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もう一人の八神

作者:リリック
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新暦77年
  memory:12 変化

-side 悠莉-

あれから順調に予選を勝ち上がり、本選へと出場した。
少しだけ予選ことを思い返してみる。

第二回戦、VS 初参加・徒手格闘型。
私の縮地による背後からの不意打ちを警戒してか、目の前の私よりも背後に意識が集中していた。
開始直後、ダッシュで距離を詰めて、そのままみぞ目掛けて寸勁。
ガードががら空きだったため、難なく決まり、気を失って秒殺で一発KO。
―――1R 17秒 KO勝利。FB(フィニッシュブロー)、紅寸勁(魔力付加打撃)。

第三回戦、VS 三度目・砲撃魔導師。
空中からのシューター、接地型のバインドなどで隙を作らされた後、高速砲。
なのはさんのような隙のない組立てではなかったため、相手を地面にたたき落として、魔力の剣での剣技中心で攻め立ててKO勝利。
まぁ、魔力散布が一回戦よりも成されていたから大ダメージを与えられたのが早期決着の要因の一つだったかと。
―――1R 3分4秒 KO勝利。FB、魔皇刃(魔力付加斬撃)。

第四回戦、VS 三度目・双剣格闘型。
これはいい経験になったと思う。
元の世界でも滅多にお目見えできなかった双剣士とのカードだったのだから。
相手は特徴を生かして手数の多さで攻めてきた。
ただ、弱点である攻撃力の低さに加え、普通に見切れるスピードだったために、ちまちま大きなカウンターでおいしくいただきました。
―――1R 2分36秒 KO勝利。FB、外門頂肘(身体強化打撃)。

と、こんな感じだった。
ただ、試合が進むにつれて頭が冴え、喜びを感じる一方で飽きをも感じ始めた。
なまじ元の世界やこっちの世界でレベルの高い人たちとの戦闘や模擬戦をやってたせいで物足りなさを感じてしまってるからだと考える。
自分の中にギリギリの戦いを…命のやり取りをしたいと思ってる自分自身をどうにかしないと後々大変なことになるんだろう。
この気持ちを別の気持ちに置き換えるようにしないと……。

それは置いといて現在はと言うと、

「はあああぁぁ!!」

次々と襲いかかる刺突の嵐を避ける。
半身になってできるだけ紙一重で。

苛立って動きが雑になってくれれば面白いんだけどな……ん?

アルスター選手の表情は悠莉の想いとはことなり、焦りの色はない。
開始から今までポーカーフェイスを保ち続けている。
だが、そのポーカーフェイスが一瞬だけ、本当に微かだが崩れ、口元がつり上がったのを見逃さなかった。

腹部を狙ったそれを避ける。
しかしその直後、刺突を躱したはずにもかかわらず、バリアジャケットのわき腹の部分が弾けた。

……摩擦、か。
槍を螺旋状に高速回転させながらの突き。
それによって生じた空気摩擦でダメージを与えたのか。

頭を瞬時に回転させて答えをだす。
それがわかると今度はその有効範囲の紙一重を見極めて避ける。
これにはさすがに驚愕の表情のアルスター選手。
そして次第に焦りへと変わってきた。

それにしても、刺突の速さはこの世界で見たどれよりも速い。
それに加え、技量もあれば持久力もある。
相手の動きの先を読む力もある。
もしかしたら世界大会へ行けたかもしれない。
でもそれは叶わない。
だって運悪く対戦相手が私、なんだから。

時間を見ればもうすぐ三分が経過しようとしていた。

「……そろそろ動くか」

アルスター選手が大振りになった。
一瞬で懐に入り、まずは掌底でぶっ飛ばす。

「哈ッ!!」

飛ばした位置に先回りして、接地しておいたバインドへと向けて裏拳で打ち込む。
反応したバインドが肢体をロックし、完全に動きを封じた。

「なぁっ!?」

「確かにあなたは強かった。だけど相手が悪かったね」

右腕を掲げ、魔方陣を展開する。
次第に大気中に霧散する魔力をかき集めながら水色の魔力が集束していく。

「集束、砲撃……ッ!?」

「何を驚く必要がある。予選の試合を見てたならわかるだろ、あの剣だって集束魔法の応用だ。ならば特段これができてもおかしくないだろ?」

とはいっても、試作の段階のものだけどな。
原型はできているとはいえ、まだまだ自分用に昇華できていないから未完成のもの。
やっぱりもっとミッドの術式や効率のいい魔力運用を勉強する必要があるな、感覚だけじゃどうしようもないことが多い。

