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もう一人の八神

作者:リリック
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新暦78年
  memory:25 友達の友達は友達

-side 悠莉-

短い冬休みを終え、一年最後の学期を迎えてしばらく経った頃。
いつものように道場の練習でミウラと試合に近い組み手をやっていた。

鉄槌の拳と斬撃の蹴りが私を狙って飛んでくる。
魔法なしとはいえ、一度当たればボディに回復魔法でもなかなか取れないダメージが蓄積されていく。

そんなものを何度もくらいたくないので、いつものように完全に往なして受け流し、投げ飛ばす。

「うそぉ!?」

「そんなんじゃ、まだまだ私を出し抜けないよ」

声をあげながらも上手く着地し、歩法を使ってトップスピードで距離を詰め、再び拳と蹴りを繰り出してきた。

フェイントを織り交ぜる。
緩急をつける。
裏をかいて何もせずにまっすぐ拳を、蹴りを。
ミウラは自分なりに戦術を立てて向かってくる。

私もそれに合わせて牽制やカウンターで距離を取らせる。
離れすぎたら、こっちから詰めて攻守を替える。



「あーあ、やっぱり勝てなかったよ」

「試合に近いとはいえ、一応は組み手だから勝ち負けは関係ないのに」

「それはわかってるけど、それでもだよ」

「まったく……」

ミウラに少し呆れながら、ふと、気になることがあった。

「そういえば、さっき、着地で手でバランス取ろうとしてたときに手首捻ってなかったか?」

「えっ? あ~…そういえばそうだったかも」

「集中し過ぎて忘れてたんかい。ちょっと見せて」

ミウラの腕をとる。
握ると男のそれとは違う細い腕。
改めてミウラが女の子なんだと実感する。

「ゆ、悠莉くん?」

「大丈夫みたいだね。腫れも捻挫もみられないし。でもこのあとシャマルに診てもらった方がいいね」

「う、うん。ありがと」

確認を終えるとタイミングよく休憩の合図が鳴った。

「ちょうどよかった。そんじゃ行こうか」

「ぁ……」

握っていたミウラの腕から手を離す。
そして歩き出そうとしてもなかなかミウラが動こうとはしない。

「ミウラ?」

「え? ううん、なんでもないよ! さっ、早く行こっ!」

「おっとっと」

今度はよくわからないけど、急に元気になって、私の手を引っ張ってみんなのところへ向かった。



休憩の時間、少し離れたところでミウラとリオを見ながら話していた。

「リオちゃん、ずっと笑顔だけど、なにかいいことでもあったのかな?」

「そうみたいだな。なんというかいつも以上に動きがよかったしね」

久々に道場に来たリオはいつも以上にニコニコしていて、練習中でも絶好調でいた。

「というか、本人に直接聞けばすぐにわかるんだけどね」

そんな話をしていると、リオがこちらに走ってきた。

「悠兄ぃ! ミウラさん!」

「リオちゃん、どうしたの?」

「この後さ、あたしと組み手しようよ!」

「いいよ。悠莉くんは?」

「ミウラの後にね」

「うん! 忘れないでよ!」

ご機嫌なリオはさらに元気になった。

「それにしても今日はいつも以上にハイテンションだったな。なにかいいことでもあった?」

するとニシシと嬉しそうに口を緩ませるリオ。

「実はね、今日新しい友達ができたんだ! それも二人も!」

「そうなんだ! よかったね、リオちゃん!」

「それでテンションが高かったんだ。ということはその二人は親友になれそうなんだ」

「うん! それでね、これが三人で撮ったの写真なんだ」

そう言ってリオのインテリジェンスデバイスのソルことソルフェージュから写真が映し出された。
その写真を見ると、そこには見知った女の子たちがリオと一緒に写っていた。

「……あれ?」

……ほぅ。

「ミウラさん? どうしたの?」

「えっとね、この金髪の子なんだけど、どこかで見たことある気がして……」

そう言って思い出そうとするミウラ。
見たことがあるのは当然で、前に私の部屋で小さい頃の写真を見せたことがあるんだから。

「ヴィヴィオのこと知ってるの?」

「ヴィヴィオ、さん?」

「ミウラは前に写真で見たことあるだろうに」

そう言われてうんうん言いながら頑張って思い出そうとしている。

「悠兄ぃも知ってるの?」

「もちろん。高町ヴィヴィオにコロナ・ティミルでしょ? よーく知ってるさ。なんせ……」

一度区切り、続きを言おうとしたとき、ザフィーラとシグナムの声が響いた。

「……休憩は終わりみたい。続きは後でね」

「ちぇ~。でも後でちゃんと教えてよ、悠兄ぃ!」

「わかってるって」

