます」

 両手をぐっ、と握ってそういうシウネー。どことなく、『ファイトっ!』と言っている様にも見えた。

「あはは……」

 ランはただただ笑うしかできない。
 その後は更に痛烈な一言。

「あー……、でもリュウキさんは、きっとレイナさんかアスナさんのどちらかと……、って思うんですが……」
「ぅ………そ、それは私も思いました……。特にレイナさん、ですよね……」

 やや、表情を眩めてしまうラン。それを見るや否や、シウネーはにこっと笑った。

「ふふふ。やっぱりっ♪」
「ぁっ……///」

 ランは、口を滑らせてしまった事に気付き、咄嗟に口を掌で覆うが、最早手遅れだろう。

 そんなランの姿を見て、微笑みを返すシウネー。そして、慌てるランとは対照的にゆっくりと、そして 何処か遠い目をさせながら言葉を紡いだ。

「……ランさん。()の事は――、気にしなくて良いんですよ」
「え……?」
「私の幸せは、ランさんの幸せにも繋がるんです。ランさんやユウキには幸せになって貰いたい。……だから、私の事を、負い目に感じて欲しくないんです」

 シウネーの言葉を訊いて、ランは慌てて自戒する。思っていなかったとしても、そう見られてしまったのであれば、意味は無いからだ。……だけど、それでも、そうだとしても、ランは納得できなかった。

「そ、そんな事、考えてないよっ! 違う、違うのシウネー。その、恋愛とか、そういった感性じゃなくって、確かに格好良い人だ、って思ったのは事実だけど、その、ちがって――」

 ランは、必死に弁解をした。

 彼を見る目は確かに、感情が込められていると自覚している。だけど、皆の事を、かけがえのないギルド、スリーピング・ナイツの皆を負い目に感じた事など一度も無いのだ。

 その後は、二度三度と深呼吸をした後に、シウネーに向き合った。

「シウネー。私は、皆の事が好き。……ギルドの皆の事が。もう、いなくなってしまった(・・・・・・・・・・)皆も含めて、皆が大好き、なんだから」

 その眼を見て、今度はシウネーが咄嗟に口許に手を当てがった。その後、ゆっくりと手を離して。

「……っ。御免なさい。失言、でした」

 ランの必死な言葉に、シウネーは慌てて頭を下げた。
 ランの幸せの為に、と考えたのは事実だった。でも、だからと言って、負い目に感じる、と思う事自体が、ランに対する侮辱となってしまう。言葉が足りなかった、とシウネーは反省をしていた。

「……シウネーが私の事を、私やユウの事を想ってくれるのは、とても嬉しい。でも、また 言ったら、今度は怒るからね?」
「そうですね。ごめんなさい。もう、二度と口にはしません」
「……ふふ。私達に《怒り》の感情はいけません。だから、もう言わないで。……スリーピング・ナイツは、笑顔の、ギルドなんですから」
 
 シウネーは、謝罪をもう一度した後に、空を見上げた。
 もう、空は夕闇に包まれつつある。僅かに一筋の光が空に掛かっているだけ、だった。

「……約束、ですから。約束を……しましたから」
「はい。……大切な約束です。今はこのギルドの理念です」

 ランとシウネーは、何かを思い出した様に、そっと目を閉じていた。
 軈て、ランが目を開くと 少しだけ口許を緩めて言った。

「あ、でも お説教と言う意味では、全くダメ、と言う感情じゃないですよ? 《怒る》と言うより《叱る》だと思いますが」 
「ふふふ。勿論判ってます。しっかりとユウキの事を見ておかないといけませんからね?」

 最後には2人は、笑顔になっていた。

 そんな2人の元へと早足で駆けつけるのは、ユウキ。
 どうやら、自分の名前を言っていたのに気付いた様だった。

「ボクの名前呼ばれた気がしたんだけどー。まーた、何か悪グチ言ったのー??」

 頬をぷくっ、と膨らませているユウキ。
 
 ランは、それを訊いて―――、少しだけ呆然としていたのだが、直ぐに表情を柔らかくさせた。


――前にも、こういうの……あったよね?


 この場にいる者達に問いかけたのではない。
 心の中で、ずっと生き続けている彼女(・・)へと送った言葉だった。

 ランは、ゆっくりとユウキに近づくと、人差し指をユウキのふっくらと膨れた頬目がけて、突かせた。

「いつまでも、世話の掛かる妹だから、明日もしっかりと見てないとね? って言ってただけよ」
「もーーっ、姉ちゃんっ! ボクだってやる時はしっかりとやるんだからねーっ」

 



――あの時は、本当に楽しかった。

――いいや、今に不満がある訳じゃないよ?

