Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#33 2つの素敵で綺麗なもの
それは、あの騒がしい死神ディストの襲撃があった日の夜の事。
六神将のアニス、そして ディストと殆ど続けて戦闘があった為、やはり それなりには疲労が体に溜まっているだろう、と言う事で、見張りをしっかりと立てて、他のメンバーは休息を取る事にした。
アルやティアの治癒術も受けて、傷自体の回復は問題ないが 所謂精神的な回復は十分とは言えないだろう。……人であれば当然だと言えるが。
「ふぅ…… でも、ほんと 今日も色々あったな………。皆についてきて、ほんと、毎日大変だよ」
船室のベッドで横になってたアルはそう考えていた。だけど……、不思議と苦ではない。
「んっ……! サラ、ガーランドさん。レイさん。……町の皆。待ってて……」
明確な目的があり、それを達成する為には必要不可欠だからだ。目的を――恩を返す為にも――、いや、家族を守る為に、しなければならないのだから。
アルは、ベッドから ひょいと起き上がる。
「んんーー…… なんだかまだ眠れない。 ………ちょっと出てみるかな。外にでも。風に当たってこよう」
そのまま気分転換にと船室の外へと向かっていった。
休息を、と特に皆から言われていたアルだったが……、大丈夫だろう。……たぶん。
アルは、そのまま甲板へと出て言った。
夜の星空を眺めながら――故郷の事を想う。
「………アクゼリュスを出て、もう随分と経った……よね。皆、元気かな……? ガーランドさん、レイさん… サラ………」
船室で体を休めていた時もずっと考えていたのは、家族の事だった。
記憶の無い自分が、初めて出会った人が 彼らだった。……得体の知れない自分を、自分自身でも何者か判っていない自分を温かく迎えてくれた、優しくて、大切な家族。
「会いたい………よ」
星に願うアル。
だけど、今の状況を考えるとそうも言ってられないのだ。問題はまだ沢山ある。個では解決する事は到底できない大きな問題が。
そして、しなければならない事もある。アルは、そう強く思うと両頬を手で挟む様に叩いた。
「んっ……! 今、思いつめても仕方ない。アクゼリュスの皆を助けるには、他に方法は無いんだ。今は、自分に出来ることを精一杯しないと。……うん。するだけ、だよ」
アルは、そう気合を入れ直すと、再び夜空を見上げた。
今日は雲一つな快晴だった。それは夜も同じであり、星々と音符帯が絡み合い、夜空を鮮やかに彩っている。
「………綺麗…だな……」
アルは、空を見上げながら、ゆっくりと腰を下ろした。
そして……そのまま 体を横にする。
「こうやって、寝っ転がって、星を見るのって悪くない……な。 ……サラとした日向ぼっこも良かったけど。こうやって、夜空を見るのも。……うん。今度誘ってみるかな……」
次に家族と出会う時。
それは、全てが解決していて、皆が無事で――皆笑顔で手を取り合う時だ。
アルは、そんな未来を思い描きながら――暫く夜空を見上げているのだった。
そんな時だった。
「………? あら? あれは……アル?」
甲板に出てきていたのはアルだけではなかった。
夜風に、長い髪を靡かせながら、ゆっくりとアルに近づいていくのは、ティアだった。
「アル。どうしたの? ……眠れないの?」
ティアは、寝転んでいるアルの顔を覗き込んだ。
「あ。ティア。ははは… うん。そんな感じだよ。でも びっくりした。星を見てたら、突然ティアの顔が出てきたんだもん」
アルは、笑いながらそう言っていた。
「あら… それはごめんなさい。邪魔しちゃったかしら?」
ティアも少し笑いながらそう返した。でも、アルは笑顔で首を横に振る。
「いいや 全然だよ。だって、星を……綺麗なものを見てたんだからさ。……ティアの事、邪魔だなんて思わないよ。それに、夜空の星も、ティアも、両方とも素敵だからね?」
臆面も無く計算もなく、ただただそう返すアル。
こう言う性格だと言う事は、ティア自身もよく判っている、判っている筈だったのだけど、やっぱりストレートに言われたら当然ながら。