「終いだ」

水色の砲撃がアルスター選手を容赦なく呑み込んだ。

試合終了と同時に会場中に歓声が鳴り響いた。
最後が派手な終わり方だったためか、それとも本戦であるからなのか、今まで聞いた以上の大きなものだった。
そんな歓声を背にステージを後にした。

―――1R 3分44秒 KO勝利。FB、オメガコメット(収束砲撃)。



数日後、八神家ではとある鑑賞会が行われていた。

「……はぁ……」

目の前にはテレビを囲んでワイワイ騒いでいる道場のみんな。
みんなが何を見て騒いでいるかというと……。

「スゲェ……」

「こんなに速い突きのラッシュを全部避けきってる……」

まさかこんな形で自分自身の試合を見るなんてね……。

数日前から行われているIM大会の都市本戦の録画である。
しかも、今流れているのは本戦第一回戦第三試合、つまりは私自身の試合。

「悠兄ぃどうしたの?」

「具合でも悪いの?」

溜め息に反応してか、何故か膝の上に座るリオちゃんと隣に座るミウラが心配そうに声をかけてきた。
何でもないと伝えると首を傾げた。

「それにしてもさ、このユウ・リャナンシーって選手、悠兄ぃに似てない?」

……っ。

「そうかぁ? 名前は似てるけど姿は全然違うじゃん。確かに魔力光は同じ水色だけど、そんな人いっぱいいるじゃん」

「そうだよ。その人が兄ちゃんだったらおかしいよ。この放送が始まる前から兄ちゃんと一緒にいたんだから」

……ゴメン、それ私の魔法…というか有幻覚なんだよアル。
試合終了時からはマスコミに囲まれないようにこっちに戻って普通に過ごしてたんだよ。
あ、ジークたちと会うときはちゃんと向こうに行ったんだけどね。
そんな感じでここまで転移魔法使って家と会場を行ったり来たりしてます、はい。

「べ、別にあの人が悠兄ぃと似てるかもって言っただけじゃん! 悠兄ぃ、二人がいじめるー!」

「なっ!? 別にいじめてなんかねぇよ! 嘘言うな!」

「あ、あははは……はぁ」

「後ろうるさい! テレビが聞こえない!」

怒られて少し静かになったリオちゃんとウィル。
そんな中、ミウラが口を開いた。

「でもリオちゃんの言ってること、なんとなくだけどわかる気がする」

「ミウラまで!?」

ウィルは驚いてミウラに顔を向けた。

「ほら、なんかこう…雰囲気っていうのかな? そんなのが悠莉くんに似てるかもって」

「だよねだよね! さっすがミウラさん! やっぱわかる人にはわかるんだ」

クッと悔しそうに顔を歪めると今度は私に詰めよってきた。

「兄ちゃんはどうなんだよ!? リオやミウラみたいにリャナンシー選手は自分に似てるって思うのか!?」

あー…、どう答えたものかな……。
さすがにあれは私です、なんてまだ言えないし……うん、ここは当たり障りのないように答えるか。

「どうって言われてもなぁ……私が自分でどんな雰囲気を出しているかなんてわかんないし。だから何とも言えない」

悪いなウィル、どんな形でバレるかわかんないから本当のこと言えないんだ。
これは変に目を付けられたくないと言う私の勝手なわがまま。

「ま、それは一旦置いといて続きだ続き」

ウィルとリオちゃんの頭をガシガシと撫でながら軽く押さえつけて踏ん切りをつけさせる。
二人は渋々と言った感じだったけど、またテレビに夢中になり始めた。

一通り見終わるとつい思ったことを口にしてしまった。

「他の年は知らないけど、なんだか男よりも女の方が強い選手が多い気がするな。ジーク……リンデ・エレミア選手やヴィクトーリア・ダールグリュン選手、ミカヤ・シェベル選手とか男と戦ってもいい勝負ができそう」

おっとっと、危ない危ない、普通にジークって言いそうだったよ。
って、なんかミウラやリオちゃんにジト目を向けられてる?

「悠莉くんって年上の方が好みなんだ……」

「悠兄ぃ、目がいやらしかった」

「おいコラ、何でそうなる」

ジト目で返すとツーンとそっぽ向かれた。

最近、というか去年の終り頃からこういうのが多い気がする。
理由はわかんないけど時々ミウラやリオちゃんが不機嫌になることが多くなった。
本人たちも自分たちの行動に理解できてないようで、話を聞いてみても「何かムッとした」や「よくわかんないけどやらなきゃいけない気がした」などが返ってきた。
本当に何なのさ。

このあと二人の機嫌取りでいつものように頭を撫でたりしながらテレビを見続けた。

-side end- 
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