――ただ……()を見ていると、接していると、強く思い出すんだ。あなたを傍に感じる。

――あなたの事……、《サニー》の事。 



 それは、もう戻らない日々の記憶。

 確かに一度は、絶望をした。……本当に悲しかった。様々な悲しい出来事があった中でも、格段に……。

 だけど、それでも必ず守らなければならない約束があるから、ランは――、いや スリーピング・ナイツの皆は強くいられる。

――いつも心は共にあると思ってるから。




















 
 スリーピングナイツの皆と別れたリュウキは、とある人物にメッセージを送り、その返信内容を確認していた。

 ここ最近の層の攻略事情については、少々ではあるが耳に届いている。リュウキやキリトにとって、いや……、アスナやレイナも勿論同じ。皆の最優先目標は、22層の開放だった。
 
――あの森の家を、もう一度……。あの森の家で、もう一度家族として過ごす事。

 それを強く思っていた。

「………レイナ」

 強く思ってきた。
 ずっと、ずっと――彼女を想い続けてきた。

 だからこそ、リュウキは判る。僅かではあるものの、レイナの様子がおかしい事に。何処か、悲痛な表情が顔に出ている事に気付いた。

 だけど、リュウキはそれを訊く事は出来なかった。

 当然、レイナとは互いに何でも話す間柄にはなっている。(例外は勿論あるけれど……)

『……一概には言えない事もでもありますが、基本、夫婦と言うものは、お互いに隠し事があってはいけないですよ? 坊ちゃん』

 と、爺やにも何度か忠告の様な物を受けた事もある。
 赤面しつつも、そんな事はしない、とリュウキは思っていた。

 だけど、『一概には言えない』と言う部分。故意的ではなく、相手を強く想っているが故のモノであればやはり別だって言える。
 だからこそ、爺やは そう言ったのだと言う事も判る。

『そうですね。……話していただけるまで待つ――と言うのも優しさでしょうか』

 爺やは、そうとも言っていた、とリュウキは思い返していた。

 だからこそ、リュウキは レイナの言葉を待とう、と今は決めていたのだ。勿論、彼女の表情の暗がりが広がる様であれば……話は別だけれど。


「ん……それに、今回の一件。レイナも、アスナも、頑張ると言ったんだ。しっかりとしないとな。……気になる事もあるし」

 リュウキは、頭の片隅には置きつつも、今回の事についての考えに変えた。

 《あの森の家に還る》

 と言う最大の目標を達成する事が出来た今、次はゲームを楽しむ……よりも家族(・・)を優先させているのは当然だ。ゲーム、二の次、である。

 だけど、この世界も今は無き、旧アインクラッドにも負けない程の広大さ。翅の存在は勿論の事、ALOの世界観、アルヴヘイム、ヨツンヘイム等を含めるのなら、紛れもなく上回っていると言えるから、ゲーマーとしては、その世界の攻略にも興味は大いにある。その点は皆共通だから、以前の様な超特急の攻略はせずとも、それなりに情報を仕入れたりはしているのだ。

 だからこそ、やや不穏な気配、情報を耳に入れる事が出来た。

「……確かに、ゲーム(・・・)だ。RPG。役割を演じる世界だから、そのプレイスタイルも十人十色。全てを否定する事は出来ないと思うし、従来なら行き過ぎた行為はGMが裁定を下すが……ここはALO。基本的にプレイヤー間の問題には介入しない。……すべてを見越しているとなれば、周到だな。オレは相容れないが。絶対に」

 22層を超えた先の層の攻略に精を出していない故に、新たな攻略組が頭角を現したのは半ば必然だと言える。

 以降は、その攻略組――ギルドが常に最前線を総なめしているのだ。
 如何に大きなギルドとは言え、強力極まりないBOSSが蔓延っているこの浮遊城で、常に結果を残し続けるのは、少々不自然だ。

 そして、何よりも……共通点がある。

 そのギルドが層を攻略する間には。

「……短期間でここまでとは。やっぱり大したもの、だな。……アルゴは」

 指でメッセージウインドウをスクロールさせながら、呆れ半分に呟くリュウキ。
 そう、相手は情報屋のアルゴ。事、情報においては彼女を差し置いて、他にはないとさえ言えるもので、本人には言わないが、ある意味重宝していると言える。
 そもそも、アルゴ自身も、リュウキの情報をもとに――と言う経緯があるから、お互い様と言えばそうなのだが、自身をあまり過大評価しないのがリュウキなので、その辺りはご愛敬だ。

「ん?」

 メッセージを読み終えた、と思えば更に続きがある事に気付くリュウキ。



『P.S 今度、オネーサンと付き合っテクレ♪ 美味シいディナーを一緒にドウかな??』



 と、猫のデフォスタンプ付きのメッセージが最後にあった。
 数秒前に褒めたのに、撤回したくなる気分だ。別に付き合う事には吝かではないのだが、色々と厄介な要求をされそうになったりするので、手放しで引き受ける様な物ではないのがリュウキ。
(因みに アルゴは、精一杯アピールしてる? だけだけど、気付いてないどころか、警戒してる為、そう思ってる)
 それよりも、リュウキはツッコミたい所があった。以前にも何度かあった事だ。

「何で()の癖に()だ」

 彼女の二つ名を考えたら、やっぱり違和感があった様だ。
 以前では、動物型撮影媒体を持っていて、それも《猫》だった。鼠の名前は? と何度もツッコミを入れていたのだ。

 因みに、リュウキが注意力を強めたのは、プライベートを色々と覗かれたから、と言う理由もある。(別に見られて困る様な事はしてないが、それでも逐一見られてたら……うざい、と言う事)

「さて……、1人じゃ流石に範囲が広い。無理、だな。頼むか。……こっちも、見返りが少々難かもだけど」

 アルゴにテキトウに返信した後、リュウキはフレンド一覧を呼び出し、とある人物へメッセージを送信した。状況を簡潔にまとめ、最後に一文で締める。



――件のギルドの動向を、頼む。
 
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