孤立無援
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1部分:第一章
第一章
孤立無援
ベトナム戦争は泥沼化していた。アメリカ軍は大軍を送り込み絨毯爆撃を繰り返した。しかしだった。
戦局は好転してない。膠着状態のままだ。それでだ。
あらゆる手を打った。カンボジアにも侵攻し共産主義へのネガティブキャンペーンも強化した。だがそれでもだ。国内世論も国際世論も好転せず厭戦気分も蔓延しだしていた。アメリカは追い詰められていっていた。
それは戦場でも同じでだ。今ジャングルの中にいる彼等もだ。こう言ってぼやいていた。
「大体意味のない戦争だよな」
「だよな。政府は戦争じゃないって言ってるけれどな」
「これは戦争だしな」
「殺し合いやってんだぜ、殺し合いな」
迷彩服に同じく明細にカラーリングしたヘルメットで身体を覆った海兵隊の兵士達がだ。ジャングルの中の洞窟に身を隠しながらだ。こんなことを話していた。
「大体南ベトナムの政府なんて助ける必要あるのかね」
「確かに共産主義がきてるけれどな」
「それでも南ベトナム政府酷いしな」
「だよな」
こうだ。レーションを食べながら話していく。その中にはスパムもあった。
そのスパムを食べながらだ。黒人の兵士ジョーンズが言った。
「俺もな。最初は違ったんだよ」
「ステイツの為か」
「正義と自由の為に戦うつもりだったんだな」
「ああ、そうだよ」
その通りだとだ。ジョーンズは仲間達に答えたのだった。
「最初はな。けれどな」
「ああ、この戦争にはないな」
「正義も自由もな」
「一切ないな」
「そんな戦争だよ、この戦争は」
やはりうんざりとした顔でだ。ジョーンズは言うのだった。
そしてそのうえでだ。白人の大柄な兵士マニエルに尋ねたのだった。
「御前はどう思う?この戦争についてな」
「正義とか自由があるのかってか」
「ああ。そのことはどう思うんだ?」
「他の戦争はともかくな」
あの第二次世界大戦や朝鮮戦争、そうした戦争ならばだというのだ。
「どっちもあったさ。けれどこの戦争はな」
「ないよな」
「ああ、アメリカは今回は間違ってるだろ」
マニエルはその白いいかつい感じの顔で述べるのだった。固いパンを食べながらだ。
「どう考えてもな」
「だよな。やっぱりな」
ジョーンズもマニエルのその言葉に頷く。そしてだった。
マニエルと同じだけ背の高い黒い髭の白人の兵士バーグマンもだ。言うのだった。
「で、俺達だけれどな」
「ああ、部隊とはぐれちまったな」
彼の横にいてガムを噛んでいる褐色の肌の男バルボンも言う。明るい感じの表情だが流石に今は浮かない感じだ。
「で、この洞穴の中にいるってことだ」
「スコール凌いだらおかしなところに来たな」
「全くだ」
そのバルボンにジョーンズとマニエルが続く。
「で。俺達の部隊は今何処だろうな」
「この辺りでまだ戦ってるだろ」
そうなっているとだ。マニエルがジョーンズに話した。
「だから今から出て合流するか?」
「おい、この山の中を移動するのかよ」
ここでだ。バーグマンがマニエルにこう言った。
「それはやばいだろ」
「まずいか?」
「ここはベトコンのアジトかも知れないんだぞ」
だからだとだ。バーグマンは言うのだった。
「下手に動き回ったらベトコンが出て来るかな」
「ブービートラップだな」
ベトコンの得意とする落とし穴や隠し矢だ。彼等はそうした罠を山のあちこちに隠してアメリカ軍を悩ましていたのだ。神出鬼没の彼等自身と共にだ。
それでだ。バーグマンは言ったのである。
「だからだよ。下手に動き回ってもな」
「かえってやばいか」
「ああ、だから暫くはな」
この洞穴にいるべきである、バーグマンはこう主張するのだった。
「そうした方がいいだろ」
「けれどそれでもだよ」
どうかとだ。ここで言ったのはバルボンだった。彼はガムをくちゃくちゃさせながら言う。
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