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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#5
  逆襲のシャナ ~Der Freischutz~

【1】
 
 繁華街を抜け、承太郎とシャナは空条邸へと続く長い坂を昇っていた。
 眼下で斜陽が市街地を紅に染めている。
 渇いた風がシャナの腰の下まである長く艶やかな黒髪を揺らした。
 凛々しい顔立ちと一点の曇りもない白磁のような肌の前で
舞い踊るその髪を、シャナは慣れた仕草で伽き流す。
 互いに、無言だった。
 最もそれは必要な事以外は口にしないという両者の性格によるものであったが。 
 沈黙の中、おもむろに承太郎が口を開く。
 本来なら一番最初に訊くべきことだったが、
立て続けに捲き起こる超常的な出来事によって
一般的な思考がスッカリ麻痺していたのだ。
「ところでオメーら、ウチのジジイとは一体いつ知り合ったんだ?
場所はニューヨークか?」
 承太郎の問いに、シャナの小さな肩がピクッと震える。
 しかし刹那にその動揺を表情から消し去り、落ち着いた口調で言った。
「そうよ。ほんの数ヶ月前、ニューヨークで跋扈してた
“紅世の徒” を討滅しにいった時にね」
「?」
 シャナのその態度がやや不自然だったので承太郎は妙な違和感を感じた。 
「……」
 アラストールも心なしか、意図的に押し黙っているように見える。 
「でも……」 
 そう呟いて急にシャナが立ち止まった。
 何故か俯いているのでその表情は伺えない。
 風に、長い前髪が靡いた。
「どうした? 腹でも痛ぇのか?」
 先刻、大漁のタイヤキで溢れかえっていた紙袋は
その中身をすっぽりシャナの小さな身体に納められ、
丸められてコンビニのダストボックスに投函された。
「……遅かれ早かれ、解ることだから……
今……いうわ……おまえ……? 『覚悟』 は……在る……?」 
「あ?」
 予期せぬシャナの言葉に、承太郎は煙草を銜えたまま訝しげに視線を尖らせた。
「……もう……解ってるわよ……ね……トーチは……紅世の徒に……
喰われた残り滓……でも……当面は……“人間の姿を保ったまま存在し続ける”……」
 シャナは、か細い声で言葉を紡ぎだす。
「……なんの話だ?」
 承太郎は手にした煙草を指の隙間でくの字に折り曲げた。
 その事は、もうすでに聞いた、わざわざ再確認するまでもない。
「……でも……その存在は……いずれ、消えて・・・・・・“いなかったことになる”……
その光が……トーチの灯火が……もう……今のおまえには……視える……」
 シャナは俯いたまま、承太郎と視線を交えずに言葉を続ける。 
 口から出る言葉は先程説明を受けたものと全く同じ内容。
 詳細でも補足でもない。
 まるで、心の下準備をされているようだ。
 おそらくこれから話す 『真実』 の。
「だから、一体なんの話かと訊いてるんだぜ?」
 少々苛立った口調で、承太郎は目の前で俯く少女に再び問いかける。 
「ジョセフと初めて会った「場所」は “ニューヨークの封絶の中” 」 
「!?」
 衝撃。
 悲痛な想いを押し殺すように一息で告げられたシャナの言葉に珍しく、
というより初めて、先刻封絶に取り込まれても冷静な表情を
崩さなかった承太郎の顔に動揺らしき焦りの色が浮んだ。
「む……ぅ……」
 その少女の胸元で、銀鎖で繋がれたアラストールが小さく呻く。
「そう言え……ば……少しは……解る……?」
 シャナは、承太郎を見上げるようにしてその視線を重ねた。
 微かに潤む瞳に、今まで少女が見せたことのない感情が宿っている。
 それは、悲哀と憐憫。
 承太郎の怜悧な頭脳は、シャナの瞳に映る色が意味する事実を残酷に割り出す。
「……だから、ジジイが、どうしたんだ?」
 だが感情はソレを認められない、“認めるわけにはいかない” 
「……」
 シャナは、再び押し黙った。
 その小さな顎が小刻みに震えている。
 それらが「意味」すること。
 最悪の事態を予感した承太郎の背筋を戦慄が劈いた。
「オイッ! テメー! いい加減一体何があったのか言いやがれッ!
オレのジジイが “そこでどうなったんだ”ッッ!?」
 激高した承太郎がシャナの肩を掴んだ。 
 小さなその肩が、震えていた。
 長い髪で表情は伺えない。
 シャナは顔を少し横に向けた後、静かに呟いた。
「……残念だけど……・私たちが駆けつけた時は……もう……」
「何ィッッ!!?」
 驚愕にその美貌が歪む。
 同時に瞳が引きつった。
 形の良い口唇を起点に、やがて全身が震え出す。 
 承太郎の脳裏に遠い日の祖父の顔が浮かんだ。