「ッ/// も、もう !何を言うのっ!」
顔を紅潮させてしまうのも無理は無い。だが、ティアにとっては不幸中の幸いだったのが、今がアルと2人しかいない、と言う事。なぜなら、この場に他の皆がいれば何を言われるか判ったものじゃないからだ。
「え??? どうしたの??」
アルは、アルには、ティアが突然顔を赤くした理由がよく判らなかった様だ。その事、アルの感性もよく理解しているティアは、顔を紅潮させたまま、軽くため息を吐いて説明をする。
「………はぁ。アル。貴方も褒められたりしたら照れる、って言うでしょう?」
「え…? あ、うん。そうだね。何度も、あったけど……やっぱり、なかなか 慣れなくてさ……」
アルは、うんうん、と頷くと ティアは そんなアルの鼻先に指を当てがって一言。
「……それと同じ事。……なのよ? 今、アルが言っている事は」
苦笑いをしたまま、ティアはアルにそう言った。
「あ…」
それを訊いて、アルは漸く理解した様だ。……勿論全てをと言う訳ではなさそうだが。
つまり、『綺麗だ』と言う言葉も当然ながら、褒め言葉である。アルにとっては 何度も何度も言われてきた事で、気恥ずかしくなった事も多く、直ぐに理解できたので。慌てて
「そ、そっか。そうだよね。 うん。ゴメンゴメン、ティア」
褒めた相手に謝る……と言うのは 何処かおかしい気がするが、やはり慌てていたから、と言う理由が大きいだろう。それを訊いて、ティアは苦笑いをした。
「……アルは、その……私の事、褒めてくれたんだから。 謝ることはないと思うけど……。それじゃ、面白くないから、貴方の事。……アルの事、これからも、もっと言うことにするわね? イオン様に負けないくらいに。……お返しに」
ティアは、そう言ってにこっ と片目を閉じた。
それを訊いて、ティアの笑顔を見て……、アルは目を閉じる。
「あ……う……。……それは やっぱりちょっと恥ずかしいんだけど………。ううーん、ちょっぴりジレンマだよ……、 他人のことは褒めれるところは、褒めたいんだけど… 自分になったら… ちょっと… ね?」
真剣に悩むアルが、とてもおかしくて、面白くて。
「あははは…」
ティアは笑った。
「ん……っ……はははっ……」
そして、アルもティアにつられるように、笑っていた。
ゆっくりと身体を休める事も大切だけれど、こう言う休息の取り方だってあるだろう。アルとティアは、心地よい浮遊感を感じながら、笑顔で話をするのだった。
そして、数十分後。
「さ、もう そろそろ寝ないと、アルもこんなところで寝ていたら風邪を引くわよ。眠る時は部屋で、ね?」
「うん。そうだね… そろそろ戻るとするよ。話し相手、ありがとう。ティア」
「ふふ。こちらこそ」
「うん。じゃあね。ティ……っっ!!」
話が終わる寸前の事だった。
アルの笑顔が突如消失し、両手で頭を抱え、蹲った。
「あ、アル!! どうしたの!? アル!」
突然のうめき声、そして 尋常じゃない様子を見て、ティアは慌ててアルの身体を揺さぶった。
「あ、あぐっ! あっ!! …っ!! だ……だいじょ…ぶ… ッツ!」
ティアの声は、アルに辛うじて届いている。だが、その声も小さく、小さくなっていく。
ティアの心配する声の変わりに、頭に響いてくるのは、《あの声》
“キィィィィィィィィィィ………………”
『ようやく… ……を… 見つけた… やはり… 振動…………』
そう、以前頭に響いていた声。
今までも、聞こえてきた事はあった……が、頭の髄にまで響く様な声は、あまりなく、脳を声と言う振動で揺さぶられている様に錯覚し、アルは頭を抱えたのだ。
そして、何よりも、今回の声はいつもと違った。
そう、この声の種類。明確な意思を感じる声。戦闘方法を指南してくれる様な、云わば機械的なものではなく、意志を感じる声はあの時。
アクゼリュスの時以来だった。
『くっ… お前は…?』
『もう………し… ………な… ………… だ………、ま……時期では… な………… … 能…か……。解放………まだ……遠………』
