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鬼軍曹

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第三章

「あの人の指導見ておけよ」
「教育隊の班長になったりするから」
「あの人と同じ立場になったりするから」
「だからですね」
「甲板班長も見ておくんですね」
「決して悪い人じゃなくてな」
 それに、とだ。その三曹つまり自分達と同じ立場になっていく彼等に言うのだった。
「ちゃんとした指導で、しかもあれでな」
「あれで?」
「あれでっていいますと」
 班員達はここで笑った班長に問うた。
「甲板班長にですか」
「ありますか」
「茶目っ気とか愛嬌あるだろ、あの人」
 今言ったのはこのことだった、やはり笑顔で。
「そうだろ」
「あっ、確かに」
「妙に愛嬌ありますね」
「茶目っ気も確かにあって」
「妙に」
「しかも奥さんに甘いんだよ」
 こうしたところもあるというのだ。
「厳しいだけの人じゃないってこともな」
「見ておけ」
「そして頭に入れておけってことですね」
「そうした一面もな」
 よく、というのだ。そうしたことを班長と話してだった。
 班員達は教育を受けていった、そして。
 課程は進みだ、遂にだった。
 修了となった、その修了式が終わり分隊長や班長達の最後の挨拶の時にだ。
 石澤も挨拶をしった、それも満面の笑顔で。
 彼等は修了した班員達に一人一人握手をしていった、その中で。
 課程の中でとりわけ要領が悪く成績も悪かった者が修了に泣いていた、その彼にだ。
 石澤は笑顔でだ、彼の前に来た時に言った。
「泣くなよ」
「はい、ですが」
「男が泣いていいのは好きな野球チームが優勝した時だけだ」
「だからですか」
「修了出来て嬉しくてもな」
 それでもというのだ。
「泣くな、わかったな」
「わかりました」
「こうした時は笑うんだよ」
 そうするものだというのだ。
「凄くな」
「はい、じゃあ」
 その班員は涙を拭いた、そのうえで。
 笑みになった、そしてだった。
 石澤はその彼とも握手をした、そうして。
 巣立つ彼等を笑顔で送り出した、その後でだった。
 石澤は班長達にだ、こうしたことを言った。
「じゃあ俺達もな」
「後片付けですね」
「班長室とかの」
「それでそのうえで」
「次の任地に行きますか」
「俺は教育隊は終わりだ」
 そこでの勤務はとだ、石澤は言った。班員達が去った基地の正門を見ながら。先程彼等を送るバス達が通った正門は今は閑散としている。
「船だ」
「じゃあ今度はですね」
「その船で甲板ですか」
「そうなりますか」
「ははは、その時は今より優しいだろうな」
 明るく笑って言うのだった。
「教育隊は別だからな」
「ですね、じゃあ」
「そこであいつ等の誰かと会ったら」
「その時はですね」
「ここにいる時よりは優しいさ」
 実際にそうするというのだ。
「誰にでもな」
「私達の場合もお願いしますよ」
「ここよりは手柔らかに」
「そこはお願いしますね」
「いやいや、御前等はもう三曹だからな」
 既にその立場だからとだ、石澤は明るく笑って言った。
「同じ様にしてやる」
「いやいや、そこをです」
「お願いしますね」 
 班長達はその石澤に笑って言う、石澤も口では言うが明るく暖かい笑顔だった。教育隊の上にある空は何処までも青く澄んでいた。


鬼軍曹   完


                         2016・2・15 
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