 太陽のような笑顔。
 皺に刻まれた深い威厳。
 そして豪快な笑い声。
 記憶の中、昔撮られた若き日の写真も合わせて、
ジョセフの過去と現在が混ざり合う。
 そして。
“その記憶は今から消滅する”
 その存在すら、消し飛んでしまう。
 後には、存在の「欠片」も遺らない。
 青年の心に去来する、無明の暗黒。
 そして、絶望。



「………………ジ…………ジジ……ィ…………?」
 全面蒼白の、承太郎の口からようやく漏れた声は、
今までの彼のものとは想えないほどか細く、そして弱々しかった。




……
…………
…………………
「……っくく」
 こらえるような、笑い声。
 それはすぐに、一斉に弾けた。
「ッッあははははははははははははは!!」
 無邪気で明るい笑い声が、風と共に夕焼けに響く。
「アラストール! 見たッ!? 今のコイツの顔!!」 
 心底嬉しそうにシャナは言う。
「……おい……? テメー…………まさ……か……?」
 半開きの口のまま唖然となる承太郎。
「ッはは!! あははははははははははははッッ!!」
 シャナは大きく陽気な声で笑いながら承太郎の背中を、
といっても届かないので腰の辺りをバシバシと何度も叩く。
「ふ、ふ、ふ」
 いつのまにかアラストールまでが、忍び笑いを漏らしていた。
 それらが意味するものを全て、その鋭敏なる頭脳で完全理解した承太郎。
 目深に被った学帽の鍔で表情が伺えないその彼の全身から、
静かな、しかし途轍もない怒りと共に空間を歪めるかのような
激しい威圧感(プレッシャー)が湧き起こる。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!




「てぇぇぇめえええええぇぇぇぇぇ―――――――――ッッッッ!!!!」
 目の前で無邪気に大笑いしている少女にものの見事にハメられた事と、
羞恥との相乗効果によって完全に「プッツン」した承太郎は背後で高速出現したスタンド、
スタープラチナと共に音より速くその拳を振り上げる。
「あははははははははははは!! まぁッ!! ちょっと! 待ってッ!!
うそ! うそ! 冗談よ冗談ッ! “承太郎”ッ! 」
 シャナが笑いながら広げた片手をこちらに向けて承太郎を制する。
 痙攣で引きつるのか右手は脇腹の位置に寄せられていた。
「ふ、ふ、よもや貴様がこうも簡単に掛かるとはな。
あまり想定通りに行き過ぎると返って笑いが出るというものだ。
「機」はないと思っていたが、どうやらこの子は戦略の女神に
祝福されているらしい……ふ、ふ、ふ」
……どうやら、周到に準備していたらしい。
 先刻、自分を「クソガキ」呼ばわりした事を相当根に持っていたようだ。
 アラストールにはアイコンタクトで
“それらしく” 黙っていろとでも合図したのだろう。
 タイムリミットは家につくまでの短い間というのにも関わらず、
タイヤキでカモフラージュしながら綿密に策を練り、
自分からは話を振らずに承太郎が話しかけてくるのをジッと待っていたのだ。
 話す口調に緩急を付けていたというのも、今想えば狡猾な伏線だ。 
 今、目の前で笑う少女は、先程の戦闘のときとはまるで別人。
 まるで初めての悪戯が成功した子供のように無邪気に笑っていた。
「こ……この……クソガキ……ッ! ただモンじゃあねぇ……」
 その美貌を、苦虫50匹まとめて噛み潰したような表情で歪め、
承太郎はブツけ処のない拳をブルブルと震わせる。
「まぁ、堪えよ。空条 承太郎。暖気(だんき)も時には必要であろう?
それに貴様も「弱み」を知っただけ利もあったではないか?
肉親が絡むと、冷静な貴様も我を失う」
 アラストールの穏やかな言葉に、承太郎は不承不承握った拳を降ろした。
(うむ。しかしこの子がよもやこんな真似をするとはな……
我も少々意外であった……フレイムヘイズとして地に降りた後、
今まで人間と交わった事は数少ない。
故にコレがこの子の本当の姿なのか?
或いはこの男、空条 承太郎との邂逅によりこの子、
シャナの中の何かが変わりつつあるというのか……?)
 胸元で長考するアラストールの上で、ようやく笑気の収まった
フレイムヘイズの少女が晴れやかな声をあげる。
「安心なさい。ジョセフは無事よ。 “紅世の徒” にその存在を喰われたわけじゃない」
 すっかりいつもの調子を取り戻したシャナが、活き活きと快活にこちらを見た。
「 “波紋(ハモン)” っていうの? 特殊な「呼吸法」で血液の流れを操作して、
「太陽」と同じ力を編み出す「技」は。
ソレの影響で存在の力が大きかったから、
“封絶” の中でも動けたみたいよ。
逃げ足が速かったから “燐子” も捕まえるのに苦労してたわ」
 クソジジイ、と小さく呟いて承太郎は学帽の鍔を摘む。
「うむ。しかしアレは 「戦略的撤退」 といった感じだったがな。
彼奴の全身から迸る鮮赤の「波紋」燐子如きなら容易く粉砕出来そうな力ではあった」
「それにしても、おまえ? 意外と可愛い所あるのね?
そんなに “おじいちゃん” が心配だった?」
 一部分を殊更に誇張して、ぷぷっ、とシャナが口元を押さえまた笑う。
「……」
 押し黙る承太郎。
 しかしその胸中は渦巻く蟠りを抑えるのに吝かでない状態だった。
(……このクソガキ……あとでぜってーシメる……ッ!)
 そんな不機嫌極まりない承太郎と、
コレ以上ないというくらい上機嫌であるシャナの視界に、
夕闇に染まる空条邸の大きな門構えが見えてきた。
 そしてその前に “ジョセフ” がいた。
「おお! 承太郎! シャナも一緒かッ! 遅かったな!
今迎えに行こうとしていたところだッ!」
 こちらに気づき快活な表情で大きく手を振っている。 
「ただいま! ジョセフッ!」
 一際明るい声で、シャナが纏った黒衣の裾を揺らしながら
ジョセフの元へと駆け寄る。
「今日は随分早かったな? 折角これからこのワシが助太刀に
行こうとしていた所じゃったのに」
「冗談。あんな “徒” なんか、私一人で充分よ」
「つまらんのぉ。折角このワシが 『戦いの年季』 の違いというものをじゃな、 」
「……」
 実の孫である自分以上に、笑みを混じ合わせながら親しげに言葉を交わす二人。
 その祖父の「胸元」に、“トーチ” はなかった。
「……やれやれ、だぜ 」
 ジョセフの無事を密かに安堵した承太郎は、今日何度目か解らなくなった
お馴染みの台詞を苦々しく吐き捨てた。


