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真田十勇士

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巻ノ五十一 豚鍋その七

「相当にな」
「ですな、貧しいが人はいる」
「城であり石垣である者達が」
「まさに人が国ですな」
「そのことがわかったわ、しかしここまで回ってな」
 ふとだ、こんなことも言った幸村だった。
「如何に慎重に進んでいるにしても」
「はい、一度もですな」
「怪しいと思わませんでしたな」
「関は避けていたにしても」
「山を中心に進んでいたとしても」
「島津家の者達に気付かれていません」
「一度も」
「このことはな」
 実にというのだ。
「僥倖でもあるか」
「見付からなかったこと」
「そのことが」
「一度は見付かることを覚悟しておった」
 これが幸村の本音だ、実は彼もそうなることを考えていたのだ。そうしてそれからどうなるのかも考えていたのだ。
 しかし一度も怪しまれることがなかったのでだ、こう言うのだ。
「そうならなかったからな」
「よしとしますか」
「そしてそのうえで、ですな」
「薩摩を見るのを終えて」
「大坂に戻りますか」
「そうしよう、間もなく終わる」
 その薩摩を見ることがというのだ。
「いよいよな」
「多くのものを見てきました」
「関白様にはよい報を届けられますか」
「そうなりますな」
「無事に帰られればな、ではな」
 幸村は明るく話した、そしてだった。
 薩摩も見て回ってだ、いよいよ帰ろうとしたが。
 ふとだ、清海と猿飛がこんなことを言った。
「殿、その前にですが」
「宜しいでしょうか」
「もう一度です」
「豚を」
「待て、そこでそう言うか」
 海野がその二人に呆れた顔で言う。
「御主達は」
「全くじゃ、帰ろうという時にじゃ」
 根津も海野と同じ顔で二人に言う。
「豚を食いたいか」
「そんなことを言っておる場合か」
 望月も言うのだった。
「全く、食い意地が張っておるな」
「いや、最後にな」
「いいのではないか」
 穴山と筧も言う。
「豚は美味いからな」
「味を知るのも学問じゃぞ」
「そういう訳ではないと思いますが」
 伊佐は苦い顔で兄達に注意した。
「早く帰るのがよいかと」
「わしもそう思うが」 
 霧隠は腕を組み難しい顔になっている。
「豚を食うよりもな」
「わしは食う方か」
 最後に言ったのは由利だった。
「そちらか」
「五人と五人か」
 幸村は十勇士の意見を聞き終えて述べた。 
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