SAO--鼠と鴉と撫子と
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6,生と死の交差点
前書き
6話にして本格戦闘パート。
斬る--這いよってくる死神の鞭を出来るだけ、多く、多く。
穿つーー胃酸を吐き出そうとするその口を塞ぐために、疾く、疾く。
出来るだけシンプルに。躱し、斬り、撃つを繰り替えす。
ジリジリと減るライフゲージは既にイエロ―まで到達した。
リトルネペントの背後にかすかに見えるアルゴはグリーンで三匹のリトルネペント相手でもスピードを活かして完全に翻弄しているが、その右で1匹の<花つき>と退治しているレイズさんは、イエロ―まで到達していて少しマズイかもしれない。
背中の方にいるヤヨイにいたっては、パーティー欄を見ると、レッド手前まで落ち込んでいる。敵は二体。
クソ、マズイな。
ただ、俺は3匹のリトルネペントと正対していて、なかなか援護に回らせてはもらえないようだ。
「押し切るぞ、ディレイを……確実にソードスキルで取ってけ」
後ろにいるヤヨイに振り向かず声をかける。
本当は回復に専念して欲しいが、生憎と俺にも支える余裕はない。無理を承知で一匹でも敵を倒してもらうしか無いのだ。
「よく……分からないが、と・に・か・く倒せばいいんだな!!」
ヤヨイの方も何とか途切れ途切れながらに返事が返ってくる。
この状況なら、卒倒してもおかしくないのに。冷静に敵の挙動を見つめ、俺と同じくらい敵を討ち取っているのは天性のものを感じずにはいられない。
彼女は、強くなる。
だから、今はできる限り俺が守る!!
中央のリトルネペントが蔓を伸ばそうとしたモーションを盗んで地面スレスレから懐へと入り込む。
あまりの疾さに第一層のAI程度では処理が追いつくはずもなく、いない場所に向かってダラダラと蔓は発射された。
そのまま短剣の基本ソードスキル「ダブルライナー」を放ち、弱点の茎の先っぽをクロスに斬りつける。
爆散するポリゴンには目もくれず、そのまま右へ。俺の行動を読んだかのように左右のリトルネペントは腐食液のモーションに入っている。並のプレイヤーなら確実に当たっているだろう---が
「ッツ甘い!!」
咄嗟に拾った石ころと右腕のナイフで左右両方に「シングルシュート」を放つ。システムアシスト任せでロクに狙ってもいない一撃は見事に二発とも大きく広がったチューリップの頭にヒットし、反動で上がった口からあさっての方向に腐食液が飛び散った。
「ォォォォオオオオオオ!!」
すぐさま近づいて刺さっている短剣を引きぬき、再び「ダブルライナー」を放つ。数ビットのライフが残ったところを強引に切り裂いてその場を離脱した。更に石ころを再度拾って「シングルシュート」を放ち、ヤヨイの方の一匹も貰い受ける。
もう一匹は彼女の腕に任せるしか無いだろう。
ここに来て、俺は確実に勝利への道筋をつけ始めていた。
20匹いた、リトルネペントは今やあと8体--いや、アルゴも一匹を葬った様であと7体だ。
勝てる、勝てるぞ。
生き残れる。。
「ァッァァァァァァァ」
そう思った瞬間、世界は音を立てて崩れ始めた。。。。
咄嗟に振り向けば、レイズさんの両手剣が腐食液の直撃を受け、粉々に砕け散っていた。
スローモーションの様に、自分の手を見て、あったはずの愛刀のポリゴンをつかもうと藻掻く。
その眼は目の前にまで来ている蔓の鞭を捉えてはいなかった。
「避けろロォォォォ」
咄嗟に叫ぶが時既に遅し、何かが折れる鈍い音を立てて大の大人が一人吹き飛んでいく。。。
あぁ、吹っ飛んでいく彼の顔には死への恐怖がビッシリとこびり付いていた。。
「レイズゥゥ」
駆け寄ろうとした所に、回りこんできたリトルネペント達が立ちふさがる。
チューリップ型の顔がグロテスクに歪んでいて、それはおかしな話、心の底から、笑っているようだ。
……俺はこの時、この世界のMOBを敵として初めて認識した。
「そこを……どけェェェ」
勢いのままにガムシャラに斬りかかる。この際、振り下ろされる鞭のダメージなんて無視だ。
とにかく、一刻も早く。一刻も早く。
「……ハァ!!」
二体が俺の猛攻を受け、爆散する。一秒でも惜しい。そのまま一番スピードが出る「ウインドダイブ」のモーションととった。
ソードスキルの立ち上がりがとてつもなく、長く感じられる。
アルゴはやっと最後の一体を追い込んだところだ。なにか叫んでいるが、よく聞き取れない。
ヤヨイはしっかりとリトルネペント相手に立ち回っている。この分なら問題はないだろう。。
レイズはまだ立ち上がれていない。倒れこんだまま、恐怖に震える手で必死にアイテムストレージを弄っている。
振り下ろされる大きくてがっしりとしたリトルネペントの蔓。しなりを帯びた鞭は引き絞られた力をユックリと開放されていく。
ライトエフェクトが力強さを増し、俺は一直線に駆け上がっていく。
狙うは蔓。あの一撃が届く前に、この一撃で叩ききる。大丈夫、
「ーー届けェェェェ」
コンマ1秒。ザシュッという重い感覚右手から伝わってくる。
光を纏った斬撃エフェクト。
爆散するポリゴン片。
レイズさんの方を向くと、穏やかな顔で俺の事を見つめていた。口元がユックリと開き、最後の力とばかりに喉が震える。
「ーーごめんね。あとは頼みます」
次の瞬間、レイズさんはポリゴンの欠片へと分解され、空の中に消えていった。
単純なこと、俺が切ったのはリトルネペントの本体。コンマ一秒俺の斬撃よりも疾く交差点を鞭が通過したってことだ。
光の中で、俺はがっくりと膝を付き、倒れこむ。
俺は、俺は人を…死なせてしまった。
後書き
まさかの日間一位。
色んな面白い小説がある中で(実際このサイトを知ったのも読む目的だし)僕の作品が……だと。
まあ序盤のスタートダッシュのアレですね。
何はともあれありがたい。
(無理だけど)気にせず、自分のペースで頑張ろうかな。
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