そして、あの時と同様に変わらない。
まるで、意味が判らない途切れ途切れの声。不安感が増すだけの声だった。
『っ…! だ、だか…ら……… オレにも、分かるように……言って……!」
アルは、頭を抑えながら必死に叫んだ。
『我が…………よ… 我……… ……………の助けとなる。必ず……………聖なる焔………… ………を解放す………だ…。それ……… 全て…………終…………。……… 長かった………。も………20…0年か…』
何度聞いても、何度問いただしても、変わらない。壊れた電話の様に、届いていないし、届かないのだ。。
『な、何………? どういう、意味………』
ところどころの単語の意味は理解できるが、正確に繋げる事が出来ない。つまり、以前と全く変わらない肝心な部分が抜けている状態である。
『いったい……、何を…、解放するって言うんだ………!? オレに何かさせたいなら……もっと、はっきりっ……』
『………それは……。………む…? 気配……消え………… まあ…よい』
『な、なんだ?』
そして、声が徐々に遠ざかるのを感じた。そして、遠ざかる声に反比例するのが、その内容だった。
普通遠ざかると、聞こえなくなってくるものなのだが……、逆に内容が聞こえ始めるのだ。
『今は…まだ早い。以前にも話したが………、いずれ………わかる。必ず………… 全てを…………。…………全ての意味を』
その言葉を最後に、あの声は、完全に消え去ってしまったのだった。
『…ル! ア…!』
あの声が、完全に消え去ったと言うのに。何度叫んでも、全く反応が無かったと言うのに、アル自身が諦めかけたその時、再び誰かの声が…頭の中に響いてきた。
さっきまでの声ではなく―――どこか優しい声。
『アルっ!』
頭の中の闇にとらわれていた自分をまるで、光へと導いてくれているかの様な声が頭の中に響き――その声を追いかけて、光へと手を伸ばした瞬間、だった。
目の前の闇が完全に消失し、変わりに 誰かの顔が飛び込んできた。
輪郭もぼやけているが、徐々に鮮明になっていく。
「ティ…ア?」
完全にティアの顔が見えてきたのだ。
「アル! 大丈夫!? しっかりしてっ!」
ティアが体を抱き起こしてくれていた。
そう、自分が倒れている事に、この時初めてアルは気付いた。
「え…? あ、あれ…? 」
きょとんとするアル。状況がよく理解できないアルとは反対に、ティアは安堵の表情を浮かべていた。
「大丈夫………そうね。 良かった…… 急に頭を抑えたと思ったら倒れるんだもの。咄嗟に抱きとめる事が出来たから、外傷はないと思うけど……大丈夫?」
アルの顔をじっと覗き込むティア。
「あ… ありがとう… ティア…///」
今、自分自身の頭に感じるのはティアの柔らかい感触、暖かなぬくもりだった。
そして、ティアの顔が直ぐ傍にある事もそうだ。
抱きとめてくれた事、そして 今も自分の身体で、支えてくれている事もはっきりと理解したアルは慌てて身体を起こそうとする。
「っっっ/// て、ティア。もう大丈夫だから!」
アルは、恥ずかしさもあって、起こそうとするのだが。
「無理しては駄目。苦しみ方が尋常じゃなかったんだから」
ぎゅっと抱きしめられて、起き上がる事が出来ない。その身にゆだねる事しかできない。……力ずくで、振り払う訳にもいかないから。
「え、えっと…………そっ…そのっ! て、ティア……えと、あ、あぅ……。………恥ずかしい……んだけど………」
アルの声はとても小さい。だからこそ、ティアには何を言っているのか判らない。
「え? アル? 大丈夫なの?」
アルの声を聞き取ろうとする為……、ティアは顔をさらに近づけてきた。
それははっきり言えば、逆効果である。更に気恥ずかしさもあって、声が小さくなってしまうアル。
「ッツ〜〜〜//!!」
最終的には、ティアの顔も見る事が出来なくなってしまい、暫くの間、アルはそっぽ向く事になるのだった。
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