←To Be Continued……
 
 

 
後書き

はいどうもこんにちは。
いきなりですが、ワタシはこの作品に於いて
シャナを「人間」として描いています。
原作では「人間ではない」というコトにしたいらしいですが
(だから厨二病とか言われンだよ・・・・('A`))
「落石注意」の看板と同じで全く以て無意味な「設定」なので
とても採用出来ません。

大体『本当に人間じゃないなら』泣きも笑いも悲しみも、
誰かに恋をする事もない筈ですし、
ツ○ン○もメ○ンパ○も存在しない筈なのです。
なのに色恋沙汰にだけは都合よく「人間」を持ち出してきて
そうでない場合、
「他の人間を見捨てる、大事にしない、平気で消耗品にしようとする」
場合は「人間ではない」から仕方ないというコトにする。
コレは本質的に『卑怯』な行為で
現在入院中の莫迦な政治家と何ら変わりありません。
それがジョジョのテーマ(人間賛歌)と噛み合うワケがないので
こうせざる(人間として描く)”負えないのです。
(まぁジョセフやスージー、その他の人々(リサリサ先生、スモーキー等)の
影響が強いとも言えますが。
アノ馬鹿親子と絡まないだけで随分と変わるモノです。
フレイムヘイズ、使命とあんまりウザく言わないのもその所為です)

無論「柱の男や岩人間は?」という疑問を持たれる方もいるでしょうが、
ソレは最早「説明不用」荒木先生の圧倒的表現力で描写されるキャラクターに
いちいち突っ込むのは無粋というモノです。
少なくともアレを見て「普通の人間」と捉える人はいないでしょう。
(泣きも笑いもしますが、しかしそれも人間のソレとどこかズレています)
要するに作家としてのレベルと責任感の違いで
「描けもしないモノを最初から描くな!」
というコトです。
(モテないのに恋愛描写、格闘技を知らないのにバトル描写を
やたら描きたがる人に多い。そして大概消えていく・・・・('A`)
実地でヤれとはいわないけどせめて「勉強」くらいしようよ・・・・('A`))
ソレでは。ノシ 
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