「それじゃあリオちゃん、行っこか」

「うん!」

二人は一緒に練習へと戻っていった。



陽も傾き始めたころ、本日の練習も終わりを迎えた。
使った道具を片付けていると帰ったと思っていたミウラとリオが着替えて来た。

「あら? 二人ともみんなと一緒に帰ったんじゃ?」

「悠莉くん一人じゃ大変かなって」

「手伝いに来たよ!」

「そっか、ありがとね」

三人でミットなどの道具を片付け、簡単にゴミ拾いをする。
そんな時、デバイスが鳴った。

「ん? 通信? 二人ともちょっとゴメン」

映像通信だったために場所を移して話そうと思ったけど、通信相手の名前を見て足が止まった。

「悠莉くん?」

「面白そうだからいいか」

「「?」」

私の呟きに首を傾げる二人。
それをよそに少し離れて通信を繋いだ。

「どうしたんだ……ヴィヴィオ」

『ユーリ! 実はね! ……って、あれ? その格好…もしかして道場の練習中だった?』

「まあね。でも今はもう終わって片付け中」

『そっかぁ、何かごめんね』

「気にしない気にしない。で、用件は何かな? 本当にいいことがあった時に限ってメールじゃなくて通信繋いでくるからねヴィヴィオは」

St.ヒルデへ入学した時やコロナと友達になった時、司書試験の時など本当に。

「今回は新しく友達ができたっていう報告なんでしょ? よかったじゃないか」

『へ……? なんでわかっちゃったの!? まだ何も言ってないよね!?』

「そりゃヴィヴィオのことをさっきまで話してたからね」

『もしかしてザフィーラやイクスと?』

「残念。その二人じゃないよ。紹介するからちょっと待って」

そう言って、ミウラとリオを手招きして呼び寄せる。

「悠莉くんどうしたの?」

「悠兄ぃなになに?」

『え…今の声って……』

ヴィヴィオはリオの声に反応したのかな? はてさて、リオとの画面越しの対面でどんな反応してくれることかね。

「いやいや、二人を紹介しようかと思ってね」

と、笑いをこらえ、面に出さないようにそう言った。
そして、リオが画面越しのヴィヴィオを見た瞬間、

「『あーーーっ!!』」

同時に声をあげる二人。

「なんでなんでヴィヴィオが!?」

『リオの方こそ! それにそれはこっちのセリフだよ!?』

「思い出した……悠莉くん、ヴィヴィオさんって……」

「そうだよ。前に見せた私の部屋のフォトパネルに写ってたでしょ。その子だよ」

「やっぱり」

「一端それは置いておくとして、いい感じに混乱してるこいつらを落ち着かせないとね」



「はじめまして、ミウラ・リナルディです!」

『はじめまして! ユーリからかねがね聞いてます!』

「ほんとうですか? ありがとうございます!」

ミウラと一緒に二人を落ち着かせた。
軽く説明をしてヴィヴィオにミウラを紹介した。

互いに自己紹介をする二人を前にリオの疑問に答えていた。

「悠兄ぃ、悠兄ぃってヴィヴィオとコロナのこと知ってたんだね」

「まあね。ヴィヴィオは姉さんの親友であるなのはさんの娘だしね。それにこっちに来た機動六課時代からの友達。コロナは今年度の始めにヴィヴィオ伝いにね。いろいろあって、魔法のアドバイスを時々やってる」

「そうだったんだ」

それにしても驚いた。
同じ学校に通っているのは知ってたけど、まさか三人揃ってこうなるとはね、世間というのは案外広くないのかね。

「コロナにどんな魔法教えてるの?」

「コロナが得意なゴーレム操作だよ。詳しいことはコロナ本人のから聞いた方がいいよ。そっちの方が友達のことを知るいい機会だろ?」

「……うん。それもそうだねっ!」

別に説明が面倒だったわけではない。
ただ、本当にそう思っただけ。

「そういえばさ、何でヴィヴィオからの通信であたしとミウラさんを呼んだの?」

「おかしい?」

「いや、そーゆーわけじゃないけど」

理由はいろいろなんだけどね。
まあ、一つは、

「リオについてはただ単にどんな反応するか面白そうだったから」

「何それ、悠兄ぃひど~い」

「あはは、ごめんごめん」

「じゃあミウラさんは?」

「ミウラにとってのヴィヴィオが、ヴィヴィオにとってのミウラがいいライバル関係になりそうだったからね」

「……どういうこと?」

「リオもそうだと思うんだけど、ストライクアーツをはじめとするスポーツって、競い合う仲間やライバルがいれば、互いに高めあっていい刺激になるでしょ?」

ミウラやライや道場の皆とか。

「そのために二人を引き合わせたの?」

「まあね。それに」

友達なんて、多い方が楽しいからね。

「そうだねっ!」

-side end- 
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