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鬼軍曹

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第二章

「だからだ、御前等もわかってるんならな」
「その指導をですね」
「理不尽と思わないことですね」
「自衛隊なんだ」 
 彼等が今いる場所はというのだ。
「そういうことだ、いいな」
「わかってます」
「甲板班長の指導も」
「それも」
「御前等は二年ちょっとで三層になる奴がいるんだ」
 そうした課程だというのだ、一般曹候補生という課程である。
「それならな」
「余計に、ですか」
「厳しいんですよね」
「将来のことも考えて」
「そうだ、別に御前等を辞めさそうとかな」
 そうした考えはというと。
「ないからな、それも全然な」
「別に、ですね」
「辞めさせようとか」
「そうした考えはないんですね」
「甲板班長も俺も他の班長もな」 
 さらに言った。
「分隊長も分隊士の人達も皆な」
「厳しくしてもですね」
「辞めさせるって考えはですか」
「一切ないんですね」
「このことは絶対だからな」 
 誓って言う言葉だった。
「本当にな」
「ただ厳しいだけ、ですか」
「俺達に何かするんじゃなくて」
「悪意はないってことですね」
「そのことは頭に入れておいてくれよ」
 絶対にとだ、また彼等に言ったのだった。
「部隊にはそんな奴もいるがな」
「俺達に悪意があって」
「それで辞めさせようとさせてくる奴」
「そんな奴いますか」
「そんな奴とは違うんだよ」
 石澤も自分も他の班長や分隊長達もというのだ。
「そこはわかれよ」
「わかってるつもりです」
「確かに甲板班長悪意はないですからね」
「そういう感情は」
「悪意がある奴は違うんだ」
 そもそもというのだ。
「そういう奴は目から違うんだよ」
「厳しい目じゃなくて」
「何か違う」
「そうした目なんですね」
「そういう奴には近寄るな」
 悪意がある相手にはというのだ。
「自分の直接上に来てもな」
「近寄らない」
「出来る限りですね」
「何かあれば警務に言え」
 警務隊にというのだ、自衛隊の中の警察である。他の軍隊で言う憲兵だ。
「そういう奴こそ自衛隊にいらないんだよ」
「悪意があってですか」
「他人を辞めさせようとかする奴」
「そういう奴こそですか」
「そうした奴は暴力も振るう」
 語る班長は忌々しげに言った。
「自衛隊は暴力も否定してるだろ」
「はい、それ言われました」
「そんなことはするなって」
「人を殴るなって」
 実際はあったりするかも知れないがだ。
「それも社会人として当然だからですね」
「殴るな」
「それで罵るなですね」
「甲板班長が御前等を殴ったことがあるか」
 このことからの問いだった。
「そして罵ったことあるか」
「いえ、ないです」
「指導厳しいですけれど」
「監視も厳しいですが」
「別にです」
「暴力を振るわれたことはないです」
「殴られたり罵られたことは」
 教育を受けている班員達もそれは言う、それこそ誰一人としてだ。
「一回もないです」
「本当に」
「そうしたことは全くです」
「ないです」
「そうだ、というかさっきも言ったが」
 班長は彼等にあらためて言った。
「御前等の中では二年ちょっとで三曹になる奴が出るからな」
「だからですか」
「それで、っていうんですか」
「俺達、つまり甲板班長みたいになる奴がいるからな」
 だからこそというのだ。 
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