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真田十勇士

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巻ノ五十三 九州のことその六

「それが過ぎるという」
「そうした御仁は」
「そうじゃ、主には向かぬ」
「それも大名の」
「大名は背負うものが違う」
 昌幸は鋭い目になり言うのだった。
「多くの家臣と民を背負うのじゃ」
「国だけでなく」
「長宗我部家ともなれば土佐一国」
「それを背負うには」
「千熊丸殿は武の資質はある様じゃが」
 それでもというのだ。
「しかしな」
「政の資質がですな」
「ない様じゃからな」
「ですか」
「それは御主もじゃな」
 昌幸は幸村にも言った。
「大名にはなれてもな」
「真田十万石を継ぐには」
「政が落ちる」
 自身や兄である信之よりもというのだ。
「それなりに出来るが」
「それは大名としてではなく」
「臣としてじゃ、しかも臣としても今で手が一杯であろう」
「いささか苦しいです」
「やはりな、だからな」
「それがしもですな」
「大名には向かぬ」
 長宗我部家の四男である千熊丸と同じくというのだ。
「御主は軍勢ならば十万も二十万も軍師として策を練ることが出来そして」
「そして、ですか」
「一軍を率いて果敢に戦うことも出来るが」
「政は」
「あくま臣として、しかも今の立場でも苦しい」
「ですか」
「まあ臣としてなら二百万石の中でも能臣となるであろうが」
 これが昌幸の見立てだった。
「いささか辛いにしてもな」
「それでも大名には」
「難しい、御主はそうした者ではない」
「器ではない」
「器の質が違う」 
 大名のそれではないというのだ。
「臣、そして将帥のものでな」
「大名ではないですな」
「他のものじゃ」
「ですか」
「うむ、だからな」
 昌幸は自身の次男である幸村に強く言った。
「御主はそれを目指すな、天下一の武士を目指せ」
「それがしが常に思っている様に」
「それがよい、そして」
「そしてとは」
「最初に言ったが長宗我部家は次の主次第で暗くなる」
 家を継ぐ筈だった信親が討ち死にしてしまいというのだ。
「九州での戦関白様が勝たれるが」
「後々に暗いものが出来た家もありますか」
「うむ、しかし九州は落ち着く」
「この度の戦で」
「それは間違いない」
「やはり関白様の軍勢は多いですな」
「数も違うし鉄砲の数も違う」 
 そのこともあるというのだ。
「五万も持って行ってはな」
「如何に島津家といえど」
「勝てるものではない」
 到底という言葉だった。
「そういうことじゃ」
「さすれば」
「うむ、次は東国じゃ」 
 九州が収まったその後はというのだ。 
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