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真田十勇士

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巻ノ五十一 豚鍋その八

「まさにな」
「食いたいです」
「我等は」
「しかしここで食いますと」
「見つかるやも知れませぬが」
 双方再び言った。
「食うべきです、最後に」
「見つかったらどうする」
「見つからねばよい」
「いや、そうもいかぬぞ」
「このままでは決まらぬな」
 十勇士それぞれの言葉を聞いてだ、幸村はこのことがわかった。
 それでだ、幸村はこう彼等に言った。
「よし、では決めた」
「はい、どうされますか」
「ここは」
「食いますか」
「それとも去りますか」
「どっちにしてもこのままでは話が分かれたままでじゃ」
 それでというのだった。
「だからここは賽を使おう」
「賽ですか」
「それを使ってですか」
「決められるのですか」
「そうされるのですか」
「うむ、今からこれを投げる」
 こう言ってだ、幸村はその懐からだ。
 賽を出した、それは六面でありそれぞれの面に穴が一から六までそれぞれ空けられ一は赤、他の字は黒に塗られている。
 その賽を出してだ、彼は言った。
「偶数なら食う、奇数なら食わぬ」
「その様にされますか」
「ここは賽の目ですか」
「それで決められますか」
「戦の時は己の頭で決めるが」 
 しかしというのだ。
「こうした時はこれもよい」
「賽に任せる」
「その目に」
「そうされますか」
「そうしようぞ、白河院も言われていた」
 平安の末の帝である、だが帝であられるよりも院政を敷かれそのうえで法皇として政を執られた方である。
「僧兵と鴨川の流れと賽の目はどうにもならぬ」
「そうですな、では」
「その院ですらどうにもならぬ賽にですな」
「全てを任せ」
「そしてですな」
「これからのことを決めるとしよう」
 こう言ってだ、そしてだった。
 幸村は賽を空高く投げた、そうして。
 地に落ちて転がった賽が止まったのを確かめその目を見た。目の数は。
「二じゃな」
「偶数ですか」
「偶数となりますと」
「行く」
「そうなりましたか」
「うむ、では行こうぞ」 
 こう言ってだ、そしてだった。
 主従は豚を食いに行った、店に入り。
 豚を頼んだ、そして部屋の中でだ、幸村は十勇士達に言った。
「ではここでもな」
「はい、我等もですな」
「ここは、ですな」
「慎重に」
「怪しまれぬ様に」
「食うが」
 それでもというのだ。
「我等はな」
「そうしましょうぞ」
「落ち着きそのうえで」
「ばれぬ様にですな」
「していきましょう」
「そこは気をつけよ」
 くれぐれもというのだ、こうしてだった。
 主従は豚を食ってだ、その後でだった。  
 薩摩の山に入り幸村が知っている道を進んだ、十勇士達はその秘密の忍道を進みながら幸村に対して言った。 
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